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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Callin' The Flames
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Who Ignited Flames 4

「だから、お願いです。あの人と2人で話を――」

「いや」


 平然と自分の願いを切り捨てたソフィアに明日香は表情を凍りつかせる。

 サングラスを掛けたままのその様子に、躊躇いの欠片すら感じられなかったのだ。


「いやって、こっちは生き別れの兄とようやく会えたんですよ?」

「彼の名前はクロード・ファイアウォーカー、クロウドでもサクライでもない。そもそも、クロウド・サクライがクロード・ファイアウォーカーと同一人物だという証拠は?」

「えっと、6年前に出した捜索願なら――」

「それはクロウド・サクライを捜索してもらうためのものであって、クロード・ファイアウォーカーとクロウド・サクライ、そしてアンタとクロードを関連付けるものではないでしょ。戸籍がないって言うのなら、信用なんて出来るわけないじゃない」


 信じられないとばかりに目を見開いて縋ってくる明日香に、ソフィアはミネラルウォーターで満たされたグラスに手を伸ばしてあきれたように肩を竦める。

 戸籍は無い。写真もない。あるものといえば確証のない記憶だけ。

 それでも喰らいついてくる理由など、ソフィアには1つしか思いつかなかった。


「そろそろハッキリ言ったら? アンタだって、どうせクロードが欲しくて近づいて来ただけなんでしょ?」

「ふざけないで! こっちは、6年ぶりに会え――」


 真っ直ぐな敵意を内包するソフィアの挑発に、明日香は怒りから目を見開いて声を張上げようとする。

 6年間耐え続けてきた寂しさは桜井家に暗い色を落とし、明日香は言いようのない不快感の中で喘ぎ続けていた。優秀な兄が居なくなった明日香の周りからは人が居なくなり、上位を保っていた成績も凡庸なものと成り果てた。それでも明日香が横道に逸れずに居られたのは、大好きな兄のようになりたいと望んでいたから。


 だが明日香は最後まで言葉を続けることが出来なかった。

 正面に座る可憐な白人の少女。その華奢な手に握られていたグラスが、音を立てて砕け散ったのだ。


「本当にどいつもこいつも、自分の都合ばっかりグチグチウダウダ言って! 結局自分の思い通りにしたいだけで、自尊心を慰めたい時だけじゃない!」

「お、犯した罪を償いたいって思うことが悪いっていうの!?」

「罪の意識があるなら一生苦しめばいい! 気に入らないのよ、アンタもアイツも、誰かの為って言って自分のワガママ言ってるだけの連中が! 勝手すぎるじゃない、勝手に何もかも引っ掻き回して、被害者面するなんて!」


 砕け散ったグラスの破片を握る左手をクロードに取られながら、ソフィアは堪忍袋の緒が切れたように声を張り上げる。左手の真っ白な手の平には赤い血があふれ出しており、クロードは手の平に刺さる破片を素早く取り除いて、燕尾服のポケットから取り出したハンカチをソフィアの左手に巻きつけていく。

 それでも怒りが収まらないのか、ソフィアは右手でテーブルを殴ろうとするが、右隣に座っていた静音に手を取られてしまう。

 決して比べられるようなものではないが、あらゆる苦痛を受けて来たソフィア。怒る事よりも諦める事しか出来なかった少女の怒りは、比較的付き合いの長い2人も知らないほどに激しいものだった。


「ハッキリ言っておく。アンタとクロードが家族がどうかなんて知らない。でもアンタが話したことが事実だって言うなら、アタシがアンタ達を許さない。裏切った事を一生後悔し続ければいいわ」

「何様のつもりなのよ、アンタ……」


 もう落ち着いたとばかりに2人に目配せをして、ソフィアは呟くように問い掛けてくる飛鳥を無視して、クロードにエスコートされるままに立ち上がる。

 どんなトラップであろうとクロードが引っ掛かるとは思えないが、断固として他者を拒絶する姿勢を見せる事こそが大事なのだとソフィアは考えていた。

 ドロシーが危惧していたように、クロードと出会うまで、ミカエラ以外の誰とも関わりをもとうとさえしなかったソフィアはあまりにも策謀に対して弱い。

 その結果としてミカエラには裏切られ、静音とドロシーには"Sheep Tumor"の断片的な情報を悟られてしまっていた。


 今でこそ皆が脇を固める事でソフィアは守られているが、いつまでもそういう訳にはいかない。

 現に静音は家に振り回され、ドロシーは与えられた仕事に従事している。


 だからこそ、ソフィアはサングラスを外して威嚇するように口角を歪めて告げた。


「アタシの名前はソフィア・ストロムブラード――彼のご主人様よ」

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