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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Rollin' The Flames
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Fall To Rise 3

「他の子らが望むならほんでも良かったんやけど……」

「兄弟?」

「腹違いのがおるんよ。でもあの子達はやりたい事があって、家業はその妨げにしかならへん」

「ならシズネさんにストレートで決まるんじゃないの?」


 それはおかしい、とソフィアは即座に問い返す。

 1人でスウェーデンまで訪れる度胸があり、クロードを交渉の座に引きずり出すだけの頭脳もある静音。その事実は疑いようもない静音の実力を証明しているはずなのだ。

 しかし静音はどこかバツの悪そうに眉尻を下げる。


「ほんなら良かったんけど、母方の親戚の子らが立候補しはったんですわ」

「えっと、でもその人はミカナギじゃないんですよね?」

「せや。それで誰かが御巫を代表せなあかんようになったさかい。そこでソフィアはんのことがニュースになって、グレナはんと仕事をした事があったうちに白羽の矢が立ったんです」

「ゴメンなさい、よく分かんなくなってきた……」


 頭を抱えだすソフィアに、それは仕方ない、と静音はクスクスと笑いながら続ける。


「御巫は家業やさかい。そいで適正を見るために、全員1度は指導者付きで仕事をさせられはるんですわ」

「それで、お父さんと?」

「せや。その縁を利用出来るのはうちだけで、今回の取引の権利を占有出来るのもうちだけ。だからこそ適正が最高だったあの人を差し置いて、適正が"最低"だったうちが候補に残れたんですわ」


 だからか、とソフィアはずっと抱えていた疑問の回答に納得する。

 ミカエラでさえソフィアに近付けさせなかったクロードが、"特殊な仕事をしているだけの他人"をソフィアに近付けさせるはずがない。利用価値、裏切る事が出来ない関係性、そういったものを加味した上で取引に乗ったのだと。


 つまり、適正をひっくり返すほどの実力を手に入れた静音はソフィア同様に利用されているのだ。

 クロードに、両親に、御巫という家に。


「シズネさんはそれでいいの?」

「かまへんよ。ソフィアはんとクロードはんに出会えて、あの子らにも好きにさせてやれるさかい。お父はんとお母はんからのプレッシャーはえげつのうけど、構いまへん」


 何もかも違うわけだ、とソフィアは嘆息を漏らす。

 兄弟達のために家業を継ぐ事を覚悟した静音。"Sheep Tumor"と復讐を押し付けられ、クロードに頼りきりの自分。その2人の覚悟が同じ程度なはずがないのだから。

 ただソフィアには、そこまで想ってもらえる静音の兄弟達がうらやましくてしょうがなかった。


 車外から聞こえてくる野太い悲鳴にソフィアは窓の向こうへと視線をやる。

 宙空に舞う鋼の蛇とそれを従えるように立つクロード。上空へと伸ばされた手には見覚えがあるバックルがあり、バックルからはワイヤーと刃で作られた蛇腹剣が生えていた。

 それも静音が仕入れたものなのかは分からないが、強度に劣るはずのルックスの剣は鞭のようにしなり、4人の喉を切り裂いていく。撒き散らされた血飛沫はひび割れたアスファルトを濡らし、喉を切り裂かれた男達の体が地面へと叩き付けられる。


 野太い悲鳴は消え去り、残るのは砕けた蛇腹剣の刃がアスファルトに崩れ落ちる硬質な音だけ。


「何で、何で死なねえんだよ!」


 生き残って"しまった"男は、鋼鉄の尾が生えたバックルを捨てるクロードを怒鳴りつける。精神的にも限界が来ているのか、その指は弾が切れたハンドガンの引き金を引き続けていた。

 12人居たはずの味方は無残な姿と成り果て、リーダーは最初に殴り殺された。

 だというのに、そこに居る執事は袖についた返り血に不愉快そうに眉を顰めているのだ。


「この、バケモンがァッ!」

「違いますよ。私は執事、どうかお間違えないよう」


 意味不明な返答に舌打ちをした男は、マシンピストルを握ったままの仲間の死体へと走り出そうとする。

 相手は基本的に近接距離での戦闘がメインで、弾丸から逃れるために傘を持っていた。だがその傘は殴っている間に故障でもしたのか、畳まれた状態で仲間の腹部に突き刺さっており、回収も使用も難しいはず。

 しかしそんな願いさえ叩き折るように男の喉輪に手が添えられ、男は背中から地面に叩きつけられた。

 常軌を逸した激痛に男は意識を失いそうになるも、鳩尾に落とされた踵がそれを許しはしない。


「さて、いくつか質問があります」

「答える、とでも思ってんのかよ、クソ――」


 見下ろしてくるクロードに、男は焦点の合わない目で睨みつけるが、クロードはそんな事は知らないとばかりに右腕を振り下ろす。燕尾服の袖から姿を現したセラミックブレードは自然な動作で、クロードによって男の首を掠めるように振り抜かれた。

 薄くしなやかに作られた刃は男の首をかすめ、浅黒い肌に赤い線が走り、徐々に赤い雫が浮かび上がってくる。


「主をお待たせしているので、これ以上無用な会話をする気はありません。答えなさい――最初から我々の事をしっかりと理解していたようですが、どこからその情報を仕入れたのですか?」


 クロードは男の鳩尾に足を置いたまま、セラミックブレードの切っ先を突きつける。

 思い返してみると何もかもがおかしいのだ。

 リーダー格の男はまず"呼び出された"と言っていたのに、ソフィアとクロードというイレギュラーな存在に驚きもしなかったのだ。

 クロードがソフィアの執事であるという情報が世界中に広まっている以上、御巫がクロードを雇ったと考える事は出来ない。それこそクロードと静音の間にある"取引"を知っていなければ。

 しかし情報を商品の1つとして売買をしている静音が情報を漏らすとは考えがたく、静音を監視できる"誰か"が男達を操っているとしかクロードには思えなかったのだ。


「……教え、ねえよ、バァカ」


 口角を歪めながら言う男の答えにクロードは深いため息を漏らす。

 予想はしていたが、男達の背後に居る人間は厄介な存在らしい、と。

 ここで情報を餌に逃げ出しても殺されると判断したのであれば、見上げるように睨み付けてくる男の態度も理解できるのだから。


「残念です――それでは、"さようなら"」


 口先だけで嘆いたクロードは躊躇なくセラミックブレードで男の首を切り裂く。

 その胸中からは既に男の存在は消えており、主の安全と汚してしまった燕尾服を憂いていた。

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