Fall To Rise 1
「本当に品のない方々ですね。ソフィア様のお耳を汚すような言葉は慎んでいただきたいのですが」
まあ、無理でしょう。言外に付け足した言葉をクロードが吐き捨てたその瞬間、先端が上に向けられていた日傘が前方へと向けられ、ソフィアと静音の視界を真っ黒な傘に覆われる。
クロードの行為にソフィアが疑問を抱くよりも早く銃声が鳴り響き、いくつもの銃声がその後を追うようにその殺意を主張し始める。
だが弾丸は1発としてソフィアたちに届く事はなく、傘は金属同士がぶつかる硬質な音を鳴らしていた。
「どこかで見た思いましたら、防弾傘を買うてくれとったんですね。うちが仕入れた自慢の品でですの」
「日差し、雨、雪、弾丸の全てからソフィア様を守れるとあれば安いものです」
この状況においても楽しそうに微笑んでいる静音に、クロードも穏やかな笑みを返す。
クロードが手にしている傘は2段展開構成の鋼鉄の骨組みと鋼繊維を織り込まれた特殊な傘であり、言ってしまえば1つの盾だった。もちろんその頑強さ故に、人が片手で持てるような重量ではないはずなのだが。
「それよりも、どうかお車にお戻り下さい。ガラスからタイヤまでの全てが防弾仕様となっていますのでご安心を」
「クロードはんはどうされはるん?」
「責任を果たします。それがソフィア様をお守りし、御巫様と取引をした私の義務です」
そう言ってクロードはソフィアの肩から手を離し、後ろ手にリムジンの扉を空ける。
最強の傭兵であるクロードと足手纏いにしかならない自分。その構図を理解しているソフィアは、言葉にこそ出されていない勧告を理解し、ポケットから小さなナイフを取り出す。
ソフィアの体内に眠る闘争の炎、それだけがソフィアがクロードに与えてやれる力だった。
しかし、ナイフは扉を開いていたはずの手によって、いとも簡単に取り上げられてしまった。
「いけませんよソフィア様、女性が自分の肌を傷付けるなんて言語道断。"人の体"はとても脆いものなのですから」
「でも……!」
諭すような口調でたしなめてくるクロードに、ソフィアはナイフに手を伸ばしながら食い下がる。
ストロムブラード社での襲撃でクロードの強さは理解しているが、主であり、護衛対象であるからこそソフィアはより勝率の高い選択をしなければならない。
だがクロードはナイフを取り上げて燕尾服のポケットにしまっただけでなく、ソフィアのエメラルドの瞳を見つめて口を開くいた。
「私のためを思ってくださるのでしたら、どうか私めにご命令を。私を信用してくださるのであれば、私をソフィア様の従僕と認めてくださるのであればこそ、ご自分を傷付けるのではなく、どうか私にあなたを守らせてください」
いつかと変わらない透き通るようなアイスブルーを目の当たりにしてしまったせいか、銃声の中で紡がれた言葉はソフィアの胸中で溶けて広がっていく。
つまらない言葉の押収の中でも、自分を守ってくれたクロード。
親よりも誰よりも自分を想ってくれた執事を、信じずに居る事などソフィアに出来るわけがなかった。
「……命令よ。アタシ達を傷つけるものを、何もかも、全部燃やし尽くして」
「御心のままに」
そう言って視線を向けてくるクロードにたおやかな動作で胸を叩き、静音はソフィアの背を押してリムジンに押し込んで当然のように扉を閉める。閉ざされた扉は自動的に施錠される。
それを確認したクロードは傘を正面に構えたまま、内ポケットから取り出したリップクリームのような物体を上空へと投擲する。音もなく上空へと放り出された円柱状の物体は、導かれるように敵対者達への頭上へと落下し、眩光を撒き散らすように炸裂した。




