Nightmare Will Last Forever 4
砂煙が晴れ、血煙が昇る廃鉱山。そこに広がる焼け跡のような惨状を、ソフィアはドロシーに体を預けてぼんやりと眺めていた。
脅威とも認識していなかった敵対者は首を切り裂かれ、協力者であった少女は血まみれの執事に体をガタガタと震わせている。
考えもしなかったのだろう。自分の行いがどのような結末を招くのかなど。
だからこそ、ソフィアは明日香に同情してやる事は出来ない。明日香の行動は兄かもしれないクロードに、人殺しをさせる結果となったのだから。
体内から発せられる熱に埋もれながらも、ソフィアの鋭敏となっていた耳は1つの足音を捉える。音の重さから体重60kgほどで、よほど急いでいるのかその歩調はとても荒い。
そして山道を駆け上がって来たのは、ソフィアの予想通りの人物だった。
「ストロムブラード様、ご無事ですか!?」
「よく、そんなこと言えるわね。アタシを利用しようとしてたくせに」
白いワイシャツに汗を滲ませ、声を張り上げる楠本に、ソフィアはドロシーから離れるように体を起こしながら吐き捨てる。
静音によって行方不明の女子高生の情報は、パーシヴォリによるストロムブラードに対する敵対に結びつき、パーシヴォリを操っていた楠本の終わりに辿り着く。それこそがソフィアが仕掛けた報復であり、わざとらしい態度を取る楠本はとても無様だった。
だというのに、楠本はわざとらしく訝しむ様な表情を浮かべていた。
「もしや、まだお気づきになられていないのですか?」
「言いたい事があるなら簡潔に言いなさい。アタシは虫の居所が今、悪くなったんだけど」
もったいぶるような楠本にイラついたソフィアは、今という点にアクセントを付けて肩を竦める。
静音を通して御巫に、ドロシーを通してリュミエールに。味方と取引相手に悪事を知られ、最強の戦力だったのだろうパーシヴォリは死に、共犯である明日香はトニーによって手の内にある。
この状況は楠本にとって絶体絶命の窮地のはずなのだ。
それでも楠本は、口元を卑しく歪めて当然のように告げた。
「でしたら1つだけ――あなたの周りに居る全員が、御身に宿された"Sheep Tumor"を狙う下衆共です」
「……ハァ?」
何をバカなことを、とソフィアは言葉を失ってしまうが、楠本はいかに自分が義憤に駆られているかをアピールするように手振りを加えて続ける。
「いいですか。ファイアウォーカー氏はあなたの価値を吊り上げるために御身をお守りし、御巫様はあなたを懐柔するために傍らに寄り添い、リュミエール様方は"Sheep Tumor"を複製するためのレシピを得る為にファイアウォーカー氏と契約を結んでいるに過ぎません」
「よくもまあ、そないなげんくそ悪う事を言えはりますな」
珍しく怒ったような声色を口にした静音は、口元を浅葱色の袖で隠しながら楠本を睨みつける。灰色がかった黒い瞳にはいつものような優しげな面影はなく、静音が本気で怒っている事を理解させた。
「御巫様はご兄弟に様々な支援をされているそうですね。慶介様の合宿や試合などの遠征費用、泰明様の劇団の公演費用の肩代わり、唯様のための権利関連に強い弁護士。そりゃファイアウォーカー氏の実力を信じつつも、ジェスターにストロムブラード様を売ろうとする事で保険も掛けたくなりますよね」
楠本は間髪入れずに嘲笑うような言葉を紡ぎ、挑発するように両手を広げる。辛酸を舐め続けさせられてきた静音を圧倒出来た事がよほど気分が良いのか、その態度からは"ソフィアを助けに来た"という建前が残っているようには見えなかった。
「そんなの、ただの印象操作じゃないですか」
「ですが、泰明様があなた方に私的な接触したのは事実です。それでもあなた方が清廉潔白であるとおっしゃられるのであれば、どうか浅慮な僕に全てを分かるように説明してくださいよ。世界中に求められているファイアウォーカー氏がどうして1人の少女のために戦えるのか、リュミエール・インクがナノマシン専用プラントを建造したのはなぜか。桜井氏とストロムブラード様がばったり出会ってしまうというのも、随分と出来すぎた話だと思いませんか?」
激昂から銃口を楠本に向けようとするトニーを制しつつも、返す言葉もないドロシーは悔しげに唇を噛み締める。
リュミエール・インクはあくまで企業だ。その成り立ち方に社長令嬢の意見の全てが反映される訳でもなく、望み薄のおこぼれに期待していないとは言い切れない。ナノマシン技術のリーディングカンパニーであるストロムブラードに、"Sheep Tumor"の解析が出来なかったとしても、リュミエールにはドロシーという他にはない頭脳が居る。ナノマシンの知識がなくとも、期待してしまうほどにドロシーの才能は圧倒的過ぎたのだ。




