1時間目 戦闘令嬢、凍空吹雪(後篇)
前編のあらすじ
戦うお嬢様、凍空吹雪はライオンに焼かれて切り裂かれて、死にかけていたところに電撃を受けて倒れた!
どうなる吹雪? 薄い本みたいな展開になるのか?
数ヶ月前 旧愛知メトロ内部 闘拳中学校
数百年の昔、東京オリンピックに向けて日本全国に地下鉄が掘られた。東京の地下鉄と名古屋の地下鉄を繋ぐのは、『愛知メトロ』と『静岡メトロ』。
静岡メトロの『青木ヶ原樹海駅』にはあの倉木闇人のいた樹海中学があった。駅の最寄に中学があったのではない、中学が地下鉄の中にあったのだ。
「それで、今回保護した奴は?」
「桜花学院予備学科の生徒です。静岡メトロの封鎖されたデパート地下の循環任務中に大型クリーチャー『シェルコンデ』と遭遇、散りじりに逃走してここに来たそうです」
愛知メトロの中にも中学校がある。その職員室で教師達が話していた。事務的に情報を伝えたのは金髪で眼鏡の、外国人と思われる女教師。情報を聞いてため息をついたのは日本人の男性教師だ。
実の話、日本の児童福祉は世界最低レベルにまで落ち込んでいた。特にクリーチャー被害で家族を失った『クリーチャー孤児』の問題は深刻だった。教員連がクリーチャーによる被害を『無かったこと』にしたいあまり、クリーチャー孤児は公立の学校に入れてもらえないことがある。子供達の目からクリーチャーの被害を隠すため、クリーチャー孤児は転校を装い学校から追い出すという醜態だ。
子供達を守るためと宣い防衛科を否定し、そのためにクリーチャー被害を無かったこととするため、クリーチャー孤児の保護を敢えてしない。本末転倒の状態であるが、数百年前に日教組と呼ばれていたこの組織など、まあこんなものである。
その態度に反感を覚えた教師や海外からのボランティアが使われていない地下で学校を始めたのが、地下学校の始まりである。
「全く、この国は湿度が高いから腐るモンは腐りやすいな」
「同感、愚かな存在、本末転倒とは彼らのことですね」
「おう、先公。入るぞ」
教員二人が呆れて話をしていると、生徒が一人入ってきた。学ランを着た、体格のいい爽やかなスポーツマン風の男子だった。
「正輝。保護した生徒の容態は?」
「最初は怯えてたけど、樹海中学から仲間を保護したって連絡聞いたら安心したよ」
「そうか」
正輝と呼ばれた生徒は保護した桜花学院の予備学科生の様子を伝える。あらゆる地下中学が現在、彼女達の仲間を捜索中だ。
「なあ先公よぉ、桜花学院に乗り込ませてくれよ!」
「既に樹海中学から『倉木闇人』が依頼を受けて向かった。奴が送り込まれれば、あいつら骨も残らんさ」
「闇人かぁ、強いのかね」
正輝が桜花学院行きを希望するが、既に一人の生徒が予備学科生の依頼で壊滅作戦を開始した。桜花学院も攻撃を受ければ唯一の戦力である予備学科を使うだろう。
そうなると、保護した生徒の仲間を傷付ける恐れがある。『猟犬』と名高い倉木闇人なら、正確に獲物だけを叩きのめせるはずだ。
「これ以上、平和ボケ連中のアホな考えで悲しむ子供が増えない様に、その怒りは教員連に向けてやれ」
「おっしゃあ!」
「いや乗り込めとは言って……仕方ないな」
正輝は教師の話を聞かずに教員連の本部に殴り込みをかけにいく。女性教員は手を合わせ、教員連の冥福を祈って合掌した。
「おもてなし」
「違う!」
長篠高校 保健室
「う……」
(なんだ? 私はどうなった? 痛みが無い、暖かい……死んだのか?)
意識を失っていた吹雪が目を覚ましたのは、何処かもわからないベットの上だった。包帯の感触があり、傷は手当されていた。
「お、ようやく起きたか」
「癒野の治療で3日か。長いな。それも完治ではない」
誰かが話す声が聞こえたため、吹雪は首をそちらに向ける。彼女が寝かされているのは学校の保健室らしき部屋だった。吹雪が寝るベットの隣に並んだベットで、男子学生が十手らしきものを手入れしていた。。
服装は制服、それもブレザーだ。吹雪は辺りをよく見渡すため、とりあえず起き上がる。
「ここは……うくっ!」
「まだ起きない方がいいよ。ぶっちゃけ死んでもおかしくない傷だったからさ」
だが、傷が痛んで起きるにも一苦労だった。男子学生をよく見ると、少しばかりガタイのいい爽やかな雰囲気の男子であった。所謂、体育会系の雰囲気があった。持ってる十手は長く、時代劇に出てくる様なタイプではない。刀と打ち合えそうな長さがある。
「四季め、俺がこれを扱えると思ってんのか? 邪魔くせぇ。ギャバンみたいでカッコイイけどさ」
「……ここは?」
「あ、ここは私立ハクロウ高校の保健室だな」
学生は十手をプレゼントしたらしい友人への不満を漏らす。ハクロウ高校といえば、防衛科に特化した所謂『闘学校』の一つであり、今年度は『十五級長』なる化け物クラスの生徒が十五人も入学したという話だ。
その中には雪原ヶ峰学園の姉妹校、桜花学院を滅ぼした『倉木闇人』や史上類を見ない惨劇であるシャークアイランド事件の主犯である『青嶋牙子』がいるんだとか。
「ハクロウ高校? ここが私立……」
「の割にはボロいけどな。俺は鉄破正輝だ」
男子学生は鉄破正輝と名乗った。吹雪の記憶では、十五級長のリストにその名前はいた様な気がしたが、如何せんインパクトの強いメンバーが多いため『前科』の無い人間はそれだけで薄れてしまう。
「ところで、何があったのか聞かせてもらえるか?」
正輝はとりあえず情報を集めようとする。まさか記憶が曖昧だからという理由で彼が十五級長かどうかを尋ねることが吹雪には出来なかった。妙に育ちの良さが現れてしまう。
「すいません、私にも何が起きたのかわからないんです。いきなり父が『平和維持隊』という組織に捕まり、『学校を守れ』という父の頼みで雪原ヶ峰学院に急行したら……」
「そうか」
吹雪もよく事件の全容がわかっていなかった。あまりに突然のことだったのだ。いかに落ち着いて見えても、まだ吹雪は中学生。この出来事をまだ処理し切れていない。
正輝は自分が知ってることを話しておく。もしかしたら何かわかるかもしれないからだ。
「俺達が駆け付けた時は、お前が変な奴らにリンチされてたんだ。クリーチャーの死骸があったんだけど、あのクリーチャーじゃ入れないところに死体あるしさ」
「……そういえば」
正輝の話で、吹雪は当時のことを思い出す。学園に侵入したクリーチャーは2トントラックに匹敵する巨体の『グレンジシ』。なのに、狭い校舎の中に焼死体はともかく引き裂かれた死体もあった。
「他にクリーチャーがいたのか?」
「見なかった……はず。それにあのグレンジシは誰かが捕獲した個体だった。タグもあった」
突き詰めれば突き詰めるだけ、奇妙な点が浮き出て来る。本来ならグレンジシというクリーチャーは脱走が危険なため、捕獲は禁止されている。凍空工業がグレンジシを捕獲すると吹雪には思えなかった。
そもそも凍空工業が作る武器は隕石の影響で変質した金属を使うもの。不揃いなクリーチャーの素材は量産武器に向かず、個人経営の加工職人に任される。クリーチャーの捕獲は主に武器のテストや訓練のためだ。
吹雪はますます事件が見えなくなっていた。奇妙な点が多過ぎる。
「よッスー! 武器のお届けに来たよ!」
そこに赤いコートを着た男子学生が保健室へ入ってくる。コートは暗い血の色をしており、フードが付いていた。コートの下はハクロウ高校の制服、眼鏡をかけた顔はちゃんと整えれば映えるだろう、俗にいう『ハンサム』であった。
「四季か。なんかわかったか?」
「校舎の中で死んでた奴の検死は癒野と遊木がしてくれたよ。俺の見立て通り、あれはクリーチャーに殺されたんじゃない。火災から逃げる途中に人間に殺されたんだ」
「え……」
四季という男子学生が言うには、校舎で引き裂かれていた死体はグレンジシの仕業でないとのこと。名前からするに、彼が正輝に十手をあげたのだろう。
「俺は『武器商人』だから一発でわかった。あの汚い切り口は平和維持隊(笑)の支給品『スティールソード』とかいう安物だ」
四季は平和維持隊を侮蔑しながらわかったことを語る。随分ザックリした解説だが、吹雪には何となく納得出来てしまった。グレンジシは巨体故に校舎に入れず、他にクリーチャーもいないとなれば犯人は奴らくらいしかいないだろう。
「なんでそんな……」
「君を犯人に仕立て上げるためだ。この俺、十五級長『武器商人』上杉四季は君を守らせてもらうよ、凍空吹雪」
「……なんで私の名前を?」
四季は新聞をいくつか吹雪に投げた。そのいずれにも一面で雪原ヶ峰学園の事件を報じており、凍空工業がグレンジシを逃がし生徒を吹雪が殺害したと書いていた。その一方で平和維持隊の活躍を称賛していた。
「なにこれ……」
「マスコミの戯言なんざ気にすんな、俺らの側に立つ限りあいつらが喚くのは仕方ない。少なくともハクロウの奴らは信じちゃないよこんなクソ記事」
ショックを受ける吹雪を正輝がフォローする。四季はコートの懐からある武器を取り出した。
「というわけで君の武器はパワーアップした。受け取るといい。『アイシクルダガー改』だ」
「あ、ありがとうございます」
吹雪は修理されたアイシクルダガーを四季から受け取った。折れたのは刀身だけであり、グリップは無事だったためそのまま使われていた。彼女の癖を完全に理解して作られたグリップはさらに馴染むようになっていた。
左右がわかり易いように、グリップの柄はデザインが異なっている。
「手を採寸してグリップを細かく調整してみた。左右で癖が違うからデザインも左右非対照だな」
「この刀身は?」
「クリーチャーの骨だな。クリーチャー素材の武器は受けたダメージを神力で再生する効果があるから戦闘持続時間は拡大にアップだ」
吹雪は四季から細かい説明を受ける。正輝はよくわからないらしく、新聞に目を通してあった。
「助けてもらった上にここまでしていただくなんて……」
「いいんだ。俺達は凍空工業の武器に大変お世話になっている。エルフィの奴が使う銃の輸入もしてくれてるし」
四季は吹雪の父親が経営する会社に対する礼として、アイシクルダガーを強化してくれた。銃はクリーチャーに効かないが、銃弾に神力を込めれば通用する。そんな芸当が出来る人間はそういないのであるが。
そして正輝は吹雪に聞いた。
「で、これからどうするんだ? 俺達は凍空社長を東京に護送する車両を潰すつもりだが、ついて来るか?」
「はい」
吹雪は即答したという。
東名高速
凍空寒気社長が運ばれるのは東京裁判所。そこは日本で起きる闘争に関する犯罪を全て裁くと豪語する特殊裁判所である。実際は現行の日本国憲法すら通用しない、日和見主義者が臆病にも戦う人間を裁くだけの、無意味な裁判所。
司法に従わないこの裁判所はもはや裁判所ですらないというわけだ。
社長の護送は吹雪が倒れたその日から始まっていたが、トボトボ歩いているため非常に遅い。クリーチャーが現れると車が使えないためだ。この時代、人間の移動手段は己の足か地下鉄に限られていた。
「急ぐのだ! 我々の成果を首都に運ぶのだ!」
二条ジョーは部下に命じて歩かせるが、凍空寒気社長がピンピンしてるのに平和維持隊はもはやヘロヘロだ。
「鍛え方が甘いんじゃないか?」
「うるさい! 罪人は黙って歩け!」
休憩を取ることにした平和維持隊はちょうどいいパーキングを見つけて、そこに陣を敷く。凍空社長は『桶狭間の今川軍ってこんな気分なんだろうなー』とか考えていたという。
「警戒怠るなよ! 平和を乱すやからは必ずこの隙を狙ってくる!」
パーキングにいる平和維持隊は100人を越えていた。この軍勢に突っ込んで社長を奪還しようとする人間はおるまい、と二条ジョーは話すこととは裏腹に油断していた。
駐車場も店舗も標準的なパーキングで、何の変哲もなかった。このパーキングは高速を歩く人の休憩所として使われており、店には人がいて営業している。
「こちらには切り札もある。ここはクリーチャーも豊富だ」
「それは使うなよ、クリーチャーなど制御出来はしない」
二条ジョーは手榴弾の様なものを弄んでいた。社長の忠告も聞く様子はない。巨大なコンテナも二つ駐車場にあり、その中から獣の呻き声が聞こえていた。
「さぁ、何処からでもかかってこい!」
「あいよー!」
「ファッ?」
万全な装備を誇る二条ジョーの叫びに呼応する様に、駐車場の真ん中に着地した人影が三つあった。
「お父様!」
「吹雪!」
一人は、ハクロウ高校の制服であるブレザーを纏った吹雪。残る二人は正輝と四季だった。
「げぇ、十五級長が二人も! 『壊し屋』鉄破正輝に『武器商人』の上杉四季!」
「か、勝てるのか?」
平和維持隊はへっぴり腰になりながら後ずさりする。たった三人にここまで怯えるものなのか、吹雪は十五級長だという二人を改めて見渡す。
倉木闇人や青嶋牙子みたいに主立った事件を起こしたわけではないのだが、どうやら強いらしい。吹雪にはあまり化け物じみたオーラをこの二人から感じられなかった。
地味に聞き覚えがあったような名前をしている正輝はさておき、四季が十五級長なのは吹雪にとっても不意打ちだった。やってることが明らかなサポート要員だったからだ。
(正輝さんはともかく四季さんも十五級長だったんだ……私と同じ様にしか見えない)
「コンテナを開けて待避しろ!」
二条ジョーは部下にコンテナを開けて逃げる様に指示した。二つのコンテナが開かれ、中からグレンジシが二匹現れた。
吹雪は身構えた。あの厄介なグレンジシが二匹もいる。どの道、こんな危険な生物は放置出来ない。これを無視して社長を連行して逃げようとする平和維持隊を追うことは出来ない。
「俺に任せろ!」
暴れ狂うグレンジシに正輝が飛び掛かる。背負っている十手は抜いてすらいない。まさか素手で戦うつもりなのか。
「セイヤー!」
グレンジシの一匹にアッパーを正輝は喰らわせた。鈍い音が鳴り響き、グレンジシの顎が変形した。たった一撃でグレンジシが死に、逃げようとしていた平和維持隊が呆然とする。
「おっと、忘れ物だ」
残る一匹のグレンジシに四季が向き合う。剣を持っており、それに力を込めていた。その剣は恐竜の牙の様な刀身をしている。背負う鞘にも恐竜を思わせるデザインがある。
「念願のアイスソード、その力を見るといい!」
四季はその剣を思い切り振りかぶり、冷気を剣に集めた。それを離れていたグレンジシに向かって振り下ろすと、冷気がグレンジシに飛んでいって、グレンジシを凍結させた。
「砕け散れ!」
そのまま剣をグレンジシにぶつけると、グレンジシは粉々に砕けた。これでグレンジシは全滅。あまりに早い。
「馬鹿な、二匹のグレンジシが三秒待たずにか?」
二条ジョーは狼狽した。まさかあのグレンジシがこうもあっさり、雑魚同然にあしらわれるとは。吹雪も驚きに声が出なかった。
これが、十五級長。
「まだだ! これだ!」
二条ジョーは手榴弾の様なものを投げる。他の隊員も一斉に投げたそれは、甘い香りのガスをばらまいた。
「睡眠薬が俺に効くか!」
「いや、こりゃ撒き餌だな。クリーチャーが来るぞ!」
正輝は睡眠薬と見たが、四季はそれをクリーチャーを呼ぶための餌と見抜いた。
「んじゃ、隊員とかいう雑魚は俺がやるからクリーチャーお前やれ」
「おう、嬢ちゃんは霞のジョーを捕まえろ!」
四季が隊員達に切り掛かり、正輝は集まって来るクリーチャーを迎撃する。集まって来たクリーチャーは大柄な牛やニワトリなど。いずれも実は肉食だ。
「応戦しろ! 私は逃げる!」
「そ、そんなぐぎゃ!」
二条ジョーが社長を連れて逃亡する中、隊員は四季に斬られていた。
「俺はどんな武器でも100%の力を出してやれる、武器商人だからさ! この扱い難い『ブリザウルス』だって!」
「クリーチャーは俺が倒す!」
正輝はパンチの一発で複数のクリーチャーを吹き飛ばしていた。衝撃波みたいなものかもしれない。
「あなたは私が倒します!」
吹雪は二条ジョーとの戦いに望む。四季と正輝はお山の大将なんざ弱いから怪我した吹雪でも大丈夫だと考えて任せたのだ。
「何故あんなことを! グレンジシを放したのはあなたなんですか?」
「気付いてしまったか。その通り、我々は凍空工業を潰して平和を取り戻すためにグレンジシを放した! 未来の平和のためなら多少の犠牲も仕方ない!」
二条ジョーは全て白状した。吹雪にも意外なくらい素直だった。どうやら彼は、自らの所業を悪いことだと微塵も思って無かったらしい。
「本気でそんなことを? 何か利権が目的なのですか?」
「そんな汚いものは不要だ! 平和のためだ。貴様は学校で『戦うことは悪』と習わなかったのか?」
二条ジョーを始めとする平和維持隊は利益など目的にはしていなかった。学校で習った内容を本気で信じている。これ程厄介なタイプの敵はいない。カルト教団を相手にする様なものだ。
妥協点を持たないが故に、殲滅意外に止める術が無い。
「本気みたいですね、捕まえて牢屋に入れます!」
吹雪は捕縛を目的に、ダガーを取り出して戦闘を開始した。目的はあくまで捕縛。殺人はしたくなかった。相手も四季曰く安物の剣を取り出す。飾り気の無い剣である。
この隙に社長は娘の足手まといにならない様に逃げた。
「この!」
二条ジョーは棒立ちであり、吹雪が切っても攻撃が直撃してもまるで反応がない。吹雪には人の形をしたものを斬ることに対する抵抗があるとはいえ、不自然だ。
「残念だったな。私は平和の為に身を捧げた。つまり、こういうことだ!」
二条ジョーが気合いを入れると、彼の姿が変わる。まるで仮面ライダーのショッカー怪人みたいなデザインだ。『JOU』とアルファベットで書かれた仮面をしている。
城に手足が生えたみたいな胴体をしており、杖の先端に縄が付いたものを手に持っていた。手足や膝肘のプロテクターは錠前を意識したデザインになっている。
「ダサい……」
「倉木闇人みたいに身体を変化させる力を持った者を解析し、その力を人工的に再現したのだ。平和の使者、それは私だ!」
吹雪は『こいつソフビだったら怪人勢でも売れ残るだろ』と冷静にマーケティングした。このデザインラインで売れるには、相当活躍する必要があるぞこのお城怪人。
「ならば倒す!」
しかも人の姿から掛け離れたため、吹雪の中にある躊躇いが払拭されてしまった。彼女はお城怪人と化した二条ジョーを思い切りダガーで切り裂いておく。
「え……くあっ!」
だが、ダメージは一切ない。二条ジョーは杖や縄を駆使し、吹雪の身体を打ち付ける。
「だったら!」
吹雪は右のダガーで反撃する。右腕で受け止めた二条ジョーにはダメージが無い。吹雪の狙いはこれにあった。
「凍れ!」
吹雪が力をダガーに注ぐと、二条ジョーの右腕が凍り付いた。そのままダガーをアイスピック代わりに腕をかち割る。
「これで……あぁっ?」
二条ジョーの右腕を潰して少し安心する吹雪だったが、横から何者かの攻撃を受けて吹き飛ばされる。彼女を攻撃したのはドジョウの怪人だった。
「フハハ、平和の使者は一人ではない!」
「ぐっ……う」
勝ち誇る二条ジョーの右腕は再生していた。深手を負った吹雪にはこの程度でも大ダメージとなりうる。倒れた吹雪はフラフラと立ち上がるのだが、二条ジョーの縄で身体を縛られてしまう。縄は二条ジョーが持つ杖に繋がっている。
「さあ、殺してやる! 【オンザロック】!」
「ああぁあぁぁっ! う、動け……」
縄が絞まり、吹雪の身体から鈍い音が響いた。息も止まり、吹雪は声も出せずにいた。通常攻撃も効かず、再生する敵をどうすれば倒せるのか。酸素が足りなくなっている頭では思い付かない。あるとすれば、自爆覚悟の一撃のみ。
「この!」
「う、うお!」
吹雪は最後の力を振り絞り、縄を伝って力を二条ジョーに流した。縄が、杖が凍り、右腕から二条ジョーの全身が凍った。
「よっしゃあ!」
そこに正輝が駆け付け、高くジャンプして宙返り、そのまま二条ジョーにキックを繰り出す。
「俺の必殺技パート1! 【ライダーキック】!」
「ウゲォォオ!」
ライダーキックの直撃を受けた二条ジョーは凍っていたために、砕け散ってしまう。後には氷とインゴットみたいな塊だけが残された。
「う……ゲホっ、ゲホっ!」
「やったぜ!」
拘束から解かれ、フラリと倒れ込んだ吹雪を正輝が受け止める。吹雪には戦う力が残されておらず、彼女自身も若干凍り付いていた。
「はぁっ、はぁっ……やったの?」
お城怪人とマスクと同じデザインをしたインゴットは残った隊員達が拾い上げる。その時、インゴットから縄が飛び出し、数人の隊員達に喰らいついた。隊員達は縄でインゴットに引き込まれ、インゴット自身がお城怪人を再構築していた。
「何ィ?」
「フ、馬鹿め。私はこのインゴットがある限り無敵なのだよ!」
「おいおいマジかよ」
二条ジョーはあっという間に復活してしまった。再生、挙げ句復活。これではいくら倒してもキリが無い。正輝はとにかく、二条ジョーを倒し続けることにした。倒し続け、再生に使う隊員がいなくなった隙にインゴットを破壊する作戦だ。
「その十手を使え! そいつは神力伝達率の高い『ウミゾウ』の骨で出来てる! お前の闇人を越える身体強化で使う膨大な神力を流し込めばいけるはずだ!」
四季は隊員を倒しながら正輝にアドバイスする。渡した十手が勝利の鍵となるらしい。
「インゴットごとこいつをぶちのめす! ブリザウルスの真の力を見ろ!」
四季は背中から剣の鞘を下ろし、そこに剣を納めた。そして、その状態で隊員達に剣を突き出す。すると、鞘が巨大な恐竜の顎に変化し、隊員を数人喰らった。
「な……ゲブボ!」
「ほげー!」
バリバリと隊員を咀嚼した剣は元の姿に戻る。そして、鞘がもう一度変化する。血の色の氷を纏い、斧の様な刃を形成した。
「や、やれるもんならやってみろ!」
ドジョウ怪人は少しビビりながらも、四季を挑発する。だが、それは虚勢だった。ヤバい匂いというものを感じていたからだ。
「行くぞ!」
四季が斧を振るうと冷たい空気がドジョウ怪人に飛び、足元を凍り付かせた。そのまま四季はドジョウ怪人を斧で切り裂いた。
「ぐぎゃああ!」
ドジョウ怪人は真っ二つにされ、再生すら出来ずに倒れた。インゴットごと切り裂かれたようだ。再生出来なかったため、縦に両断された死体が転がった。
「俺の必殺技パート3! 【リボルクラッシュ】!」
「グヌォ!」
正輝は十手を二条ジョーに突き刺した。十手から正輝の神力が二条ジョーに流し込まれ、間接から血やら火花を吹き出して二条ジョーは苦しんだ。
「こ、これで勝ったと思うなよ! 我等のような平和の使者はまだたくさんいるのだからな!」
十手を抜き、正輝が待避すると二条ジョーは倒れて爆発した。同時にインゴットも粉砕された。二条ジョーが言ってたことを、正輝は聞いていなかったという。
「に、逃げろ!」
「本物の化け物だ!」
残った隊員は逃げていく。吹雪も父親を取り戻す目的を遂げることが出来た。
数日後 病院
重傷を負った吹雪は病院に搬送された。怪我してるのに戦ったため、彼女は正輝や四季共々、癒野にこってり絞られた。
入院することになったのは地下の病院。市民病院では平和維持隊の残党が襲ってくるかもしれないため、この秘密病院に送られることとなった。この病院はハクロウ高校の地下に入口がある。
「癒野さんも十五級長なんですね」
自分を治療してくれた癒野療子もまた、十五級長なのだという。その彼女の治療を受けた上で入院が必要とは、思ったより吹雪の怪我は酷かった。
病室に見舞いに来たのは正輝と四季。彼らに混じって、吹雪が知らない生徒もいた。
「んー、花束ってよくわからないけど、これでいいかなー?」
花瓶に花を生けていたのは、黒髪を伸ばした生徒。ブレザーは男子用を着ているが、随分中性的な外見だ。ボンヤリした話し方と半開きの目も特徴的だった。
「闇人、鉢植えじゃなきゃなんでもいいんじゃないのか?」
「赤いのと菊はダメなんだってー、霊歌さんが言ってたー」
「え? 闇人……さん?」
四季が何気なくその学生の名前を呼んだ時、吹雪は心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。倉木闇人といえば、雪原ヶ峰学院の姉妹校である桜花学院を滅ぼした主犯だ。吹雪が見る限り、彼はとてもそんな狂暴な人物には見えない。
「そうだよー」
「もしかして噂の変身も出来るんですか?」
「うん」
吹雪が聞くと、闇人はブレザーの袖を開いて右腕を出す。闇人のブレザーはチャックが付いており、開ける改造がされていた。
「これ作ったの遊木なんだよな。十五級長の」
「十五級長って一体……」
便利屋状態の十五級長は、噂で聞く様な戦闘集団ではないのだろうか。闇人は右腕を獣の様な爪に変化させた。これが変身系の能力だ。腕も一回り大きくなっていた。
「凄いです!」
「そうかな?」
変身した闇人は先刻までのボンヤリした空気が消え、少し凛々しくなっていた。普段からこうならいいのに、と吹雪も考えていた。
「よいしょ」
変身を解いた闇人は椅子に座り、りんごを剥き始めた。手先が覚束ないため、吹雪はドキドキしながら見ていた。
「今回の件、平和維持隊は壊滅したが、まだ油断は出来んな」
「そうか? あ、なんかあのショッカー怪人みたいなもんがまだいるのか」
四季は事件の顛末を報道した新聞を読んでいた。正輝は呆れていたが、まだいると見て間違いはない。
新聞には平和維持隊が必ず凍空社長を捕まえると書いてあったが、その組織はとうに壊滅した。残党もチマチマとハクロウ高校に来たが、一般生徒に手痛く追い返されて二度と来ないだろう。
「戦争しちゃいけませんってのはまだわかる。だがクリーチャーとの戦いは戦争じゃなくて生存競争なんだぞ?」
「それがわからんから奴らは死んだのさ」
正輝は平和維持隊の支離滅裂ぶりに愛想が尽きていた。日本にはまだ、防衛科教育に反対する声が根強い。四季は軽蔑するように言い放つ。
「クリーチャーから大事なものを守るためには、みんなで戦わないといけないんです」
吹雪はそれを知っていたからこそ武器を手に、周りから冷たい視線を浴びようとも戦い続けた。相手はこちらを喰らわんとする猛獣であり、人ではない。
学生達とクリーチャーの戦いはまだまだ続く。
あとがき
先輩「なにあの怪人?」
級長「ヘルヘイムの実をケーキにして食べた馬鹿がインベス化したやつだよ」
先輩「嘘つけ」
級長「あれだ、ウヴァさんの作ったヤミーだ」
先輩「あいつか。ソルジャーキャンドルとかたまに変なの現れるからどうしたもんだと思ってたが」
級長「コアメダルがあるぞ」
先輩「おお」
ウヴァ「やめろ! これ以上メダルはいらない!」
(ウヴァの怯える声)
???「ガブッ、ゴックン! プットティラノヒッサーツ!」
先輩「邪魔になったからついにメダガブリューで……あれ? なんで使えるの?」
級長「これおもちゃだから」
先輩「あーあー、おもちゃなのに気絶してるよ。よほど怖いんだね、コアメダル破壊する能力」
級長「次回は闇人の詳細な能力がわかる話だ!」




