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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Callin' The Flames
33/77

Because Must Burnout 3

「例のってどういう事だ?」

「シズネさんのライバル、詳しい話はシズネさんに聞いて」


 ドロシーの安全に関わる事だと直感で理解したトニーにそう言って、ソフィアはワンサイドアップにした赤毛の毛先を指先で玩ぶ。

 そもそも静音がクロードと契約を結んでソフィアと一緒に居るのは世襲制であり、本来であれば円満に就くとはずだった御巫家次期党首の座を、楠本直樹という母方の親戚からの乱入者によって脅かされたため。家業に対する他家の介入を阻止し、自分が党首となる事で兄弟達に好きな事をさせてやるため。


 そこで静音は次期党首の座を改めて射止めるために、クロードに取引を持ちかけたのだ。

 静音が"独自に仕入れた"Sheep Tumor"の信憑性のある情報を御巫で売る事で、クロードと協力関係を作りたい、と。


 その取引によってストロムブラード側は静音が"意図的に"誤解する事で"Sheep Tumor"の情報を秘匿でき、静音は他の誰でも手に入れられない"Sheep Tumor"の情報を仕入れられ、クロードという最強にして最高の傭兵との協力関係という武器を得る事が出来る。


 だからこそ、楠本という存在がソフィアでも分かるほどに厄介なのだ。


 余計な接触を受けて"勝手に誤解した"Sheep Tumor"の情報"を売られてしまえば、"意図的に誤解した"Sheep Tumor"の情報"を売る静音に影響が出かねない。

 ストロムブラード邸の襲撃によって情報の大事さを理解したからこそ、ソフィアには情報工作に長けた静音が必要なのだから。


「心配してくれはっておおきに。せやけど心配せんでもええで、あんじょうやりますさかい」

「……わかった」


 たおやかな動作で胸を叩く静音を尻目に、ソフィアはさりげなくクロードに視線をやる。暴力が必要になる状況が訪れるとは思いたくないが、いざとなれば躊躇う事も出来ない。静音が1人でスウェーデンまで来た事を考えれば、静音が1人で解決しようとするのは目に見えているのだから。


 楠本とはなるべく接触しない。"Sheep Tumor"が必要になる機会を避ける。


 出来る事といえばそれだけだけ、とソフィアは行動方針を決めたその瞬間、閉ざされていたふすまが乱暴に開かれた。


 クロードは咄嗟にソフィアを抱き寄せ、トニーはドロシーを背に隠してジャケットの胸元に両手を入れる。

 断りもなく開けられたふすまはあまりにもタイミングが悪く、敵対するには最悪の臨戦態勢にふすまの向こうに立っていた少年は思わず両手を上げていた。


「……おかえり、静姉(シズネエ)。もしかして、何かまずい事しちゃった?」

「ただいま、泰明(ヤスアキ)はん。ちゃんと断り入れてから開けなあきまへんえ」


 優しく咎めるようにそう言った静音は、素早く立ち上がって少年の隣へと歩み寄る。

 その間には楠本と対峙した時のような余所余所しさはなかった。


「紹介します、うちの下の方の弟の泰明はん。17歳の高校生です」


 ソフィア達の方へ向き直った静音はそう言って少年を手で示し、泰明と呼ばれた少年は軽く会釈をする。

 茶に染められたミディアムヘア、特徴的な灰色がかった黒い瞳、身長の低い静音よりも一回り高い身長。

 Tシャツにデニムという着物姿の静音とは対照的なラフな格好ではあるが、その関係性は疑うまでもなかった。


「泰明はん、舞台の方はどうされはったん?」

「今日は読み合わせだけ、結構台詞の多い役もらえたんだ。慶兄さんは合宿で居ないけど、唯は打ち合わせ終わって部屋に居る。慶兄さんはユースに選ばれるみたいだし、唯は静姉が紹介した人達とは仲良くやってるみたいだよ」

「そか」


 どこか心配そうに泰明に問い掛けた静音は嬉しそうに、そして心から安堵したように微笑む。

 日本を離れていた期間はそれほど長くはなかったが、その間に起きた面倒ごとを考えれば兄弟達が心配になるのは無理もないだろう。


「時間をこしらえるさかい、後でまたゆっくりお話しよか」

「なら俺がお客さんを部屋まで連れてく?」

「おおきに――ソフィアはん、ドロシーはん、トニーはん、うちはちょい妹に顔を見してきますさかい、部屋に戻っていておくれやす。ちびっと休みはったら湯でも浴びにいきましょか」

「ああ。ソフィアは任せとけよ、クソハンサム」


 ジャケットに両手を入れたままだったトニーは、クロードのぶっきらぼうにそう言って立ち上がる。他者の目がないストロムブラード邸ならともかく、自分達以外の全員が味方という訳ではない御巫邸で、男であるクロードがソフィアの傍についているのは難しい。そのため、クロードはソフィアをトニーに任せるしかない。

 慣れない正座のせいで上手く立ち上がれないソフィアの手を引いて立たせ、日本語を理解できても話せないトニーは肩を竦めて泰明に連れて行けと促す。


 銃を取り上げられなかった事実が、複雑な事情をトニーに理解させるのだから。

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