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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Callin' The Flames
32/77

Because Must Burnout 2

 規則的に畳が敷き詰められ、お膳が並べられた1室。ソフィアは背筋を伝う汗に顔を引きつらせていた。

 座布団があるとはいえ、慣れない正座が負担になっているのは事実。生まれて初めての長時間のフライトで疲れているのも事実。

 だがそれ以上に、ソフィアは眼前に迫った恐怖と相対していた。

 それは葉の形に切り抜かれたオレンジ色、漆塗りの箸でつままれたニンジンだった。


「はよう、お口はんあーんしいや」

「い、いや!」


 飾り切りにされたニンジンの煮物をつまんだ箸を差し出す静音に、ソフィアは全力で首を横に振りながら上半身だけ後ずさる。右手をクロード、左手を静音、前方にはほぼ食べ終えた夕食のお膳、背後には飾り立てられた床の間。文字通りの窮地にソフィアは執事という立場を重んじるクロードが、自分の要求を呑んで同じ食卓についた本当の意味を理解したような気がした。


「そんな嫌がらなくても、おいしいですよ?」

「おいしいかどうかじゃなくてニンジンがやなの!」


 味が苦手だから食べたくなかったんじゃ、と説得を試みたドロシーは思わず首を傾げてしまう。ロジカル的な崩壊をするほどにソフィアは嫌がってはいるが、生ものに抵抗があったドロシーには繊細な味付けをされた煮物は好み通りのものだったのだ。


「ったく、マジにお子ちゃまじゃんか」

「ドロシーさんに魚の骨取ってもらってた人に言われたくない!」


 クロードを押しのけて静音の箸から逃れようとしていたソフィアは、ドロシーの隣で胡坐をかいているトニーに言う。

 現にトニーのお膳には出された焼き魚の骨が1本もないが、ドロシーのお膳には1尾どころではない骨が残されていた。


「嬢ちゃんだってクソハンサムに取らせてたじゃんか」

「それは執事の仕事なの!」


 それを言うならただのお節介だったのだけど、と口を突きそうになっていたドロシーは思わずクスリと笑みをこぼす。

 5つも歳が離れているソフィアとトニーの2人の様子が、仲の良い姉妹のように思えていた。一方は未だ食事中の執事によるさりげないブロックに逃亡を阻まれ、もう一方は年下の護衛対象に自分の世話をさせているのだが。


 しかしソフィアの逃亡劇もついに終わりを迎える。


「出していただいたものはどれも美味しかったですよ。どうかソフィア様も食べず嫌いされずに」


 これまで沈黙を保っていたクロードが、背後からソフィアを抱き締めるようにして捕まえたのだ。

 状況を理化した途端にソフィアは頬を一気に紅潮させるも、静音は容赦なくソフィアの小さな口に飾り義理にされたニンジンを押し込んだ。

 体格こそソフィアよりも劣っている静音ではあるが、どちらが知恵が回るかなど考えるまでもない。


「ほら、美味しいやろ?」

「美味しいけどニンジンだもん……」


 もはや何が嫌なのか分からない言葉を言いながら頭を抱えるソフィアをよそに、静音は達成感を滲ませた笑みを浮かべて額の汗を拭う。弟2人と妹1人が居る静音には、本当にダメなものとそうでないものの差など、手に取るように分かっていたらしい。


「ところで、今大丈夫?」


 噛み砕いたニンジンを飲み下し、拘束してきたクロードを背もたれにする事でようやく復活したソフィアは、自分の耳を指差して静音に問い掛ける。クロードが何もしていない事から盗聴などの心配はないが、ソフィアが話したい内容を考えれば、静音の事情を汲まないわけにはいかない。

 もっとも、ストロムブラードとリュミエールと御巫との関係を壊したい者が居るはずもないが。


 その事を察した静音が箸を置いて居住まいを正した事を肯定とみなし、ソフィアはクロードの腕を引き剥がして確認を始める事にする。


「今日接触してきた人の事って、もしかして例の?」

「そうです。えらいごやくたいお掛けしてもうて」

「アタシは気にしてないけど、なんかあの人、嫌な感じがした。なんていうか、痛くもない腹を探られるってやつ?」


 頭を下げようとする静音を手で制して、ソフィアは嘆息交じりに吐き捨てる。

 楠本と名乗った男の値踏みするような視線、連れ添っていた金髪のボディガードの刺々しい雰囲気を思い出したのか、ソフィアの顔は苦々しく歪められていた。

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