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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Rollin' The Flames
3/77

Baby Bloody Beauty 3

「お帰りですか、ソフィアお嬢様」


 エレベーターホールに辿り着いたソフィアは掛けられた声の方に視線をやる。

 そこに居たのは穏やかな笑みを浮かべた社長秘書であり、特殊ナノマシン課を立ち上げたミカエラ・スタンネだった。


「はい。居ても何か出来る訳じゃないですし、邪魔かなって」

「邪魔なんて、そんな事誰にも言わせませんよ。皆もソフィアお嬢様の事を心配しています。本当に社長は勝手ですよね」


 白いスカートスーツを纏う腕を組んで憤慨するミカエラの様子に、ソフィアは思わずクスリと笑みをこぼしてしまう。


 製薬会社ストロムブラード社長であるグレナ・ストロムブラードは、工学者でマザー・パス・エンダースの協力によってナノマシンの開発に成功する。

 医療用ナノマシンは緊急医療の根底を覆し、ストロムブラード社は1代で頂点まで登り詰め、その成功の過程を描いた2人は当然のように結婚した。

 そのストロムブラード夫婦こそがソフィアの両親であり、全ての始まりだった。

 しかしミカエラは誰もが尊敬し、羨む夫妻の下につきながらもソフィアの事を気に掛けていてくれた。

 クリスマスにはカードを送ってくれ、寝込めば傍らで寄り添ってくれた。


 それこそ、家族以上に家族のように。


「ミカエラさんは大丈夫なんですか? 会見の準備とか1人でされたって聞きましたけど」

「ここ3年間はずっとそんな感じですから。それに私は会場を用意したりしただけで、大変な事はミスター・ファイアウォーカーが引き受けてくれましたし」


 そう言ってミカエラはクロードに軽く会釈をする。

 資料の総ざらいや会見のセッティングから、ソフィアのスーツの調達やメイクアップ。その全てをこなしたクロードは、会見ではソフィアとミカエラに会釈以外の事をさせなかった。おかげでソフィアは朦朧とした頭で質疑応答せずに済み、ミカエラは速やかに会場の後片付けを終えられていた。

 だというのに優秀な執事はミカエラの賞賛に微笑むばかりで、謙遜する事もなくエレベーターのスイッチを押していた。


 まるで会話すら拒んでいるようなクロードの態度に、ソフィアは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。

 見目麗しく、温和怜悧なキャリアウーマンであるミカエラはソフィアの憧れであり、そんなミカエラがぞんざいな扱いを受けることが許せなかったのだ。

 しかしクロードは優しくありながらも、抗う事を許さぬようにソフィアの背を押してエレベーターに乗る。


「ちょっと、どうしたのよ?」

「お嬢様はお疲れのはずです。早くご帰宅されてゆっくりされた方がよろしいかと思いまして。出すぎた真似でしたか?」

「当たり前でしょ。ミカエラさんビックリしてたじゃない」


 突然のクロードの行動に呆然としていたミカエラに、扉が閉まる寸前になんとか会釈が出来たソフィアは睨みつけるようにアイスブルーの瞳を睨みつける。

 どんな理由があったとしても、恩人に無礼な態度を取っていい理由はないのだから。


「ですが、今の私の世界はお嬢様が中心であり、それはミス・スタンネも承知のは――」

「そ、れ、で、も。確かにこのスーツ肩こってしょうがないけど、それで誰かを邪険にしていい訳ないでしょ」

「……いつかお詫びを」


 そう言って苦笑するクロードに、ソフィアは肩パットが詰められた肩を揉む。

 社長令嬢という肩書きから、ソフィアの周りには完璧な"外面"を持った人間が多い。

 それこそ送られてくる手紙はミカエラからのクリスマスカードを除けば、ご両親によろしく、という明け透けな本音が見えるものばかりなほどに。

 そのため絵に描いたような完璧な大人であるクロードのその態度、がどうにも引っ掛かってしょうがないのだ。


 まるで、誰もソフィアに近付けさせないようにしているその態度が。


 グレナの消息を尋ねるために記者が屋敷に押し掛け、体内のナノマシンを誰もが求めているのも理解出来る。

 だが、自分以上に両親と親しい彼女達まで遠ざける理由がソフィアには分からないのだ。

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