Touch The Rainbow 2
ソフィアは自分が知る限りでは2組目の客人達にさりげなく視線をやる。
左目が隠れるほどに程に長い左の前髪が特徴的な、アシンメトリーのショートカットブロンド。一目で分かるほどに特殊な赤いセルフレームの眼鏡の向こうで伏せられた碧眼。比較的長身で豊満な体のラインを隠すように、カーキ色のロングパーカーと黒いカーゴパンツを纏う人物。
好き勝手な方向に跳ねるショートカットの黒髪。浅黒い肌の顔を横に横断するように刻まれた1本傷。クロードに似たスラリとした体系の体に、白いシャツ以外を黒で纏めたスーツを纏う人物。
「初め、まして、ど、ドロシー・リュミエールです。お忙しいところ、大変申し訳ありません」
「トニー・トバイアス、ドロシーの護衛だ」
どもりながら自己紹介をした金髪の客人を主、琥珀色の瞳を飾る三白眼でクロードを睨みつける黒髪の護衛を従者。そう判断したソフィアはどうしたものか、とワンサイドアップにした赤毛の毛先をいじり始める。
顔半分を前髪で隠しながらもその美貌がハッキリと分かる麗人と、立ち振る舞いから何まで喧嘩っ早さのような粗野なものを感じさせる護衛。その2人のアポイントメントはもちろんなく、本来であれば屋敷に入れる必要もないしかし静音にさえ裏切らせないように、いくつも手札を用意していただろうクロードは2人を客人としていた。その事から2人はクロードの脅威となりえず、その上自分にとって利用価値があるのではないかとソフィアは判断する。
"Sheep Tumor"を使っていたとはいえ、拳だけで人の首をへし折れるクロードに勝てる人間などソフィアは知らない。
「家長代理のソフィア・ストロムブラードです。今日はどうされたんですか?」
「そ、それは、その……」
答える訳でもなく、どもりながら俯いてしまうドロシーにソフィアはどうしていいか分からず、隣に座る静音に助けを求める。決して社交的とは言えないソフィアには、相手から話を引き出す方法など持ち合わせていない。
「クロードはんと武器のモニター契約をしたい。違いまっか?」
戸惑う教え子と人見知りな客人の様子を見かねた静音の武器モニターの契約という言葉にソフィアは首を傾げ、ドロシーはフォローしてくれた不思議なイントネーションの言葉に困惑する。
武器こそないものの、黒髪の護衛が険しい視線を執事に向けている状況に、そのはんなりとした雰囲気は場違いともいえる違和感しかなかった。
「そ、そうですが、あなたは?」
「遅うなりましたが、うちは御巫静音。御巫家当主候補の1人でストロムブラード家担当者の1人です」
「ミカナギって、運送屋の、ですか?」
「はいな。リュミエールはん家には毎度お世話になっとります」
「シズネさん、武器ってどういうこと?」
ドロシーに頭を下げる静音に、ソフィアは思わず問い掛けてしまう。
ここ数週間の間に肌で感じた剣呑な空気と、ドロシーのおどおどとした雰囲気はあまりにもかみ合わなかったのだ。
「リュミエール・インクは造船業から武器製造まで何でもしはるお家でなぁ、ドロシーはんは特殊な武器の開発主任をしてはるんです。商品の出来がえろう良うて、うちもよう仕入れさせてもらっとるんですわぁ」
そう言いながら頭を上げた静音は、着物の袖から七宝の柄のケースに収められた携帯電話を取り出しソフィアに手渡す。
ディスプレイに映し出されていたのは、ローテーブルの向こうで未だに頭を下げている金髪のキ客人の情報だった。
意図を無視するような顔半分が前髪で隠れた照明写真をスライドで送り、ソフィアは続けて現れた情報に息を呑む。
ドロシー・リュミエール。18歳。女。アメリカ合衆国マサチューセッツ州ケンブリッジ出身。
リュミエール・インクの社長であるエルファンド・リュミエールとその妻グリン・リュミエールの子供。エレメンタリー・スクールでその才能を見出され、いくつもの賞を受賞する。ハイスクール入学と共に工学に興味を抱き、15歳でマサチューセッツ工科大学に入学、工学を専攻する。18歳で卒業し、リュミエール・インク特殊武器開発顧問に就任。振動刃などの技術を実用化した。
なるほど、とソフィアは髪をいじっていた手を思案するように顎にやる。
ドロシー・リュミエールはいわゆる"ギフテッド"。先天的に才能と能力を持っている特殊な人種、あるいは持って生まれた才能と能力。それがギフテッドであり、ドロシー・リュミエールを飛躍させた見えざる力。
稀代の天才が自分の作品を扱う事を出来る最強を求めた。
ドロシーの実力を正確把握している訳ではないが、事実として静音が取引をした事があるというのなら、少なくとも"リュミエール"は上等な商品を作っている会社だとは理解出来た。




