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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Rollin' The Flames
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Just Hold Your Lips 2

 背中に冷たい固さをどこか遠くに感じながら、ドロシーは眼前の美しいアイスブルーに見入っていた。


 その美貌は男女問わず誑かし、その強さは何者もを葬る。取引のために必要となるそういった情報は集めていた。

 だが、クロードの美しさを目の当たりにしてしまったドロシーには、その言葉すら陳腐に感じられる。


 光の加減で白銀に見えるプラチナブロンドは、さらさらとして手触りがよさそうで。

 きめ細やかな白磁のような肌と顔は彫像のように整っていて。

 真っ黒な燕尾服を纏う腕は細くしなやかなでありながら、自身の緩い服で隠した起伏に富んだラインの体を力強く抱き締めていた。

 だが次の瞬間、唐突にクロードの顔が消え、代わりに固く握られた拳がドロシーの視界に現れる。


「ドロシー、無事か?」

「う、うん。クロードさんが守ってくれたから」


 抱きついてくるトニーにクロードを責めさせないように、そう言いながらドロシーは違和感に眉を顰める。

 男どころかゼミの仲間ですら近付けさせず、ドロシーに触れた男は誰もがトニーに締め上げられていた。だというのに、トニーはクロードを必要以上に責めるでもなく、むしろ視線をクロードの方へ向けないようにドロシーを抱き締めていた。

 年上ではあるが、どこか放っておけない親友兼護衛のその様子に違和感を募らせるドロシーは、親友のスーツの肩越しにクロードのほうへと視線をやる。

 そこに居たのは困ったとばかりに浅葱色の袖を頬に添える静音と、主の無事に安堵するクロード、そして不愉快そうに眉間に皺を寄せるソフィアだった。


「ソフィア様、お怪我はありま――」

「デレデレしてた」

「……はい?」


 せんか、と続けようとしたクロードは、頬を膨らませるソフィアの言葉にポカンと口を開いてしまう。

 180cmほどの美男子と170cm近い身長の美女。絵になっていた先ほどの光景が気に入らないソフィアは、最強にして最高の傭兵とは程遠いクロードの様子を無視してソフィアは続ける。


「ドロシーさんを抱き締めてデレデレしてた」

「ソフィア様、私はあなた様一筋ですよ」


 そっぽを向いてあからさまに拗ねたソフィアと、弁解するようにある種の愛の言葉を紡ぐクロード。その様子を耐え切れないとばかりに口元に着物の袖を当ててクスクスと笑っている静音。

 実際のところを言えば、ドロシーがドギマギしていたのであって、クロードはデレデレなどしていない。だが説明しきれない状況はある種の修羅場を迎えているようにドロシーには見えていた。


「ソフィア様、状況は芳しくありません」

「そんなの、見れば分かるよ」


 相変わらずそっぽを向いたまま、ソフィアはクロードの報告に答える。

 クロードが欲情してドロシーを抱き締めたとは考えていないが、ソフィアにとってはクロードがトニーと目配せをしたあの瞬間が引っ掛かってしょうがなかった。

 おそらくあの瞬間にトニーがソフィアと静音を見捨てていれば、クロードはソフィア達共々ドロシーを無事避難させていただろう。

 だからこそソフィアは、クロードがトニーの技術と信頼を試したのではないかと考えていた。


 まかり間違っても運動音痴であろうところが露見したドロシーに守らせる事が出来るわけもなく、商品の出来を除けばトニーを試すしかない。

 トニーが裏切れば、最悪ドロシーを殺すしかない。

 不快感と共に生まれた忌避感に、ソフィアはハンカチを巻かれた右手を強く握りしめる。


 もしこの瞬間にも続けられている砲撃で離れが倒壊したら。

 もしトニーが自分達を裏切ってドロシーが殺されていたら。

 もし自分が判断を間違ったせいで、戦闘員であるクロードとトニーが死んでしまったら。


 また1人になってしまうのだろうか。静音とドロシーにもあの耐え難い孤独を味あわせてしまうのだろうか。


 和らいでいたはずの不快感が胸中に再度燻り始め、胃は重くなり、指先は熱を失ったように冷え込んでいく。


 優しく受け入れてくれた静音が居なくなったら。人見知りなのに必死に話しかけてくれたドロシーと仲良くなくなれる機会を失ったら。粗野な気質とは裏腹に許してくれたトニーに嫌われたら。

 初めて自分という存在を認めてくれたクロードが、たった1人の執事を失ってしまったら。


 偏頭痛に襲われる脳裏をよぎり続ける最悪のヴィジョンに、ソフィアは右手のハンカチを乱暴に引き剥がす。

 露わになるのは、白い肌に滲む赤い炎。

 ソフィアはクロードに敗北を許す訳にはいかない。クロードが負ければ自分が、静音が、ドロシーが、トニーが、そしてクロードが死んでしまう。

 だからこそ、ソフィアは躊躇う事なく人差し指の傷口に噛り付き、傷口から血を一気に啜りだす。

 口内に広がる鉄の香りに眉を顰めながら、ソフィアはクロードが居る背後へと振り向く。

 美しい顔は悲哀に歪み、無力感から強く握られた拳は震えていた。

 しかし知った事ではない、とソフィアは無遠慮にクロードの色素の薄い唇に口付けを落とす。


 相変わらずぎこちなく押し込まれた舌は優しく受け入れられ、血液が混じる唾液が2人を繋ぐ。


 瞬間、ソフィアの体が内側から生まれた衝撃に仰け反り、クロードは咄嗟にその華奢な体を抱き締める。

 血液は沸騰したように熱くなり、心は痺れるような陶酔に震え、体は快感に踊らされるままに恍惚にたゆたう。


 白銀のヴァインの模様、センスが良いとは言えない白いだけの服。

 脳裏によぎる意味不明なビジョンすら押し流すように、甘美な刺激はソフィアの内側で炸裂し続ける。

 何もかもが溶けてしまいそうなほどに、まるで全てを許そうとする慰撫(いぶ)のように。


 そして、内に秘めた炎が目覚めた。


「めい、れいよ。アタシ達を傷つけるものを、何もかも、全部燃やし尽くして」

「……御心のままに」

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