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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Callin' The Flames
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Nightmare Will Last Forever 2

「クロード・ファイアウォーカー、このガキの命が惜しければ嘘偽りなく答えろ――他のファイアウォーカーはどこに居る?」

「残ったファイアウォーカーは前線から退いた師父(マスター)とファイアウォーカーという名前を与えられていない子供達、そして私だけです。死亡した者達や引退した者達、選ばれなかった者達の末路も知りません」


 完璧な笑みに何もかもを覆い隠してクロードは言う。

 ファイアウォーカーの性質を考えれば、一定数以上の傭兵が存在する事は難しく、選ばれなかった者達を気に掛ける事もありえない。あるとすれば追放されてなお、ファイアウォーカーの名を騙る愚か者を粛清する時くらいだ。

 だがそれを知ってか知らずか、パーシヴォリは明日香の腕を躊躇いなく捻り挙げた。


「もう1度だけ聞いてやる――顔から胸に掛けて彫られたヴァインの刺青、卑しく歪められた口元、悪夢のような黒髪。俺の仲間を殺したファイアウォーカーにはどこに居る?」

「……5年前のアフガン。護衛部隊の壊滅、ですか」


 契約にもなく、感じた事もない激痛のせいか、声を出す事も出来ない明日香。愚かな誘いに乗ってしまった哀れな少女を視界に捉えつつ、クロードは燕尾服の袖に感じるか弱い力に苛立ちをクールダウンさせる。

 燕尾服の袖をつまむ主が言っていた通り、自分だけであればこの整えられた状況は何でもないが、戦わせる訳にはいかない主にとっては惨状となりえるのだから。


「分かっているなら話が早い。答えなければ次はこの小さな頭を吹き飛ばすぞ」

「いいえ、アンタには出来ない。彼女にとって自分が切り札であるように、アンタにとっても彼女がクロードと話が出来る唯一の切り札なんだから」


 突然割り込んできた幼さを残す少女の声に、明日香の頭に銃口を突きつけていたパーシヴォリは不愉快そうに顔を歪める。

 他の誰かなら良いという訳ではないが、誰よりもファイアウォーカーを行使しているソフィアの言葉は、パーシヴォリをイラつかせるだけの物でしかなかった。


「黙れ、ファイアウォーカーに縋りつく穢れた血の売女が」

「そうさせてもらうわ。これ以上は時間の浪費以外の何物でもないものね」


 そう言って小ばかにするように肩を竦めたソフィアは、ずっと強く握り締めていた左手の手首に感じるか弱い力にため息をつく。

 シャツとジャケットの袖から覗く白い肌、恐怖から震える手、熱を失った指先。

 それはトニーを振り切ったドロシーの手だった。


「離してよ」

「ダメ、です。これ以上は、と、取り返し、のつかない事になってしまいます」


 震えながらも、どもりながら。それでも左手の手首を絶対に手を離そうとしないドロシーに、ソフィアは自然と緩みそうになる顔を引き締める。


 思えば、自分は優しい人達に囲まれていた。

 静音はいつでも自分を受け入れてくれた。

 ドロシーはいつでも自分を許してくれた。

 トニーはいつでも自分を対等に扱ってくれた。

 クロードはいつでも自分の傍に居てくれた。


 だからこそ、他の誰も与えてくれなかったドロシーの期待に応えたかった。

 誰かの傍らに、寄り添えるような存在になりたかった。


「取り返しなんて、産まれた時からつかなかったよ」


 執事がそうしているように、そうすることが正しいように微笑んだソフィアは、ドロシーの手を振り払って他でもない執事の胸元に顔を埋めるように抱きつく。

 近くて遠い、辿り着く事さえ出来なかった最果て。

 それでもそこの居心地の良さを、ソフィアは誰よりも知っていた。


「クロード。もし彼女、アスカ・サクライの言う事が本当でもそうでなくても、ここで終わりにしようよ」


 驚愕から僅かに強張るクロード思わず笑みをこぼし、その背をソフィアは優しく撫でてやる。

 日本に来てから、クロードの様子がおかしかった事くらいは分かっている。

 言葉数が少なくなっていた事も、自分の世話を3人に任せていた事も、自分ではなく違う誰かを見ていた事も。

 桜井蔵人がクロード・ファイアウォーカーなのかは分からなくても、クロードにとって日本が特別な場所である事は考えるまでもなかった。


「大丈夫だよ。きっと皆も居なくなっちゃうけど、最初に戻るだけだから。今更1人が寂しいなんて言わないから」


 アタシだって16歳なんだよ、と付け足してソフィアはアイスブルーの双眸を見上げるようにして覗き込む。


 楠本が居なくなる事で、静音は当主争いから解放される。

 優秀な傭兵が居なくなる事で接点は消え、ドロシーはトニーと共に離れていく。

 そしてクロードは、望まれるままに家族の元へと帰る。


 これ以上、果たす気もない身勝手な復讐に誰かを巻き込む事など、ソフィアには出来なかった。


「ずっと守ってくれてありがとう。だけど、アタシの命令を聞いて。きっとこれが最後だから」


 そう言ってソフィアはクロードの背に回していた左手を口元へ運び、巻きつけられた包帯をかじりついてて引き剥がす。

 露わになるのは赤を飾る手の平、溢れ出した他者とソフィアを唯一繋ぐ炎。


「命令よ――これからは、アタシの事なんか放っておいて、自分の思うままに生きなさい。アンタを傷つけるものを、全部燃やし尽くして」


 傷口の血を舌で舐め取り、シャツの胸倉を引く事によってソフィアは無理矢理クロードに口付けをする。


 瞬間、ソフィアの体が内側から生まれた衝撃に仰け反り、クロードは咄嗟にその華奢な体を抱き締める。


 血液は沸騰したように熱くなり、心は痺れるような陶酔に震え、体は快感に踊らされるままに恍惚にたゆたう。

 巨大な合金の赤い影、追い続けた女の背中。

 脳裏によぎる意味不明なビジョンすら押し流すように、甘美な刺激はソフィアの内側で炸裂し続ける。


 内なる炎が燃え盛り、言いようのない絶頂に浸るその最中。自分の家族を救えと言えない小さな自分が、ソフィアには惨めでしょうがなかった。



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