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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Rollin' The Flames
10/77

Fools On The Edge 1

 木目調を基調とした応接間。

 体面だけを取り繕うように飾られた家具達は、流麗な細工を施された上等なものだったが、集めた人間のセンスからかデザインは統一されていない。

 灰色のベルベットソファに腰を掛けているソフィアは、ローテーブルを挟んだ対面の存在に不満そうに唇を尖らせていた。

 いわゆる姫カットに整えられた鴉の濡れ羽色の長髪、垂れ目気味の目に飾られた灰色がかった黒い瞳、白い肌を鮮やかに飾る浅葱色の着物。オリエンタルな美しさを湛える女は何が楽しいのか、ニコニコと微笑んでいた。


「おおきに」

「いえ、日本茶でもあれば良かったのですが」


 ローテーブルに置かれたカップに女はおっとりとした礼の言葉を口にし、クロードは申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 客人が日本人だから、相応のもてなしをしたい。

 そんな執事の考えが分からない訳ではないが、まるで自分が除け者にされているような感覚をソフィアは好きになれなかった。


 たとえ、ソフィアにも出された紅茶が相変わらず好み通りのものであったとしても。


「無い物を用意するのはうちの仕事ですえ」

「お噂はかねがね窺っておりました。ですが、どういったご用件で?」


 ソフィアですら存在を知らなかったトレーを胸に抱いてクロードは首を傾げる。

 相手が相手だけに例外としてアポイントメントを受けたが、本来であればストロムブラード邸に上がれる人間は居ない。信頼を置いていたミカエラ・スタンネに裏切られたソフィアに、不用意に人を近付ける訳にはいかなかったのだ。


「うちはファイアウォーカーはんと取引をしとうてお邪魔したんです」

「取引、ですか?」

「はいな。ストロムブラード社で起きた襲撃を未然に防ぐための取引を――それこそ、ソフィアはんの抱えている問題を覆い隠すような」


 居住まいを正した和装の客人の言葉に、クロードは僅かに笑顔を硬質なものに変える。

 "Sheep Tumor"の存在を知った上でソフィアへの接触を図る人物。クロードはそれが誰であれ、警戒せずにはいられないのだ。

 しかし和装の客人は平然と続ける。


「うちに手を貸してくれはったら、うちもファイアウォーカーはんに協力させてもらいますえ」

「具体的には?」

「ストロムブラードはんの情報を抑え込む事が出来ます」

「偽りの情報を売る、という事ですか。それでは家業として問題が残るでしょう?」

「確かに御巫は求められれば何でも用意しますが、情報に関してはあくまで信憑性が高い物に限りやす。ならうちがストロムブラードはんの近くに居て、"誤解し続ければ"結果的に情報を秘匿出来るはずです」


 返された答えにクロードはどうしたものか、とシャープな顎に手をやる。

 クロードの頭を悩ませる唯一にして最大の懸念、それはソフィアの立場の不安定さにあった。

 ソフィア側はミカエラの裏切りを理由に、ストロムブラード社の保護を拒否したのだ。


 護衛対象(ソフィア)の身の安全だけを考えるのであれば、そもそも記者会見などすべきではなかった。しかし記者会見による情報公開は依頼人(グレナ)によって強制された事項であり、記者会見とソフィアの護衛を依頼されただけのクロードには依頼人の指示に従うほかなかった。


 その事を思えばこそ、事態は皮肉にも好転してるのだろう。


 "Sheep Tumor"の保護と解析が目的だったストロムブラード社は、レポートの提出を条件に申し出を受け入れた。その対応に引っ掛かる所がない訳ではないが、主観からの感想を"意図的に"レポートに書くのは容易く、何より和装の客人が"勝手に考察した情報"の秘匿までは契約に盛り込んでいない。特殊ナノマシン課という首輪を外す事を必須事項としていたクロードには渡りに船だった。

 ストロムブラード社の1員という肩書きは、ソフィアに対してあらゆる事を強制できるのだから。

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