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学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
スクールブラッド第一万六号「桜花学院の乱」
4/35

3.希望の闇

 闇医者のカルテ、所感

 闇人が連れて来たお嬢ちゃんの容態は芳しくない。外傷による衰弱が心にも影響している。あの桜花学院は予備学科として、没落した家の子女を無理矢理戦闘員にしている。そして、外部ボランティアとして派遣してこのザマだ。自分以外の仲間が全滅しちまって、あの娘は自責の念やら恐怖で押し潰されそうになっている。

 理事長をしてるあの女をワシはよく知っている。自分の権力を誇示するためには手段を選ばん奴だ。ワシも正規の医者だった頃、医療を権力誇示の道具にしていたあの女に振り回されたものだ。ワシみたいに枯れた老人ならいざ知れず、こんな若い娘の将来を奪うのは許せないわい。

 闇人には『ぶっ飛ばしてこい』と言ってある。そしてあいつには闇人が行くことを手紙で伝えた。今頃ブルッてるだろう。気分がいい。

 ああ、あのお嬢ちゃんが最近少し落ち着いてきたな。闇人が理事長のクソババアに殴り込みしに行ったと教えたら、二つ言っておったな。

 『みんなの仇を討って』と『霊歌によろしく』だな。

 桜花学院 管理棟前ロータリー


 私が辿り着いたのは管理棟の前、車が停車するロータリー。真ん中は花壇になっている。今も何台か車が止まっている。

 「あ、大丈夫?」

 「うぅ……」

 「霊歌、来たの?」

 あちこちに予備学科生が倒れているのを見つける。全員が酷い火傷をしている。幸い、死人はいない。私は倒れている人をとりあえずロータリーの隅に移動させる。

 「よいしょっと……」

 基本的な筋力強化でなんとか全員を運ぶ。そこそこの人数。ざっと20人くらいだったけど、神力で強化すればなんとかなるものなのね。事情をとりあえず、ここにいる人達から聞こう。

 「ふう。何があったの?」

 「紅さんが……管理棟に……」

 「理事長に戦いを挑んで、つっ!」

 紅さんは理事長に戦いを挑んでいるらしい。まさか、予備学科生全員理事長にやられたわけじゃないだろうか。理事長って本当は強いの?

 「ん? 何?」

 私が考え事をしていると、ガラスを割る音がして何かが中央の花壇に落ちた。その何かは花壇で跳ねて、ロータリーに落ちる。

 私が駆け寄ると、それは傷だらけの紅さんだった。制服のあちこちが焦げ、火傷が酷い。スカートも裂けてスリットみたいになっている。タイツまで破れていた。

 「んぐっ……霊歌か?」

 紅さんはとにかくボロボロだった。起き上がることすら出来ていない。まさか、あの紅さんがこんなになるだなんて、理事長って一体……。

 突然、私の目の前が暗くなる。ロータリーには管理棟の光が射していたが、それが遮られたのだ。私の前には巨大な蝋燭がいた。

 「何……これ」

 その蝋燭は私の背丈の三倍程はあり、太さも人三人が手を繋いで輪を作ったくらいある。目らしき穴はあり、そこにはオレンジ色の炎が点っている。頭にも同じ炎。

 これが、ソルジャーキャンドルなのだろうか。いや、これは既に兵士ソルジャーではなく将軍ジェネラルのレベルだと思うのだが。名付けた人はネーミングセンスが欠如しているに違いない。

 私が驚いていると、ソルジャーキャンドルは巨大な蝋の雫を私に飛ばした。だが、私は何かに吹き飛ばされて難を逃れた。

 「あうっ! 紅さん?」

 私が状況を確認すると、紅さんが私を庇っていた。紅さんは蝋を浴びてしまった。

 「熱っ、んあっ!」

 紅さんは神力で身体にベールを張ってるお陰で、熱いで済んでいる。だが、普通は全身大火傷だ。ソルジャーキャンドルは蝋の腕で紅さんを突き飛ばす。

 「くぅんっ!」

 紅さんの身体は宙を舞い、ロータリーに鈍い音を響かせて落ちる。紅さんの口から赤い血が溢れる。

 「うあっ……ん。逃げ…ろ、霊歌っ、ぐぅあっ、ん……!」

 紅さんは何とか私に喋りかける。だけど、紅さんや予備学科のみんなを置いては帰れない。何とかしないと。闇人はまだ?

 ソルジャーキャンドルが火の玉を紅さんに向ける。私は咄嗟に停車された車を見る。そして、神力を全開にして電気を発生、磁力を作って引き寄せる。

 何とかソルジャーキャンドルと紅さんの間に割り込ませることに成功。火の玉は車にぶつかって消えた。車は丸焦げ。あれの直撃を受けたら紅さんの命はなかった。

 だけど、疲れた。慣れないことはするものではない。正直、立ってるのも辛い。それでも紅さんは助ける。

 「紅さん、逃げるよ!」

 筋力強化して私は紅さんを、肩を貸して支える。紅さんはグッタリ倒れて、自分では動けなくなっていた。なんとか安全な場所まで連れて行かないと……。

 「おやおや、何処へ行こうというのです?」

 私はその声に足を止めた。どこかで聞いた声だ。例えば、入学式とかの式典で挨拶とか? 長くて眠気を誘う、内容の無い言葉の羅列が印象的だった。

 「その声は……理事長!」

 私は首だけを横に向けて、理事長の姿を見る。悪趣味なピンクの毛皮、厚化粧。間違いない、理事長だ。

 桜花学院理事長、桜花院咲花。式典の挨拶くらいしか顔を出さない理事長が、何故こんなクリーチャーのいる場所にいるのだろうか。紅さんさえ勝てないクリーチャーが目の前にいるのに。

 『神力で火さえ点ければ、言うことを聞く』

 そこで何故か、闇人の言葉を思い出す。闇人の予想だと、紅さんもソルジャーキャンドルを捕まえた時は、蝋燭に神力で火を付けただけとのこと。現に紅さんは正面でぶつかると勝てない。ソルジャーキャンドルの捕獲にはそれ以外の方法は考えられない。

 つまり、この戦闘力皆無の理事長もソルジャーキャンドルが寝てる間に火を点ければ、それを操れるかもしれない。

 「理事長。神力で火、起こせます?」

 私は理事長に聞いてみた。すると理事長はニヤリと笑った。不気味なものを見た気がする。ソルジャーキャンドルは私に向き直る。

 「起こせるわよ? それが?」

 キャンドルがジリジリと私に近寄る。そして、キャンドルは私達に炎を吐いた。赤い炎が私達に向かう。少し肌寒いくらいの気候だったが、今は夏のように暑い。いや、熱い。

 「わあっ!」

 私は炎から顔を逸らした。肌を炙る熱に耐えられなかったのだ。目を閉じて、炎を待つ。だけど、炎はいつまで経っても私達を焼き尽くさない。

 「ん……?」

 私は恐る恐る目を開けた。そういえば熱もいつの間にか無くなっていた。これはどうしたことだろう。

 「大丈夫か?」

 「闇人!」

 私の目の前には、倉木闇人がいた。何か、神力で炎を防いでくれたのだ。だけど何だろう。ボンヤリボイスが緊張感を完全破壊していた。

 「紅さん。反貧困団体の奴らから聞いたよ。グルだって」

 闇人は突然そんなことを言う。予備学科と反貧困団体が繋がっていた? どういうこと?

 それに対して紅さんは口を開く。喋るのも辛いはずだが、闇人の言葉に返した。

 「それがっ……どう、した?」

 「いや、責めるわけでは無い。して当然のことだった。あんたは奴らの暴走で一人仲間を失ったからこそ、絶対にこのクーデターを成功させたかった」

 「クーデター?」

 私はわけがわからなかった。いきなり闇人と紅さんは何の話をしているのだろう。そこに理事長が割って入る。

 「やっぱりそうだったの! クーデターなんか起こして……堕ちた人間は何するかわかったもんじゃない!」

 「ど、どういうこと?」

 送り出した予備学科生がいつの間にかクーデターしていた状況に慣れてない私は混乱した。というか理事長、挨拶の時は声作ってたのか。昨日6時間目を担当した教師を越える金切り声だ。そんな私の様子を見た闇人が一から教えてくれた。

 「予備学科生は、反貧困団体の騒ぎに乗じてクーデターを起こそうと計画した。紅さんは反貧困団体を下水道から学院の中に引き入れたんだ。そのおかげでボクもこっそり入れたんだけどね」

 「だけどあいつら……暴走したんだ、くっ。シシモンキーを呼び寄せて中に入れるだなんて……予定外だった。一人を殺してしまった」

 紅さんの声が震えている。紅さんは反貧困団体と手を結んだことを後悔していた。だからこそ、あんなにボロボロになっても抵抗を続けたんだ。

 「私達は家族を人質に取られているわけじゃない。私達を繋ぐ枷は無い! 私は死ぬまで抵抗を止めない!」

 紅さんは叫んだ。予備学科の人達は何一つ枷を付けられていない。どうしてそんな人達が今まで反逆しなかったのか不思議だが、やはり桜花学院に娘を預ける親は権力者ばかり。成功した後のことを考えると安易には動けないだろう。

 「クーデターの兆候があったから、ソルジャーキャンドルを捕まえさせたのです! 貴女方の蜂起は、私の力の前に無意味!」

 あー、理事長が五月蝿い。紅さんは無意味と言われ、立ち直れなくなっていた。自分の捕まえてきたクリーチャーが原因で、犠牲を出してまで起こしたクーデターが失敗してしまったのだから、当然か。

 「私の力の前に平伏すがいい! 貴女方ではこのソルジャーキャンドルは倒せない!」

 ホントにどうしたらいいの? 紅さん初め、予備学科生はもう戦えない。私も戦えるほど強くない……。

 「え?」

 理事長の金切り声に抵抗を示したのは闇人だった。

 「もしかしてボク、戦力の計算に入ってない?」

 「何かと思えば! 男などあらゆることの計算に入ってませんよ!」

 理事長は勝利宣言。だが、それは間違いだ。そういえば私は闇人の戦ったところを見ている。あのボンヤリ感が全ての評価を狂わせたのだ。

 「そうかー、残念」

 闇人は頭をかく。そしていきなり消え、気付いた時にはソルジャーキャンドルに殴り掛かっていた。ソルジャーキャンドルへの右ストレート。だが、キャンドルは揺らがない。

 「そんなっ、闇人でも……」

 私は諦めた。前に、シシモンキーに襲われた時以上に。闇人でも、ソルジャーキャンドルは破れない。

 「さすがに本気じゃないと無理か」

 闇人はボンヤリとソルジャーキャンドルを見上げる。キャンドルは炎を吐くため、息を吸い込んでいた。そして、炎を闇人に吐き出す。闇人の姿は炎で見えなくなった。

 「闇人!」

 私は叫んでいた。だけど、心の底に心配は無かった。炎の中心から強い力を感じる。案の定、炎は切り裂かれて中から闇人が姿を現す。

 「へ、変身系……!」

 理事長は明らかに戦慄していた。それもそのはず、闇人の両腕は変身していたのだ。両腕は一回り程大きくなり、黒い獣の毛が覆っている。指は鋭利な爪になっていた。

 学ランの袖を丁寧に捲ってあるのが闇人らしい。だが、彼の背中からは闇人を闇人たらしめるボンヤリした空気は感じなかった。

 「理事長さんよ。お前は俺が何でここに来たかわかるか?」

 「知らないわよこの汚らわしい化け物! 変身系なんて見るだけでかぶれる!」

 理事長はヒステリックにまくし立てる。変身系は差別されるという話は聞いたが、変身系も差別する人も私は初めて見たから何とも言えない。

 だけど、変身系が差別される理由は理解した。何も無いところから炎や電気を起こすのは不思議と捉えられるが、変身は本能的な恐怖を呼び起こす。人間は未知の物に恐怖を感じるのだ。科学が進化して炎や電気の発生には慣れたが、人体が変異することには未だ慣れない。

 闇人の腕は毛に覆われていて、それは捲った学ランの中まで続いているが、変異した場所と変異してない場所の境目がどうなっているかは私にもわからない。

 闇人は口を開いた。底冷えする、重たい声だった。

 「俺は予備学科の並木更さんに頼まれてここに来たんだ」

 って、え? それ私の友人じゃない! 闇人に会ってたんだ!

 「あいつは言ったよ。『全部壊して』と」

 「ば、馬鹿な! 私の権力に逆らうなんて!」

 いや当たり前だよ。まさか理事長、権力って持ってるだけで効果を発揮するものだと思ってた? 権力を利用して願望を実現するからこそ、権力者は崩れないのだ。

 「て、いうか! その並木更は私の友人よ。闇人! 具体的に経緯を説明して!」

 私をスルーして話が進むので、無理矢理入り込む。闇人はサラリと経緯を話す。

 「たまたま死にかけていたところを拾った。一緒にいた仲間はクリーチャーに殺されていた」

 「え、更は大丈夫なの?」

 「傷は治したけど、心の方が問題だ。友達に会えば良くなるかもな。会ってやってくれ」

 闇人が更を助けてくれたのか。血濡れのドッグタグはあの時拾ったものみたいだ。

 「それで、闇人は仇討ちなの?」

 「そうだ。更の状況はとても見てられん。彼女をそうした奴を、俺は許さん」

 闇人は更と仲間達の仇討ちに来たのだった。更から予備学科についてある程度知識を得ていたのか、紅さんと出会って決めたのか、闇人の攻撃対象は理事長に定められていた。

 下手をすれば更をあの場所に送り込んだ予備学科も粛正されかねなかった。

 「最初はマジでめちゃくちゃにしてやろうとも思ったが、友人がいるっていうし理事長にターゲットを絞ったら了解してくれたので」

 なるほど、更の指示というか願望だったのか。更が何も言わなかったら私は殺されていた可能性があったわけで、まだ友人と思ってくれていた更には感謝だ。

 「そう、ありがとう。また会いに行くね」

 「うむ」

 闇人は私の言葉を聞いて、ソルジャーキャンドルに向き直る。爪を光らせ、両者の間に緊張が走る。

 「ソルジャーキャンドル! その汚物を消毒しなさい!」

 理事長の指示でソルジャーキャンドルが動く。息を吸い込んで、炎を吐き出す準備をする。

 「二度も吐かせるか!」

 闇人は右手の爪を構える。右手はもう二回り巨大化し、爪も煌めきを増す。彼は爪を振り上げ、ソルジャーキャンドルへ走っていく。

 「斬!」

 闇人は爪を振り下ろしてソルジャーキャンドルを切り裂く。キャンドルの白い体がズタズタに切り裂かれ、キャンドルは倒れた。一撃だった。

 「なっ……、だれか、私を守りなさい!」

 理事長は焦った。その理事長の声を聞き付けて、あのキンキン声の教師が現れた。昨日、私のクラスで6時間目を担当した人だ。

 「理事長! この、化け物め!」

 教師はナイフを取りだし、神力を使ってそのナイフの刃先に水を纏わせる。刃物は使うと血や脂で汚れて切れ味が落ちる。それを即座に洗い流す作戦か。

 「いなくなれ、汚らわしい化け物!」

 闇人に刃を向けて教師は突進する。だが、闇人は表情を変えない。刃が近づいた瞬間、闇人は左腕を振った。

 「邪魔」

 教師は上半身と下半身を真っ二つに分割されて息絶えた。内臓がこぼれている。あまりグロいシーンは得意ではないが、ここまで酷いと吐き気も起きない。

 「くっ、ならば!」

 追い詰められた理事長が不意に手を翳す。手は私と、私が肩を貸している紅さんに向いている。

 「んっぐっ……! んああ……」

 突然紅さんが苦しみ出した。そして、私は熱に炙られて吹き飛ぶ。気付いたら紅さんや闇人から離れた場所に落ちていた。

 「かはっ……あっ」

 私は痛みに息が詰まる。紅さんを見ると、青い炎に包まれて中を浮かんでいた。そして、青い炎を飛ばす。

 「きゃあああっ!」

 炎は私や倒れている予備学科生に飛んでいく。私は直撃を受けてもう一度吹き飛ぶ。全身がズキズキと痛い。とてもじゃないが立ち上がれない。

 「これが私の神力! 他人の神力を操る力! 私が力を持つ予備学科生に何も枷を付けなかった理由! 現に、この力を恐れて今まで動けなかったでしょう!」

 理事長が傷に響く金切り声で何かを言っている。今、理事長は紅さんの神力を乗っ取っているのか。

 「いや、枷無いとか言ってたから力のことは知らなかったかと。あと、ここにいる中で最強の俺を操らない時点で力は高が知れる」

 闇人は冷静に言った。確かに、操るなら闇人が一番強い。それなのに紅さんを選んだのは、闇人の神力は理事長では掌握できないからか。紅さん一人しか操ってないのは、複数を操れないからか。どちらにせよ、大した神力ではない。

 「この、負け惜しみを!」

 「ぐっ…んんっ!」

 理事長が紅さんに無理矢理炎を出させる。紅さんは限界を超えた出力を出させられ、ダメージを受けている。

 「この程度!」

 闇人は向けられた青い炎を全て爪で弾く。だが、恐らくこのままでは紅さんが持たない。

 「ひぐっ! あっ!」

 紅さんの腕から血が吹き出る。肌が何箇所もちぎれて、体の限界が見える。紅さんが死んでしまう。

 理事長は紅さんがこのままの状態で死んだら、他の予備学科生を操る。闇人はそれでも倒せないけど、これを繰り返すと予備学科生に犠牲者が増える。

 青い炎は凄まじいスピードで闇人を襲い、弾かれる。紅さんの神力に、闇人にも防御で手一杯なのだろう。

 「私が、なんとかしないと……」

 私は傷だらけの体を引きずって理事長との距離を詰め、何とか策を練る。近くに電気が伝うものは無い。理事長を気絶させればそれでいい。

 そうだ、精神の電気体化だ。昔本で読んだのだが、電気の神力使いは精神を電気体にして、生身では踏破不能なエリアまで侵入できるらしい。夢にまで見たこれを、今試そう。

 この痛みが走り回る体を脱ぎ捨て、理事長に一撃喰らわせてやる。私は本で読んだやり方を真似て神力を操る。やり方はもう、暗記するくらい読んだ。

 さあ、集中しろ私。この体を脱ぎ捨てるイメージを持て。私は体から精神が抜けるイメージを持って立ち上がる。今まで痛くて動かなかった体がすんなり持ち上がった。

 「これは……?」

 立ち上がった私は自分の両手を見る。人の形はしているが、バリバリと揺らぐ電気のシルエット。全身を見渡すと、生まれたままの姿をしてるようで気恥ずかしいが、イメージは確かに本で見た電気のシルエットそのままだ。足元には私の体。成功だ!

 「む、さすがだな」

 闇人がひそかに称賛の声をくれた。私は理事長に走り寄る。首に首輪と鎖の様なものが繋がり、それは体に続いている。肉体と精神を繋ぐ命綱の生成にも成功だ。

 「がふっ……?」

 だけど、私の電気体は突然血を吐いて膝をつく。血はスパークして消えた。何も着て無いけど、電気体になった直後は感じなかった寒さが私を襲った。体を抱いて耐えるしかなかった。

 「はあっ、はあっ……」

 「マズイ、神力が足りないんだ」

 闇人は紅さんが飛ばす炎を弾きながら言った。紅さんも限界ギリギリ。つまり、ここで私がくじけたら紅さんは死ぬ。

 「動……けっ!」

 私は言うことを聞かない電気体を叱咤して何とか立ち上がる。だが、目眩がしてまともに走れそうに無い。足もガクガク震えて、心臓も狂って、死ぬほど苦しい。瞼も重い。

 「げほっ、はあっ、はあっ、がっ、けほっ、けほっ!」

 口から血の様な電気が漏れる。苦しいけど、少しずつ理事長と距離を詰める。だけど、電気の像が揺らいだ。もう限界なの?

 「霊歌!」

 「避けないで!」

 私はふと、聞こえた声に耳を貸す。倒れていた予備学科生が起き上がり、私に何かを投げつける。避ける気力の無い私はそれを受けた。

 一斉に投げられたのは光の玉で、それを受けた私は意識がハッキリした。体に力が入る。私は神力を渡されたのだ。彼女達の、最後の神力を。そういえば神力は受け渡しが出来た。

 「神力?」

 「くっ!」

 理事長が背中を向けて逃げようとする。だけど私は逃がさない。さっき受けとった全神力を、右手に込める。そして、理事長に右手を突き出した。

 一直線に伸びた右手は、槍の様に真っすぐ理事長を貫いた。同時に私の電気体も神力を使い果たして消える。

 「ぎゃああ!」

 「ううっ……」

 私は元の肉体に戻り、全ての結末を見届ける。貫かれた理事長は感電して、紅さんを操っていた神力も解け、地面にグッタリ倒れた。闇人が攻撃に転じる。

 「超無限度投人銃ボールボウガン!」

 闇人は理事長に近づいて掴み、管理棟まで片手でぶん投げた。技名を言う必要はなかったけどね。ラストの必殺技だし許すけど。

 「ひぃぃぃぃ!」

 投げられた理事長は綺麗な直線を描いて、凄まじい速度で管理棟へ飛んで行く。管理棟のコンクリート壁と理事長がぶつかった時、グシャリと生々しい音が耳に届いた。

 私が何とか体を起こして管理棟を見ると、理事長がぶつかった所に血のシミができていた。多分粉々になったのだろう。

 これで全部終わったんだ。だけど、一つ心配がある。紅さんは大丈夫なのだろうか。

 「紅……さん」

 「大丈夫だ。生きてる」

 闇人は私の隣に紅さんを運び、寝かせてくれた。紅さんは寝息を立てており、生きていることを実感出来た。

 「よかった……」

 私は安心して、つい眠くなってしまった。瞼がズッシリしていて、とても目を開けていられない。私は抵抗せずに、ゆっくり目を閉じた。

 中学の調査書

 倉木闇人

 家族構成:一人暮らし。親族から命を狙われており、返り討ちを目指して親族を捜索中。保護者は町の医者となっている。

 神力:肉体の変異、筋力強化に優れる。

 戦闘能力:著しく高い。

 授業態度:可も無く不可も無く。ただ、興味を示すか示さないかで多少の違いあり。

 成績:平均程度。文系科目が得意。

 担任所感:普段ボンヤリしていますが、優しい子です。過去に家族の関係で辛いことがありましたが、今はその傷から立ち直ってます。その傷が彼を優しくしているのです。痛みを知るからこそ優しくのだと考えます。

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