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学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
その他の記録1
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オリエンテーション 学園軍記の世界

 けだるい月曜の朝が来た。サザエさんのエンディングを聞き、憂鬱に寝込んだ学生達が渋々と通学路を歩く。駅前を通る国道1号線、そこを横断するには横断歩道か、歩道橋を使うしかない。歩道橋にエレベーターがあるとはいえ、それを使う学生は殆どいなかった。目の前に信号があるのに、上り下りは面倒だろう。

 この日、入学式からしばらく経って学校にも慣れた女子高生、火村真紅は手鏡で長い黒髪の手入れをしながら信号が変わるのを待っていた。真新しいセーラー服も、糊が乗っていてパリッとしていた。

 朝の通勤ラッシュにしては車が少ない。この時代では、とある事情から乗用車を使う人は少ない。火村はその理由を知っていた。

信号が赤から青に変わり、人々が歩き出した。その時、突如として車道から大量の生物が押し寄せた。犬の様な毛皮とシルエットだが、何故か骨格がラプトル系の恐竜みたいになっている。これは、狩りの為に両手が使える様に進化した一応犬科の生物『ハウンドル』だ。こういう生き物が蔓延するから、車道を走る車が少ないのだ。

 人々は突然の襲撃に阿鼻叫喚となり、蜘蛛の子を散らす様に逃げだした。だが、飢えた獣がそれを逃がすはずもなく、人々を襲い始めた。火村も真っ先にその場から逃げる。こういう時、逃げることしか人類に許されていないと彼女は学校で習ったのだ。

 高校に入りたてで、まだしたいこともたくさんある。こんなところで死にたくはない。火村は必死に逃げた。


その様子を歩道橋の上から見守る人物がいた。ブレザーの制服を着た男子生徒で、骨を削って作った身長ほどある太刀を持っている。鞘はトカゲの様な何かの革で作られていた。

 「2013年、隕石が地球に衝突。そいつがもたらした電磁波により動物達が狂暴化して進化。それがクリーチャー」

 男子生徒は昨日の授業の内容を復習する。ハウンドルみたいな生き物をこの世界ではクリーチャーと呼ぶ。日本には多くの飼い犬がおり、それが進化したのがハウンドルだ。ただ、犬の中には狼みたいな姿に進化した奴も当然いる。

 ハウンドルみたいなトンキチ進化ばかりではない。

 「さて、行きますか……あれは?」

 歩道橋から男子生徒が身を乗り出そうとした時だった。学ランの上から鉄の鎧を着て、手に武器を持った集団が現れた。武器は全員、鉄製の丸いバックラーに同じく鉄製の短い剣だ。全員坊主なのも共通している。

 「奴ら、中部共同大学付属中部共同高校か。イラッとするが、自称強豪校のお手並み拝見だな」

 男子生徒は紫の瞳で集団の戦いを見守る事にした。黒髪が風に揺れ、朝の戦乱を予感させる。彼は鞄から魚肉ソーセージと爪楊枝を取り出す。爪楊枝をソーセージの頭に突き刺し、貫通させてから捻って、慣れた手つきで封を開ける。

 学ランの集団は通称、中共大中共と呼ばれる防衛科の強豪校の生徒である。クリーチャーへの対抗方法を学ぶ科目、防衛科という教科がこの時代にはある。しかし『戦闘』という科目の性質故、誰もが満足に習うわけではなく、学校の方針次第では指導要領に含まれるこの教科を全く教えない場合さえある。また、どういうわけかこれを全く教えないことを売りにする学校まである。

日本教育界には、人類の危機に際しても『戦い=悪』の図式が根強く残っていた。

 だから逃げ惑う人々がいるのだ。ハウンドルは肉食で危険性が高いとなれば尚更だ。犬であったため、知能も高く群れでの行動も得意と、地味に厄介な相手である。素人が素手で勝てる相手ではない。危険度でいえば、犬ながらヒグマに匹敵するのだ。

 人々の中には、防衛科を習い始めたばかりの学生もおり、勇気を出して剣を振るう。しかし、骨を削っただけの剣でもダメージを与えられるとはいえ、怒ったハウンドルに威嚇されて逃げ出してしまう。

 そんな中、中共大中共は次々にハウンドルを倒していった。強豪を名乗るだけあり、やはり強い。

 「円陣を組め! 背中を守り合うのだ!」

 「はっ、群れなきゃそんな雑魚も倒せんか。こんな奴が強豪面とは尚更イラつくな」

 中共大中共のメンバーは円陣を組んで群れに対応する。これなら、背中を取られる心配が無い。ハウンドルの狩りを邪魔することで、自分達にターゲットを向けている、見事な作戦だ。ただ、一舞には杜撰な戦法に見えた。

 攻撃を繰り返すハウンドルは返り討ちに遭い、死体があちこちに転がる。人々は散り散りに逃げ、ハウンドルの難から逃れたかに思えた。近くの物陰に隠れていた火村も安心して出てくる。

 「何だあれは!」

 中共大中共の一人が、逃げる人々を襲うクリーチャーに気付いた。ハウンドルから逃れた人々は、そのクリーチャーの舌に絡め取られ、次々と呑まれていくではないか。

 「た、助け……」

 油断していた火村は足を舌で絡め取られ、帰るの様なクリーチャーに呑み込まれた。

 電車の一車両分はありそうな、巨体の蛙が人々を丸呑みにしていく。蛙のくせに背中には堅い甲殻を持ち、平たい尻尾まであり、青色をしたそいつは『ブルートス』と呼ばれるクリーチャーだ。頭の先には、アンコウの様に擬似餌が引っ付いているのだが、それが札束とは一体なぜなのか。

 「マズイ! こいつは背中が固いから腹にしか攻撃が効かんが、腹を攻撃しては呑まれた人達を傷付けかねんッ!」

 ブルートスはいきなり膨らみ、転がりながら中共大中共のメンバーを轢き倒していく。これでは陣形は無意味だ。逆に、一網打尽にするチャンスを与えるだけだ。

見た目以上の凶暴性に騙される人が多く、有名な裏切り者から名前を取られたのだ。また、擬似餌の札束で獲物である人間をおびき寄せることも名前の由来だ。

 擬似餌を見れば獲物がわかると言われており、札束の擬似餌を持つ個体は人間を襲う。この札束は地域で見た目が異なり、その国で使われている通貨の形になるらしい。

 「うげぶ!」

 轢かれて内臓を押し潰され、中共大中共のメンバーが内臓破裂で血を吐きながら倒れていく。この重量なら鎧も関係無い。絶対絶命だ。

 「か、勝てないのかッ! 奴を倒して中の人を助けることは出来ないのかッ!」

 リーダーが諦めかけた時、歩道橋から一部始終を見ていた男子生徒が飛び降りた。着地したのはブルートスの背中の上。男子生徒は背中の太刀ではなく、大きいナイフを取り出して背中を切り付ける。

 ブルートスは痛みに耐えかね、大きく転んだ。男子生徒はリーダーの近くに着地する。

 「お前は誰だ!」

 「長篠高校、一年八組の朝凪あさなぎ一舞かずまだ。お前らが覚える必要はないぞ」

 一舞と名乗る男子生徒は、背中の太刀に手をかけた。身長ほどある太刀なら確かに倒せるかもしれないが、腹の中にいる人を傷付けてしまうかもしれない。

 「お、おい。腹に人がいるのを忘れるなよ!」

 「わかってるって。ったく、なんで防衛科サボってた奴を助けなきゃならんのだメンドクサイ」

 一舞は慌てるリーダーに、あくびをしながら答えた。ブルートスが口を大きく開け、一舞達に濃硫酸の胃液を吐き出した。一舞は近くにいたリーダーを掴み、盾にする。

 「き、貴様うわらばッ!」

 「近くにいるお前が悪い」

 リーダーは硫酸で身体を溶かされたが、一舞は無事だ。何とか息があるとはいえ、リーダーの顔は爛れて個人が判別出来ないほど破壊されていた。肉の間から、白い骨も見える。

 「こりゃあ中の奴ら生きてないんじゃないか?」

 「腹の中の人々を……みんなを助け……」

 「おー、尊い自己犠牲精神だとこ。吐き気がするね、よそでやってくれ」

 一舞は辛うじて息のあるリーダーを投げ捨て、太刀を抜いた。リーダーを無惨に使い捨てられた中共大中共に動揺が広がる。

 「何をしている! 我らがリーダーにそんなことをして、クリーチャーをどうやって倒すんだ!」

 「そんな妙なもん背負って!」

 一舞が背負っているのは、見た目のかっこよさに反して扱い難い太刀。これを背負っている奴は所謂『地雷』と呼ばれている。扱えないから役に立たない上に、武器が味方にぶつかって足手まといになるのだ。そんな武器を持つ一舞に強豪である自分達が手こずるクリーチャーを倒せるのか。

 ただ、一舞は太刀を使い熟していた。ブルートスの攻撃をかわし、的確に太刀で突いたり斬ったりしている。斬られる度にブルートスは方向転換するが、一舞もブルートスの横に移動していた。

 後ろ脚と尻尾に執拗な攻撃を加え、ブルートスが上手く立てない様にして転ばせる。そして、一舞は目を閉じて意識を集中させた。赤いオーラが太刀に集まっていき、一舞の周りには紫色の歪んだ空気が広がる。

 「お前ら、まさか人間に与えられた力が身体強化だけとは思ってないよな? 蛙みたいな下等生物も進化したんだ。生態系の頂点、人間様が進化出来ない理由はない」

 「どういうことだ?」

 「イラッとするな。防衛科の基本だろ。自称強豪のバカは黙って見ていろ。強豪名乗る奴は真の強者を引き立てる噛ませ犬なんだからな」

 中共大中共のメンバー達は一舞の話すことに困惑する。そして、一舞は右下から左上に太刀を滑らせ、ブルートスを斬り上げた。次に、太刀を下まで下ろし、振り子の原理で左下から右上に斬り上げる。最後に真横一文字にブルートスを切り裂く。

 斬撃の後は赤い線として残っており、電話にある用途不明のボタンに書かれた『*』記号に見えた。

 突きを放とうとしているのか、太刀を地面に対して水平に構え、突き出す形でブルートスに突撃する。

 「ハァッ……セイヤーッ!」

 一舞が突きでブルートスにぶつかる。それと同時に残った斬撃の跡である赤い線がブルートスに押し付けられた。一舞はというと、いつの間にかブルートスの背後にいた。そして、技の名前を呟いた。

 「【黒龍槍】……!」

 ブルートスは腹を裂かれ、中から呑み込んだ人間をボトボト落としながら横に倒れた。呑み込まれた人は強力な胃酸で溶かされ、原型を留めていなかった。ただし、太刀で斬られた痕跡だけはない。一舞は中の人だけを避けて攻撃したのか。腹から助け出された数人は何とか生きていた。

 「こいつらは防衛科さえちゃんと勉強してりゃ死ななかったな。助ける気はさらさら無かったが。ところで……」

 一舞は汚いものを触るように、太刀の先端で死体を確認する。中には通学時間だったからか、学生の犠牲が多い。特に真新しい制服を纏った肉塊の胸ポケットから、生徒手帳が落ちていた。そこには『火村真紅』という名前と、『絵札原高校』という学校名が書かれている。

 「おら、いつまで寝てんだ。硫酸ごときで死ねる身体だと思うなよ!」

 「エーッ!」

 倒れているリーダーに一舞は蹴りを喰らわせる。周りがざわめく中、一舞の脚からリーダーに赤いエネルギーが流れた。

 「あのな、あんな背骨もない下等生物が進化出来て、背骨がある俺達が進化出来ないわけないだろ。俺達も使えるのさ、『神力』をな。ま、使えなかった奴はご愁傷様だが」

 先程から一舞が使っている不思議な力の数々、背丈ほどある太刀を振り回せる筋力も、人間がクリーチャー同様に進化した証なのだ。ブルートスに呑まれた人間の生死を分けたのは、この進化を扱い熟せるかの差であった。

一舞は魚肉ソーセージを取り出して、封を開けて食べ始める。そして、全ての種明かしをする。

 「生きていた奴はクリーチャーの無茶苦茶な身体能力を実現したものと同じ力で体を守った。お前らが難なく剣を振り回せるのも、俺が歩道橋から飛び降りても平気なのも、これのおかげ。これが神力だ」

 この殺伐とした時代を生きる若者達は、自らの力を研ぎ澄まして未来を守る。この世界こそ、『学園軍記スクールブラッド』の世界だ。

朝凪あさなぎ一舞かずま

 私立ハクロウ高校一年八組所属

 有名な十五級長が入学した翌年に入学した新入生。口が悪く、基本的に一人で行動する。好物は魚肉ソーセージと牛乳。口癖は「イラッとする」、明らかなカルシウム不足です。背丈ほどある太刀を武器にする。

 「ジョウ」の時の凍空吹雪は二年下の後輩、「リョウ」の時の倉木闇人は一年上の先輩である。

 非常にやさぐれた性格で、人助けも乗り気ではない。また、味方はさておき敵には厳しい。過去に何かあったのだろうか。今回の事件で県立絵札原高校に恨まれたらしい。


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