2.予備学科
災害報告
校内に肉食クリーチャー、シシモンキーが現れた件について報告します。
シシモンキーは理事長のお力で即座に鎮圧され、犠牲者は出ていません。今後も、規律を守って生活しましょう。
広報部より
桜花学院 中等部寮
私が倉木闇人という不思議な男と出会って一夜が明けた。今日は休日なので、昼下がりに寮の食堂で紅茶を飲んでいられる。クリーチャーを生み出した隕石の電磁波は、農作物や魚介類、肉類にも影響を及ぼした。
キャベツが狂暴化した例もあれば、この紅茶の様に病気への耐性が強くなったものもある。
現在、食堂には誰もいない。お昼を食べたら皆出掛けてしまう。昨日はバタバタして、結局CDショップへは行けなかったから、今から行くことにする。
私達桜花学院の生徒は、休日は私服でも構わない。だが、私は自身のファッションセンスとやらに自身が無い。家の者に選んでもらえれば楽だが、それも桜花学院では出来ない。
寮の部屋は二人部屋で、私にもルームメイトがいる。その人に選んでもらうのも憚れる。
つまり、私は年がら年中制服を着ることになる。下手な冒険をして大怪我するより、確実な道を選ぶのが私だ。
というわけで、制服をいつもの様に着こなす私は寮を出てCDショップを目指す。好きなピアニストが新曲を出す頃だろう。
歩いて噴水の広場に辿り着くと、昨日のことが目に浮かぶ。幸い、シシモンキーによる犠牲者はいなかったらしい。だけど、闇人のことが書かれていなかった。男が侵入したことを知られたらマズイのかもしれない。クリーチャーの侵入より信用に関わる。
クリーチャーは不可抗力と言い訳出来るが、男は職員教員すら男性を入れないほど徹底しているのに侵入されたらお笑い草だ。
「げ」
私は途中で思考を打ち切る。目の前に、倉木闇人がいたからだ。今度は来客証明書も首にかけている。よほどの著名人でないと、男性が来客証明書を得るのは不可能なはずだが……。
「あ、霊歌さん」
「追い出されたと思ったのに……」
私は頭を抱えた。周りの学生達がざわついてこちらを見ている。当たり前だ。ここでは男が珍しいから。
男性の来客証明書は特別製で、不審な行動を取れば予備学科に通達が行き、即座に討伐される代物。男性への警戒だけは徹底している。
「で、何してるの?」
「紅さんからお使いを頼まれまして、花屋を探していたのです」
闇人は花屋を探していた。それも、あの紅さんからのお使いだ。闇人は私に紅さんからの紹介状を見せる。
「男はまず相手にされないだろうからって渡されました」
「なるほど……。で、花屋の場所はわかるの?」
来たばかりの闇人には花屋の位置などわからないだろう。桜花学院は外敵対策に地図を設置してないから尚更だ。一応聞くけど。
「わからない」
「やっぱり」
やはり闇人に花屋の位置はわからなかった。仕方ない。早く町からいなくなってほしいから案内して、用事済ませて帰ってもらおう。
「こっちよ。案内してあげる」
「いやー助かる」
私は闇人を誘導して歩いた。闇人は私と並ぶと頭一つ大きい。よく見ると、体はかなり痩せている。よくそんな腕でシシモンキーを殴り倒せたものだと感心する。神力による筋力強化だけでそれをするのは困難だろう。
「それで、紅さんへの告白は済ませましたの?」
とりあえず沈黙の痛かった私は闇人に話を振る。闇人は先程から、いや昨日から私と目を合わせずに喋っている様な気もする。そして、今回も闇人は私と目を合わせない。
「まだ」
「フラれて凹めばいいのに」
なんと、闇人はまだ紅さんへの告白を済ませていないらしい。私とすら目も合わせられない気の小さい男には無理よね。
「? 愛の告白ではないよ?」
「え?」
闇人は愛の告白ではないと言った。なんだ、私の勘違いか。闇人は相変わらず私と目を合わせずに喋る。
「ちょっと届けたいものが……」
「何?」
「これです」
闇人が学ランのポケットから取り出したのは鉄製の小さなプレートにチェーンを通したネックレスの様なもの、軍隊で用いられるドッグタグだ。それも複数。
「それ……予備学科の?」
「そ。予備学科の人が付けているアレ」
闇人が手にしているドッグタグは血で汚れていた。恐らく、予備学科の人が外で戦死したのを見た闇人がわざわざ届けてくれたのだろう。
桜花学院予備学科。桜花学院唯一の戦闘機関で、没落した家の子女を強制的に転入させて機能する。予備学科生は家の再興を夢見ることすら許されず、このドッグタグの持ち主達の様に非業の死を遂げる。
外部から見れば私達に無い気高さと気品に満ち、妙な色香さえ漂わせる彼女達だが、現実は悲惨だ。そんな場所に転入させられた友人は心配だが、頼りが無いのは無事な証拠と自分を納得させるしかない。
「そう……優しいのね」
「そうか?」
闇人は私の言葉に首を傾げた。自覚が無く、当たり前だと思っているのも、本当に優しい人間である証拠だ。私は不意に、彼のことをもっと知りたい衝動に駆られた。
「闇人は何年生?」
「三年生」
「受験は?」
「推薦入試なので終わったよ。ハクロウ高校ってとこ」
闇人はハクロウ高校に進学するのか。ハクロウ高校は私立の高校で、有名な闘学校だ。そんなところに推薦で入れるなんて、よほど強いのね……。
そうして他愛の無い話をしていると、花屋に到着した。早速買い物を済ませてしまおう。比較的小さな店だけど、桜花学院の花屋はここだけだ。
店の中は花がたくさん飾られていた。闇人はレジがあるカウンターまで歩き、紹介状を見せる。
「すいません、花ください」
「かなりストレートね……」
闇人はストレートに注文をする。仕方ないから私が適当な花束を選んでやる。それをカウンターに持っていくと、闇人は財布を開く。
どうやら財布はマジックテープ式のようで、バリバリと凄い音が鳴っていた。マジックテープなんて、家庭科の教科書で記述があったくらいだ。私にとっては未知の素材である。
闇人は代金を支払うと、花束を持つ。これほど花束が似合わない人を私は見たことが無い。
さて、買い物も済ませたし、闇人はそれを紅さんに届けたら帰るのかな? なんか名残惜しくなった私は、店を出て開口一番、あることを言った。
「今度は予備学科校舎が解らなくなったでしょ? 案内してあげる」
「助かる」
私はそのまま闇人を紅さんが待つであろう予備学科校舎に連れていく。近くにあるエレベーターに乗り、地下へ潜る。地下施設が予備学科の校舎だ。
「で、紅さんはどこで待ってるの?」
「慰霊室」
私は闇人の答えを元に慰霊室という場所を探す。
予備学科校舎は広いので、地図を見ながら移動した。学校の校舎をそのまま地面に埋めた様な施設だから、廊下とかのデザインは私達が通う校舎と同じなのに、窓が無いのが異質に感じられる。
「こっちよ」
間取りは複雑でも無いので、すぐに目的の場所に着いた。この、高級そうな木の扉の向こうが慰霊室。
その部屋はなるべく明るく、照明が多めに取り付けられている。だが、空気は重い。部屋の中央には白くて長細い箱があり、その前に紅さんはいた。帽子は脱いで、胸に当てている。
「紅さん。花買ってきた」
「そうか、すまない。置いてあげてくれ」
紅さんは闇人の言葉に、こちらを向くことなく返した。闇人は箱の上に花束を置く。その箱は、ちょうど人が一人、寝て入れそうな大きさだ。
「これは?」
私は気になって、つい聞いてしまった。紅さんはまたもこちらを向かず、答えた。声が震えている様にも聞こえた。
「昨日のクリーチャーに、一人殺された」
「え……? あ、すいません……」
私は紅さんの言葉に戸惑った。触れてはいけないものに触れてしまったみたいだ。昨日のクリーチャー、シシモンキーは犠牲者を出していないと伝えられたからだ。
「君が知らないのは、何も悪くない。このことは隠蔽されていたのだからな」
紅さんは言葉を続ける。闇人はどこかへ行ってしまった。部外者が聞く話では無いと思ったに違いない。闇人はボンヤリしていても気の遣える、優しい人だ。
だけど、予備学科生の死が隠蔽されてるなんて知らなかった。しかし桜花学院は信用の為なら、何でもやるのか。私の中で桜花学院の信用はがた落ちだ。
紅さんは箱に、花束の他に置かれているものがあることに気付く。闇人が持っていたドッグタグだ。
「これは……、先日、地下街のクリーチャー掃除に出掛けた奴らの……」
「闇人が届けてくれたんです」
紅さんはドッグタグを手にして呟いた。闇人は回りくどい渡し方をした。だが、あの空気でさらに死人がいました、など言えないのも現状。闇人の選択は正しい。
「そうか」
ドッグタグが届けられたことの意味を紅さんは悟った。これだけ人が死んでいると、やはり予備学科に転入した友人が心配だったりする。
「そうだ。今日はここで夕食を食べてくか? 普段食べれないものも、ここにはある」
紅さんは私を食事に誘った。皆が普段、蔑んでいる予備学科がどういうものなのか、私だけでも知ってる必要がある。
予備学科校舎 食堂
そうした理由で私は紅さんの申し出を受け入れた。闇人も一緒にいる。食堂には机がたくさん並んでいるが、今いる人数ではその半分も埋められない。
私達は席に着いて、夕食をご馳走になっていた。私の隣にはそれぞれ闇人と紅さんが座っている。
本当に見たことしかない食べ物が並んでいた。このトレーに積まれた、パンに肉を挟んだものはハンバーガーっていうらしい。隣の皿に盛られた細切りのジャガ芋を揚げたものはフライドポテト。目の前にある黒い、泡を放つ飲み物はコーラというものらしい。手で食べるのも初めてで戸惑いすらある。
だが匂いを嗅ぐと、脳がダイレクトに『食え』と命令してくる。この、今まで感じたことのない衝動はなんだろう。口に唾液が溢れ、飲み込んでもまだ唾液が溢れる。胃が広がり、これを私の体全体が求めている感じがする。
とりあえずハンバーガーってのを、一口食べてみるか。一応手は洗ったから大丈夫なはずだ。キスで一億以上の細菌が互いの口を行き来するのに人類が絶滅しないのだ。そこまで神経質になる必要は無いのだろう。
私はハンバーガーというものを恐る恐る、両手で掴んで口へ運ぶ。
「はむっ……」
食べた瞬間、パン本来の小麦の味などせず、肉の旨味が口に広がる。ケチャップが味を深くし、ピクルスが全てを引き締める。つまり、美味しい。何か高次元な味覚ではなく、本能に訴えかけられる味だ。
次にフライドポテト。私はそれを一つ掴むと、口に運ぶ。ジャガ芋を揚げて塩を振っただけなら、味の予想くらいできる。掴んだのは長くてクタッてしてるけど、気にしない。
「もふっ……」
食べると塩味が広がり、柔らかい感触がする。つまり美味しいのだ。勢いに任せてコーラというものを注いだコップを手に取る。それを唇に触れさせる。
「ん……」
すると、口が痺れる感じに襲われる。まるで、初めて神力で電気を起こした時の様な、得意げで懐かしい痺れだ。甘いフレーバーが懐古を深める。つまり美味しいのだ。
「没落した家の子女を編入させて編成しているのだが、政略結婚の元手にしたいのか、どこも娘をたくさん持つ家が多くて予備学科もそこそこの人数がいるんだ」
私が食べる様子を見ていた紅さんは予備学科について説明した。なるほど、編成の方法がそんなんでも成り立つのはそういうわけか。藤原摂関家みたいな家がたくさんあるおかげってわけ。
「家族以外の男を見るのは初めてね」
「男も若いうちは髪伸ばすの?」
「神力はどんなの?」
闇人は早速質問責めに遭っていた。彼はボンヤリとハンバーガーを頬張っているだけだが、一通り食べ終わると質問に答えた。
「髪は、床屋に行き忘れた」
ああ、闇人はボンヤリし過ぎて髪がそんな伸びるほど床屋に行き忘れたのか。ボンヤリし過ぎだよ。
その後、私と闇人はいろいろ質問責めにあった。来客は珍しいのだろう。特に闇人は学院の外から来たということで、外のことを聞かれていた。ある程度外に出る予備学科生でこれなのだから、私の様な本学科生に会ったらどうなることやら。
何を思ったのか、紅さんは突然、私に抱き着く。
「わっ、あっ……」
身長差があるので、私の顔は紅さんの胸に埋められる。ふかふかしてる。紅さんの体は暖かい。神力の影響で体温が高いのだろうか。いい香りがする。
「ふむ。あまり私達ほど鍛えて無いから柔らかいな。でもここに編入したての奴より鍛えてあるな。スポーツが好きなのか?」
「一応、身を守るために神力の扱いとレイピアの使い方を独学で学んでいるんです。本物は握ったこと無いんですけど」
「なるほど、偉いな」
紅さんは私の頭を撫でる。互いの神力が反応したのか、電気と火の粉が舞う。頭を撫でられると凄く気持ちよくて、紅さんも暖かくて柔らかいから、だんだん眠くなっていた。
『予備学科生に緊急勅令! 反貧困団体が学院に侵入、理事長の名においてこれを討て!』
「ふぇっ……?」
その眠気を打ち破ったのは大音量の放送だった。というか、眠気を破ったのは音量よりも内容だった。
「勅令って、天皇しか使えないはずじゃ……」
「不敬、だな」
闇人も同じ所に疑問が出たようだ。『勅令』って表現。だが、紅さんを筆頭とする予備学科生は別のポイントに疑問があったようだ。
「反貧困団体?」
「まさか……」
「まだよね?」
「まあ、うちの理事長はことある毎に権力を誇示するからな……。私達は慣れたがな」
紅さんはその表現を権力の誇示と説明した。権力の誇示として天皇の命令を意味する勅令という表現を用いるとは、そんなに自分を偉いと思わせたいのだろうか、理事長は。
「さあ、みんな行くぞ。すまないが闇人くんと君は待っていてくれ」
紅さんは予備学科生を率いて食堂を出た。私の頭に、先程見た棺桶と闇人が見せた血濡れのドッグタグが過ぎる。不安で胸が痛んだ。
「紅さんと皆さん! 死なないで下さいね!」
私は叫んでいた。ここにいた誰ひとり、いなくなってほしくない。名前もわからない人や口も聞いてない人がいるけど、これでお別れなんて絶対嫌だった。
「心配するな。相手は烏合の衆。私達は自由を手にして家を再興するまで死ねないんだ」
紅さんは私と闇人を見て言った。そして、他の予備学科生も口々に言う。
「私はここに来た時、もう何もかも諦めていたけどね。みんなのおかげで希望が持てた」
「みんながいるから頑張れたんだよ!」
「いつか自由になるって決めたから、ここで死ねないよね」
「霊歌みたいな理解者もいるし、私達孤独じゃないよ」
「もう何も怖くない!」
「おいバカやめろ」
「別にあいつを倒してしまっても構わないのでしょう?」
「死亡フラグーっ!」
みんな気丈に振る舞っていた。苦境をみんなで乗り越えようと、絶望から抜け出そうとしているのだ。でも、言い表せない不安が拭えない。
闇人が私の肩に触れた。
「みんななら、大丈夫」
私を安心させようと言っただろうけど、そんなボンヤリボイスでは説得力が無い。
予備学科生達はぞろぞろといなくなる。寂しくなった食堂で、私は食べ物が残っている皿にラップをかけておく。みんなが帰って来た時に食べれる様に。
「ラップできるんだ」
「そのくらいできなくて何が淑女ですか」
闇人は意外そうに言っていた。確かに他のクラスメイトはラップも知らないのだけど。
その後、私達はしばらく無言で席に座っていた。地下だからか、地上の音は一切聞こえない。闇人は寝てるのではないだろうか。
「ねえ闇人」
「何~?」
私が呼ぶと、闇人は軽く返した。起きていた。このまま無言も痛いし、何か話をしよう。
「ソルジャーキャンドルってどんなクリーチャー? 紅さんが捕まえたらしいけど」
「蝋燭のクリーチャー。蝋燭に怨念が宿り、それが神力で動く。図体がデカイので脅威だね。けど、昼間は寝てるの。だから、そこをこっそり近寄って蝋燭に神力で火を点けさえすれば、言うこと聞く」
闇人は私の質問に淡々と答えた。なるほど、紅さんなら普通に捕まえられるクリーチャーなのか。でも、火さえ点ければいいだなんて、起こさずに近寄れれば捕まえられるのね。私は電気専門だから、難しいけど。
電気だってその気になれば精神を電気体したり、体を電流にしたりできるんだけど、私には無理。精神を電気体にするのは絶対やりたいけどね。
「霊歌さん。火は点けれる?」
「私はいろいろ試したけど、電気と基本的な筋力強化だけしか無理ね。闇人は?」
「身体強化と変身しかできませんね」
へぇ。闇人はあのキンキン声の女教師が差別していた変身系神力使いなのか。大変そうね、闇人は。
「変身系って、大変だったでしょいろいろ」
「ああ。倉木闇人って名前も元々の名前じゃない。この神力が明らかになってから、親に名前を奪われて倉木闇人になった。あ、知り合いに斬愚って苗字の人いたら教えて」
事情はよく解らないけど、大変なことがあったのは事実らしい。私の知り合いに斬愚という苗字の人はいない。探してる理由くらい聞いておくか。
「どうして探してるの?」
「そいつを殺すため。斬愚の家はボクの実家だけど、倉木闇人って男がその家の娘に手を出してから没落したらしい。それから、そいつと同じ神力を遺伝で受け継いだ子供が倉木闇人にされて、儀式として殺される」
凄いヘビィな理由だった。聞かなきゃよかったけど、これが現実なのよね。
「次期当主が大人になる儀式まで生かさず殺さずの扱いを受けて、その時殺される。僕は逃げて来たけど、斬愚の奴らが探している。だから、先に見つけて殺す」
闇人はいつものボンヤリボイスで重いことを言う。まあそれだけ本気なのだろう。闇人の心の底が見れた。暗い話題から明るい話題に切り替えるか。
「そういえば闇人さ、初めて会った時に音楽聴いてたよね。あれどの楽団のコンサート?」
「楽団のコンサート……? ああ、いえ、あれは昔の音源です。『T.M.Revolution』ってグループの『イグナイデット』って曲」
「聞いたことない楽団ね……」
昔の楽団というくらいだから私が知らなくても仕方ないか。空気が軽くなったのでよしとしよう。
「でもみんな帰って来ないね」
「ああ」
だけど、みんなが帰って来ないのが心配。反貧困団体を鎮圧するだけだから、すぐ帰ってくると思ったのに。
「救援に行く」
闇人が立ち上がる。ついに痺れを切らしたか。私もついて行こう。食堂に短い麺棒が置いてあった。レイピアの代わりになるだろうか。何もないよりマシ、持って行く。
私と闇人は最寄のエレベーターに乗り、地上へ上がる。このエレベーターはあの噴水広場に直結していた。
「ちょっと! あいつら数が減って無い!」
エレベーターから下りた私達が見たのは信じられない光景だった。黄色いTシャツを着た反貧困団体が噴水広場で暴れている。噴水は壊されていた。時刻はとっくに夜。春近くなっても、日は短い。
「討ち漏らしかな?」
闇人は目にも止まらぬ速度で走り、暴れている反貧困団体を殴り倒していく。反貧困団体の数はもりもり減っていく。
「……目的は?」
闇人は団体メンバーの一人を掴み、振り回して目的を聞き出した。だが、メンバーはなかなか口を割らない。遂に振り回し過ぎて脳震盪起こしてるし。
「なんだ?」
だが、私には闇人のダイナミック尋問より気になるものがあった。青い爆発が遠くで起きたのだ。私は急いでその爆発が起きた場所へ向かう。青い炎は紅さんの神力。紅さんの身に何かが起きたのは間違いない。
「紅さん!」
「う、え……?」
やっぱりボンヤリしていて何が起きたか解らない闇人を置いて、私は走り出した。
反貧困団体メンバーの持っていたファックス
『作戦決行の時間は私、鳳凰堂紅が伝える。それまでは学院の前でデモをする様な目立つ行動を積極的にしてほしい。侵入口は私が指定した下水道を利用する様に』