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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Rollin' The Flames
21/77

Touch The Rainbow 4

 トニー・トバイアス、通称トト。21歳。"女"。アメリカ合衆国ニューヨーク出身。白人とチェロキーのクオーター。

 地元のハイスクール中退後、リュミエール・インクの警備部門に所属。研修期間を終えた後に特殊警備顧問に就任。ドロシー・リュミエール専任の護衛となる。


 静音に携帯電話を返したソフィアは、隣室で待機させている2人の客人にどうしたものかと深いため息をつく。

 男を装っていた護衛が女だった事はどうでもいい。問題にもならない。

 しかしクロードは追い返すのではなく、2人を隣室に隔離するだけだった。

 そこに何の意味があるのか、ソフィアには検討もつかなかった。


「シズネさんはどう思う?」

「ソフィアはんはどう思われてはるんで?」

「やっぱり契約には利点がないと思う。シズネさんみたいにアタシの事を守ってくれる訳じゃないし、クロードの時間を取られるだけっていうか」


 質問に質問を返された事に気を留める様子もなく、ソフィアはソファの背もたれに背を預ける。

 資金はグレナが残していったものと、ストロムブラード社からのレポートの報酬がある。

 クロードの武器はどう仕入れているのかは分からないが、手に入れるためのツテがあるのであれば理由にはならない。

 もしトニーが脅迫してきたとしても、銃を持った敵対者達を1人で殲滅したクロードに敵うはずもなく、なにより御巫の当主候補(しょうばいあいて)である静音を敵に回すはずがない。


「うちの、責任やんなぁ」


 ポツリと呟いた静音はふがいないとばかりに目を伏せる。


「何がですか?」

「ソフィアはんをあまえたにしてもうた事さかい」

「え?」


 戸惑うソフィアに静音は居住まいを直して向き直る。

 その表にはいつもの穏やかな微笑みはなく、ソフィアも自然と背もたれから背を離していた。


「ええですか、ソフィアはん。うちはソフィアはんとクロードはんが好きやから無条件で守りおす。せやけど、好きという感情以外にも契約という理由もあるさかい」

「何が、言いたいんですか?」


 ソフィアは契約という言葉に冷え込む指先を握りこみながら問い掛ける。

 "Sheep Tumor"、クロード、ストロムブラード。それらだけがソフィアに人としての尊厳を与え、クロードと静音に出会わせてくれた。

 しかし裏を返せば、ソフィアの全てはそれらだけが全てだ。それは理解していても、気分がいいものではない。


 ソフィアが震え始めそうになる唇を噛み締めようとしたその時、強く握り締めていた拳がやわらかく握り締められる。

 エメラルドの瞳の視線を落としてみれば、華奢な手を握るのは真っ白な男の手。真っ黒な燕尾服の袖を辿っていけば、そこには心配そうに覗き込んでくる透き通るようなな碧眼を飾る美しい顔があった。


「僭越ながら1つだけ。出された条件の裏を読み、出した条件で相手を縛る。それが私の知る交渉というものです。ですからどうかお忘れなく――私はソフィアさまの執事、あなた様だけの従僕でございます」


 意図的に口を出さずに居る事を悔やむように眉根を歪ませるクロードの言葉を、ソフィアは噛み砕くように胸中で反芻する。


 出された条件の裏を読み、出した条件で相手を縛る。

 それはクロードが行ってきた交渉と同じだった。


 ストロムブラード社との交渉では"Sheep Tumor"に関してのレポートを提出する事で、ソフィアの自由と安全を確保した。

 静音との交渉では自分を利用させる事で、ソフィアを守る為の手札を増やした。


 ならばあの客人達には何を求められるのか、とソフィアは透き通るような碧眼を見詰めながら考える。


 クロードに物を与えるという事は最上級の物でない訳がない。

 クロードを裏切るという事は死以外の何物でもない。

 そして現在のクロードが戦う理由はソフィアを守る事以外ない。


 つまり、その契約はソフィアにとっては手札を増やすという事になる。


「シズネさん、リュミエール・インクと取引してる商品のリストって見せてもらえる?」

「構いまへんえ」


 クロードの手を握ったまま立ち上がったソフィアは、満足したように微笑む静音から再度携帯電話を受け取る。

 表示されている商品のリストには銃や刃物、そしてソフィアの予想通り、特殊なライオットシールドなどの防具があった。


「クロード、契約を請けるわよ」

「御心のままに」


 クロードにエスコートを促すようにソフィアは握られたままの手を握り返す。

 向かうは隣室、ソフィアが初陣を切る戦場だ。

 Steep Humor >> error

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