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学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
その他の記録1
25/35

2時間目 猟犬、倉木闇人

 私立闘学校と公立闘学校


 進学校からその名を取って闘学校と呼ばれる、防衛科に力を注ぐ学校。私立と公立では、大きく性質が異なる場合がある。

 私立闘学校は国からの支援が欲しいのと、地元住民からの浅からぬ縁により、街を守るためと指導要領厳守のために防衛科を教えている。後述する教員連の影響から、公立の学校を落とされた生徒を受け入れた結果、戦闘能力が高い子供達が集まる場合もある。

 公立闘学校は他の学校との差別化を謀って防衛科に力を入れる場合が多いが、中には教員連の影響で『教員連のためだけに戦闘を取り締まる』学校もある。

 教員連は正式名称を『防衛科に反対して子供達を守る教員の連合』という。昔は子供を守る為に活動していたが、教員連の教師が増えると学校は『教員連に従った方がいい成績が貰える』ようになり、採用試験も教員連が牛耳る様になると自浄作用のない泥沼へ変貌していく。

 1000年近い時を経ると、現在の教員連は当初の目的を忘れて、防衛科を否定するのみの存在になってしまう。子供を守るどころか私立闘学校を潰すための戦力にしたり、クリーチャー被害を隠すためにクリーチャーの被害で孤児になった子供を進学させないなど、問題行動が目立つ。

 国道一号線


 その日、国道一号線には異様な光景が広がっていた。赤い毛並みの、人と同じ様に直立して歩く犬が行進していた。手も指が五本あり、どちらかというと人間が毛だらけになって犬の頭がくっついている感じだ。

 道行く人はこの光景に驚き、屋内に隠れる。交通量が少ないながら、車はクラクションを鳴らして不満を示す。

 それでもこの異様な集団は構わずに進軍を続ける。

 目は虚ろ、口から泡を吹くこの集団の先頭には、一人の人間がいた。ブレザーを着込み、チェーンやシルバーで飾り立てた男子生徒だった。

 (公立両端高校の猟犬、犬塚狼牙か)

 (戦ってることがバレたら殺されちまうぞ)

 通学中の生徒はその様子を遠巻きに見る。両端高校の猟犬、犬塚狼牙は武器狩りの天才と噂される。武器の所有が見つかれば、平和を乱すものとして処刑される。

 防衛科という、戦いを教える教科が一般化した世界で武器を持ってない人間は少ないだろう。狼牙に関しては単に殺す口実が欲しいんじゃないかという疑いの声が強い。

 (近くにいるのは四涼女か)

 その狼牙の隣にいる四人の女子が四涼女。丈の短い、涼しげな浴衣を着用している。それぞれ、浴衣は赤、青、緑、紫色をしていた。

 「あ、マズイ!」

 そこで一人の高校生が、列を外れて小学生の集団登校に襲い掛かる犬人間を見つけた。しかも巨大なハンマーを持っている。犬塚狼牙に見付かれば殺されるかもしれないが、つい体が動いてしまう。

 ただ、彼も殺されること前提に動いたわけではない。自分の通う高校は防衛科のレベルが高いし、その高校で防衛科の成績がトップだからだ。つまり、この高校生は普通より強いということ。さらに彼は、非常に身体が硬くて丈夫なのだ。

 「セイッ!」

 高校生は手にした剣で犬人間を背中からバッサリ切り掛かる。回避した犬人間はカウンターで彼の頭部に、巨大なハンマーを喰らわせた。高校生はそれにも平然として、犬人間を切り捨てた。

 しかし、直後遠くから飛んできた鎖付き分銅に頭を砕かれてしまう。あのハンマーを防いだ硬さが嘘のようだ。

 「グゲボ!」

 「馬鹿な奴だ、俺の目の前で戦うとは」

 無惨にも頭蓋骨を粉砕された高校生から武器を奪い、分銅を飛ばした張本人である犬塚狼牙が死んだ相手を嘲る。何かしらの能力を使ったのか、あの硬い頭をいともたやすく破壊した。

 「こいつら、防衛科を習ってる両端小学校のガキか?」

 「この程度、狼牙様のお手を煩わせる必要ありません。私達がやります」

 さらに、近くにいた小学生まで目を付ける。四涼女が狼牙の前に出て、武器を取り出す。全員、武器は薙刀だ。

 四涼女により、小学生が皆殺しにされた。突然の惨劇に、周りは騒然となる。

 この様な狂暴な猟犬がいる限り、この地域の人々は怯え、隠れて暮らすしかないのだ。


 岡崎市内 幼稚園


 「今日はハクロウ高校の倉木闇人さんと凍空吹雪さんにお越しいただきました。皆さん、わからないことがあったらドンドン質問して下さいね」

 三年前、ある事件でハクロウ高校の生徒に助けられた凍空吹雪は、長篠高校に入学した。戦闘行動のみならず、長篠が行っている『戦闘啓蒙活動』のお手伝いをする様になり、ハクロウ高校の制服であるブレザーを着ている。

 水色のショートヘアを揺らし、子供達の質問を待っている。腰に止めた鞘が、中に収められたダガーと共に鳴る。

 「ハイ」

 「あ、何かな?」

 ある園児が手を挙げたので、吹雪が当てる。彼女の隣にいる倉木闇人は男子の制服を着ているが黒髪を伸ばして顔立ちも中性的で、子供達には吹雪共々『お姉さん』に見えるだろう。学校の登録上も性別は指定されてないので、吹雪や闇人のクラスメイトにも男女どちらかはわからない。

 そんなボンヤリしてる闇人お姉さんだけでは啓蒙活動とか無理なので普段は彼(?)の友人である霊歌がアシスタントをしているのだが、今日は彼女が忙しいため吹雪がアシスタントを代わっている。

 ハクロウ高校を卒業した闇人は、防衛省が設立した対クリーチャー対策チーム『ケルベロス』に入隊した。最強の戦士としての鳴り物入りでの参加だが、吹雪には闇人が『最強の戦士』という称号を持っていることを、つい忘れてしまう。普段がボンヤリしてるからだ。

 園児の質問はこうだ。

 「なんでクリーチャーは生まれたんですか?」

 「昔ね、おっきい隕石が落ちてきたの。その隕石が持ってる不思議な力で動物さん達が進化して、クリーチャーになったのよ。私達人間もそれと同時に進化したんだ」

 根本的な質問だった。この時代では、狂暴進化した生物『クリーチャー』が人類共通の敵であった。そのクリーチャーに対抗するため、人類がクリーチャーの出現と同時に扱える様になった『神力』の使い方を学ぶ『防衛科』が学校教育に導入された。

 「私達も進化したの?」

 「そう、それで使える様になったのが『神力』っていう不思議な力。神力そのものは家電でいう電気みたいなエネルギーだけど、それをどんな力に使えるかは人それぞれだよ」

 吹雪は手の平に氷の花束を作ってみせる。吹雪の『氷を作る能力』を使うために消費されているのが神力だ。

 「みんなが必ず使えるのは、身体を強くする力だね。足が早くなったりするんだ」

 「だからたっくん、足速いんだ」

 「使い過ぎると無くなっちゃうよ、神力」

 「ご飯食べれば大丈夫よ」

 神力は食物から摂取出来る。普段無口な吹雪は、何とか懸命に、園児にいろいろ教えていた。

 「お姉さん、なんでテレビだと戦っちゃいけないっていうの?」

 「え? そうね……」

 だが、吹雪は啓蒙活動の理由に繋がる質問をされて少し考える。多くのマスメディアでは防衛科を憲法違反と位置づけ、教員連を初めとして防衛科に反対する意見が根強い。

 指導要領に入っているが、防衛科は教えないという学校も多く、教育の職場に防衛科を学んだ先生を採用しないということは当たり前とされている。故に幼稚園の先生は防衛科について知識は伝えられても、吹雪みたいに力を見せるなど実演が出来ないし子供達が力を扱う上での悩みにも答えられない。

 だからこそ、ハクロウ高校など防衛科を学べる学校の生徒が子供達に『戦い方』を教えている。クリーチャーは生き物であるため数が多い。自衛隊や警察だけでは国民を守り切れない。

 「それはね、テレビ番組を作ってるのはクリーチャーだからだよ。みんなに強くなられたらクリーチャーも困るでしょ?」

 答えに困る吹雪に助け船を出したのは、先程までボンヤリしていた闇人であった。『子供の命を守る』と声高らかに叫び、実際はクリーチャーへの対抗手段を奪うという真逆のことをしているマスメディアは、確かにクリーチャーくらい質が悪いかもしれない。

 見事フォローに成功して密かにドヤ顔の闇人に、園児から心無い質問が飛んだ。

 「闇人お姉さんって、なんでそんなお名前なの?」

 「本当だ、キラキラネームだー」

 「え? 僕の名前は代々受け継いでてね、始めに名乗った人のペンネームなんだって」

 闇人の名前は親が付けたものではない。『ある能力』の持ち主が代々、引き継いでいるものなのだ。日本史からは消されているが、初代倉木闇人はクリーチャーが発生した最初期に能力を使い、人々の為に戦ったらしい。

 「た、大変です! クリーチャーの大群がこっちに来てます」

 和気あいあいと啓蒙活動が行われていた教室に、園長先生が慌てて入ってくる。クリーチャーがこの幼稚園に向かっているらしい。

 「実演が必要みたいだね。みんなは隠れてて」

 闇人はブレザーの袖に付けられたチャックを開け、腕を捲る。これは闇人の能力を使い易くするために友人が制服を改造したのだ。

 「僕の力は腕とかを変身させる能力。そのバリエーションは結構多いよ」

 闇人は教室を出て、狭いグラウンドに立つ。遊具が小さいのが幼稚園らしい。幼稚園の周りには、既にクリーチャーが集まっていた。赤毛の犬が直立した様な、人間に犬の顔が付いた様な奇妙なクリーチャーだ。

 全身毛むくじゃらであるが、腰布を巻いたり武器を持ったり、部族長や兵隊長みたいな個体は冠を被っている。

 「あのクリーチャーは……犬が人間と同じ経路で急速進化したクリーチャー、ドギーマン!」

 「僕はデカレンジャーのボスに見えるなぁ」

 「デカマスターほどかっこよくないかも」

 闇人はクリーチャー、ドギーマンを見て昔の特撮を思い出していた。今や特撮はCGも火薬も、ワイヤーも不要となった。人間が神力に目覚めていない頃の特撮は独特の味があると、マニアも多い。

 「百鬼夜行の悪を切る、地獄の番犬! デカマスター!」

 「闇人さんは猟犬ですよね?」

 ノリノリで名乗りをあげた闇人だが、吹雪は闇人の異名が番犬ではなく猟犬であることにツッコミを入れる。

 「では、僕の力を見せよう。クロー!」

 闇人の腕が、獣の様な爪に変化する。腕のサイズも二回りほど大きくなった。ボンヤリしていた表情も、キリッと敵を見据える。

 そして、前髪の一部が赤いメッシュになり、瞳も赤くなる。これが基礎能力を左右する『スタイルチェンジ』。今はパワーを上げる『パワードスタイル』だ。元々パワーファイターである闇人だが、力圧しをする際に不要なスピードを削って更に力を高めるために開発したスタイルだ。

 「フン」

 自分の左右から挟み撃ちを仕掛けるドギーマン二匹を、闇人は軽く引き裂く。脇腹をズタズタにされ、ドギーマンは内臓をこぼしながら転がった。

 間髪開けずに前後からもドギーマンが二匹飛び掛かるので、闇人は体を回して爪を振り回し、悠々と撃退。今度はドギーマンの上半身と下半身が切り離された。断面はさすがに汚い。

 次は闇人を囲む様に、剣を持ったドギーマンが集まる。このドギーマンは防具のつもりか、革のベストを着ていた。

 「チェーンソー」

 闇人は両腕を大振りのチェーンソーに変身させる。獣の体の一部として、なので体毛はあるしチェーンソーの駆動も筋肉によるものだ。

 革のベストは防御も虚しく、ドギーマンを守ってはくれなかった。ドギーマン達は肉を削がれて倒れていく。削られた傷は止血が困難だ。

 革はなにげに爪への防御力がある。闇人くらいなら爪で切り裂けるが、園児達に対処を見せたかった彼は敢えてチェーンソーを使った。

 「来たね。ランス、シールド」

 今度は槍と盾を構えたドギーマンが軍団で突進してくる。そこで闇人は右腕を巨大なランスに、左腕を大きな盾に変身させる。武器に見えるが、一応生き物の体なので毛は生えてるし刃物は爪と同じ材質だ。

 闇人が敵軍団に突進すると、ドギーマンは体をえぐられながら吹き飛んだ。ランスは振動しており、見た目以上の攻撃力がある。工事現場や歯医者さんのドリルみたいなものだ。

 あらかたの敵を片付けた闇人に声をかける者がいた。ハクロウとは違うブレザーを着た男子学生だ。男の方はチェーンやシルバーアクセを大量に付けた、明らかな不良だった。

 その傍には、丈の短い浴衣を纏った美少女達が寄り添う。四人の乙女達を彩る浴衣は赤、青、緑、紫色だった。彼女達が、吹雪も噂で聞いていた四涼女か。

 「貴様がハクロウの『猟犬』か。俺は両端高校の『猟犬』犬塚狼牙だ。どちらが本当の猟犬か、試してみようじゃないか」

 「あ、そういえばそうだったね」

 男は闇人を睨む。闇人の方は自分の異名をさっきまで忘れていた。『猟犬』と闇人は自分で名乗ることはあまりない。一方、狼牙は積極的に自分を猟犬と称する。

 「俺は小さい頃から平和のために戦う先輩を見て育った。私的に武器を振るう様な奴にはない、精神的な強さがある! 平和を守る強い意思だ!」

 「その為に、幼稚園を襲うっての?」

 吹雪には、平和だの語りながら子供を殺す狼牙に怒りを覚えた。

 「そうだ。これは将来への脅威を取り除くための、言わば青田刈りだ。準備は厳重に、俺の能力『ハウンドボイス』があれば、犬を指揮するのは簡単だ」

 狼牙の言い分を聞いた吹雪は、胃酸が逆流する様な気分になった。吐き気がする。幼稚園児すら自分じゃ殺せないのに、この行為を正当化ばかりしている。何より、クリーチャーとの戦いは憲法で禁じられている『戦争』ではなく単なる『生存競争』だ。

 憲法尊重を訴える人間が、憲法に明記された基本的人権を犯すというダブルスタンダード。吹雪は許せなかった。

 「お前は、私がたお……」

 「吹雪は守りを固めてて、こいつらは俺が倒す」

 ダガーを抜いた吹雪を、闇人が止める。自分が暴れるというのだ。敵を倒しても園児に犠牲が出たら意味が無い。吹雪は彼の指示に従う。

 「この程度なら狼牙様の配下を使う必要ありません」

 狼牙が次の手を打とうとした時、赤い浴衣の少女が闇人に向かって突進する。闇人の腕は、まだランスとシールドに変身したままだ。

 「なかなかのパワーだね」

 少女の薙刀による攻撃をシールドで防ぎ、闇人は彼女を弾き飛ばす。地面に降りた少女に向かって、闇人はシールドの先端を押し当てた。

 「これは……」

 その瞬間、彼女の身体を莫大な衝撃が貫いた。五臓六腑は水風船の様に破裂し、口から赤黒い血をとめどなく吐き出して倒れた。

 「うぶっ……あぁっ!」

 「話に聞いてはいたが、さすが野蛮人は卑怯な武器を使うんだな」

 狼牙は息絶えた少女を見下ろし、闇人を詰った。彼女の死体は、血の池に沈んでいた。闇人のシールドは先端から音波を放つ機能があり、シールドの形状はこの為の筋肉が原因であった。むしろこっちが本業。

 「お前こそ、普段はこの四涼女に命じて、自分の手は汚さないらしいな」

 闇人も狼牙への怒りに満ちていた。自分で手を汚すまいと、自らに心酔する部下を利用する姿勢は認められない。

 「手を汚すことを誇り、私情で戦う貴様ごときが俺に勝てるか。俺達両端高校の学生は平和の為に戦っているんだ。どこまでガキ共を守れるか見せてもらおう」

 狼牙が長々と話していると、幼稚園の周りがドギーマンに囲まれた。流石の闇人も、これでは守り切れないだろうと狼牙が配備したのだ。

 ドギーマンは狼牙を群れのボスとして認識している。知能のカケラもないドギーマンに、少なくとも人間程度の頭脳が備わってしまった。

 「スプリントフォーム。ロッド」

 闇人の前髪の赤い部分と瞳が青く変色する。両方の掌から腕の骨が飛び出し、それを繋げて長い棒にする。先端部には刺が生えている。吹雪には、その棒を半分にしても闇人の腕より長く見えた。

 「いくよ」

 闇人は駆ける。幼稚園の周りを走り、ドギーマンをロッドで撲殺していく。頭蓋骨を砕かれ、折られた肋骨が内臓に突き刺さり、ある者は内臓を風船の様に割られて死んでいく。

 吹雪の目でも何とか捉えられるスピードで闇人が幼稚園の運動場に戻って来た時、包囲していたドギーマンは全滅していた。

 「今度は私が! あいつみたいにはいかない!」

 機動をやめた闇人目掛け、猛スピードで青い浴衣の少女が突撃してきた。薙刀を闇人の頭に振り下ろしたと思ったら、手応えがない。そこに闇人がいないからだ。

 その瞬間、彼女の全身が鈍い音を立てて壊れていく。

 「ぐっ、あぁっ……げっ! がぶほぉぁああ!」

 凄まじい速度で、ロッドを使う闇人に殴られている事に、少女は気付かない。闇人の姿が狼牙にも見える様になった時、彼女の身体はあらぬ方向に曲がって崩れ落ちていた。

 残る四涼女も、さすがに冷や汗をかき始めた。四涼女というチームは狼牙の正妻候補であり、互いに狼牙の伴侶としての地域を賭けて争っていた。所詮は子供による『大奥ごっこ』しかないが、彼女達は本気だった。

 自分と張り合うライバルがゴミの様に蹴散らされると、心穏やかではない。ライバルということは、実力は相手より上と自分でいくら信じても、同程度なのだから。つまり、自分もこうなる可能性はあるということ。

 「チッ、これならどうだ!」

 あまりに早くて、まるで見えなかった狼牙は少し慌てる。そこで今度は遠くから包囲するためにドギーマン部隊を配備する。彼らは、火を付けた弓矢を持っている。

 「しつこい。サーチング、ガトリング、ボウガン」

 今度は青が緑に変化した。闇人七変化である。彼は基礎能力と両腕の組み合わせで、あらゆる状況に対応出来る。今度は視力や聴力などの感覚を強化した。

 右腕はガトリング、左腕は掌から腕の骨を矢として放つボウガンになっていた。

 目に見えるドギーマンはガトリングで片付け、隠れている相手はサーチしてボウガンで処理。

 「クッ、ドギーマンが全滅じゃないか!」

 これで狼牙が用意したドギーマンは打ち止めとなる。これでは狼牙も戦いに出ざるをえない。

 屋根から降りて狼牙の前に立つ闇人。腕は変身前の状態に戻していた。

 「つ、次は私が! あいつらより、私は賢い!」

 緑の浴衣を着た乙女が、その姿を消す。吹雪は全ての感覚を尖らせる。

 「と、透明化? どこだ?」

 透明化の能力を持つ者は少ないが、対処は困難。まだ実戦経験の少ない吹雪には、透明化を暴くのは難しい。

 「そこだね」

 「闇人さん?」

 闇人はいきなり、幼稚園に向かって腕を変身させたボウガンを放った。突然の行動に焦る吹雪だったが、放たれた矢は幼稚園の扉に当たらず、途中で止まった。

 「うぐっ!」

 そこには、透明になっていた少女がいた。脇腹に腕くらい太い矢を受け、口から血を吐き出した。赤い血が、彼女の白い足を伝う。

 「あっ、うああっ! やめ……助けっ!」

 矢を何発も背中に受け、少女は座り込む。一本だけ振り返った際に、腹に刺さった矢があった。それを抜こうと彼女は必死になるが、血で手が滑るのと元々脂で滑る様にしてあるのと、矢が抜けにくく出来ているので上手くいかない。

 「あ、あっ……抜けて……」

 (私や闇人さんじゃなくて園児を狙ってたの? 通りで殺気を感じないわけだ)

 手や唇を震わせ、激痛を感じたまま少女は絶命した。彼女は闇人でも吹雪でもなく、非戦闘員の園児達を狙った。だから闇人も普段より手痛く始末した。吹雪も殺気を感じられなかった原因がわかった。闇人は増幅された視覚や聴覚で見抜いたのだ。

 「次は私だ!」

 紫の浴衣を着た少女が闇人に向かう。闇人が左腕をシールドに変身させ、先端を彼女に押し当てて音波を放つ。

 「ふん!」

 だが、少女はまともに喰らったのに少し後退しただけで済んだ。闇人が緑のサーチングフォームで、赤い浴衣の少女に使った時よりパワーが低いせいもあるが、彼の攻撃を耐える時点で相当防御が固い。

 浴衣から覗く肌が、鉄の様に変化していた。首から下は完全な鋼鉄だ。

 「やるね。でもこれなら!」

 闇人は左腕をボウガンに変身させ、矢を放ちながらロッドを手に少女へ走り寄る。矢は彼女の喉元に刺さらず、ロッドで頭を殴られても少女は平然としていた。髪や首も鋼鉄にしたのだ。

 「私、防御だけは硬いからね」

 「防御だけじゃ、俺は倒せないけどな」

 「それは狼牙がいるから問題ない!」

 少女は自信満々に言い放つ。自分に防御しか能力が無くても、狼牙が攻撃を担当すればいいのだ。これが所謂、アストロンである。

 「いや、必要ない。死ね」

 しかし狼牙は彼女を背後から手刀で貫いた。少女の浴衣がはだけ、胸元から狼牙の手が飛び出す。鉄の色が消え、白くなった肌を血に染めて、彼女は戸惑いながら背後を見る。

 「な、んで? 背後だって、防御してる……のに、がふっ!」

 「お前はもう、用済みだ」

 狼牙は刺した手を抜き、少女に言い放った。血を止めていたものが無くなり、噴水の様に彼女の鮮血が吹き出した。紫の浴衣が黒くなり、倒れた彼女の頬は血と涙に濡れていた。

 闇人と吹雪は、狼牙が仲間を殺したことに驚愕して呆然としていた。いくら敵を殺すのは当たり前にしてることとはいえ、味方を殺すなど常識では考えられないからだ。

 「隙あり! 死ねぇ!」

 その瞬間、狼牙は鎖に付いた分銅を投げ、闇人の頭にぶつける。闇人の動きが止まり、狼牙も勢いづいた。味方殺しに驚いてるところに、隙が出来たのだ。

 「オラァッ! ハウンドバインド!」

 声による音波を生かした飛び道具で闇人を牽制。そして、突進技で一気に接近した。

 「ハウンドストライク!」

 「や、闇人さん!」

 狼牙が蹴りやパンチで連続攻撃を仕掛ける中、闇人は腕での防御で精一杯の様子を見せた。

 「これでどうだ! わざわざあの女を殺してまで隙を作った甲斐があったな」

 一連の攻撃を終えた狼牙は、一息付いた。だが、闇人は何ともないと言わんばかりに立っていた。髪のメッシュと瞳は紫になっていた。

 「な、何ィ? それは俺が殺した女の衣服と同じ色をして、意趣返しのつもりか?」

 「ディフェンドフォーム。元々、俺が持つ防御形態だ」

 狼牙は闇人がフォームチェンジしていたことに気付かなかった。闇人の両腕は小さなシールドになっている。

 「馬鹿な、俺の能力は『防御能力の無視』のはず!」

 「俺は『防御能力の無視』を無視したに過ぎない。それだけの防御だということだ」

 狼牙は絶望した。自分の能力から、隙さえ突けば殺せると思っていたのだ。

 「ふ、ふざけるなよ! 一番お気に入りの女を殺してまで隙を作ったのに! 勝てないだと?」

 狼牙は、四涼女で一番贔屓にしていた女を殺したのに勝てない現実に絶望した。だが、その女を思い出したことで勝ち目が浮かんできた。

 「ハッ、防御が硬いのはいいが、攻撃はどうなんだ?」

 「問題ない」

 狼牙は、闇人が防御特化のフォームになっていることに気付いた。攻撃する時には、必ず別のフォームになるはずだ。そこに付け入る隙がある。

 「嘘くせぇ!」

 狼牙が闇人に殴りかかると、彼は小型シールドになっている腕で狼の拳にパンチする。右のパンチ同士がぶつかり合う。しかし、弾かれたのは狼牙。右腕がもげてしまった。

 「うぎゃああああああああああ!」

 「硬い鎧で殴ると痛いよね?」

 原理は簡単。鎧は硬い。それで体当たりされたら当然痛い。そういうことだ。だからってもげるわけないが。

 だが、闇人は身体に雷をほとばしらせて、新たな姿になる。髪のメッシュと瞳の色は変わらないが、腕が黄金の篭手を装備した様な姿に変化した。

 「ライジングディフェンドフォーム」

 「虚仮威しだ!」

 狼牙は右腕を失い、混乱していた。切断面が汚いため、出血は少ない。失血死出来ないのは不運であった。

 「こいつでどうだ!」

 狼牙は後ろに大きく飛びのき、そのまま闇人に向かって助走を付けてジャンプ。空中で前転しながらキックを切り出した。

 「うおりゃー!」

 闇人は身体に雷を纏い、それを右足に集中させる。神力による電気ではない。人体は神経を脳からの電気信号で動かしている。その神経を全て直結で繋ぎ、闇人の持つパワーで脳から電気を流すと、こうして莫大な電力を起こせる。

 多少時間が掛かるが、普段は電気を操る友人、霊歌に充電してもらって変身するのが、この『ライジングフォーム』だ。一人で変身するまでに時間が掛かるのと、他の形態に変身すると身体の電気が無くなってしまうことが弱点である。また、電気の操作に物凄く集中力を使う。

 闇人は直撃する直前の狼牙のキックを、回し蹴りで弾いた。

 「ひぎゃあああ!」

 結果、狼牙の右足が膝より下から吹き飛ばされた。切断面が焦げているため、やはり失血で意識は失えない。

 「く、クソ! 俺は平和の為に戦ってるんだ! こんな奴に!」

 狼牙は片腕片足で立ち上がり、そのまま逃げ出そうとした。闇人はライジングフォームが解除されていた。基本的に、一人で変身した場合は一撃が限界だったりする。

 「バーニングフォーム」

 闇人はさらにトドメを刺すべく、新たな形態に変化する。形態はディフェンドフォーム、つまりバーニングディフェンドフォームというわけだ。そして、遠くにいる吹雪にも彼の心臓の鼓動が聞こえてきた。それは、普通より強く鼓動している音だった。心臓の鼓動が強くて、体内から空気を震わせているのだ。

 幼稚園の窓がガタガタ揺れていた。

 「速い!」

 吹雪が次に闇人を見た時、彼は逃げる狼牙の前に立ちはだかっていた。さらに、闇人は目に見えないほど速く狼牙にラッシュを叩き込む。彼の手足は燃えていた。

 (血液量の増加による体温上昇で燃えているんだ! 心拍数が増えればそれだけ、速くも動ける!)

 吹雪はバーニングフォームの原理に気付いた。人間は事故の瞬間、目の前の光景がスローモーションに見えるという。それは致命傷を避けるため、心拍数が上昇しているからだ。

 それと同じ理屈で、体温を上げる為に強く速く心臓を鼓動させれば、周りがスローに見える、つまり速く動けるのだ。

 「ぶけぼご!」

 一通りラッシュを終えた闇人は、狼牙の背後に回り込んで、左右の手を開いて彼に向ける。その掌から、大量の血液が噴き出して狼牙を襲う。

 「こ、こんな奴に俺が……最強の猟犬がぁあッ!」

 至近距離で高圧かつ燃える血液を喰らった狼牙は身体を爆発四散させて死んだ。吹雪はこのトドメから、バーニングフォームの弱点を見抜いた。

 (スプリントフォームがいらない子になると思ったら、それは違うみたい。バーニングフォームは血液量を大幅に増加するから身体に負担が掛かる。耐久性に優れたディフェンドフォームじゃないと長時間は使えない。バーニングパワードフォームはパワーが強くなり過ぎるし、バーニングスプリントフォームはスピードが制御出来ない。バーニングサーチングフォームは耐久力不足なのね)

 そして、何より最後に増加した血液を放出する必要がある。吹雪は闇人に駆け寄り、更なる弱点に気付いた。

 「あ、あちっ! なんか熱いです!」

 「だってバーニングだもん。お腹減ったなぁ」

 闇人の周りが異様に熱いのだ。そして闇人自身はカロリーを消費したのかお腹を空かしていた。強力な分、リスクも大きいのか。

 吹雪は周りに氷を発生させて、空気を冷やした。強制冷却である。

 「わぁ、凄い! お姉ちゃん達が守ってくれたんだ!」

 戦いの凄惨さにしばらく閉口していた園児達が吹雪達に駆け寄ってきた。それを見た彼女は、この時代の厳しさを実感した。

 (本当ならこんな残酷なこと、賞賛されたくもないし見せたくも、やらせたくもない。でも、クリーチャーがいて、ああいう奴らがいる限り、それは無理なのね)

 クリーチャーとの戦いだけならまだしも、防衛科に反対する連中が平気で人を殺す時代なのだ。日本は間違いなく、史上最悪の暗黒時代にあるといえる。

 「最強フォームは何ー?」

 「うーん、難しいなぁ。各フォームは元々の力を偏らせてるから基礎ポテンシャルは普段と変わらないし、ライジングとバーニングは使い難いし……」

 園児達は闇人へ無邪気な質問をしていた。恐らく、彼こそがこの時代の暗黒を狩る猟犬なのだろう。吹雪はそう考えた。闇人に救われた人間は多いと彼女も聞いている。

 「バーニングライジングパワードスプリントサーチングディフェンドフォームは一回やったけど、えらい目に遭ったし……」

 「パワードスプリントサーチングディフェンドフォームがまず出来るんですか? 能力の再編成で成立してるフォームの同居が不可能かと」

 「バーニングライジングフォームで基礎ステータスを4倍に上げれば出来たよ」

 最強フォームにはいろいろと無茶がありそうだった。これ以上、強くなられても周りが困るだろう。主に出番的な意味で。

 吹雪と闇人の啓蒙活動は、実践込みで無事終了した。

 市立両端高校

 教員連の力が強い学校の一つ。クリーチャーから人々を守るために戦う人間を狩る行為を推奨している。

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