5.試験本番
15級長『武器商人』上杉四季 所有武器リスト
太刀:鬼神斬魔刀
鎖:拘束の鎖
ピアノ線:ストリングスの手指
ククリ:カゼアナグマのククリ
ロングソード:セイブザクイーン
ロングソード:プリンセスガードナー
槍:サンダンスランス
鎖:凌辱の首輪←NEW
刀:白雨←NEW
刀:黒牙←NEW
名古屋 レイメイ大学 校門前
名古屋市は愛知県の県庁所在地だが、一時期はクリーチャーの繁殖で危機的状況に陥ったことがある。だが、現在は見事に復興している。しかしながら、かつての地下街など未だクリーチャーの巣窟になっている場所も多い。
私立レイメイ大学は、かつては愛知県有数の女子大だった。だがそのうち時代の流れに左右されて共学となった。その校舎はハクロウ高校と正反対に『さすが私立』という綺麗なものだった。ただ単純に闘学校の高校では教員連によって補助金を切られまくる私立と補助金ウマーしてる公立で逆転現象が起きてるだけかもしれないが。
「緊張してきた」
「何ですかそれ?」
四季はいつもの制服に二本の剣を背負い、ベルトに白雨と黒牙を差していた。四季がどれだけ武器を持ってるか、紗夜にはわからなくなってきた。
「レジスタンスによると、教員連は自分達の忠告を聞かずに『大学自治隊』を組織し、今日その自治隊を選考するAO入試を行うレイメイ大学を襲撃するそうです」
「クリーチャーのみならず外部の敵から『大学の自治』を守ることが余程気に入らないんだな。介入する気満々じゃないか」
四季は教員連の方針に呆れた。自分達が思い通りにできないから潰してしまえということだ。本来、防衛科に反対してたのは曲がりなりにも生徒のためだったのに、どうしてこうなった。
「とにかく、まだ万全じゃないから無理するなよ。これ程刀と相性のいい人間は滅多にいないんだからな。お前がいないと死刃舞の本気を後20年は見れない」
「わかりました」
相変わらず武器本意で話を進める四季だが、紗夜にはこれくらいがちょうどいい。勉強が苦手で、皆に置いてかれたくない一心でそこそこ得意な防衛科に励んだ紗夜だが、何時しか誰よりも強くなっていた。前までは誰からも注目されなかったが、いきなり注目され始めたので紗夜も戸惑った。人はその人の能力で見る目を変える。
だが、四季は始めから紗夜を見ていない。死刃舞とセット程度にしか捉えてない。見てるようで見ていない。この微妙な距離感が心地好かった。
「じゃ、行ってくる」
四季はスタスタと大学に入った。紗夜もそれを見送る。だが、すぐに大学の校舎が爆発して辺りがパニックになる。
「何!」
「ええっ?」
四季は周りに気を配り、紗夜は一瞬遅れながらも刀に手をかける。すると、何と無く後ろを振り向いて斬りたくなった。
「あれ?」
後ろには武器を持った女子高生がおり、背後から紗夜を狙っていた。それを彼女が見事返り討ちにしたのだ。
「聞こえたか、武器の声」
「これが?」
紗夜は始めて武器の声を聞いた。本能に任せて動くこの感じが、その声なのか。先程の感覚を思い起こし、紗夜は目を閉じて無心になる。
刀から何かが流れて来て、力が湧いてくる。少し残っていた傷の痛みも和らぐ。紗夜が目を開けると、銃を構えた集団が既に発砲していた。だが、その銃弾は遅い。紗夜自身にはわからないことだが、彼女の瞳は金色に輝いている。
「見える!」
「来たか! 極大な身体強化だ!」
銃弾を刀で弾きながら集団に走る紗夜。四季は死刃舞の本気に興奮気味だ。集団の持つ銃はアサルトライフルだが、それを乱射したとこで紗夜には当たらない。彼女一人に的を絞ることで銃弾が一点に集中し、回避がかえって容易になるのだ。
「今だ!」
集団に踏み込み、紗夜は全員を切り捨てる。そういえば人を斬ったのは始めてだと彼女は思い出すが、特に恐怖も罪悪感も何も感じてはいなかった。
紗夜が刀を鞘に収めると、遅かった時間の流れが元に戻る。銃を構えている集団は幻夢高校の『喰の銃軍』だと、彼女達の着る機動隊みたいな服で理解する。クリーチャーの素材で出来た防具を付けていたはずだが、それすら簡単に切り裂いた。
「っ、傷が……」
だが、あまりに力が強すぎて紗夜は傷が開いてしまう。包帯の所々に血が滲んでいた。
四季は何を取り出そうとしたのか、財布を取り出した。その財布がマジックテープ式だったのには意味があるのだろうか。
「傷が開いたか。お前はバスに乗って周囲で警備してるレジスタンスと合流して、あとは俺に任せろー」
「やめて!」
バリバリと音を立てて財布を開いた四季は、紗夜にバス代であろう小銭を渡す。
「名古屋駅に行けばレジスタンスがいる。そこまで行けるな?」
「あ、はい。ごめんなさい、役に立てなくて……」
「いいからいいから。喰の銃軍全滅したし」
紗夜はそのまま大学付近から離脱する。覚束ない足取りながら、何とかバス停まで辿り着いてバスに乗る紗夜を見届けた四季は大学へ突入する。
広い大学だが、四季はオープンキャンパスに来たことがあったため、初見ではない。その時は長久手キャンパスに来たのだが、試験会場は星ヶ丘キャンパス。レイメイ大学には二つのキャンパスがあり、学科で別れている。それでも、オープンキャンパスで貰った両方のキャンパスが書かれた地図は有効だ。
四季は地図を見ながら、試験会場を探す。別にそんなことしなくても案内の看板が出ているが、どうも地図にメモした試験会場の位置と案内の看板が指すルートの方向が噛み合わない気がした。試験会場があるはずの建物から離れるように看板が指示しているのだ。
「まずは試験会場。妨害なら受験生を狙うはずだ」
四季は建物に入り、階段を上って三階の試験会場に着いた。案内の看板は何処にもなかった。
「やれやれ、封鎖とかナンセンスだな」
会場は公立闘学校のメンバーに封鎖されていたので、強行突破を試みた四季は背負った剣に手をかける。だが、会場である教室の扉が破壊されて受験生達が出てきた。
「ふざけんな!」
「今日がどんな日かわかってんだろうな!」
「おいこの制服うちの学校じゃねーか!」
「母校の恥さらしが!」
受験生達は怒号を散らしながら封鎖してたメンバーをフルボッコにする。出てきた受験生はごく一部で、四季が教室に入って確認すると、まだ受験生は残っていた。
「もしかして助けに来た? その必要は無いぜ通常の三倍さんよ!」
学ランを着た受験生が四季に話掛ける。この生徒がかなり『できる』と、四季は彼が担ぐ身長ほどある大剣との相性から判断した。どうやら何かの骨で出来てるようだ。
「何だこの人数。去年の人数より絶対多いだろこれ」
「レイメイ大学はこの辺じゃネームバリューあるし、俺とお前が受ける『クリエイティブ学科』はその中では偏差値も低めだしな。それで合格出来たらラッキーだし『大学自治隊』に入隊出来たら奨学金も貰えてさらにラッキーだからな」
去年の受験者数より明らかに多い人数が教室にいるのだが、ほぼ無抵抗だったところを見ると大剣使いの言う通りかもしれない。大学自治隊になるくらいなら会場を占拠していた奴らくらい倒してほしいものだ。
「なんか罠っぽいもんがあったからそっち行ってみるよ。他に占拠されてる場所があったら頼む」
「わかった」
四季は大剣使いと別れ、看板の誘導に従って移動してみることにした。何らかの罠なら、必ず敵が近くに潜んでいる可能性がある。それを倒しに行くのだ。四季は看板のあった所まで戻り、看板の矢印を辿る。
「何だ? 運動部のクラブハウス? 水音が聞こえるな」
四季が着いたのは運動部のクラブハウス。シャワーのものと見られる水音が、武器の力で強化された四季の耳に聞こえていた。運動部のクラブハウスならシャワーくらいあるだろう。というか、このハウスは一般的なバラックの様なクラブハウスではなく普通に建築物である。さすが私立。
「誰かいるのか。逃げ遅れたなら助けるか」
四季はクラブハウスへ潜入してみることにした。
名古屋市路上 バス内部
紗夜はバスに乗り、名古屋駅まで行ってレジスタンスと合流することにした。愛知県は教員連の影響が比較的強い地域が多いので、武装していない人が道中目立つ。
「はあっ…私、役立たずね……」
割と人がたくさん乗ってるバスの一番奥の座席に座り、紗夜はうなだれる。仲間を助けてくれた四季の助けになりたくて、無理について来たけど結局足手まといだった。それで自己嫌悪の真っ最中だったのである。
(せっかく死刃舞なんていい刀持ってるのに……死刃舞は何で私なんか認めたんだろ?)
彼女は非常口と書かれた窓から風景を眺め、刀に手をかける。この柄が吸い付く心地好い感覚も、死刃舞が紗夜を認めた証拠である。だが、彼女自身は死刃舞に認められた理由がわからないでいた。
「何で私なんか……」
紗夜は死刃舞に語り掛ける。自分は四季の様に武器と会話出来ない。四季は武器と話せる力を才能とは呼んでないが、それは謙遜であると感じていた。武器と話せるのは十分な才能だ。
駄目元で紗夜は死刃舞に手を置いて目をつぶる。こうすれば、何か聞こえるだろうか。
彼女の瞼には死刃舞の素材となったクリーチャーの住み処なのだろうか、樹海の光景が広がっている。光景の動きから察するに、木から木へと飛び移る身軽なクリーチャーなのか。
ふと、紗夜はバスに接近する『何か』に気が付いた。無意識に紗夜は非常口と書かれた窓を割って外に出る。自分でも何をしているかわからなかった。
その瞬間何かが直撃して、バスが吹き飛んだ。
「あうっ!」
外に飛び出した紗夜はコンクリートの地面に叩き付けられる。本来なら傷口が開いた身体には耐え難いダメージだったが、死刃舞の身体強化が作用してダメージを抑えてくれた。
場所はビルが立ち並ぶ、名古屋駅周辺。吹き飛んだバスはビルにぶつかり爆発、辺りは地獄絵図と化した。
「うああっ…!」
爆発に煽られた紗夜は飛ばされ、バスが直撃したビルの向かいにあるビルにぶつかる。バスには彼女以外にも多くの人が乗っていたが、全員死んだ。さすがに身体強化でダメージを軽減していても、あれでは死ぬ。
「な…何が……」
紗夜は呆然とするしかなかった。いきなり人が死んだ。それもたくさん。自分に武器を向けた相手を自分が殺した、これなら紗夜も納得できた。それが戦いだ。だが、今は武装していない人間が一方的に殺されている。
「生きていたか! 私立闘学校に魂を売り渡した裏切り者め!」
「っ!」
呆然としていた紗夜の目の前に現れたのは、学ランを着た男子高校生。右の拳に炎が燈っている。紗夜は燃えるバスの残骸を見直し、クレーターらしき跡が付いてることを確認した。どう考えても、こいつがバスを殴り飛ばしたに違いない。
「あんたが……バスを?」
「ああ。お前が乗っていたから犠牲が出た。一般人を巻き込む卑劣な奴はこの公立四天王『破邪正拳』央田心史が成敗してくれる!」
学ランの男子高校生、央田は自らバスを破壊したことを認めた。それも、あれだけ無関係な人を巻き込みながら全ての責任を紗夜になすりつけるウルトラCを決めてみせる。
「あんたが…あんたがぁぁぁあああっ!」
紗夜は怒りに震え、刀を抜く。死刃舞も後押ししてくれてるのか、傷の痛みが薄らぐ。身体も軽く、身体強化の恩恵が感じられる。
「許さないっ! 絶対!」
央田も反応できない速度で迫る紗夜。残された左の瞳は金色に光る。だが、刃は央田に届かない。
「ぐあっ!」
「危ない危ない。みんな、助かった!」
三人の男子高校生と一人の女子高生が拳を紗夜の身体に減り込ませていた。紗夜は死刃舞を取り落とし、崩れ堕ちる。
「くっ……卑怯者…」
「これは卑怯ではない。仲間である『四聖獣』との連携だ。一般人の巻き添えを気にして俺達が戦い難い場所にいる君こそ卑怯だ」
紗夜に抵抗の手段は無くなっていた。傷が開いて、出血も激しく動くことが出来ない。元々が満身創痍で傷口も既に開いていた。央田だけなら何とかなったかもしれないが、今の彼女に5対1の戦いは無理だ。
「さあ終わりだ! 正義の5重奏を喰らえ!」
「ぐぅ……」
央田に蹴り上げられ、紗夜の身体が空高く舞う。央田と四聖獣はビルとビルの間を飛び回り、紗夜に攻撃を加えていく。
「あぐっ、う、ああ、がっ!」
紗夜は絶え間無い攻撃に晒される。死刃舞も無いので反撃が出来ない。
(ここで…私は死ぬの?)
彼女は自分の死を確信した。何度も死の淵から帰ってきたが、全て自分の力ではない。雪山の時は死刃舞に助けられ、ハクロウ高校では闇人に救われた。
(結局自分じゃ何もできないんだ……。私、生きてても意味無いのかな?)
紗夜は自分の無力さを嘆いて目を閉じる。自分で何も出来ない、生きていても誰かに迷惑を掛ける自分が恨めしかった。
「もう……死んじゃおっか」
紗夜が呟いた瞬間、痛みが止んだ。死んだのか、彼女はそう感じた。だが、フワリと自分を受け止めるものがあった。
「死んじゃダメだよ。ボクが悲しい」
声が聞こえ、紗夜が目を開くと彼女は闇人に抱き抱えられていた。闇人は着ていないはずだが、何故こんな場所にいるのだろうか。紗夜にはわからない。
「闇……人さん…?」
「来ちゃった」
闇人は丁寧に敷いた布団に紗夜を寝かせる。ここは一応路上である。
「倉木闇人! 多くの人間を一方的に虐殺する化け物め!」
「ボクが化け物なら、キミ達は魔王だね」
突然現れた強敵に、地上へ下りた央田は焦る。今まで一方的に攻撃出来た状況から一転、間違いなく死ぬ状況になった。同じく、央田より離れた位置で地上に下りた四聖獣も戸惑う。
闇人の敵対は、死を意味すると言われている。穏やかな闇人を敵対させるほど怒らせることは滅多に無いので、央田も気にしてなかったのだ。
「流石に闇人でも、俺達5人なら出来る! やるぞ!」
何とか自分を奮い立たせて四聖獣と闇人に立ち向かおうとする央田。しかし、制服の袖を捲った闇人の右腕は既に変身していた。刺の付いた、腕本来の太さより一回り太い鞭だ。刺が無い場所は黒い毛で覆われ、何かの尻尾に見える。
「よくも紗夜さんを傷付けたね。赦さないよ」
闇人がその鞭を振るうと、刺が4本飛ぶ。その刺は四聖獣を貫き、燃えるバスの残骸へ4人を突き刺した。刺は銛くらいのサイズがある、かなり大きなものだ。
「ぎゃああっ!」
「熱いぃぃあ!」
「いやあぁああ!」
「助けてくれ!」
バスはまだメラメラと燃え、四人を焼くのには十分だった。神力の作用で炎への抵抗力があるはずの四人が串焼きにされる光景は、央田に衝撃を与えた。
「へ……?」
「助けに行かないのか? ウィップフィストの刺は神力の流れすら止める楔、早く抜かないと串焼きになる」
ぼんやりから打って変わり、威圧感のある闇人を見た央田は堪らず、逃げる。さっきまで普通に話していた仲間が生きたまま串焼きになどされたら冷静でいられなくなるのは当たり前だ。
「逃げるなよ。仲間は見殺しかい? プロテクトフィスト」
闇人は両腕を更に変化させる。普段の腕より二倍は大きな腕で、黒いアーマーの様なものが付いている。アーマーはゴツゴツしており、拳は手指など無く殴るためだけにハンマーみたいな形をしている。
「紗夜さん。誰かに助けてもらうことは悪くないよ。そして、無力でもいい。俺はあんたが生きて、傍にいてくれればそれで十分だ。四季も紗夜さんが死刃舞といるだけで満足だし、更さんもあんたが帰って来てくれればそれでいいんだよ。誰もあんたに偉業を達成することなんて望んでない」
寝かした紗夜に闇人は語り掛ける。逃げる央田は闇人を振り返り、様子を見ていた。逃げるチャンスなのかを諮りかねているのだ。
「だから、人は生きてるだけでいい。何も出来なくても、明日さえ迎えれば上出来だ」
闇人は央田へ向かって走る。もしかしたら彼は、紗夜が自分の無力さを嘆いていたのに気付いたのかもしれない。ぼんやりしてる割には人をよく見ている。
「そしてあんたに明日は無い」
「ひぃっ!」
全力で逃げる央田に闇人は追い付く。重量は腕のせいで闇人の方が重いはずだが、身体強化のレベルが違った。
「死ねよ化け物!」
央田は右腕に炎を燈らせて、神力による身体強化全開で闇人に殴り掛かる。闇人は右腕でそれを防ぐ。鈍い音がして、央田の右腕の関節じゃない所が折れ曲がる。
「アアアアアアアアアアアアアアアア!」
「プロテクトフィストを甘く見たな」
闇人のアーマーフィストはこの世のものとは思えないくらい、恐ろしい硬度を誇った。しかも、熱が篭って熱い。アーマーが赤く白熱していた。央田は直ぐに闇人と距離を取り、近くにあった車を左手で投げる。
「自分の体温すら遮断してしまうのが弱点のプロテクトフィストにはこういう使い方もある」
闇人はそれを左腕で受け止める。車が拳にぶつかる直前、車体が溶けて闇人の拳がズブズブと埋まった。熱が逃げられず、腕自体がかなりの高温なのだ。
「溶接! 車パンチ!」
「ちょっとまぶっ!」
車を左腕に引っ付けたまま闇人は央田を殴る。高温と硬度のハイブリットが高い破壊力を産むプロテクトフィスト。央田は幸いにもそのプロテクトフィストで直接殴られずに済んだのだ。
「このクロウフィストでトドメだ」
闇人は両腕を獣の様な爪に変化させた。これこそ闇人の定番、鉄板、十八番、『クロウフィスト』。闇人が一番最初に見つけた変型点でもある。
「ギニャアアアァァァッ! 俺は公立四天王なんだぞ!」
「効率四天王? 機械化でもするの?」
闇人は爪で央田の左腕を切り落とす。断面は荒く、出血が少ない。普段なら出血が少ないので『不幸中の幸い』だろうが、失血で早々に意識を失えないのは央田にとって不幸でしかない。
「俺を殺したらお前の立場も危うい!」
「キミの命の方が百倍危ういよね?」
次に両方の爪で、央田の両足をひきちぎる。だんだん、央田も痛みや恐怖が薄れていた。口では否定するが、本能では闇人と対峙した時点で死を理解していたのだ。
「四天王の俺が、こんな……!」
「さて、楽には殺さないよ?」
抵抗の術を失った央田は立ち上がれずにもがく。ウィップフィストの刺まで体に刺さっていた。先程まで紗夜が陥っていた状況だが、いざ自分がなってみると絶望的だった。闇人はトドメの刺し方をじっくりと考えているようだ。
「おっ。プロテクトフィスト」
闇人は何かを思い付いて、右腕だけをプロテクトフィストに変型させる。闇人が央田に近づく頃には、プロテクトフィストは周囲の空気を揺らめかせるほど熱くなっていた。それを闇人が無言で央田に押し付ける。
「グガガガガガガッ! ガガッジュガ!」
まるで鉄板焼きみたいな音を立て、央田は焼けていく。もがいても、例え五体満足であったとしても闇人のプロテクトフィストを振り払うことはできないだろう。
「トドメだね」
気を失いかけた央田から闇人はプロテクトフィストをどける。冬の空気はウェルダンに焼かれた央田に心地好い。ぐったり倒れて体を預けるアスファルトも冷たかった。
「石焼きパンチ!」
「た、助かっグゲボッ!」
安心した央田の顔に容赦無く、闇人のプロテクトフィストが直撃する。アスファルトにヒビを入れるほど強力なパンチは、央田の頭を砕いた。
闇人は変身を解いて、捲っていたブレザーの袖を戻した。そのまま走って紗夜の下へ向かう闇人は、手に缶ジュースを持っていた。途中で自販機でも見つけて買ったのだろう。
「紗夜さん大丈夫? はい、これ」
「あ、ありがとう……」
戦いの時とのギャップに戸惑う紗夜だが、闇人の気遣いを素直に受け取る。しかも渡してくれたのが保健室でも飲んでた林檎ジュースな辺り、闇人が実は自分をしっかり見ていたということなのか。倉木闇人、名前と能力に似合わず優しい男もしくは女なのだ。
「あの、私は大丈夫なので四季を……」
「あ、四季なら大丈夫。一人でできる子だから」
闇人は紗夜の頼みを即刻却下する。友人を信頼してるか、紗夜の傍にいてあげたいのか、はたまた両方か。
レイメイ大学 クラブハウス
レイメイ大学のクラブハウスでは、戦場であるというのに宵闇夢憂がシャワーを浴びていた。完全なる油断としか思えないその姿、しかしこれも夢憂の神力を使うために必要な条件である。
神力を使うことで人類が持ちうる力を全て所有する夢憂。人間は神力を扱えても、あれもこれもと多くの力を所有することはない。大体の人間が身体強化と何か一つ程度しか持ち得ないのだ。あの15級長でさえそれぞれの得意分野に偏っており、例えば『燃える刀剣』の炎と『空の乙女』の飛行能力を身体強化と併せて所有する人間というのはいない。ましてや闇人の変身をそこに加えて所有することなど有り得ない。
夢憂が稀有なのは、本来出来ないそれを出来るということ。飛行能力も炎も雷も、変身さえも所有している。それも、それぞれの能力をハイレベルで。彼女は中でも『蠱惑』の力を好んで使う。これはフェロモンに神力を混ぜて幻覚を見せたり金縛りを起こしたりする能力。つまり、生殖の為に進化した力である。
「んっ…」
水音の響くシャワールーム。なるべく自分の性的な魅力を高めることで『蠱惑』の力を増すことができる。その特性のため、夢憂はここで敵を待ち構えていた。
「おーい! 誰か逃げ遅れてんのか!」
夢憂の耳に声が響く。彼女はバスタオルを巻いてシャワールームを出た。本当なら黒が好きだが、クラブハウスには白いバスタオルしか置いてなかった。夢憂は脱衣所を出て、声のしたスポーツジムへ向かう。クラブハウスはジムも併設されていた。
ジムは大量の運動器具があり、四方を囲む壁の一つは一面ガラス張りだ。景色から、ここが2階と判別できる。
「あ! いたいた。今なんかヤバいみたいだから逃げろよ!」
ジムにいたのは上杉四季。夢憂の顔を知らないのか、逃げ遅れた人だと思って普通に話掛けてきた。本来、夢憂の予定なら異性がこの姿をみたらある程度戸惑うはずだった。
「この姿を見て何も感じないなんて、精神力が強いのね」
「精神力というより慣れだ。エルフィの奴、ガサツなんだよ」
四季の落ち着きが精神力のせいではなく、同居人のせいだと知って夢憂は安心する。『蠱惑』は精神力が強い人間には効かないから、相性の悪い相手とは当たりたくない。別に『蠱惑』無しでも戦えるが、あった方が圧倒的に楽だ。
「貴方が上杉四季ね。私が宵闇夢憂よ」
「なんだよ。教えなきゃ暗殺出来ただろうに」
夢憂は髪をかきあげながら自己紹介をした。四季が不満げに言う通り暗殺してもよかったのだが、夢憂の強さからはそちらの方が面倒に感じる。
「さあ、そろそろ固くなってきた頃よ。口ではそんなこと言っても、体は正直なんだから」
夢憂はジリジリと四季に詰め寄る。だが、彼女の予想に反して四季は後ずさりをする。
「いや動けるし」
「なっ……!」
四季の言葉に夢憂は驚く。今の夢憂は濡れた肢体にバスタオルを巻いただけという、ひどくなまめかしい姿をしている。夢憂の誘う様な姿勢やスタイルのよさが見る男を虜にする。実際、同性の紗夜さえ魅了されて動けなくなったほどだ。なのに、真っ先に魅了されそうな異性である四季は全く反応していない。
「どういうこと? なら、これで!」
夢憂は四季の目をジッと見た。四季が目を逸らすので少し手こずったが、彼の記憶からある女性のデータを引き出せた。
(『ゴルゴンの魔眼』。貴方が私以上に魅了されてる人間の姿を私に重ね合わせる。今、四季には私の姿は自分が魅了された女性の姿になってるはず。それも服装は私と同じ)
夢憂が使ったのは『ゴルゴンの魔眼』。『蠱惑』において最大の壁は『使用者に相手が魅了されないと効果を発揮しない』こと。それを回避するために、相手の記憶から理想の異性像を引き出し、それを自分に重ねる技だ。今、四季には夢憂が明野天という人間の姿になってるはずだ。
それも服装だけは夢憂と同じになる。つまり、四季の目の前には『シャワーから上がってバスタオルを巻いただけの明野天』がいるということになる。
「四季くん。実は私、貴方のことが好きなの。貴方のことを考えると、躯が熱いわ……」
夢憂はバスタオルの胸元に手をかけ、少し緩める。彼女の発する声も四季にはもちろん明野に聞こえる。好きな女性にこう言われて、何も反応しない男はいないはず。夢憂もようやく『蠱惑』が効いて安心していた。
「サンダンスランス」
「……?」
だが、四季がいきなり槍を取り出したので夢憂も困惑する。そして、四季は槍を天に掲げた。鏃から黄色い雷がほとばしり、夢憂を襲う。
「うあああぁぁっ! うぐっ、かはあっ……」
身体が粉々に砕けそうな痛みに呻き、夢憂は身体のけ反らせて痙攣する。床に倒れた時、痛みで転げ回った彼女は、バスタオルをはだけていた。
「あっ、どうして?」
「明野さんがそんなこというはずないじゃないかー」
疑問をぶつけた夢憂に四季が返したのは一言。想い人の普段のパターンを理解していたため、夢憂が化けた明野に不自然さを抱いたのだ。ゴルゴンの魔眼すら敗れたなら、真正面でぶつかって倒すしかない。夢憂は相変わらず平然としてる四季を睨んで立ち上がり、バスタオルを巻き直す。
「はあっ、はあっ、はあっ……くぅ!」
しかし電流のダメージは重く、彼女の足は震えていた。札束に毎晩『凌辱の首輪』で蹂躙されていた夢憂は電流の耐性があると自負していたが、これには耐えられなかった。
「早速だが死んでもらう!」
「いやぁ!」
四季は単純な一突きで夢憂の胸を穿つ。確かに手応えがあり、夢憂も口から血を吐きながら喘いでいた。だが、ふとした拍子に夢憂の姿が掻き消え、バスタオルが落ちる。
「くっ、厄介なっ!」
「そりゃお互い様だ」
夢憂は四季の後ろにいた。彼女は着替え、黒いチャイナドレスを着ている。左右両方に開いたスリットから綺麗な足が覗くが、臍のラインがクッキリ見えるほど薄手なので防具としては心もとない。
「次は避ける!」
「出来るもんならやってみろ!」
四季が再び槍を構えて雷を出す準備をする。夢憂は意識を集中させて回避の準備をした。鏃の先端から雷がほとばしる。夢憂はそれを見てガラス張りの方に飛び、回避したが雷が彼女に向かって曲がったのだ。
「な、きゃああっ!」
いきなり曲がった電流に夢憂は捕らえられ。苦痛に悲鳴を上げた。しばらく苦悶の時間は続き、やっと解放された彼女は膝を着いて崩れ落ちる。
「ああっ……」
「お前はシャワーを浴びていて濡れてたからな。雷がそっち向かったんだろ」
雷が曲がった理由は単純明解。シャワーを浴びたが身体も拭かずに出てきた夢憂は濡れていた。チャイナドレスが臍の形をハッキリと見せるほど張り付いていたのもそのせいだ。
「今度こそ終わりだ!」
「くっ、ああっ!」
立ち上がりかけた夢憂に四季は槍を突き出す。それを、柄を掴んで夢憂は受け止めたが、少し鏃が胸に突き刺さった。
「ぐぅううっ!」
そのまま槍から流れる電流が夢憂の身体を突き抜ける。力を失った彼女は槍の柄で叩かれ、電流を纏ったままガラス張りの壁にぶつかる。
「きゃあっ!」
ガラスは強化ガラスで、少女の身体がぶつかった程度ではびくともしない。精々、ヒビが入る程度だ。
「そういえばこのガラス。何発お前ぶつければ壊れるんだ? 試すか」
四季はいきなり意味のわからないことを言い出し、実行に移した。ジャケットの懐からカゼアナグマのククリを取り出し、固めた風を夢憂に向かって飛ばす。
「やあっ!」
最初は何回か避けた夢憂だが、周りに吹きすさぶ暴風に足を取られて横転する。そこを四季に狙われ、風の塊が直撃する。
「がふっ!」
吹き飛んだ彼女はガラスにぶつかる。それでもガラスはヒビが入るだけ。四季はククリをしまって白雨を抜いた。
「くああっ!」
抜刀と同時に炎が夢憂を襲う。熱風に煽られた彼女はガラスごと吹き飛び、外に投げ出された。クラブハウスの二階にジムがあったため、高いところからコンクリートの地面に叩き付けられた。ガラス片が夢憂の身体を切り裂く。
「かはっ!」
叩き付けられた夢憂はしばらく呼吸が出来なくなる。そこへ大学の男性スタッフが駆け付けた。夢憂を大学の生徒か受験生と勘違いしたらしい。
「大丈夫ですか?」
「そいつから離れろ!」
「え?」
救護しようと夢憂を抱き起こしたスタッフは、飛び降りてきた四季の言葉に戸惑う。その瞬間、夢憂はスタッフの首に噛み付いた。
「ぎゃああっ!」
「んくっ、んんっ……」
スタッフはみるみる干からび、夢憂の傷が癒えていく。神力を啜っているのだ。
「はっ…!」
夢憂がスタッフから離れた時には、スタッフはミイラになっていた。恐らく、生きてはいない。回復した夢憂は四季に向き直る。
「さて、仕切り直しよ」
「人を食い物に、趣味悪いな」
夢憂は四季の言葉に返さず、右手の人差し指を唇に置いた。そして、その指を胸元へ持っていく。胸元からピンクの魔法陣が浮かび上がり、夢憂の衣服が変わる。
上下セパレートでレザーのボディースーツで、トップスは腹部がざっくり見えるほど短く、肩が出るノースリーブ、背中も大胆に開いている。ボトムは革のロングスカートだが、先程のチャイナドレスと同様にスリットが左右に入っている。靴はブーツになり、全体として防具になりそうだ。
「私の本気、見せてあげる」
夢憂は自分の身体を抱くと、目を伏せた。露出した背中から蝙蝠に似た翼が生え、手の爪も伸びる。吸血鬼みたいな牙もあり、完全な夢魔に変身した。
「変身系もありか、技のデパートだな」
「貴方を熱くしちゃうわ。ハートフレイム!」
呆れた四季に向かって、夢憂は投げキッスをする。それは大きな炎の塊になって四季を襲う。
「甘い!」
四季は白雨を振り、炎を散らした。即座に夢憂は胸元に手を置く。魔法陣が浮かび、そこから剣が二本出て来る。四季も白雨を収め、背中に背負った二本の剣を抜く。
「サキュバスブレイド!」
「セイブザクイーン、プリンセスガードナー」
剣で切り掛かる夢憂を、四季は同じく剣で受け止める。右手にセイブザクイーン、左手にプリンセスガードナーを持っていた。攻撃を受けられた夢憂は突如顔を歪め、剣を取り落として後退する。
「うぐっ……」
彼女はか細い肩を抱いて痛みに呻く。セイブザクイーンは大空の様に澄んだ青、プリンセスガードナーは夜空というより暗闇を思わせる黒をしていた。
「この剣はイギリス王室のお抱え騎士が代々受け継ぐものを真似て作った品らしい。どちらもそれぞれ源種と亜種の違いがあるも、イギリス特産のクリーチャーが素材になっている。この剣は受けた打撃を倍返しにする」
「ぐっ、肩がいかれそう」
本来なら剣での攻撃を受け止めた場合、その衝撃は受けた方と攻撃した方の両方にいく。だが、この剣は使用者が受ける衝撃を二倍にして相手に返す。つまり、この剣で攻撃を防がれたら防がれた側は全ての衝撃を腕や肩に受けることになる。
夢憂は四季の説明を聞きながら体勢を立て直し、もう一度胸元に手を置いて剣を取り出す。神力で武器を生成してるのだ。二本の剣を持った夢憂は、再び四季に切り掛かる。
「……だけど、防がれなければ!」
身体強化で速度を増し、目にも留まらぬスピードで激しい攻撃を繰り返す。しかし四季はそれを両手の剣で受け流した。全ての攻撃を受け流した四季は敢えて反撃しなかった。
「がああっ! あっ、はあっ!」
夢憂はセイブザクイーンとプリンセスガードナーの力で、全ての打撃が倍になって自分に返り、肩にかなりのダメージを負った。肩を抱いて息を荒げる夢憂は隙だらけ。
「うぐっ!」
四季は容赦無く、セイブザクイーンで夢憂の胸板を貫こうとした。だが、夢憂は寸前でかわし、右肩をえぐられるだけで済んだ。攻撃の衝撃を全て肢体に受けた彼女のダメージは深刻で、立ち上がる時もフラフラして足元が覚束ない。
「ここだとあいつは誰かを餌に回復する。何処かへ行こうか」
四季は夢憂の回復を警戒し、移動を考えた。だが、この隙に渾身の一撃を叩き込んで倒した方が楽そうだと考えた。
「頼むぜ白雨、黒牙!」
四季は白雨と黒牙に武器を持ち替え、意識を集中させる。そして、二つの刀を同時に振った。
「喰らえ! 斬炎撃!」
「っ!」
避ける力の残ってない夢憂は身構え、神力を防御に回す。刀から炎がほとばしり、それが斬撃と混ざって不死鳥の形を作る。
「あぐっ! あああぁぁあっ!」
それの直撃を受けた夢憂は不死鳥に呑まれ、そのままクラブハウスに激突する。不死鳥の中には見えない刃が無数にあり、彼女の肉を焦がしながら切り裂いた。クラブハウスは崩壊し、一瞬で瓦礫の山になる。
「やったか?」
「やり過ぎだ!」
四季が土煙を睨んでいると、先程別れた大剣使いがいた。どうやら占拠されてた会場を全て開放したみたいだ。
「だいたい『やったか?』って言う時はやってないんだよ! どうしてくれるんだクラブハウス!」
「俺運動部入らないし」
「俺は入るよ!」
大剣は運動部に入りたかったので、その運動部に関わる施設の破壊を見逃せなかった。夢憂は瓦礫に力無く横たわっている。
「ううっ……」
「あ! 大丈夫ですか?」
「おい馬鹿やめろ!」
そこへまた大学の男性スタッフが駆け付けたので四季が止めに入ろうとする。案の定、夢憂はスタッフの首筋に噛み付いて神力を啜った。傷が癒え、夢憂は再び立ち上がる。
「クソ、またか! お前は急いでみんなに夢憂に近づかないように知らせろ」
「わかった!」
目の前で人が干からびる光景を見た大剣は流石に事の深刻さを理解した。夢憂は人間がいる限り無限に回復する。生命力なら闇人といい勝負だ。
「まだ私は二回の変身を残している!」
夢憂は目を伏せ、さらに変身を重ねる。翼は前より大きくなり、頭には悪魔の角が生えて、尻尾も出て来た。
「しょうがない馬鹿だな。一気にカタをつける!」
刀を収めた四季は何処からともなく、レイピアを取り出した。赤いレイピアで、その切っ先からは現在の夢憂すら警戒する何かが放たれている。
「ディアボリーク。俺の切り札だ」
「だけどそれは私を捕らえられない!」
夢憂は四季に武器を使われる前に倒そうと、正面切って突っ込む。だが四季は紙一重で回避、レイピアで夢憂の右脇腹を斬った。
「くっ…ううっ、ああ!」
掠り傷の痛みを感じた夢憂はすぐに踵を返して反撃を試みた。だが、突然激痛が身体に走る。
「何これっ…!」
夢憂は自分の右脇腹を見て戦慄する。何か、赤い刺の様なものが刺さっている。刺は剣ほど大きく、水晶の様な質感だった。
「ん、抜け、ない!」
「『切リ裂キノ呪イ』。一撃が命取りだ」
四季は刺を抜こうと四苦八苦する夢憂を眺め、指を鳴らす。すると、赤い刺は砕けて爆発を起こす。爆風は熱で肌を焦がすのではなく、無数の刃で彼女の柔肌を切り裂いた。刺を抜こうとした指にも傷を負う。
「んぎぃ!」
思いダメージを受けて夢憂は膝を着く。刺が炸裂した時、その破片が生み出す斬撃は体内にも侵入していたのだ。内臓も裂かれ、口からはとめどなく血が溢れる。艶やかな唇は赤く染まる。
「ああ……」
「二度と人を餌にさせるか!」
四季はディアボリークで夢憂の身体を貫きにかかる。彼女の胸を狙ったつもりが、夢憂が身体を反らしたため左肩にレイピアが刺さった。
「がっ!」
「ちっ、だが呪いはこんな時の為にある」
四季がレイピアを抜くと、夢憂の左肩を深々と赤い刺が貫いていた。『切リ裂キノ呪イ』、ディアボリークが持つ力だ。傷付けた相手に赤い刺を刺し、追撃する力。戦闘能力がさほど高くない四季は、一撃で相手を仕留め損なう場合が多いので愛用している。
「もういっちょ!」
「はあっ!」
もう一度夢憂の胸を貫こうとした四季だが、立ち上がりかけた彼女が身をかわしたため狙いが逸れる。それでも、右胸にレイピアが突き刺さる。肺に赤い刺が刺されば十分致命傷になる。
「だが一撃で倒さねば!」
四季はこれに満足せず、もう一撃加えることにした。少しでも動ければ、回復されてしまう。完全なるトドメが彼女に必要だ。四季もこれ以上犠牲は出したくないと思った。
「くはっ! うっ!」
今度は左脇腹、右肩と順に突き刺す。夢憂はとにかく四季から距離を離そうと逃げた。この刺は四季がディアボリークに神力を流して生み出したもの。四季とディアボリークから離れれば神力の影響も薄まると考えたはずだ。
「ダイダルウェイブ!」
「っあ!」
まっしぐらに逃げる彼女を、横から飛んだ斬撃の波が吹き飛ばす。夢憂は施設の壁にぶつかり、地面に落ちた。
「あの大剣使い!」
「そいつが主犯格だな。野郎共助太刀だ!」
大剣使いが斬撃を放って夢憂を止めたのだ。なんかたくさんの人を引き連れている。フラフラと立ち上がる彼女は翼で空へ飛ぶ。だが、四季には敵を拘束する手段がある。
「頼むぜ『苦悶の首輪』!」
四季は鎖が付いた首輪を夢憂に投げる。それは彼女の首に装着される。
「『凌辱の首輪』?」
「違う、『苦悶の首輪』だ」
驚く夢憂の呟きを四季は訂正する。鎖に四季が神力を込めると、目に見えるほど強い電流が夢憂を襲う。彼女は声にならない悲鳴を上げて落下した。
「ああ……痛いよ、助けて……」
華奢な身体を電流に侵されながら、夢憂は何とか立ち上がる。身体を庇う様に抱き、四季を怯えた顔で見つめる。だが、今更色香に惑わされる彼じゃない。
更に言えば、彼には夢憂を許せない理由が一つあったのだ。
「てめぇには俺の中の明野さんを汚したツケを払ってもらう!」
「どうして! あんな野暮ったい女の何処がいいのよ! 私の方が魅力的なのがふっ!」
四季が放った渾身の一撃が夢憂の胸を貫き、彼女の言葉を中断させる。ディアボリークが生み出した刺は一際大きく、美しい。
「そんな物言いだからわからんのだよ」
「どうしてなの…くっ! 男なんて肌見せてりゃ簡単に落ちるのにどうしてあんたはんぎゃあっ!」
心臓に一撃決めても油断せず、四季は夢憂の身体にディアボリークを突き刺していく。いつしか、彼女の身体は赤い刺で埋め尽くされていた。
「気がありそうなそぶりみせりゃ……一晩だけでも身体を委ねれば…男なんてその気になるのに、あんたはぁ!」
「だからー、愛を粘膜で語んなよなー」
四季は夢憂と距離を取り、ディアボリークをしまう。彼女の必死な叫びも聞かず、四季はトドメ用の武器を手にしようとする。
「愛なんて臭いこと言ってるから、まだまだなのよ」
急に夢憂は落ち着きを取り戻す。四季が持っていた武器が全て、桃色の光に包まれて四季を離れた。セイブザクイーン、プリンセスガードナー、白雨、黒牙、サンダンスランス、カゼアナグマのククリと鉄爪、そしてディアボリーク。
「武器が無ければ武器商人なんて大したことないの!」
「うわー、ヤベェ!」
赤い刺は刺さったままだが、夢憂は両手に剣を持って四季に迫る。四季も武器が無ければ万事休すだ。
「四季!」
「紗夜!」
しかし、その時闇人に抱えられた紗夜の声が四季に届く。結局、四季を心配した紗夜に押し負けて闇人は紗夜を連れて大学に戻ることになったのだ。紗夜を安心させる為に連れて来たつもりが、闇人も四季のピンチに遭遇することになるとは考えてなかっただろう。
闇人はビルとビルの間を飛んで来たのか、大学の上空にいた。
「行くよ紗夜さん!」
「お願い!」
闇人は右手で紗夜を振りかぶる。このフォームに四季は見覚えがある。闇人を代表する技の一つなので、これから二人がすることの予測はついていた。
「ところでお前、これ忘れてないか?」
「なっ!」
四季はいつの間にか大剣を手にしていた。大剣使いから受け取ったのだろう。それを思い切り振りかぶる。
「吹っ飛べ!」
「しまった……!」
四季は夢憂を大剣の斬撃で吹き飛ばす。彼女は空中に投げ出され、身動きが取れなくなる。
「超無限度投人銃! 殺人的な加速だ!」
「これで終わりよ! 宵闇夢憂!」
刀を構え、居合の姿勢をとった紗夜が闇人に投げられる。そして、そのまま夢憂とすれ違いざまに居合斬りを放つ。ハクロウ高校で取り返されて以来、大量の神力を啜った死刃舞は強力な武器になっている。
「居合、十字鋭爪!」
「うっ、ああ!」
夢憂は身体を二回、十字に斬られた。鮮血が噴水の如く吹き出る中、四季が指を鳴らして刺を爆発させる。
「私が負ける……なんで?」
身体が殆どえぐれて、内臓を撒き散らしながら夢憂は呟いた。
「公立四天王で、人類が持つ全ての力を使える私が、なんで?」
「知らないですよ」
闇人が呆然とした夢憂の頭を蹴り砕き、全てが終わった。いかに夢憂といえ、頭が砕かれたら復活はできない。
「あ」
闇人は自分が地上に降りかけて気付いた。投げた紗夜が満身創痍で着地できないことを。本来、超無限度投人銃を味方に使う時は着地が前提となる。今まで、15級長にしか使わなかったので力加減を忘れていた。
「闇人ェ……」
「よかった、紗夜さんは無事で」
紗夜は四季が身体で受け止めていた。四季が大剣使いの大剣を持って無かったら最低限の身体強化も出来ずに死んでるところだ。
「あっ! 四季がぺちゃんこに! 誰か救急車ー!」
受け止められた紗夜は自分の怪我も忘れて救急車を呼ぼうとしていた。四季は普通に大ダメージを受けていたからだ。多分、肋骨とか折れた。
一応、公立四天王の大半を仕留めた四季の受験戦争は締まらない終わりを迎えたのだった。
『春色の夢魔』宵闇夢憂(死亡)
配下『三大欲求』(全滅)
『破邪正拳』央田心史(死亡)
配下『四聖獣』(全滅)
『死の商人』黄金札束(死亡)
配下『カンパニー』(全滅)
『機械歩兵』板金歯車(死亡)
公立四天王、全滅




