Who Ignited Flames 7
「電話は掛けはったん?」
「掛けたんですけど、電源が入ってないみたいなんです。それで桜井さんと皆さんが入ってったお店に電話したら、"金髪の外人さん"とどっか行ったって言ってて、皆さんと居るんじゃないかって思って」
そう言って少女が視線を向けたのは、明日香と同じ茶屋に入ったプラチナブロンドの美男子であるクロード。
だがそれはありえない、と偏頭痛に顔を僅かに歪めてソフィアは自由な右手で赤毛の先を指で玩ぶ。
ソフィアはあの時確かに明日香を突き放し、クロードと静音と共に明日香を置き去りにしていた。
打ちひしがれた静音がどこかで傷心を紛らわしているという楽観的な思考は、明日香を茶屋から連れ出した"金髪の外国人"という存在が否定する。
そしてソフィアの脳裏によぎったのは、"能動的な誘拐"というものだった。
「アンタ達は彼女から電話が来るまで勝手にしてなさい。クロードは彼女の似顔絵を作成、ドロシーさんはその似顔絵を関係者に回して、シズネさんは嫌だと思うけど"アイツ"に連絡して」
「それは構いませんけど、似顔絵を拡散する事にどんな意味が?」
「アタシが思うに、アスカ・サクライは何の心配もいらない。それなら、彼女を利用した奴らを後悔させてやろうと思って」
自らの質問に物騒な回答に回答を返しつつ、やんわりと腕を引き剥がすソフィアにドロシーは思わず表情を凍りつかせてしまう。
ドロシーの知るソフィアは衝動的に戦う事を決めざるを得なかった少女であり、敵対者を叩き潰す事を覚悟した上で命令を出来る少女ではなかった。
だというのに、ソフィアはつまらなそうに鼻を鳴らしていた。
「後悔させるって、随分大きく出たじゃんか」
「専守防衛が成り立たなくなっちゃったんなら、精々強いカウンターを叩き込むしかないじゃない。もう2度とバカな考えを起こさないようにさ」
無感情に吐き捨てたソフィアは、楽しげに口角を歪めるトニーの、意図的に手すきにした護衛戦力の傍らに寄り添う。
それぞれに役割を与えてしまった以上、ソフィアにはそれぞれが役割を果たせるよう尽くす義務がある。
たとえ静音とドロシーが驚愕のあまり言葉を失おうと、クロードが悲しげに顔を歪めようと。
「あの、お2人のお耳に、入れておきたいことが――少し前に、ウチから御巫にアサルトライフルなどの歩兵用装備の納品がありました。しかもいつも取引をしているニューヨークの本社じゃなくて、わざわざアイダホ支社で購入して個人で輸入したみたいで」
距離を取るように離れていくソフィア達の背を見送りながらドロシーは静音に囁き掛ける。左手は僅かに残る温もりを確かめるように組んでいた右腕を擦り、レンズ越しの視線はどこか気まずげに地面をさまよっていた。
「うちが知らんいうことは、うちに知られると困る取引いうことやんな」
「おそらく、ですが」
「気張らんとあかんみたいやな。多分やけど、ドロシーはんが呼び出されたんも、そういう理由もあるんやろうし」
思案するように浅葱色の袖で口元を隠す静音にドロシーは頷いて答える。
銃刀法がある日本においても、依頼があれば銃を用意する御巫が特別とはいえ、リュミエール・インクは直接商品を売る事は出来ない。リュミエール・インクはあくまでアメリカ国内で商品を売り、御巫が独自のルートで日本に持ち込んでいるだけ。その事を理解しており、静音との関係が生まれたニューヨーク本社ではなく、アイダホ支社での取引はリスクを生むだけのはずなのだ。
「ところで、クロードはんはいつソフィアはんに日本語を教えはったん?」
「私はあくまで執事、ソフィア様にお教え出来ることなどございません。御巫様がご教鞭を振るわれたのでは?」
思い出したように投げ掛けられた静音の問いに、燕尾服のポケットから取り出した手帳にペンを走らせていたクロードは訝しむように眉を顰める。
ストロムブラード社と他の勢力の策謀を1人で振り払い、その上でこなしている膨大な数の仕事達。執事という立場とそういった理由で、クロードは静音とドロシーという優秀な教師達にソフィアを任せざるを得なかったのだ。
しかし今度は静音が眉を顰める番だった。
「ありえへん、うちは学校の勉強教えるんで精一杯やさかい。教えられたとしても、あんな流暢なんは無理ですえ」
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