小話 第二ボタンの行方
15級長図鑑
7.『狙撃手』エルフィ・ラタトクス
身長 170cm 体重 54kg
銃弾に神力を込めて戦う。教室からノートを取りながら敵を撃つのは朝飯前。日系ドイツ人。愛用する銃はドイツ製が多い。
性格はサバサバしていてガサツ。だけど銃を扱う関係で身の回りは整理が行き届いている。自分が女性であること、容姿端麗な美少女であることを理解してないようで、非常に無防備な姿を家などで晒す機会も多い。四季がその姿をよく目にするため、お陰で宵闇夢憂に勝てたとか。
ハクロウ高校 正門前
ハクロウ高校の正門前には『二度桜』という珍しいクリーチャーが植えられている。これは地元の人々がクリーチャーを退治してくれるハクロウ高校に感謝して植えたものだ。二月上旬の卒業式と四月上旬の入学式に二回咲く、奇妙な桜だ。
「入学したと思ったらもう卒業か」
「早いね。日本の諺で『光陰矢の如し』だっけ?」
制服を着て、桜を眺めてる男女が一組。15級長『武器商人』上杉四季と『狙撃手』エルフィ・ラタトクスだ。四季はいつも制服を着ているが、エルフィが制服を着ているのは珍しい。
「まさか、あんたがここまで生き残るとはね」
「びっくりだよ。小学生の頃から考えりゃな」
エルフィは長い黒髪をかき上げ、五体満足で生存している四季を見た。彼女が四季と出会った時、始めは戦えないから日本のガイド役にするだけのつもりだった。それが今や、何をまかり間違ったのか自分と並ぶ強者だ。
エルフィが日本に来たのは武者修業のため。当時の日本は『インスタントパワー事件』などによって、首都すら某救世主伝説の世紀末さながらといった混乱を極めた。よって、修業に相応しいと彼女の両親がラタトクス家の掟に従って旅に出した。そこで、四季と出会う。
四季はその頃、『インスタントパワー事件』で家族を失い、身寄りも無かった。エルフィと協力して事件を解決した後は彼女のガイドとして旅に同行した。その旅で『武器商人』としての才能が目覚めたのだ。
「まさか大学も同じとはなー」
「腐れに腐れた腐れ縁ね、きっと」
結局、四季とエルフィは同じレイメイ大学へ行くことになった。奇妙な縁で、四季はエルフィの両親の養子になった。さすがに養父母にまで日本のクソ高い大学の学費を出させるわけにもいかず、四季は大学自治隊に学費免除狙いで入隊した。
「お二人さん。まるで恋人ね」
「な、いやいやいくらシキでも娘はやれんな」
その両親は卒業式に参加して、二人の様子を今は遠巻きに見ている。ガタイのいい父親とエルフィに似て美人な母親だ。父親が黒髪で母親はブロンドなので、エルフィは髪色こそ父親に寄ったが母親似なのだろう。
二人は娘を影ながら支えた四季をラタトクス一族として認め、養子にした。今や実の息子も同然である。
「しかしな、こういう日本のイベントでは女が男の第二ボタンを狙って殺し合うと聞いたのだが?」
「聞きましたが……」
エルフィの両親は辺りを見渡して第二ボタン争奪の現場を探す。卒業式に殺し合いなど冗談ではないのだが、二人の頭ではなるべく殺伐と話が盛られていく傾向にある。
その瞬間、校庭から爆発音が聞こえた。二人はウキウキしながら四季とエルフィに近寄った
「おー、やってるやってる」
「さ、貴方達も参加しなさい」
「「なんで?」」
四季とエルフィは同時にツッコミを入れる。ラタトクス一族が戦闘民族と言われる背景には、こうした好戦的な性格がある。エルフィは銃を使う戦闘スタイルから、残弾数と相談しながら戦うので幸いにも考え無しに戦いをするタイプには成長しなかった。
「命短し恋せよ乙女、貴女にだって一方的に好きな男子の一人や二人や三人いるはずよエルフィ。第二ボタンは力ずくで手にしなさい」
「それじゃあ片思いな挙げ句に三股だよお母さん?」
エルフィの叫びは尤もである。別にエルフィは好きな男子がいるわけでは無かったりするので、第二ボタンとかどうでもいいと思っていた。
「シキ、お前のとこに女子も男子も来ないが?」
「俺は男子が来るほどいい男じゃないですよお義父さん。つなぎ着て公園のベンチにいればいいんですかね?」
父親の言葉通りなら四季は男色家どころか二刀流の使い手だ。
「大変だ! 公立四天王が攻めてきたぞ!」
「馬鹿な! あれは全員殺したはず!」
生徒の報告を聞いて四季は爆発音が響いた辺りに急ぐ。校庭へはすぐ着いた。そこにいたのはピンク色の髪を伸ばした美少女、『春色の夢魔』宵闇夢憂がいた。薄手のチャイナドレスを纏う姿は、まさに四季が殺した時のものだ。
「生きていたのか!」
「いいえ、確かに宵闇夢憂は死んだわ。私はその『後続』よ。何故夢憂はあれだけの力を持ち得たと思う?」
「?」
夢憂の言葉を聞いた四季は意味がわからなかった。夢憂は他の人間より強い力を持っていた。本来不可能なくらいに。大体の人間は身体強化と何か一つ、炎を出したり電気を発生させる程度しか神力による力を持てない。だが、夢憂はあれもこれもと力を持っていた。
「冥土の土産に教えてあげる」
「その必要はない」
夢憂が理由を語りながら四季に迫ろうとした瞬間、目の前に黒い影が現れた。銀髪を揺らし、黒基調のセーラー服を纏う姿。夢憂の所属する幻夢高校の『色の剣軍』の一員だ。
彼女は右目を黒い眼帯で覆い、残った左目を金色にぎらつかせている。手にした刀の刃は黒い。
「なっ!」
夢憂が反応する時間もなく、その影は彼女の傍を通り過ぎた。そして、夢憂は突然切り裂かれる。
「っ……!」
喉と身体を裂かれ、血を吹出しながら夢憂はふらつく。背後に回った影は、後ろから彼女の胸を貫いた。
「ぎぃっ!」
刀を抜いて、そのまま夢憂の首を切断する。影は刀を収めて四季の下に駆け寄った。
「紗夜!」
影の主は柊紗夜。四季が夢憂と戦った事件で出会った少女だ。彼女は四季に向き直る。
「四季、卒業おめでとう」
「お、おう……」
紗夜は素直なお祝いの言葉を掛ける。しかし、出会った時より明らかに強くなってる紗夜に四季は驚いた。出会った時は、紗夜は夢憂に負けて傷だらけだったはず。
「この夢憂は?」
「資料を調べたら、夢憂はどうやら人工的に生み出されたみたいなの。だからコピーも容易ってわけ。レジスタンスの人が教えてくれた」
「なるほど」
生き返った夢憂に関する疑問はレジスタンスの情報で理解できた。だが紗夜は夢憂を意に介さず、四季にあることを言い放つ。
「第二ボタン下さい。上杉先輩」
「え? いいけど」
四季は大人しくブレザーの第二ボタンを渡す。今の紗夜は自分と互角かそれ以上の力がある。マジの奪い合いになったら互いに無事ではいられないだろう。
彼女はハクロウ高校に入る予定と聞いた。四季は自分が去ったハクロウ高校もまた、末恐ろしいものになるだろうと想像して身震いするのであった。
宵闇夢憂は人工的に作られた? その背景には四季とエルフィが出会った『インスタントパワー事件』があった!
次回、学園軍記スクールブラッド。『即効、簡潔すぐ全開! インスタントパワー事件』。お楽しみに!




