1時間目 戦闘令嬢、凍空吹雪(前篇)
(本作は部活で書いたものに追加シーンを加えたものです)
スクールブラッド。それは若い命を代償に得た教訓を後世に残すために編纂された『学園軍記』。
精神が未熟な若者が力を手に入れたことで起きた悲劇の数々を、ここに紹介しよう。今回お話するのはスクールブラッド、日本国第一万七号『平和維持隊事件』。これは『桜花学院の乱』以来の大規模な事件であり、前述の事件同様にお嬢様学校が舞台になっている。
テレビのワイドショー
これはとある昼間のワイドショーの映像である。巨大なパネルを司会が示し、コメンテーター達が喋っている。
「私立闘学校、戦闘の欺瞞を暴く! 今日は東京大学の平和彦名誉教授にお越しいただきました」
「よろしくお願いします」
「教授の一族は防衛科導入当初から反対を続けておられますね」
「防衛科廃止は我々一族の悲願ですから」
誇らしげに語る名誉教授はアルマーニのスーツを着込んでおり、身なりはしっかりしている。ただ、見る人が見れば胡散臭さを感じる。
「まず、防衛科は『子供達を守るため』と言っておりますが、その防衛科を学んでクリーチャーと戦い、死んだ子供達がいくらいるのかという話です」
司会はパネルのシールをめくり、防衛科による死者を会場にいるお客さんや視聴者に示す。
「クリーチャーと戦って死ぬ子供達は、なんと年間120万人です」
観客席から『えー』というわざとらしい驚きの声が聞こえる。ちなみにこの数字は『アジアで、年間にクリーチャーの犠牲となる人数』であり、日本国内だけの話でない上に子供に限定した犠牲者数である。
「政府は国民が自ら防衛することを望んでいますが、この犠牲をどう説明するのか」
「国が手を抜くための防衛科であることは一目瞭然です。また、対クリーチャーを言い訳に平和憲法を踏みにじって軍拡するのは当然話になりません」
名誉教授はしたり顔で破綻したことを言っていた。国民は守れ、ただし軍拡は無し。こんな馬鹿を相手にしなければならない政府の心労はいかほどか。
「特に、地方への被害が激しいのですが、それに付け込んだのが私立闘学校ですよね」
「地方の人達は私立闘学校を追い出したがっていますが、クリーチャーの為にそれが出来ません。彼らがクリーチャーを退治しているのですから。そこで自衛隊は地方のクリーチャーを倒すべきです。ただ、都市では人口が多いため、クリーチャーが現れた際の被害も大きいのでそちらも疎かには出来ません。ですが、やはりこれを言い訳に軍拡したがっているのはいただけませんね」
名誉教授は『地方の人達』が普段思っていることと真逆のことをいい、代弁してやったと満足げ。マスコミからしてこれなのだ。
戦後から続く日本の悪い病気は、国民の安全をとうとう脅かそうとしていた。
雪原ヶ峰学園 校門前
「皆さん、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
サイコロを振ってトークする番組の名前で挨拶すれば、同じ番組の名前で返って来る様なお嬢様学園があった。
西洋風な門構えに、送り迎えの車が集まる駐車場。無機質に作られる通常の校舎とは異なり、赤煉瓦で作られたオシャレな学舎。ここは有数のお嬢様学園、『私立雪原ヶ峰学院』。
そのオシャレな校舎は割と町の真ん中にあり、アクセスが便利だ。町中だけあり排気ガスの臭いがキツイが、ここだけ不思議と甘い香りがする錯覚を覚える。クラシックなBGMが脳裏に過ぎる。
校舎へ足を向ける学園の纏う制服は、セーラーでもブレザーでもない。ワンピースになっている独特のデザインとなっている。
朝の慌ただしい町に、鈍い足音が響いた。せっかくのBGMが台なしだ。脳内でしか流れてはいないが。
「あらやだ、クリーチャーだわ」
「こちらに向かってるわ」
学生が『クリーチャー』と呼んだのは校舎に向かって走って来る巨大な生き物のこと。ニワトリなのであるが、人間の背丈の三倍ほどは大きい。
「ゴケコッゴォォォォオオオオッ!」
朝の爽やかな目覚めを打ち消す喧しい鳴き声を発しながら、巨大ニワトリは校舎に向かう。学生達の中には逃げ出す者もいるが、送り迎えの執事は武器を取って戦おうとする。その執事を信頼しているからか、逃げない生徒も多い。
武器、とはいえ近代的な銃火器ではなく、レイピアやサーベルといった前時代的なもの。何故銃火器を扱わないのか。
「お嬢様! お逃げ下さげぶぉ!」
執事の一人がニワトリに蹴り飛ばされ、塀に思い切りぶつかる。首は180度回っており、執事は事切れた。他の執事がニワトリを囲むも、たった一度の羽ばたきで吹き飛んでいく。何故か火薬の様な焦げ臭い匂いが、ニワトリの鳥臭さに混じっていた。
そのピンチに、他より筋肉隆々の執事が現れた。武器も持たず、なかなかに勇ましい燻し銀な老人だ。これは期待できる。
「お嬢様方、私に任されよ!」
「あれは、最強の執事『セバス=チャン』ですわ」
「執事がやられた時はヒヤッとしましたけど、これなら安心ですわね」
「九龍家の執事かしら?」
学生達が話しているのは執事のこと。執事、セバス=チャンは中国武術の達人で、学生が雇う執事の中では最強と噂されている。上半身を脱ぐと、絵に描いた様な筋肉モリモリマッチョマンの変態だった。
セバスの鍛えあげられた肉体は、ニワトリの羽ばたきごときではびくともしない。鋼の肉体とはまさにこのこと。
「ハァッ!」
ニワトリのキックを、セバスは気合いを入れて受け止める。腕には鉄の篭手をしているとはいえ、ほぼ素手で受け止めるとは、やはりただ者ではない。篭手とニワトリの脚で、火花が起きる。
「ふん!」
ニワトリは脚を戻し、再度羽ばたきながら蹴りをセバスに喰らわせる。威力は先ほどより上だが、これも両腕で防がれた。ただ、ニワトリはこれが狙いだったのだ。
「ぐおおッ?」
何と、ニワトリの周りで爆発が起きたのだ。それも爆竹レベルではなく、普通に火薬が爆発したような規模でだ。セバスがいくら鍛えたといえ、爆発には勝てない。
何せ、爆発は周りの空気を奪い、肺を焼く。セバスは全身焼け焦げ、ニワトリの蹴りを防いだ姿勢のまま死んでいた。
「あらあら、意外に使えませんわね。九龍家の執事も」
「これはどうなるのかしら」
学生達はまだ命の危機に実感が持てないのか、呑気に話をしていた。ニワトリは頭を学生達に向け、ゆっくりと迫る。
その時、校舎の上から何かが飛来した。その何かはニワトリの頭に一撃を加え、地上に降り立つ。それは良く見ると、学生と同じ制服を着た少女であった。
他の学生達は黒髪、もしくはハーフ由来の茶髪や金髪であることが多い。だが、彼女の髪は透き通る様な水色をしていた。その髪は戦い易いようにか、短く切られている。ショートヘア自体、この学校では珍しい。
少女は両手にダガーナイフの様なものを持っていた。ナイフというより短い剣に近く、氷の結晶を削り出した様な剣を逆手で持っていた。
「あら、ようやく来ましたの。学園の面汚し、せめて役に立ってほしいですわね」
「中等部2年、凍空吹雪……血生臭いことがお好きなんでしょうかね」
自分を助けようとする人間を面汚し呼ばわりするとは、頭が足りない学生である。吹雪と呼ばれた少女はそれを気に止めず、ニワトリを睨んだ。
「ゴゲェッ!」
「くぅ……」
怒り狂ったニワトリに蹴り飛ばされた吹雪は校門に激突する。だが、それだけで死んだ執事と違い、ダメージを受けただけで済んだ。
「ゲッゴォ!」
「うわぁっ!」
羽からばらまかれる粉塵による爆発を受けても、やはり死なない。服が少し煤けるだけだ。周りに冷たい空気が流れていた。
「ふん!」
吹雪がニワトリに切り掛かる。両手の刃で次々にニワトリを切り裂く姿は、まるでダンスをしているようだった。しばらくするとニワトリは白い羽を血まみれにして倒れる。彼女は返り血を少し浴びてしまったが、あまり気にしていなかった。
「……」
吹雪は武器の血を適当な布で拭うと、腰に巻いたベルトの鞘に納めて学校に入る。その途中、冷や汗をかいている女性教諭に止められた。
「凍空さん、ちょっと職員室に来なさい」
凍空吹雪が暮らす世界は、少し異様だった。
(昔、この地球に隕石が落ちた。それが放った電磁波により、既存の生物は狂暴に進化した。それがクリーチャー。奴らは既存の銃火器に耐性がある。人類との生存競争に勝つための進化なのだから当然だ)
戦いで打った部分を冷やすため、吹雪は学校の水道で氷嚢に水を入れていた。右手を蛇口から出る水に触れさせると、忽ち右手に氷の結晶が精製されていく。
(そして進化はクリーチャーに留まらなかった、我々人間もまた……)
吹雪が行った様な事を、この時代の人間は出来るのだ。クリーチャーを進化させた隕石の電磁波は人間をも進化させた。身体強化と何か一つの特殊能力を、だいたいの人間は扱えるものだ。
身体強化は基本中の基本。だから吹雪は執事達の様に簡単には死ななかったし、校舎からも飛び降りれた。
吹雪が出来るのは水や水蒸気を凍らせること。一瞬で氷を作ることで、咄嗟の防御に使える。ニワトリの爆発に耐えたのも氷の壁があったから。
(力そのものはエンジンみたいなもの。それを発現するための燃料が『神力』)
吹雪がこうして知識を心の中で復唱する必要があるのには訳があった。作った氷嚢で打った右肩を冷やしながら教室を歩いていると、その理由が嫌でも目に入った。
ある教室からはフランス語が聞こえる。フランス語の授業だろう。そして、着物を着て歩く生徒達もいた。茶道や華道もこの学校では教えてある。ただ、この時勢に必要な、ある科目だけは教えられない。
(『防衛科』、それを教えてくれれば独学で勉強する必要もないのにな)
この時代、何処の国でもクリーチャーに対抗するための方法を学ぶ『防衛科』は必須科目となっている。クリーチャーというのは今までいがみ合っていた国が争いをやめて手を取り合うほど深刻な問題なのだ。この世界に国際問題は無い、そう言える時代である。
先ほど職員室で帰宅を命じられた吹雪は学校を出て帰路につく。制服が汚れたまま授業を受けさせてくれるほど、あの学園は体裁にルーズではない。体育に使うジャージくらいはあるのだが、吹雪も突然の敵襲に着替える余裕は無いのだ。
「行け! 追い立てろ!」
「掛かったな!」
街中では人間くらいに巨大なトカゲのクリーチャーと戦う学生達がいた。手の平から炎を出してトカゲを追い、もう一人が電気を出して痺れさせる。他の学生は腕を獣の様に変身させていた。
この連携などを防衛科では習うのだ。だが、それを教えない学校の多いこと多いこと。挙げ句、防衛科を習わせないことを売りにする学校もあった。雪原ヶ峰学院もその一つである。
吹雪がそこに通うのは家から近いというだけの理由。金持ちが集うこの近辺に『普通の学校』は無い。やはり防衛科が無いことを売りにする、職務放棄を自慢している怠け者の巣窟だ。
「……疲れた」
先ほどの戦いで疲弊していた吹雪は、途中町のコンビニに立ち寄った。ミニストップである。返り血を浴びた人間が入っても店員は動じず、ウェットティッシュを渡す。これがこの時代の、普通の人間の反応だ。
「お疲れ様です。こちらサービスです」
「……ありがとう」
これは返り血を拭くためのウェットティッシュだ。こいつが優れもので、時間が経った血でも簡単に落とせるのだ。返り血を落とすことに特化したウェットティッシュは最近人気で、お嬢様である吹雪にも中々手に入らないくらい品薄なのだ。
吹雪はコンビニで紙パックの紅茶と新聞を買った。クラスメイトはやたら高い茶葉の紅茶を持ち上げるが、吹雪はこちらもこちらで味があると評価していた。安いものをこき下ろせは通ぶれるわけではない。むしろ飽きない味付けを吹雪は好んでいた。
彼女は新聞を広げる。現在、目下の国際問題は宗教戦争でも国連常任理事国の対立でも、テロでもない。『日本の一部の学校が防衛科を教えない』ことだ。日本政府が頑張っていることは国際社会も重々承知しており、『日本政府カワイソス』と同情の声も絶えない。
問題は政府よりも教育機関なのだ。新聞では『海外の圧力に負ける弱腰政府』と批判が書き連ねられているが、クリーチャーが危険なのは事実。防衛科は国が保有する軍隊だけではクリーチャーから国民を守れないという、『数』の問題から導入されたのだ。
数の問題。そう、クリーチャーは数が多いのだ。常に誰かが襲われる危険があるため、軍隊では人手が足りない。
その爆発的な繁殖力から、草食のクリーチャーが増え過ぎて町を追われた人間さえいる。餌である草も電磁波で進化して異様に成長が早い。クリーチャーは常に乱獲しないと逆に増え過ぎてしまう。
他に、新聞には前から話題になっている事件が書かれていた。雪原ヶ峰学院の姉妹校、桜花学院を滅ぼしたという学生の写真と共に、その行動を批判する記事だった。この写真に写された『倉木闇人』という学生は腕を獣の様に変身させる能力がある。
彼の様な能力を解析して人工的にその力を再現する手術もあるのだとか。吹雪はもっと強くなりたかったが、そんなショッカーみたいな手術は願い下げであった。
(お父様にお土産でも買って行こう)
コンビニを出た吹雪は、手に紙袋を持っていた。コンビニで売ってる揚げ物は彼女の父親の大好物である。
金持ち達はクリーチャーの肉を食べたくないがために、金をかけて進化する前の牛や豚、魚などを飼育するプラントを建設した。吹雪の父親も生まれた時はその肉を食べていたのだが、『売ってるんだから食えないわけあるまい』とクリーチャーの肉を食べたところ、あまりの食べ応えにハマってしまった。
実際に肉の栄養価はクリーチャーの方が高い。これも神力とやらの影響か。神力は力を使うための燃料、それを溜め込んだ肉は確かに食べると力がつく。
吹雪は揚げ物が冷めないうちにと急いで帰宅した。父親も彼女がクリーチャーをデストローイして家に帰されるのには慣れっこだ。凍空家は武器の製造、販売する会社を経営している。
吹雪の自宅は閑静な住宅街にある。どの家も、広い庭があるような豪邸ではないが、狭さの中に豪華さを抱えた邸宅となっていた。さすがに日本は狭いから仕方ない。
「あれ……?」
その閑静な住宅街が異様に騒がしい。もしやクリーチャーかと吹雪は騒ぎの元に駆け付けた。意外にも騒ぎが起きていたのは自分の家だった。
(何が起きてるの?)
自分の家を囲んでいるのは、様々な学生服を着た集団。共通なのはただ一つ。腕章をしており、そこに『平和維持隊』と書かれていた。
「平和維持隊?」
「武器を売り捌く『凍空工業』、平和への罪で裁かせてもらう!」
平和維持隊を名乗る集団は吹雪の父親を連行していた。警察や自衛隊の部隊でそんな名前を吹雪は聞いたことがなかった。学生による私設部隊なのだろうか。
「お父様!」
「吹雪! 私とこいつらには構うな! それより、ニュースによると雪原ヶ峰学院にクリーチャーが向かっているらしい、それをなんとかしてくれ!」
何故、クリーチャーから人々を守るために武器を流通させていた父親が平和への罪とやらで連行されているのか、吹雪にはわからなかった。凍空工業の製造販売する武器は自衛隊や警察にも渡っており、国家のお墨付きまで貰っていたはずだ。ということはつまり、法律違反の類ではない。
「……どういうこと?」
「私はいい! 早くクリーチャーを!」
「くっ……!」
父親に促され、吹雪は学校に戻るべく走り出す。何がどういうことなのか彼女にはまるで解らなかった。平和維持隊の腕章をしている生徒の制服は、いずれも防衛科に反発している学校のものばかり。中には雪原ヶ峰学院の制服もいた様な気がしたのだが、今は構っている暇が無い。
(何がどうなっている?)
混乱した頭を抱えながら、吹雪は学校まで走る。身体強化の力を使えば車程度には速く走れるため、学校まではすぐだった。
「あれは!」
学校は火に包まれていた。壁は煉瓦、中身は鉄筋コンクリート造りの学校が燃えるなど、クリーチャーの仕業以外に有り得ない。クリーチャーの所業はあらゆる旧来の科学理論を超越する。
「敵は誰なんだ?」
吹雪は炎の激しい場所に飛び込んでいく。そこにクリーチャーがいるはずだ。学校には、夥しい数の執事や生徒の死体があった。全身が引き裂かれて内臓がこぼれ、見るに堪えない状況だ。肉を焼いた様な臭いも酷く、まともに呼吸出来ない。
汗が吹き出し、吹雪の頬を伝う。髪や衣服は張り付き、あまりいい気分ではない。
熱い空気に肌を炙られ、吹雪は体力を失っていた。この状況はサウナを全力疾走する様なものだ。だが、体育館に着くと目的のクリーチャーを見つけたため、休む暇無く戦いに入ることとなった。
「いた!」
体育館を震わせる咆哮。その主は2トントラックほど巨大な赤いライオン、『グレンジシ』だった。本来なら街中、それどころか海に囲まれて狭い日本列島には棲息しないクリーチャーである。
そいつが普通の学校の4倍は広い体育館の、舞台前にいた。吹雪は走ってグレンジシに近寄る。
(お父様はコイツが迫っていることを知っていた。ニュースで聞いたらしいな。ということは誰かが捕獲した個体が逃げ出したか)
右前足に付けられたタグから、吹雪はこのグレンジシが捕獲された個体であると読み取る。そのタグはよく見ると、凍空工業の工場に送られることを示すタグだった。
クリーチャーを倒すために吹雪などが使う武器はクリーチャーの素材で作られている。従来の武器が効かないクリーチャーに悩まされた人類はクリーチャーがクリーチャーを狩るシーンを見て、『もしやクリーチャーの素材で武器を作れば有効なのか?』と考えてクリーチャーの一部や隕石墜落以来、変質した金属から武器を作った。
吹雪の武器、『アイシクルダガー』は万年雪を内包した『アイシクル鉱石』から作られた。氷の力を増幅する力がある武器なのだ。
(クリーチャーの素材の中には死後数時間しか効果を持たないものもある。だから捕獲して加工屋まで輸送してから殺す場合があるのだが……)
グレンジシの鬣は炎を纏い、武器に使うと強力なものに仕上がる貴重な素材。ただしグレンジシが死ぬと3時間で効力を失い、武器に使ってもただの飾りにしかならない。だが効力を失う前に加工すれば、強い武器にできる。
「あっ!」
吹雪が思考を巡らせていると、グレンジシは炎を吐いてくる。その威力はニワトリの粉塵爆発なんかより数十倍強く、咄嗟に回避した彼女は熱風に煽られて体育館の壁に叩き付けられる。
回避の直前に、咄嗟に氷で作ったナイフを投げて刺したが、さほどダメージになっていなかった。
「う……あ……」
体育館の舞台から入口まで飛ばされ、その衝撃は身体強化を施した吹雪の意識が飛びかけるほど激しかった。周りの空気が熱くて、息が出来ないのだ。座り込んだ床も、ぶつけられた壁も焼ける様に熱い。体育館から出なければ戦いどころではなかった。
体育館には左右の壁に、外へ直通する扉がある。その扉を開けて外に出ようとする吹雪に、グレンジシの右手が迫る。それに思い切り張り倒され、鉄の扉を砕きながら彼女はグラウンドまで飛ばされていった。右手にぶつかった瞬間、ダガーで一撃入れたがグレンジシの傷は浅い。
「が、はっ!」
何度も地面で跳ねながら、吹雪はグラウンドの中央で止まった。全身の骨が軋み、立ち上がることが出来ない。グレンジシは横たわる吹雪に目掛けて猛スピードで突撃して来た。
グレンジシが飛び掛かる寸前、吹雪はグレンジシの下を潜って攻撃を避けた。寝転んだまま痛み耐え、転がっての回避だ。すれ違い様にグレンジシの腹部を攻撃してみせる。
「あぁっ!」
すぐに方向を切り替えしたグレンジシが吹雪を蹴り飛ばし、朝礼台にぶつけた。ダメージが限界を超えた彼女は歯を食いしばり、唇を震わせて痛みに耐える。立てるだけの気力は残されていない。グレンジシはゆっくり吹雪に近付き、顔を彼女に近付ける。
吹雪は自らが獲物になる、この瞬間を狙っていたのだ。
「ぐ……んぅ、せいっ!」
痛みを堪えながら体を動かし、ダガーをグレンジシの右目に突き刺した。刺さったことを確認すると、そのダガーに渾身の力を込める。
「うぐっ!」
目にダガーを刺されたグレンジシの咆哮は吹雪の鼓膜だけではなく、深手を負った身体を強く揺さ振った。それでも吹雪は力を弱めない。ダガーの先端が凍り付き、氷の刃を形成していく。にょきにょきと伸びる刃渡りはグレンジシの脳にまで突入、脳をシャーベット状に凍らせた。
その間もグレンジシは抵抗を続け、吹雪のか細い身体を鋭く長い爪で切り裂いていく。
「つぁっ……!」
制服が紅く染まり、吹雪の震える足を血が伝う。そこでやっとグレンジシは動きを止める。この狂暴なクリーチャーはようやく死んだのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
(グレンジシは日本に棲息してないし、逃げた時に危ないから捕獲禁止指定のクリーチャーだったはず。誰がこんなことを?)
吹雪は疲れ果て、地面にペたりと座り込む。グレンジシの熱が消え、冷たい風が彼女の火照った身体を癒す。もう立ち上がる気力も無かった。
血が止まらない。出血のせいで頭がぼんやりしていた。呼吸も肋が折れていたため、まともに出来なかった。それよりも、自分が教師に従って帰ったために救援が遅れたことを吹雪は悔やんだ。身体はもちろん、心も痛い。
「おやおや、今回の主犯はこいつかい?」
「……何?」
戦いを終えた吹雪に声をかける人間がいた。平和維持隊の腕章をしている、学ランの男子学生だった。
「私は平和維持隊隊長、二条ジョー! 凍空吹雪、このクリーチャーを放ったのは貴様か? マッチポンプも甚だしい」
(こいつは何を言っているんだ?)
吹雪の周りには幾人もの平和維持隊メンバーと、それを遠巻きに見る雪原ヶ峰学園の生徒達がいた。いつの間にか、自分はこの惨劇の犯人にされているらしい。
「わ、私は……」
「言い訳は聞かん。血生臭いことを目の前でやられて感謝されるはずもないのに、馬鹿な女だ。弱っていてちょうどいい、殺せ」
相手から殺気を感じた吹雪は痛みを無視して立ち上がる。二条ジョーの隣にいた生徒が剣を吹雪に振り下ろした。吹雪は二本のダガーで剣を受け止めようとしたが、軽く弾かれてしまう。その際、戦闘で傷んでいたダガーは折れてしまった。
「あっ……!」
吹雪の身体は左肩から右の脇腹にかけて切り裂かれた。ただ、この程度で悶えるほど吹雪の怪我はもう軽くない。
(こんな奴ら……怪我してなけりゃ)
吹雪は逃走を決めた。引き際を見抜ける優秀な戦士である。だが、相手は彼女の離脱を認めない。
「奴を始末しろ!」
「ハッ!」
二条ジョーの号令で隊員の一人が吹雪に電撃を浴びせた。大した威力ではないはずが、負傷した吹雪には十分な攻撃になる。
「うあぁぁっ! あ……うぅ」
身体が粉々に砕けそうな激痛が彼女を襲う。身体を抱きしめて痛みに耐えるが、吹雪の意識は遠退いていく。喉の奥からも喘ぎは出なくなり、そこで彼女の世界は暗転した。
あとがきのコーナー
級長「あ・と・が・き、始まるよ!」
先輩「お前のいる鎮守府とかヤダー」
級長「知らない人に言っておくと、あとがきで私と掛け合いする『先輩』は学園軍記スクールブラッド第一弾のプロローグでリョナられた挙げ句に死んだ人です。並木更の先輩だな」
先輩「開幕リョナとかホント勘弁しろよ毎回。被害に遭ってない女性陣って15級長とクラリスだけじゃない」
級長「弱いのが悪い。さて、今回は文字数の関係で前後編に別れますよっと。あ、あと先輩の名前募集中だから感想に書いといて」
先輩「露骨なコメ稼ぎ乙。だからいつまでも『小説家になろう』連載分にコメント付かないのよ」
級長「お前、今度出番用意するから期待してろよ(ゲス顔)」
先輩「必要なのは覚悟じゃない?」




