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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Rollin' The Flames
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Fools On The Edge 4

「クロードはんは日本に来はりはった事があるん?」

「ええ、仕事で大阪と東京と北海道には伺った事があります」


 静音とクロードの楽しそうな会話を聞きながら、ソフィアは大きな日傘の下で不満げに唇を尖らせていた。

 ソフィアは車内での会話のせいで、同じ日傘の住人である静音がどうにも疑わしくてしょうがなくなっていた。もしかしたら、この状況でさえ自分からクロードを取り上げるための策謀なのではないか。ソフィアにはそう思えてしょうがないのだ。


 だというのにクロードはソフィアと静音が入るほどに大きな日傘を手にして、疑わしい客人と穏やかな談笑をしている。

 ストロムブラード社の1件でクロードが自分を裏切らない事を理解しているからこそ、ソフィアは今回の件がクロードの命に関わるのかもしれない、と焦燥していた。

 何かの過ちでソフィアが囚われてしまった時、クロードは平然とその命を懸けてしまうように思えてならないのだ。


 しかしそんな懸念とは裏腹に日本での思い出話をする執事に、ソフィアは乱暴に寄りかかる。


「どうされましたか、ソフィア様」

「……うっさい、背もたれ」


 何か誤解させてしまったのか、どこか心配そうに覗き込んでくるクロードと目を合わせないようにソフィアはそっぽを向く。背中をぶつけるようにして体を預けたのはただの八つ当たりで、口を突いて出た言葉も意味不明。恥ずかしさからかソフィアの白い頬は赤みを帯び始めていた。


「ソフィアはんはほんまかいらしいわぁ」

「同感ですが、ソフィア様は私の主です。差し上げませんよ?」


 クスクスと穏やかな笑みをこぼす静音と、どこか冗談めかすような口調で言うクロード。そんな会話から自分を遠ざけるように、ソフィアはフンと荒く吐息をもらす。


 正直言えば、ソフィアは誰かとケンカをした事もなければ、友達が居た事もない。ルームメイトでさえ、ソフィアは会話らしい会話をした事もない。

 だからだろうか、僅かな嫉妬を感じるその会話ですら、ソフィアには楽しく感じられたのは。

 緩みそうになる顔を誤魔化すように、ソフィアがワンサイドアップをにした髪の毛先をいじり始めたその時、遠くからのエンジンの音が聞こえ始める。


 音の感じから言えば車両は2,3台ほどだろうか。

 ソフィアにはどれだけの人間が来るのかは分からないが、あの時と同じように平常心を保ったままのクロードが何よりも心強かった。

 そしてソフィア達にその身を晒すように停まった乗用車。開かれた扉か姿を現したのは、あからさまにカタギではない13人の男達だった。


「よう、ミカナギ。呼び出されたから何かと思ったが、また俺達と取引でもしに来たのか?」

「そないなわけあらへんやろ。あほらしいわぁ」


 掛けられた第一声に、のんびりとした口調で返される。返される鋭利な棘を巻きつけた言葉。

 馬鹿馬鹿しいとばかりに首を横に振る静音に、場は一瞬にして緊張に包み込まれ、男達は御巫を通して購入した武器を取り出し始める。ハンドガン、マシンピストル、ライフル。ソフィアが想像していたような武器こそないが、どれもが御巫が扱うだけの1流の品だった。


「うちは御巫の代表としてあんさんらに(やいと)据えに来とるさかい。あんまいちびってるといわしたりますで、このすかたんらが」

「……いい度胸じゃねえか」


 相変わらずゆっくりとした口調ではあるが、その静音の言葉にジェスターのリーダーと思われる男が銃の安全装置を外す。

 しかし静音はニコニコと笑みを浮かべたまま、武器を取り出そうともしない。

 このままではまずいと判断したソフィアは、さりげなく背後の燕尾服の裾を引く。

 クロードがセラミックブレードを隠し持っているのは知っているが、流石に銃相手には相性は悪く、最悪静音がどうなってしまうか分からない。

 しかしそんなソフィアの懸念を余所に、男の視線は静音から焦燥するソフィアへを移った。

 その顔には下卑た笑みが張り付けられており、ソフィアの喉から引きつったような声が漏れる。


 覚悟はしていたつもりだった。最強の傭兵の主たろうという意志も強く持っていたつもりだった。

 それでも、向けられた纏わりつくような視線は、ミカエラの銃よりもずっと怖く感じられたのだ。


「まあいいさ。おあつらえ向きに近頃話題のお嬢さんまで連れてきてくれたんだ。期待には応えてやんねえとな」

「お人形はんみたいでかいらしゅうやろ? あんさんらみたいなすかたんらとは合いまへんさかい」


 静音は着物の袖で口を覆いながら楽しげに言う。

 クロードの人間味のない美貌のせいで薄らいではいるが、ソフィアの顔は整っており、鮮やかな赤毛もエメラルドの瞳もソフィアを飾り立てるようだった。

 だが敵対者の男はそんなものには興味ないとばかりに、下卑た視線を静音に戻して笑う。


「口だけは回るみたいだな――聞いたぜ? アンタ、当主候補から外されそうなんだろ?」

「……ほんましょうがおへん方らやなぁ。げんくそ悪うてかなわんわ」


 やられた、とソフィアは穏やかな口調で紡がれた静音の言葉に奥歯を噛み締める。

 静音は言葉通り、クロードだけが目的でスウェーデンまで訪れ、言葉通りにソフィアを守ろうとしている。クロードを雇い入れたのは取られた武器が怖いからではなく、言葉通りクロードとの関係が重要だったのだ。


 静音の真の目的はソフィアを無意識を装って利用し、クロードの実力を正確に把握し、切り札の1つとする事で自分の立場を安定させるというもの。ソフィアにはそうとしか考えられなかった。

 いくら家業であってたとしても、静音は立場を得るにはあまりにも若すぎるのだ。


「あほらしいのはどっちだって言ってんだよ。そこの嬢ちゃんを寄越しな、それでほかの2人は見逃してやる」

「どうやら、交渉は始まる前に決裂していたみたいですね」


 リーダー格の男の言葉に、背後に控えていたクロードはソフィアの肩を抱きながら一歩踏み出す。

 その動作はあまりにも自然で、ジェスターの面々は愚か、ソフィアでさえ違和感さえ抱けない。だというのに全員の視線はクロードに釘付けとなり、クロードは静かに場を支配し始めていた。


「何だってんだよ執事さん、アンタも商品の1つか? それともこの女に買われたのか?」

「私はソフィア・ストロムブラード様の従僕、私の主はソフィア様だけです」

「知ってるってのバカが、最強の傭兵だかなんだか知らねえけど調子に乗りやがって。嬢ちゃんを寄越せねえならテメエもぶち殺すぞ?」


 静音と同様に代わらぬ笑みを浮かべ続けるクロードに、リーダー格の男は苛立ちを隠そうともせずに舌打ちをする。

 この場には中心メンバーを含めた15人の構成員が居る。誰もが御巫を通して購入した高精度の銃を持った荒くれ者達が。


 しかし荒れ果てた倉庫街には不似合いな燕尾服を纏う男は、ただ美しい笑みを浮かべて女達の傍らに立っていた。

 その男がクロード・ファイアウォーカーである事は理解している。だがそれ以上に男達の意気は激しく昂揚していた。ファイアウォーカーを殺したとあれば組織の名は轟き、ルール違反を罰しに来た御巫でさえ自分達に下ると考えていたのだ。


 そんな考えが顔に出ていたのだろうか、クロードは貼り付けていた穏やかな笑みを、ソフィアでさえ見た事のない嘲笑に変えていた。

 Rheum Estop >> error

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