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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Callin' The Flames
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Nightmare Will Last Forever 3

 俯いて悔しげに唇を噛むドロシーにソフィアを預け、クロードはゆっくりとパーシヴォリへと向き直る。

 力を失ったようにぐったりとドロシーにもたれ掛かるソフィアの姿は見るに堪えず、命令させてしまった自分が情けなくてしょうがなかった。

 手袋に包まれた手は自然と拳を握り、躍動する鼓動に震えている。


 少なくとも、他の誰かであれば真意にたどり着かれる事はなかった。誰よりもクロード・ファイアウォーカーを"理解している"ソフィア・ストロムブラードでなければ。


 だがそれは、クロード・ファイアウォーカーがソフィア・ストロムブラードの苦悩を理解しているという訳ではない。守る事は出来ても、救う事は出来なかった。それだけが事実だった。


「ガキに盛ったか、この――」

「黙れよ、クソッタレ」


 嘲笑うように吐き捨てたパーシヴォリは思わず身を強張らせてしまう。突きつけられた言葉は刃のように鋭く、向けられた視線は身を切るように冷たい。その鋭さはファイアウォーカーを知っていても、相対した事はないパーシヴォリにとって知らない恐怖だった。


 仲間達を殺したファイアウォーカーを差し置いて、最強にして最高のファイアウォーカーと呼ばれたクロード。それはただの個人が相対するには、無慈悲で絶対的な暴力だった。


「あなたの探している"彼女"は既にファイアウォーカーではありません。あなたの行いは全て徒労、見当違いな八つ当たりに過ぎません」

「……それを結論付けるのはお前じゃないィッ!」


 恐怖を誤魔化すように声を張り上げたパーシヴォリは、明日香の背中を躊躇いなく蹴り飛ばす。元軍属であるパーシヴォリの鍛え抜かれた足はたくましく、明日香の軽い体は地面に転がされてしまう。


「証明して見せよう。ファイアウォーカーを殺し尽くし、あの女の首を手向ける事でなァッ!」


 続けて咄嗟に明日香を受け止めるために駆け出したクロードに銃口を向けるが、その背後からの銃撃にパーシヴォリはその場から飛び退く事を余儀なくされる。トニーの2丁拳銃から吐き出された弾丸達はクロード達を避け、パーシヴォリの急所に喰らいつこうとしていたのだ。

 手近な木の陰に身を隠したパーシヴォリは、枝にスリングで掛けていたアサルトライフルを手に取る。リュミエール製のそれはパーシヴォリの手に程よく馴染んでおり、世界中で最も高い精度を持つ暴力だった。


 だというのに、漆黒のその銃身は安全装置を外される事なく、両断されてしまう。

 煌めいた銀閃、鏡面状の断面、正面に確かに現れた"最強"。

 ライフルを投げ捨てて距離を取る。すべき事は分かっていた。だというのに、パーシヴォリはなす術もなく繰り出された拳を右頬に受けていた。


 筋肉で盛り固めたはずの体は、その体で蹴り飛ばした明日香以上の距離を飛ばされ、地面に軌跡を刻みながら転がされていく。

 経験した事のない痛みに霞む意識の中で、パーシヴォリは握ったままだったライフルの銃身で土を掘り返す。

 距離程の20mは取っていた。味方の援護射撃は想定の範囲内だった。

 だが、1瞬にして両断されたライフルと詰められた距離に説明はつかない。

 たとえ相手がファイアウォーカーであったとしても、同じ人間であるはずなのだから。


 距離を測るようにソフィアへと視線を向けたパーシヴォリが土から掘り出したスイッチを押すなり、地面に隠されていた爆弾が爆発し、瓦礫片や鉱石を等を撒き散らされる。ソフィアの安全を確保しつつ撒き散らされた爆破によって砂煙が巻き上げられ、パーシヴォリはそれに紛れるようにして手近な岩へと這いずり寄る。


 体は手ごたえを感じる以前に恐怖に突き動かされ、頭は1つも浮かばない必勝法を模索し続ける。

 出来ることならソフィアごとクロードを始末するのが1番だった。何も出来ない子供とそれに付き従う執事。まとめて爆破するには都合の良い組み合わせだった。だがクロードを殺し、ソフィアを確保するという契約がパーシヴォリはそれをさせなかったのだ。ファイアウォーカーの抹殺にはあらゆる他者の力添えが必要だったのだから。


 契約など無視してそうすべきだった。腫れた頬のせいか、見えなくなった右目に焦るパーシヴォリは舌打ちをする。

 パーシヴォリと違う場所で任務に就いていた仲間達は、たった1人のファイアウォーカーに惨殺されていたのだから。


 正直言えば信じていなかった。ファイアウォーカーとはいえ、たった"1人の女"にそんな事が出来るわけがないと。だが対峙してようやく理解が出来た。選ばれた者とそうでない者達との歴然とした差が。

 ライフルの残骸を岩に隠したマシンガンに取替え、パーシヴォリは身を庇うように岩に背を預けてマシンガンを構える。武器はまだたくさん隠してはいるが、そこに辿り着けるか分からなくなってしまった以上、既に傷を負っているパーシヴォリは一か八かの早期決戦に挑むしかなかった。


 そして砂煙の向こうで揺らぐ影を碧眼が捉えたその瞬間、後ろから回された手でパーシヴォリの後頭部が岩に強く叩き付けられる。

 重い衝撃に思わずマシンガンを落としてしまったパーシヴォリが、見上げるようにして捉えたその存在は、セラミックブレードを左手にしたクロードだった。


「あなたはしてはならない事をされました。ソフィア様だけでなく、何も知らない子供を巻き込んだ。そんなあなたを許すわけにはいきません」


 いつ、どうやって。死に瀕しているからこそ加速する思考でも理解の出来ない襲撃に、困惑するパーシヴォリを余所に、クロードはシャツの袖が汚れる事も厭わずにその首筋へ刃を這わせる。


「お仲間を失われた事は同情はします。真実を知らないあなたにとっては無意味に聞こえるかもしれませんが、最後の慰めくらいにはなるでしょう。つまらない逆恨みに動かされていたあなたには十分すぎほどではないかと」


 意味深な言葉を酷薄な声色で紡ぎながら、クロードは嘆息を漏らしてしまう。

 言ってしまえば、パーシヴォリの凶行はファイアウォーカーの負債によるもの。ソフィアと明日香は"Sheep Tumor"を狙う者達の思惑に巻き込まれたに過ぎない。


 だが、もはや事態は収集のつかない時点まで進行してしまった。


 だからだろうか、セラミックブレードを手にしたクロードの左手に必要以上の力が込められていたのは。


「それでは、"さようなら"」


 紡がれたのはいつも通りの死刑宣告のような言葉。

 違うものといえば、振るわれた暴力に宿る衝動のような何かだった。


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