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学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
第65次受験大戦 上杉事件
8/35

プロローグ 春色の夢魔

 内申書の記述

 名前:宵闇夢憂

 出身校:新宿第五中学

 役職:生徒会長

 身長:163cm

 体重:44kg

 身体データ(ABCDE五段階で身体強化時の評価)

 スタミナ:B

 パワー:B

 スピード:A

 公立幻夢高校 屋内プール


 学校のプールと聞けば、誰しも屋外の25mプールを想像するだろう。その例に漏れて、この学校の屋内プールには波の出るプールから流れるプールにスライダーまであり、申し訳程度の25mプールは影が薄い。

 「さすがにこの季節だと泳ぐ人いないのね」

 その申し訳程度の25mプールを泳ぐ少女がいた。桃色の長い髪が水に揺れている。背泳ぎで優雅に泳ぐ彼女が着るのはスクール水着ではなく、黒のビキニ。蜘蛛の巣の柄が挑発的である。

 「んっ……しょ」

 彼女はプールから上がる。水が滴る肢体は美しく、高校生とは思えない身体付きをしていた。引き締まった身体は細身だが胸の膨らみも程よく、顔も整っている。文句なしの美少女だ。ポニーテールに結った髪が水を含んで揺れる。長さは腰の上くらいだろうか。

 髪が顔に張り付き、少し息が上がってる。その息遣いすら色っぽく、表情もこちらを誘う様だ。

 「で、この息切れは貴女によって起こされたものじゃないんだけど?」

 「くっ……!」

 彼女が向く方向に、別の少女が倒れていた。背中くらいの長さの銀髪の少女で、何故かプールなのに制服を着ている。黒基調で赤のラインが入ったセーラー服に、赤いスカーフ、黒いタイツ。手には革のグローブを付けていて、靴はブーツだ。スカートのベルトには刀が止めてある。

 半袖のセーラー服から包帯が覗き、怪我をしているとわかる。

 その少女はさらに所々傷を負っており、タイツも破れていた。髪が濡れて乱れる。黒いタイツの隙間から覗く白い肌が、背徳的な征服欲求を満たしそうなものだ。刀を支えに立ち上がるも、足元が覚束ない。

 「宵闇夢憂! あなたはこの学校に何の疑問もないの?」

 「疑問? 私直属の『色の剣軍』メンバーとはいえ、弱小ではこの学校の素晴らしさはわからないわ」

 宵闇夢憂と呼ばれた桃色の髪の少女は、黒髪の少女から投げかけられた疑問に軽く帰す。

 「だからお前はっ…狂ってる!」

 銀髪の少女が刀を抜いて夢憂に切り掛かる。刀の刃は黒く、珍しい黒刀という品であるとわかる。しかし、夢憂の美しい右脚から放たれた蹴りが少女のか細い腹部にめり込む。

 「か、はっ!」

 少女は膝を着いた。そのまま、左脚から放たれた蹴りを避けれずに頭へ受け、濡れたプールサイドを跳ね回る。刀も取り落とした。

 「うっ、あああっ……!」

 身体を固いプールサイドに何度も打ち付け、動きが止まる頃には少女は息が出来なくなっていた。ようやく呼吸ができるようになったものの、息をする度に胸が痛む。肋が折れたのだろうか。

 「まだ『力』は使ってないし、身体強化だけでこの差。諦めたら?」

 「誰が! 力は同性の私に使えないだけでしょ?」

 少女はそれでも立ち上がる。しかし、いきなり身体が動かなくなる。近付いて来た夢憂に見つめられ、石の様になっていた。

 「か……身体が?」

 「使えるけど? 同性でも私に魅了されれば無関係」

 棒立ちになる少女へ、夢憂が迫る。必死に身体を動かそうとするも、指一本動かせない。せめて手だけでも動かせれば、指をへし折って痛みで魅了から脱出することもできただろう。

 「私の躯を目にした瞬間から魅了からは逃げられない。ほら、口ではそんなこと言っても身体は正直」

 「やっ、やめろ! ひぅ…!」

 夢憂は少女の内股を撫でる。慣れない感覚に少女は声を上げた。夢憂の手は内股から腰、腹から胸、鎖骨から肩へ少女を撫でていく。少女は顔を赤らめても抵抗ができない。

 「んっ、離せ……ひゃぁっ! そんなとこ…触るなっ……」

 「お楽しみはこれからよ。もっといい声で鳴いて頂戴ね」

 夢憂はひとしきり少女を撫で回した後、少し距離を取る。そして、少しため息の様な吐息を少女に吹き掛ける。

 「くああぁっ!」

 瞬間、少女は全身を切り刻まれて宙を舞う。その後、空中で何度も切り裂かれてプールサイドへ落ちた。鈍い音が屋内プールに響く。少女は立ち上がれなくなっていた。

 「まだよ。その程度で私が満足すると?」

 夢憂は倒れた少女を見据え、少し息を漏らす。すると彼女の頭の先から脚にかけて電流が発生し、プールサイドの水滴を伝って少女に辿り着く。

 「ひぎぃいいぃっ!」

 自分を追う桃色の電流から逃げようと膝立ちになった少女は、最後まで立ち上がることができなかった。彼女の身体を電流が走り回り、痛みにのけ反る。

 「はあっ、はあっ…ああっ…!」

 少女は再び倒れた。未だ桃色の電流は少女から離れず、しつこく纏わり付く。夢憂はその場に少女を残し、屋内プールを出た。

 屋内プールを出ると、直ぐに更衣室へ行ける。その更衣室はシャワールームに繋がっていた。夢憂は更衣室に置かれたカゴから黒いバスタオルや小さなシャンプーなどが入ったポーチを手に取り、シャワールームに向かう。

 そこはいくつものシャワーが並び、それぞれが個室として区切られている。個室には胸元から腰の下までを隠す程度の長さしかない、曇りガラスの扉がある。

 その一つに入った夢憂は扉にバスタオルをかけ、色っぽい溜息を付きながら水着の紐を解いて脱いでいく。足元に脱ぎ捨てられた水着がスルスルと落ちる。髪も解き、ふわりと桃色の髪が靡く。

 「退屈だもん、躯冷えちゃった」

 夢憂は蛇口を捻ってシャワーを出す。熱いシャワーが冷えた身体を温める。しばらくして、温まった夢憂はポーチから小さい容器に入ったシャンプーを取り出して髪を洗う。

 「プールの後って髪がギシギシするのよね」

 シャワーでシャンプーを流したあと、彼女はポーチからシャンプーと似た容器に入ったボディソープを取り出し、身体を洗い始める。スポンジを使わず、手で泡立てたボディソープを身体に塗り付けていく。

 「ふぅ、スッキリ」

 ボディソープをシャワーで流した頃には、夢憂の身体はすっかり温まっていた。シャンプーやソープの甘い匂いが漂い、髪は艶やかで、肌は蛍光灯の光を反射してみずみずしい。濡れた身体に黒いバスタオルを巻くと、白い肌が際立つ。

 夢憂は再び、プールへ戻る。少女はまだ倒れて、電流の痛みに喘いでいた。

 「ぐっ、ああ…離れろっ……!」

 電流は少女を捉えて離さない。少女は無理矢理その状態で立ち上がり、遠くに落ちた刀を取りにいく。しかし、その前に夢憂が立ちはだかる。屋内プールの入口と距離は離れていたはずだが、瞬間移動の様に現れたのだ。

 「あんまり退屈だから、シャワー浴びてきちゃった」

 「舐めた真似を!」

 シャンプーの甘い香りが少女の鼻腔をくすぐる。上気して火照る顔に、薄い桃色の唇、濡れて張り付いた髪。水滴が流れる鎖骨。黒いバスタオルのシワがボディラインを強調する。

 「さあ、今度こそ私を熱くして」

 「しまっ…」

 気付いた時には、少女は夢憂に魅了されていた。同性すら虜にする『春色の夢魔』。姿を目に焼き付けた瞬間から彼女の色香から逃れられない。少女は動けなくなる。

 少女の周りを取り囲む様に、夢憂が分身する。幻覚だろうと少女は思った。だが、バラバラに攻撃を仕掛ける夢憂の分身、その攻撃を受け流しながら気付いた。

 「重い、全部実体?」

 腕で攻撃を受けると、全身に痛みが走る。今までの攻撃で傷ついた身体に響いていた。どの夢憂からの攻撃も同じ様に痛い。全てが実体なのだと思い知らされた。

 「ぐっ、がっ、うぁっ!」

 痛みで攻撃を受け切れなくなった少女に、夢憂は容赦無い打撃を仕掛ける。既にボロボロのか細い身体に夢憂の拳が次々と突き刺さる。

 「ぎゃあっ、ぐああっ、んぐぅっ!」

 「ほらほら、もっと鳴きなさい」

 全ての夢憂の拳が少女に襲い掛かる。身体に全部の拳がめり込んだ時、少女は口から血を吐いて膝を着く。

 「かはっ…あぁっ!」

 「退屈だったわ。私が温めてあげる」

 分身を収めた夢憂は投げキッスを少女に向ける。しかし、それは大きな炎の塊となって少女を吹き飛ばした。

 「っああ!」

 身を焼かれた少女は波の出るプールへ落ちる。火はそこで消えず、少女の衣服に張り付く。少女は何とかプールからはい出るも、途中で力尽きた。その姿は、波打際に打ち上げられた漂流者の様だった。

 「あんな馬鹿な考えを持つなんて、私立と繋がってた可能性は高いわね。多分、ハクロウ高校が怪しいから、調べさせましょう」

 夢憂は少女を放置してプールを出た。少女は気を失い、力無く横たわっていた。片方は無傷でもう片方は満身創痍、この二人の力の差を表した光景であった。

 内申書の記述

 名前:上杉四季

 出身校:佐賀第三中学

 肩書:15級長『武器商人』

 身長:168cm

 体重:54kg

 身体データ(ABCDE五段階で身体強化時の評価)

 スタミナ:D

 パワー:D

 スピード:C

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