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学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
スクールブラッド第一万六号「桜花学院の乱」
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1.不審者

 私立桜花学院 保護者向けパンフレットの文面


 『私立桜花学院は完全なる子女教育を建学の精神として創立されました。礼儀正しく、何処に出しても恥ずかしくない淑女を育成する国内最大の教育機関です。

 父兄の皆さんがご心配される、何処の馬の骨とも解らぬ男と駆け落ちすることさえ、桜花学院では有り得ません。スタッフは教員、事務員用務員全員が女性です。男は徹底的に追い出しました。

 さらに、私の立場を最大限に利用し、違憲事項である防衛学科も本学院では行わずとも良いことにしました。大切なお嬢様を危険に晒すことはありません。

 この学院では防衛学科は行われませんが、私めの力を持ってすれば、闘学校の侵略すらありません』

 桜花学院理事長、桜花院咲花

 私立桜花学院 中等部教室


 「今日は、神力についてお話します」

 今日もまた、いつもと変わらない一日が終わろうとしていた。木曜日の六時間目は公民。現代社会の成り立ちを学ぶ。三年生の私達は社会の時間、公民なのだ。

 私は教室の椅子に座り、授業を聞いた。

 庶民はこの年齢になると高校受験で慌てるそうだ。だが、この桜花学院は幼稚園から小中高、果てには大学までの一貫校。エレベーター式に進学する私達は慌てる必要などない。

 だが、だからといって気を抜き、成績を落とすことがあってはならない。お父様やお母様は『女の子は成績を気にするな』というが、私もいずれ高貴な殿方の妻となる身。マナーだけでなく教養も必要だ。

 「昔、地球に隕石が落ちました。その隕石が放つ電磁波により、人類に目覚めたとされるものが神力です」

 だから、この授業も真面目に聞いて、内容を理解する。周りのクラスメイトも見た目は真面目に聞いているが、頭の中まではわからない。理解してる者はこの内何人だろうか。高い身分に胡座をかき、努力を怠ってはならない。

 「神力とは、人間全てに目覚めた力の総称です。この力を消費すれば、単純な筋力強化から火や電気を起こしたり様々なことができますが、何が得意かというのは人次第です」

 それが私、紅麗院霊歌のポリシー。高貴なことに怠け、能力も無いくせに庶民を見下してばかりいる成金共とは違う。庶民を見下すなら、庶民を越える教養を持て、ということだ。

 授業の内容は神力の基本的な性質に移る。私の神力はどうやら、電気を起こすことに適しているらしい。前にいる教師は、さらに神力でできることの例を挙げていく。

 この女教師のキンキン声は節操が無く、私は嫌いだ。

 「中には身体の一部を変身させる者もいます。が、そうした者は差別されています。当然でしょう」

 差別を肯定してしまった。差別を肯定というのは、五月蝿い団体が一番対象を攻撃しやすい事実。そうした面では一番やってはいけないことだ。倫理的にもダメだが。

 私はこのキンキン声に五十分耐えた。今は一月、卒業して高等部に進学してもこのキンキン声を聞く可能性はあるだろうし、名残惜しくもない。

 ようやく授業が終わる。ホームルームが終われば今日の学校は終わり。日に日に卒業は近くなる。キンキン声はさておき、この教室は名残惜しい。

 授業からホームルームまでのひと時、休憩をする。今のうちに荷物でもまとめておこう。

 現在、教室を散開する生徒達は全員女子。この桜花学院は女子高である。教師や事務員すら全員女性と、とにかく娘を男に触れさせたくない、という意思の下建学された学校。学生の頃から『駆け落ち』をする確率を潰し、政略結婚を確実に進めるための収容施設。

 私自身は自由と引き換えに外の世界から守られているので、それでも構わないと思う。外の世界には男だけじゃない。魔物もいる。

 魔物はもちろん比喩だけど、それに近いものならいる。さっき授業でも言ってたのだけど、隕石がこの地球に落ちたことで私達に神力が目覚めた。それと同時に、その隕石が放った電磁波で狂暴化して、攻撃的に進化した生物がいる。

 私達がクリーチャーと呼ぶそれは、至る所にいる。この塀に囲まれた桜花学院の外にも。

 「霊歌さん霊歌さん! あれが出ました!」

 思考に耽る私の耳に、クラスメイト達の声が届く。どうやら窓からクリーチャーが入ってきたらしい。私が教室を見ると、雷を帯びた雀が教室を飛び回っているのを確認できた。

 これはサンダーバードというクリーチャー。特定の種類を指す名称ではなく、雷に打たれたりして帯電をしている鳥全般を指す言葉だ。

 人間が触れると軽く失神するほどの電流を持つ。つまり、触れずに倒すしかない。だが、私にはその必要が無い。

 私は手を差し出し、神力で作る電気を手の平に起こす。雀は私の手に降りてきた。私は雀から電気を神力に変換して奪うと、そのまま教室の窓から逃がした。

 「さすが霊歌さんですわ」

 「予備学科いらずね」

 「殺さない優しさもありますもの」

 クラスメイトが私を称賛するが、こんなことすらできなくてどうするのだ、と私は思う。彼女達が見下す庶民ですら、サンダーバード程度は自分で対処できる。

 この学校では学習指導要領で定められた『神力の扱い方とクリーチャーから身を守るための防衛教科』を習わない。だから私は独学で神力の扱いを身につけたのだ。日本国憲法第九条に反するというのが学院の主張だが、自分の身も守れないのでは何の意味も無い。

 正直、神力の練習は楽しい。人体から電気を起こせるなんてまさに昔読んだ物語の様だ。できれば精神を電気体にして、体と分離させるのをしたい。優秀な電気の神力使いならできるらしい。私はできないけど。

 精神を電気体にすると、体から幽体離脱みたいに電気のシルエットが抜けて、肉体が動かなくなるそうだ。自分の精神は抜けたシルエットにあるらしい。夢が広がる。夢ばかりでは無い。これを使えば体が拘束されていても、その体を精神が抜けて助けを呼べる。地震などで建物に生き埋めにされた時にも、同様の方法で助けを呼べて便利だ。

 先程クラスメイトの言葉にあった予備学科とは、桜花学院にある学校の一つ。桜花学院に通いながら、途中で没落した家の子女は強制的に転入させられる、桜花学院唯一の戦闘機関。入学前に渡されるパンフレットとかには記載が無いけど、外での活動も多いから知れ渡っている。

 防衛教科を習わせない桜花学院がクリーチャーから学校を守るために創立した軍隊であり、防衛教科を重視する、所謂『闘学校』にヒケをとらない戦力を持つ。理事長は「自分の権力のおかげでクリーチャーが寄らない」なんて非科学的なことを言っているのだが。

 そのあと教師(もちろん女性)が現れ、ホームルームが始まる。教師は『予備学科のエース、鳳凰堂紅がソルジャーキャンドルというクリーチャーの捕獲に成功した』という話と『最近、反貧困団体が学校周辺で騒いでいる』との連絡をした。

 ホームルームが終わると、私は荷物をまとめて学校を出る。

 校舎を出て、グラウンドを尻目に校門まで行く。桜花学院の学び屋を出ても、決して桜花学院の外ではない。

 桜花学院は名家の令嬢を守るため、全寮制である。そればかりか、桜花学院周辺は塀に囲まれ、塀の中は小さな町になっている。

 塀の中で守りながら、ある程度の社会常識を身につけさせようという試みだ。私は煉瓦造りの町を歩き、CDショップを目指す。

 町には様々な店があるのだけれど、店員は全員女性。妙に徹底している。

 町にはアパレルショップもあるのだが、私は特に興味が無い。私は桜花学院の制服を気に入っているからだ。ブレザーの制服で、この季節はスカートが短いのが寒いけど、ニーソックスでもはけば問題無い。

 この町は家人の噂で聞く町と違う。車道と歩道の区別は無く、信号や標識すら無い。こんな町を歩く程度で社会一般のことがわかるだなんて、勘違いしてる人が多いのは嘆かわしい。

 私は町の中心部、噴水のある広場まで歩いてきた。ここまでくればCDショップはあと少しだ。毎日歩く道だけに、あまり感慨は無い。

 噴水広場の風景もお馴染み。特に思うところも無い。毎日見てるのだからな。

 「ん?」

 いや、毎日見るから微細な変化にも気付く。噴水の縁に何かいた。この学園にいてはならない存在がいた。

 男だ。髪が長いから一瞬気付かなかった。田舎の学校の制服として名高い、『学ラン』という黒い衣服を着ていなければ男だとは解らなかっただろう。あれを着るのは男だけだから。

 座って携帯プレイヤーを使い、音楽を聞いている。得体の知れない生き物だ。警戒を強める。

 「予備学科呼んだ方がいいかな?」

 私は辺りを見渡し、予備学科の生徒を探した。だが他の人間が、予備学科の生徒が町を歩くことをあまり快く思わないせいなのか、姿が見当たらない。制服を着て歩いてくれたら一発でわかるのに、予備学科の生徒は町を歩く時、制服を着ることを避ける。

 この二つの理由から、予備学科の生徒は頼れるのに見つけ難い。私が偏見抜きに予備学科を評価しようと努力するのは、かつての友人が家の没落と共に予備学科へ転入させられたせいもあるのだろう。友人の方から連絡を絶ってしまい、近況はわからない。

 「私がやるしかないわね」

 私は意を決して、男の始末に向かう。男の首には、来客ならかけておくべき来客証明書が無い。明らかな不法侵入者。

 「そこの者。来客証明書をお見せなさい」

 「ん?」

 私が声をかけると、男は顔を上げた。私の同い年なのだろうか。ともかく、目は半開きでボンヤリしている。私が思い描く男の凛々しい顔立ちとは違う。どちらかと言えば女に近い。

 「来客証明書?」

 「入る時に受付で貰いましたでしょう?」

 この反応は持ってないな。来客証明書は常に首から下げるよう、受付で渡された時に言われるはずだ。だが、この男は首に何も下げてない。

 「ああ、持ってない。下水道から入ってきたからな」

 男はあっけらかんと言った。下水道から侵入……? 下品な。

 「なら、とにかく予備学科か警備員を呼びます。大人しくしてなさい」

 私は神力で体に電気を起こし、男を威嚇する。この異変に気付いた大人が動き初めている頃だ。私はこの男を逃がさないようにする。

 電気を帯びるだけではダメだ。話でこの男の気を引こう。

 「私は紅麗院霊歌。貴方の名前は?」

 「ボクは倉木闇人、だ。名前は、闇に人で闇人」

 男の名前は倉木闇人。変わった名前。漢字まで教えてくれた。普段から聞かれるのだろうか、漢字。このボンヤリとした闇人という男、ボンヤリしてる割に隙が無い。

 予備学科の生徒と比べても、滲み出る神力は薄いけど。だけれど、なぜだかただ者ではない空気を感じた。

 「何の用でこの学校に?」

 「探し人を。鳳凰堂紅さんを探してます」

 用件を聞いた。闇人は予備学科のエース、紅さんを探していた。どうせ、無謀な挑戦者だろう。紅さんを倒して名前を売りたいだけ。

 でも、闇人は紅さんに勝てない。だって、紅さんは無謀な挑戦者が一人も来ないくらい強いのだ。強い人だと倒そうとする挑戦者がいるのだが、紅は倒そうという気を起こさせないくらい圧倒的なのだ。

 職員室で先生がそう、噂していた。間違いない。

 「自分がどれだけ強いと自信があっても、紅さんに挑むのはやめなさい。命を落とすだけよ」

 「?」

 一応警告はする。人が死ぬのはいい気分ではないからね。だが、闇人は納得してないみたいだ。闇人はプレイヤーをしまい、本格的に話す姿勢を見せた。足止めの効果は十分。

 「なるほど、紅さんは一応、この学校の最強ですか。でもボク、紅さんに挑戦ってわけじゃ……」

 「あらそう。なら、告白にでも来たのね?」

 闇人は挑戦であることを否定した。私は冗談で帰してみる。でも、これは可能性が薄い。あらゆる名家の令嬢を集めた桜花学院といえ、予備学科はほとんど外に知られてないからだ。

 知られていても、紅さんみたいなエースくらいがせいぜいだろうか。

 「それに近い」

 おや、闇人は告白目的みたいだった。目も反らしてる辺り図星か。まあ、紅さん、綺麗だものね。

 「それより、先程から騒がしくない?」

 「え?」

 闇人が話題を差し替えてきた。確かに騒がしいけど、それがどうしたというのだろうか。

 だが、にわかに喧騒は近づいて来る。広場に向かって何かが近づいているみたいだ。私が通ってきた道から聞こえる。

 私は振り返る。すると、黄色いTシャツを来た男が、私の通った道を走って来るではないか。

 おまけに肉の塊を抱えている。その後ろを、巨大な猿が追い掛ける。茶色でライオンみたいな鬣を持つ猿。たしか、『シシモンキー』だったか。

 成人男性ほどの背丈を持つ猿が三匹。あのTシャツの男がおびき寄せたんだ。シシモンキーは肉食だから、肉を見ると止まらない。

 現にシシモンキーは、予備学科生に並ぶ戦闘のプロであるはずの、女性警備員を次々に薙ぎ払う。手にした拳銃を撃つことさえできない。

 「どこから入ったの?」

 学校の入口は予備学科の生徒が守ってる。Tシャツの男は来客証明書を持っていない。だから、別の侵入ルートがあるに違いない。多分、闇人と同じく下水道からなのだろう。

 って、ことは……。

 「貴方、もしかしてコイツらとグル……」

 私は闇人がTシャツの男とグルだと思い、彼を見た。だけど、闇人はいなかった。私が再び振り向くと、闇人は拳をシシモンキーの一匹に減り込ませていた。

 鈍い音がして、シシモンキーが崩れ落ちる。まさか、あのボンヤリした闇人がここまで強いとは。

 「神力による筋力強化。基本すら出来ない警備員を雇ったのか?」

 闇人は口を開く。あの速度とパワーは、鍛練なんかで発揮できるようにはならない。大人ならまだしも、中学生の私や闇人は尚更。

 闇人がしたのは神力を利用した筋力強化。私もできるけど、ここまでじゃない。せいぜい、少し楽に持久走ができるくらいだ。私の神力が電気を起こすことに特化してるせいでもあるけど。

 闇人の神力は筋力強化に適した性質を持ってるようだ。その証拠に、二匹のシシモンキーが拳を闇人に突き出したのだが、闇人はそれを片腕ずつで止めた。

 そして、掴んだシシモンキーの腕を捻る。どういう原理なのか、シシモンキーは腕を捻られると姿勢を崩して持ち上がり、地面に倒れた。闇人はさらに、二匹のシシモンキーの頭を蹴り飛ばす。

 シシモンキーの頭は吹き飛び、体と離れた。こうして三匹のシシモンキーは絶命した。一匹目は頭に拳を受けた時点で命を落としていたのだろう。

 「貴様!」

 Tシャツの男が銃を手に闇人を狙う。そして発砲。だが、闇人は弾丸を掴み、それをありえない速度で投げ返す。弾が見えない。

 「うぐっ!」

 Tシャツの男は頭に弾丸を命中させられて倒れた。多分、命はない。

 「終了っと」

 あれだけのことをしたのに、闇人は息を切らしていない。いつものボンヤリした表情すら変わらない。こんな人間がいるのだろうか。

 「このTシャツ……」

 闇人は早速、男のTシャツに興味を示した。黄色いTシャツには、『貧困を無くそう』と英語で書かれている。

 「先生が話していた、反貧困団体?」

 「ボクが学校に入る前に入口で騒いでたね」

 闇人も、この団体が騒いでいたところを見ていた。

 「富裕層が通う学校を攻撃したところで解決にはならないでしょうに。『教育より寄付を』って、寄付は強制するものじゃない」

 闇人はやれやれと首を横に振って言った。確かに彼の言う通りだ。ただ、私も財を鼻にかけるなら、無用なブランド集めより寄付の大きさを競った方がいいと思う。イギリスとかでは寄付が富裕層のステータスだと聞くのだし。

 しかし、私の思考を途切れさせた轟音があった。広場の四方八方がシシモンキーに囲われていたのだ。道や店舗の上まで、シシモンキーが集まる。

 「あ、雌のシシモンキーは死ぬとフェロモンを出して雄のシシモンキーを呼ぶんだった」

 闇人は今更手を叩いて思い出す。凄く今更。最初に気づいてほしかった。

 「ど、どうするの?」

 「さあどうしましょ」

 私が聞くと、闇人は他人事の様に言う。しかし命の危機には変わらない。

 私の頭に、これまでの人生でやり残したことが浮かぶ。何より、私が死ねば我が家が絶える。それが一番嫌だった。自分が末代だなんて、絶対に嫌。

 「おや?」

 私が死を覚悟した瞬間、闇人が何かを見つけた様な声を出す。そして、シシモンキー達に青い炎が降り注ぐ。

 「青い炎……もしかして、紅さん?」

 私はその青い炎を発する人物を知っている。予備学科のエース、鳳凰堂紅さん。私達の目の前に、紅さんは青い炎を纏って降り立つ。

 予備学科の制服は軍服に似たジャケットに赤いネクタイ、戦闘には似合わない短いプリーツスカート。そしてブーツに軍帽。身体のラインはスラリとして、脚は黒いタイツで隠れているけどシルエットで綺麗だとわかる。

 紅さんは背中まである赤毛をなびかせ、シシモンキーの全滅を確認する。シシモンキーは焼け焦げて、その辺りに散らばっていた。

 「危ないとこだったね。でももう大丈夫」

 紅さんは私の方を向き直る。私は学校の広報などで彼女の顔と名前を知っている。同い年と思えないくらい活躍していることも。ただ、予備学科生を正当に評価する人は少ない。

 彼女達がいなければ、血気盛んな闘学校の生徒達が大挙して押し寄せ、瞬く間に桜花学院は崩壊するに違いないのに。

 これだけ設備のある学校は珍しいから、狙われる恐れはある。予備学科があるから桜花学院は平和なのだ。

 その予備学科のエースが私の目の前にいた。そして、私を見てくれている。

 「大丈夫? 神力使って疲れてないか? 私が分けてやろうか?」

 「いえ、大丈夫です!」

 紅さんはそんなことを私に言う。そうだ、神力は受け渡しが出来るんだ。でも、予備学科のエースの神力など恐れ多くて使えない。

 そして、紅さんは次に闇人に目を付ける。男の上に来客証明書を首から下げていないから、当たり前だ。

 「で、そこの男の子は何?」

 「あ、突き出そうと思って探してたんです」

 私は紅さんに聞かれて、闇人の身柄を突き出す。

 「おう?」

 闇人は未だにボンヤリしており、紅さんに手錠をかけられても反応が薄かった。

 「あ、紅さん。貴女に話すことが……」

 紅さんは闇人の言葉を無視して連行する。ボンヤリしてるから無視されるのだ。話したいことがあればさっさと話すべき。

 この日はそれだけで済んだ。

 秘密文書

 どうやら予備学科生に一人、愚鈍なことに犠牲者が出たようだ。この件が外に知れると私の信用に関わる。いつも通り隠し通せ。

 外部ボランティアとして地下街の掃除に出掛けた連中も帰ってこない。大方死んだのだろうが、隠れてクーデターの機会を伺っているやもしれない。予備学科生の動きに警戒しろ。

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