Just Hold Your Lips 4
「振動刃、バプタイズド・ゴーストだ」
呆然としているドロシーに代わって説明したトニーの言葉を確かめるように、クロードは鞘からバプタイズド・ゴーストと名付けられた刃を引き抜く。
約70cmほどの漆黒の刃は銀色のエッジで縁取られており、その雰囲気は太刀と西洋剣の間を取っているようにも見えた。
「機能が持続するのは?」
「さあ、銃が切れた事ねえからわかんねえ」
クロードの考えを察したのか、トニーはそう言いながら懐から2丁の拳銃を取り出す。取り出された銃は通常ラインで製造されているものなのか、クロードがテストを任されたような特殊性は感じられなかった。
「あ、あの、迫撃砲を使っていたような相手に、1人だけで?」
本気か、と、ドロシーはバプタイズド・ゴーストを戻した鞘をアタッチメントでベルトに固定しているクロードに問い掛ける。
頬を紅潮させて荒い呼吸を繰り返すソフィアと、その額に浮かぶ脂汗を心配そうに拭う静音。2人を動かせない以上、ドロシーとトニーもこの場から動く事は出来ない。クロードの支援をしようにも、用意したテスト火器はトニーでも扱えない。
だというのに、孤立無援のクロードは穏やかな笑みを浮かべて頷く。
「ええ、こちらもリュミエール様の自信作なのでしょう?」
「です、けど、捕捉力と組織力で大いに劣っているのに、白兵戦を挑まれるのは、流石に、ちょっと……」
異常な身体能力と適切な状況判断能力をクロードが擁しているのは分かるが、流石に覆し切れていない数的な差は確かに存在している。武器とその仕手を信頼していない訳ではないが、むざむざと死なせる訳にはいかないのも事実だった。
「トバイアス様は私の信頼に応えてくださいました。ならば、今度は私めの番かと」
「……マジにいい根性してんじゃん、クソハンサム」
「私はソフィア様の執事。愛しの主のためであれば、"何でも"いたしましょう」
困窮極まっていたあの状況で行われた目配せの真意を理解したトニーは、思わず舌打ちをしてしまう。
試させるつもりが試されていた。一々そんな事に引っ掛かったりする事も、無力な非戦闘員を守る事に忌避感こそないが、試されていたトニーが面白いないと思ってしまうのも無理はない。
「そしてソフィア様は、私の愛しの主様は、"敵を全て燃やし尽くせ"と仰られました。ならばこそ、皆様をお守りし、リュミエール様との契約を果たし、敵対者を殲滅する事が私の義務と言えましょう」
バリトンボイスで並べられた義務にドロシーは返す言葉を失い、助けを求めるように視線を向けたトニーには諦めろと首を横に振られる。異常な武器達を使いこなしたクロードで切り抜けられない修羅場を、トニー達だけで切り抜けられるはずがないのだから。
「……申し訳ありません。どうか、ご無事で」
「再度繰り返させていただきますが、私はソフィア様の執事。お任せいただいた仕事はパーフェクトに、ですよ」
詫びてくるドロシーに恭しく頭を垂れるなり、クロードはガラスを吹き飛ばした窓から外へと飛び出す。
襲撃を察知した切欠は迫撃砲による爆撃で、直接離れに辿り着いた敵戦力は4,5人ほど。その事を考えれば、敵対者達は少なくとも鉄柵や木々という要害を攻略し切れてはいないという事。マザーの墓、"Sheep Tumor"というナノマシン、プライベート・ラボを隠し通していたのは伊達ではない。
クロードは木々の合間を縫うように速度を上げていく。
予想が正しければ、敵対者達は最後の手段を用意しているはず。
そこれそ、全員をまとめて殺せるような。
木立を抜けた瞬間、予想通りの巨体が、無理矢理グレネードキャノンを搭載した装甲車が姿を現した。
敵対者の数は決して多いとは言えず、装備も十分とは言い難い。まるで、捨て駒のような敵対者達。
だが背後に誰が居ようとクロードには関係ない。主に歯向かう敵は全員斬り殺すだけだ。
鞘から漆黒の刃を引き抜いたクロードは、ノータイムで赤いデバイスをスイッチを入れる。赤いデバイスは甲高い嘶きを上げ、漆黒の刃は鳴動を始める。
振動刃のデバイスの実用化にこぎつけた才能に感心すべきか、それとも自分は誰も使わないであろうこの武器を作り上げた事にあきれるべきか。
どうだっていい、とバプタイズド・ゴーストを水平に振り抜く事でグレネードキャノンを両断した。
高速で分割された砲弾は熱を生み出し、配弾部をボコボコと膨らませいく。
預かり物であるバプタイズド・ゴーストを壊してしまわないよう、それでいて装甲車を確実に破壊しなければ鳴らなかったクロードが出した答えは、搭載火器を破壊して結う獏を促すというものだった。
「それでは、"さようなら"」
返された爆音に関心を向けることもなく、クロードはスイッチをオフにしたバプタイズド・ゴーストを鞘に収めていた。




