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学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
その他の記録1
35/35

朝凪旅行記5.自爆営業は労働基準法違反です

 臨時収入を得た一舞は、以前と同じく高速鉄道『はやぶさ』に乗るために旅を続けるが、まずは新幹線に乗ってから体験する事にした。

 向かうは大阪!

 大阪府 ダンジョンオブウメダ


 日本には後にDQN族と呼ばれる部族に占拠されるシェルターを製造する以前に、既存の地下鉄を利用したシェルターが作られた。

 有名なのが東京駅を拡張した『トウキョウラビリンス』と、市営地下鉄の駅と駅の間に居住区を作った『クリスタルラビリンス』、そして一舞が今いるダンジョンオブウメダである。

 「さすが、商人の町だな」

 一舞はタコ焼きを食べながら、町を散策していた。

 飲食店が軒を連ねる地下街は梅田駅を拡張したものとなる。『維新』を名乗る政党がクリーチャー出現と同時に、真っ先に代表が撤退したため、商人達が自費で拡張したシェルターである。こうした当時の政府が逃げ出して臨時政府が立つということは世界的にも珍しくない。

 臨時政府もクーデターが容易になった時代のため、覚悟を持って国を治めた。その血を引くからか、優秀な政治家が今の時代には多い。

 一舞は食べ終えたタコ焼きの容器をゴミ箱に捨てて、あることに気付いた。

 「ゴミ箱の間隔が近いな」

 「嬢ちゃん、それはネズミ国から輸入したアイデアやで」

 ゴミ箱の間隔が近く、5メートルおきくらいにあるのだ。気さくに話し掛けてきたおじちゃんが言うには、ネズミ国という国から得たアイデアなのだという。

 地下街では日光が無いゆえ、紫外線による消毒が期待できない。そのため、ゴミの散乱による衛生の悪化が伝染病を呼びかねないのだ。人間は5メートルもゴミを持ち歩くと捨てたくなる心理を持つ。それを知っていたネズミ国の国民はポイ捨てを減らすために、ゴミ箱を5メートルおきに設置したらしい。

 また、ゴミ掃除にプラスのイメージを持たせるため、ゴミを『夢のかけら』と呼んだらしいことが古文書から明らかになっている。

 「お嬢ちゃん、今日は節分やで。恵方巻食べな損や」

 「恵方巻……?」

 おじちゃんは一舞に恵方巻を薦めてくる。板前みたいな格好からして、寿司屋の様だ。

 「これや、こいつを恵方向いてガブーと……」

 「凄い大きい……ご利益ありそう」

 「今年の恵方は南々西やで。おひとつどや。今なら税込み398円!」

 一舞は恵方巻を買い、南々西を向いて食べ始めた。

 「んむっ……太い、凄いね」

 恵方巻を食べているだけなのに何故かいかがわしい。これが男の娘効果か。一舞は表情の硬さはさておき、犯罪的にかわいいから仕方ないね。

 (今年は誰も殺さなくて済みます様に)

 願いは至って真面目だ。食べ終わると、何故か集まっていた男性客がいなくなっていく。

 「何だったんだ? あの人だかり」

 「恵方巻、恵方巻、販売しております」

 一舞が不思議に思っていると、さらに不思議な連中が歩いてきた。緑っぽいコンビニの制服を着て、恵方巻が入ったコンテナを積んだカートを押している。目は虚ろで、痩せこけた男達だった

 「同業他社だ……」

 「同業他社だ、潰せ……」

 「う、うわ! マートファミリーの連中だ!」

 その男達は寿司屋に掲げられた恵方巻の貼紙を見て、いきなりアサルトライフルを取り出したではないか。

 「ひー! ワイ、ただでさえ対人苦手やのに銃?」

 「任せて下さい!」

 腰を抜かすおじちゃんに対し、一舞が前に出た。背負っていた剣を抜き、一番突出していた男のアサルトライフルを剣で打ち付ける。

 瞬間、地下鉄が通り過ぎた時の様な風が吹いた。男達は銃を取り落とし、尻餅をついた。

 「【黒龍眼】……!」

 そう、単なる威圧である。殺さない方法を模索した結果、こういう手法を生み出すに至ったのだ。

 「これでよし」

 一舞は安心して背中を向ける。だが、相手は銃。指さえ動けば引き金を引けてしまう。

 「ひ、化け物め!」

 「ッ……!」

 殺気を感じた一舞は即座に振り向く。既に引き金は引かれ、アサルトライフルから弾が吐かれる。狙いがぶれてはいたが、銃口は一舞を向いている。

 「うぐっ!」

 マガジン約一つ分の弾を受け、一舞は膝を付く。剣を落としたため、他の男も威圧から逃れて立ち上がった。

 「嬢ちゃん!」

 「かはっ……、ここが俺の死に場所か……」

 おじちゃんが駆け寄るが、一舞はダメージが深くて立ち上がれない。調子を取り戻したコンビニ店員らしき男達はさらにライフルを乱視したため、一舞はおじちゃんを突き飛ばして庇う。

 「がふっ!」

 今回ばかりは正確な狙いで一舞を撃った。完全にフルオートをマガジン三つ分受けた一舞は地面に倒れた。

 コンビニ店員が使っているアサルトライフルはクリーチャー発生以前に中国で製造されたAK47のクローンモデル、『56式自動歩槍』。マガジンは20発と30発装填出来るものがあった。

 最低でも80発程度。これだけ撃たれて死なないのも恐ろしいが、それなりに神力が扱える人間ならば打撃程度のダメージで済んだのだ。一舞の神力が『後付け』であるため、アサルトライフルが普通に貫通してしまう。本来なら体に刺さることすらありえないのだ。

 「ぐ……おおっ!」

 「ひぎゃあ!」

 一舞は無理矢理に体を起こし、マガジンを交換しようとしている店員を全員切り裂いた。そして、また倒れた。

 「はぁっ、はぁっ……初めから殺していれば、こんなピンチには……」

 「嬢ちゃん! しっかりしいな! でも、もう大丈夫やな」

 おじちゃんが肩を貸して一舞を起こすも、地下街のあちこちから緑っぽい制服の男達がカードを押して現れた。まだ、敵はいる。

 「ゲホッ、寿司屋さん……あいつら一体……」

 「マートファミリーの連中やさかい、もう戦ったらあかん!」

 「マートファミリー? ぐぅ!」

 マートファミリーという言葉が気になったが、一舞としてはこの場を切り抜けるのが専決だった。このままでは、自分は愚かおじちゃんすら殺される。

 店員達はサブマシンガンを取り出し、引き金を引いた。

 「最後に食べたの、あれでよかった。【魔犬オルトロスモード】!」

 「何ゆうてはります! まだ美味いもんがぎょうさん大阪には……あれ? なんやて?」

 おじちゃんは一舞が急にいなくなったため、うろたえた。それもそのはず、一舞は一千倍に加速しておじちゃんから離れたのだ。

 (持ってくれよ……!)

 全身が関節の場所でバラバラになりそうな痛みを感じながら、一舞は加速していた。増援が手にしているのはサブマシンガン。先ほどのアサルトライフルより小型で、拳銃の弾を乱視するものだ。

 屋内でアサルトライフルを使うと壁を貫通してしまい危険だ。そこで、屋内ではこちらを使うのだ。

 ばらまかれたサブマシンガンの弾丸は体で受ける。剣で弾くと、加速もあって跳弾がどこ行くかわからなくて危険だ。体に埋めた方がいい。

 「セイヤーッ!」

 放った斬撃だけが、通常スピードよりはるかに遅くで動き、敵の目の前に出現する。本来はスピードの早い斬撃だが、一舞の加速から放たれた慣性で一瞬遅くなる。だが、その斬撃は音速の壁を突き破り、破片を纏うため威力は増す。

 「え?」

 「なんだ?」

 「これは?」

 「攻撃か?」

 ゆっくり近寄る斬撃を見て、店員達は戸惑う。その斬撃は急に速度を増して飛んで来る。

 「セイヤーッ!」

 「ウォリャーッ!」

 「てい!」

 「ハッァ!」

 声も遅れて聞こえるので、傍目には一舞の声がしつつ斬撃が飛んでいる様にしか見えない。斬撃は敵を粉々に砕き、足元のコンクリートを割った。剣術の威力じゃない。

 「はぁ、はぁ、はぁ……相変わらず、キツイ……」

 強力な技ではあるが、欠点も多い。

 「うぐ……ぐぁああっ!」

 一舞は床に膝を付く。剣すら落とし、身動きが取れない。膝を付いた瞬間、太股と肋骨にヒビが入った。脚が棒になる以前に、全く感覚が無くなってしまった。

 まず、弱点として体への負担が大きすぎることだ。ただでさえ『後付け』ゆえに身体に馴染まず、負担が大きい能力を行使する一舞が、プラスでこれに耐えるのは困難だ。この分のダメージを加速中は感じないため、調節も困難なのだ。

 次に、時間制限。一舞は加速したまま待機してみたことがあるのだが、その状態でも10秒、体感時間にして2時間近くしか持たなかった。それ以上使おうとしても、心臓に空気を吹き込まれて膨らまされる様な激痛を感じて、加速を中断させられる。

 また、利点として加速で移動した際に音速を越えていても衝撃波が出ないので人質救助など小回りが利く、というものがある。だが、逆にいえば移動の衝撃波を攻撃に転用出来ないということだ。

 (ダメだ……殲滅出来たのかよくわからん……!)

 待機状態ですらそれなのに、神力なんぞ使っては負担が倍増する。幸い、加速中は神力が使いたい放題なのだが、全部の負荷が加速終了時に掛かるので後が怖い。終了直後はダメージが重くて状況確認も不可能になる。

 更に、極めつけにはこれだけ加速しても『2時間を10秒に縮める』程度の効果しかえられないため、長距離移動に応用出来ないのだ。完全に戦闘用技能である。

 それでも、殲滅出来ないとリスクによってこのように店員に狙撃の隙を与えるなど危機を招くだけだ。店員はカートに身体を隠し、ライフルで狙撃姿勢に入っていた。

 (ふ、勝った!)

 店員は一舞の胸に標準を合わせて引き金を引いた。軽く爆ぜる様な音がして、一舞の胸が血に染まる。

 (もう一発!)

 確実に頭を狙おうとする店員だが、スコープを覗いているとライフルが粉々に砕かれた。

 「何だば!」

 驚いているうちに、店員は殴り倒された。増援もみるみる倒されていく。これは、一舞の加速と同じ力だ。

 「あれは、『赤い彗星』やないか!」

 おじちゃんが加速を終えた謎の人物を見つける。一舞は死んでないが、ダメージが大きくて気を失っていた。

 「中部に『猟犬』倉木闇人あらば、西にこの男あり……『赤い彗星』、赤星虎太郎!」

 「おう、お嬢ちゃん、死んどらんよな?」

 千年前に存在したという野球チーム『阪神タイガース』のユニフォームを着た赤い髪の少年が、一舞を抱き上げて連れていく。


 しばらくして、病院で目を覚ました一舞はマートファミリーについて赤星から詳しい話を聞いていた。

 一舞のベッドの横にパイプ椅子を出して座り、赤星はスポーツ新聞を読んでいる。

 「マートファミリーは千年前に存在した犯罪組織『ブラック企業』の末裔なんや」

 「ブラック企業?」

 「せや、表向きは普通に営業していても労働基準法を守らない、犯罪組織や」

 身内に旨味があるのが犯罪組織の常。にも関わらず、身内が痛い思いをする犯罪組織がかつてあっただろうか。

 「それより嬢ちゃん、男やったんかい。ビックリやわ」

 「そうでしょうね」

 赤星は完全に一舞を女だと思っていたらしい。一舞も自覚はある。赤星のページをめくる手が早い。目の動きからして速読ではなく加速しているのだろうか。タコ焼きを摘む手の動きがそれを証明する。

 さすがに、会話の時は加速を解いているらしい。

 「ま、今はゆっくり休みなはれ。無茶すると死ぬで」

 「その加速、どこまで持つんです?」

 「試したことないわ。いつまでも続いて、暇でしゃーないからな」

 「……西の赤星虎太郎、これほどとは……」

 一舞は自分が莫大な代償で行使するのと全く同じ力をノーリスクで無制限に使う赤星に息を呑む。日常ですら加速を軽く使う赤星は、加速が通常攻撃なのだ。一舞はハイリスクな奥の手でしかない。

 世界は広い。これが西日本の最強に過ぎないのだから。一舞の世界を見る旅は、まだ終わらない。

 赤星虎太郎

 歳:15(闇人と同じ)

 学校:?

 神力:加速

 好きなもの:牛乳、粉もの

 嫌いなもの:ちくわぶ

 千年前にあった野球チーム『阪神タイガース』にいた選手の子孫。

 豪快さと紳士さを持ち合わせる人物。

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