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学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
第65次受験大戦 上杉事件
12/35

4.雪山のレスキュー作戦!

 依頼の書類

 依頼主:レジスタンス茶臼山支部

 内容:孤立した集落の救援

 備考:大量のクリーチャーが集落周辺に集まり、出入りが出来ません。このままでは集落の生活物資は底を尽きます。また、幻夢高校を始めとする闘学校に推薦された中学生も訓練として送り込まれ、集落にいます。

 ハクロウ高校 保健室


 「よっしゃ『凌辱の首輪』げとー」

 四季は札束から手に入れた武器を闇人と更に見せびらかす。凌辱の首輪は既に拘束の鎖と合体していて、先端に首輪、もう片方の先端に分銅が付いている状態だ。文献によれば、この本来の姿は『苦悶の首輪』と呼ばれるらしい。

 紗夜は四季が持ち帰った戦利品の多さに目を丸める。大量の買物袋で保健室が埋まった。

 「趣味の悪い武器ね」

 「札束倒したら財布に金があるかなって期待したんだけど、あいつカードしか持ってやがらねえの。カード止められる前に買物するか」

 四季は札束及びカンパニー達の財布を闇人が集めた財布の山に投げる。綴は夜も更けたので帰ったようだ。

 「あれ? 家でエルフィ待ってない?」

 「連絡は入れた」

 更が四季の同居人、15級長『狙撃手』エルフィ・ラタトクスについて言及する。四季とエルフィは昔からの奇妙な縁で同居している。

 「食べ物もあるわね。お腹空いたでしょ?」

 更は戦利品の中からいくつか菓子パンを取り出して紗夜に渡す。しばらく何も食べてなかったので、お腹が空いていたのは事実だ。だが、その前に言いたいことがある。

 「あの……私も行きます。みんなを助けに」

 しかしスルーされた。闇人と四季は食べ物に夢中だ。餓死寸前の遭難者かと見間違えるくらいに。紗夜は仲間を助け出すまでは食事も喉を通らないのだが。それでも、少なくとも飲み物くらいは飲もうと、缶の林檎ジュースを飲む。

 「無理しないでね」

 「え、ええ」

 返事をしてくれたのは更だけ。15級長のマイペースに、紗夜は若干ついていけなくなっていた。


 翌日 白が覆う閉じた雪山 麓の村


 隕石による電磁波は、地球の環境を一辺させた。もともと、冬場はスキー場として有名だったこの山も、年中雪が積もる場所になってしまった。ここやヌカタダークフォレストの様な環境が変化してクリーチャーが住む危険地帯を『ダンジョン』と呼ぶ。ネーミングは命名者のセンスに左右される。

 「お待ちしておりました。あの山を越えた先が孤立する集落です」

 ほんのりと雪が残る村に着いた四季と紗夜は軍服を着た高校生達に、ログハウスへ迎えられていた。この軍服を着た高校生達が『レジスタンス』である。教員連に反抗する生徒の集まりで、こうしてクリーチャーに困る人々を助けているのだ。

 軍服を着ているのは、レジスタンスが生まれた当時は教員連によってレジスタンスをおとしめる為の偽物がよく現れた。いろいろ対策をしたが、何故か軍服を制服にしたら偽物の報告がぱったり止んだのだ。これを提案したのはレジスタンスの卒業生の一人で、防衛科に反対する教員連が重度の軍事アレルギーであることを見抜いた結果だ。

 ログハウスに入った四季と紗夜は一旦作戦会議をする。ここがレジスタンスの支部になっているようだ。

 「レジスタンスなんてあったんですね」

 「教員連は反乱分子を増やしたくないのでしょう。中学の教師はレジスタンスの存在を生徒にひた隠しにしていますが、教員連に従わず左遷された先生も多いのでこういう所謂田舎は私達に協力的なんです」

 木の長イスに座って、紗夜はレジスタンスの女子と話していた。幻夢高校に推薦された紗夜はレジスタンスのことを知らなかった。紗夜は『色の剣軍(笑)』のセーラー服を着ているが、それが半袖なので寒くないかレジスタンスの人は心配そうだった。彼女は黒い眼帯で失った右目を隠している。

 四季さえコートを着てるので、明らかに寒いのは確かだ。だが、敢えて紗夜はこの服装を選んだ。無事かどうかもわからない仲間と、少しでも苦しみを共有することで先に助かった自分への戒めとしたかった。紗夜はなかなか自分に厳しい。

 「左遷されなくても、隠れて教員連への反抗をしている先生もいます。その人達がこうした場所との連絡係をして、クリーチャーの被害をレジスタンスに報告しています」

 「国の軍隊は都市部にしか派遣されないし、となると民衆の頼りはレジスタンスか俺達くらいだ」

 四季の言う通り、クリーチャーは数が多いため国の軍隊は都市部の対応で手一杯。公立闘学校は教員連が私立闘学校への対抗手段として生み出したからクリーチャーとは戦ってくれない。そうなれば、必然的にレジスタンスか私立闘学校、及び教員連の息がかかってない公立闘学校に頼るしかないのだ。

 「教員連は『国の軍隊が守ってくれる』なんていってますが、私達の村は守ってくれませんでした。だからあいつらの主張に疑問があったんです」

 「ついには『クリーチャーの襲来は地球を省みない発展をした人間への天罰』とか言ってるしな。一人で勝手に死ね」

 レジスタンスの人は自分の村が国の軍隊から見捨てられた経験からレジスタンスに入ったみたいだ。国の軍隊が守り切れないからこその『防衛科』を教えないのは、ある意味生徒の命を蔑ろにする行為だ。

 「とにかく、急いで行くぞ。事態は一刻を争う。お前はここで待ってろ」

 「ごめんなさい、私も戦えれば……」

 「気にすんな。死刃舞が一緒ならここから先、もっと強くなる」

 どうしても仲間達を迎えに行きたい紗夜だが、四季は麓の村で待っている様に指示した。死刃舞の本気を見たいから、紗夜に死んでもらっては困るというのが四季の本音だが、紗夜がどうしてもというので根負けした形で連れて来た。せめて義理だけ果たさせてやろうということだ。

 「お前は仲間が逃げる時間を稼ぐ為にクリーチャーの足止めをしていたんだ。十分言い訳にはなるさ」

 四季は刀を手にして紗夜に言った。その刀は白雨と黒牙、そのどちらかでもない。白雨と黒牙は四季の腰に今も収まってるが、その刀は一言でいうと『デカイ』のだ。

 刀の全長は四季の背丈よりも少し大きい。四季はそれを背負った。戦国時代には『太郎太刀』という似た様な武器があったと紗夜も聞いたことがある。鞘は黄色と黒の虎柄で、その鞘に背負うためのベルトが付いているのだ。

 「もしこの村にクリーチャーが来たらレジスタンスの人に任せて逃げろ。死刃舞の本気を出せるのはお前だけだ」

 「え?」

 「俺は全ての武器の力を100%引き出せる。だが、100%より上は無理だ。今背負ってる『鬼神斬魔刀・真打』は中学時代からの相棒だから出来るんだけどな」

 四季は武器商人で、全ての武器の力を100%引き出せる。だが、それ以上の力を発揮できる例は少ない様だ。つまり四季が死刃舞を使うと100%力を出すので限界だが、相性のいい紗夜は120%でも400%でも力を出せる。

 「本当はあいつらもやる気だったし白雨と黒牙をいろいろ試したいけど、ちゃっちゃと終わらせないとヤバいみたいだ」

 四季は今回の戦いに本気で挑むみたいだ。確かに時間は無い。増えたクリーチャーがいつ仲間の逃げた村を襲うともわからない。それでも15級長の本気なら、何とかなるかもしれない。

 紗夜は安心感を覚えていた。公立四天王、自分が完膚無きまでに負けた相手と同格の敵を無傷で倒したあの四季が本気だからだ。ただ、四天王でも『春色の夢魔』宵闇夢憂だけは『全ての神力を扱い熟す』ため別格ではある。

 「じゃ、晩御飯までには帰ってくる」

 四季はログハウスを出た。ログハウスは雪山の向こうにある村へ向かう道の途中にある。四季は目的の村に向かうと同時に、増えたクリーチャーを討伐する必要がある。いかに村へ辿り着けたとしても、紗夜の仲間を連れて帰る途中でクリーチャーに襲撃されたらまた散り散りになる。

 「んじゃ、行こうか」

 四季は山を登る。森の中ながら徐々に雪が深くなり、遂にスキー場みたいな一面の銀世界に出た。元々がスキー場だったダンジョンだけに、休憩所やリフトの跡が見られる。

 「お、いたいた」

 四季は早速、クリーチャーを見つける。真っ白な毛皮に覆われた鹿のクリーチャー、カシジカだ。樫の木の様な立派な角がある。

 「試し斬りだ。鬼神斬魔刀!」

 四季は両手で鬼神斬魔刀を抜く。鞘から解放された刀身は黒い雷を発していた。鬼神斬魔刀の刀身は山ほどある巨大なクリーチャー、リククジラの骨を削って作られている。さらにそこへ様々な強化措置が施され、鬼神斬魔刀は作りあげられた。

 黒い雷は電気にあらず。鬼神斬魔刀が空気中に微力に存在する神力を破壊して発生するものだ。神力の塊ともいえるクリーチャーに最も有効な一撃を与える刀である。

 「ていうか神力って空気にもあるんだな。でもなきゃ植物がクリーチャーになる例は無いか」

 四季はカシジカに向かって鬼神斬魔刀を振り下ろす。カシジカの肉は何の抵抗もなく真っ二つになる。リククジラは他者からの神力干渉に対して耐性を持とうとして、骨に神力を退ける力を得たのだ。四季が神力を流せば力を発動し、四季以外の神力を拒絶するようになる。

 「まだいるみたいだな」

 辺りにはカシジカがまだ蔓延っていた。四季はそれを全て狩る。カシジカは草食だが、クリーチャーは全体的に繁殖能力が高い。放置すれば手に負えない数に増える。クリーチャーが出現した当初は草食クリーチャーを放置して、増えた草食クリーチャーに押し出される形で都市から人間が追い出されるという話は山ほどあった。

 草食クリーチャーを狙って肉食クリーチャーが来るので、結局ほおっておけないのは事実だ。

 「とっとと片付ける」

 四季は目を伏せ、鬼神斬魔刀に意識を集中させる。再び目を開けると四季の瞳は蒼く、虎の様にぎらついていた。

 鬼神斬魔刀に施された強化措置の一つ、それはリククジラの骨で出来た刀身を虎のクリーチャー、アムールティガの血液に浸すことだ。アムールティガの血液には神力の効果を増幅させる力がある。それで神力の拒絶効果を増幅させたのだ。血液の力は他の神力ありきなので、リククジラの骨の力と喧嘩しない素材だったのだ。

 そして、鬼神斬魔刀の鞘や飾りはアムールティガの素材で出来ている。アムールティガは身体強化に特化したクリーチャーなので、その素材を使った武器に神力を流せばその恩恵を使用者も受けられる。

 四季は元スキー場の斜面を駆け上がる。元々の身体能力なら15級長及びハクロウ高校最低クラス、手負いの紗夜にさえ届かないのだが、身体強化すればここまで能力が上がるのだ。

 「お、早速第一クリーチャー発見!」

 四季は斜面を駆け上がると、猿がいくらかいるのを見掛けた。四季と同じサイズくらいの猿が数匹おり、その猿は白い毛に覆われていた。

 「ゲームに似た様な猿いたな……」

 四季は近年話題のゲームに出て来る白い猿を頭に浮かべる。昔流行ったゲームが今、再び人気になりつつあるのだ。

 「だが、獅子って風格はないな」

 白い猿は牙が鋭く全身真っ白。この猿は肉食の『キバモンキー』。その土地に合った体毛の色をしており、雪山だから白いのだ。砂漠に住むキバモンキーは茶色の毛をしている。似た種類に『シシモンキー』というクリーチャーがいるが、生態はずいぶん違う。

 「残忍で狡猾なのが特徴、か。集団で保護色の体毛を生かして狩りをするクリーチャーだな」

 四季はバラバラに襲い掛かるキバモンキー達を眺めた。目立つ体毛で堂々と戦うシシモンキーと異なり、キバモンキーは隠れて奇襲する。そのため、周囲に気を配って戦わねばならない。

 「こうだ!」

 四季は鬼神斬魔刀を右に振る。キバモンキー達は真っ二つに裂かれた。そして、その刀の勢いに任せて体を後ろに向ける。そのまま後ろから奇襲を試みたキバモンキーを突き刺す。

 「来たな」

 四季は次々と現れたキバモンキーに向かって走り出した。この手のクリーチャーならボスがいる。そのボスを倒せば後は烏合の衆。ボスを早めに始末したら圧倒的に雑魚の掃討が楽になるのだ。


 一方、ログハウスに残っていた紗夜はひたすら待った。中で待たず、わざわざ寒い外で紗夜は雪山を眺めていた。寒さが傷付いた身体に染みるが仲間の安否を確認するまで、自分の代わりに戦っている四季が帰って来るまで自分が休むわけにはいかない。

 何より、仲間と四季が心配だ。あそこのクリーチャーは強力なものが揃っている。だから闘学校に推薦されるレベルの中学生が集まっても逃走する羽目になったのだ。紗夜は一週間前にこの雪山を訪れた時のことを思い出していた。


 一週間前 雪山


 紗夜達『色の剣軍(笑)』候補生は10人ちょっとのメンバーで行動していた。目的は雪山の指定ポイントに小型の装置を設置すること。これが候補生に与えられた試験であった。支給されたのは装置とファーの付いたダッフルコート。それを制服の上から着る。肝心の制服が半袖なので、かなり寒い。

 しかし、指定ポイントに着いたのはクリーチャーが強力でなんとか退けた後であった。まだ、指定ポイントは複数あるのに一つに辿り着くだけでやっとやっとだ。指定ポイントは雪山の上方、スキー場で言えば上級コースとかそういったとこだ。そこに平面の広場がある。雪の下り坂が広場の南にあり、それ以外の三方は森である。

 彼女達は指定ポイントまで、森を抜けて到達した。だが、途中で出会ったキバモンキーの群れとそのボス『ファグモンキー』に手こずった。群れが複数合流していたため、ファグモンキーも複数いたのだ。また、群れのボスのみならず牙のサイズや体格が一定以上のキバモンキーもファグモンキーとして認定されるため、群れを持たないファグモンキーが複数いたのでさらに厄介だった。

 個々がシシモンキーより弱い代わりに奇襲など姑息な真似をしてくるので、常に周りに警戒しなければならない。そのことが候補生達の精神を擦り減らした。

 「大丈夫?」

 「ええ、何とか」

 装置を置き終わり、紗夜に一人の候補生が聞いた。彼女の武器は剣。ただ骨を削り出しただけのそれで強力なクリーチャーに立ち向かうのは無理があった。

 「この装置……何だろ」

 「なんかの機械じゃない?」

 他の候補生も傷を負いながら、装置に興味を示す。装置は手の平サイズで、それを一人一つ渡された。黒い円柱の様なもので、機械なのか塊なのかすら伺い知れない。

 「後何箇所あるの……?」

 一個設置するだけでもこの労力。それが10ヶ所以上となると考えたくもない苦労を強いられるだろう。その苦労の元凶は今も彼女達に迫っていた。

 「クリーチャー!」

 「しかもフェンリル!」

 森の中から灰色の狼、フェンリルが現れた。そのサイズは2トントラックほど、あまりに巨大だ。

 「みんなは逃げて! 私はあまり怪我してないし、食い止める!」

 紗夜は自分が一番傷が浅いと判断し、足止めを買って出る。他の候補生は戦える状態じゃない。候補生達は躊躇いがちに森へ入った。フェンリルは中学生が戦って勝てるクリーチャーじゃない。それは充分わかっていた。

 「来なさい、私が相手だ!」

 紗夜は刀を抜いてフェンリルを見据える。死刃舞は幻夢高校に保管されていた名刀。少なくとも時間稼ぎの助けになるかもしれない。

 「うっ……」

 だが、紗夜はフェンリルの咆哮に耳を塞いでしまう。そこに隙が生まれた。紗夜は飛び掛かったフェンリルの右前足で吹き飛ばされ、森の木にぶつかる。

 「うあっ! っ……!」

 爪で身体を少し引き裂かれたが、ギリギリで致命傷にはならなかった。木にぶつかったダメージで呼吸が出来なくなる。ぶつかった木がへし折れるほどの衝撃であった。

 「逃げ……ないと」

 意識が朦朧とする中、紗夜は逃走ルートを探した。刀を納め、戦いを中断する。森を抜ければ先に逃げた仲間を危険に晒す。なら、斜面だ。

 「っ!」

 紗夜は斜面へ走る。だが、その斜面は紗夜が想像していたより岩肌が露出したものであった。これでは、逃走経路には使えない。こんなところを転がれば命にかかわる。だが、フェンリルが彼女に迫っていた。

 「ああっ!」

 フェンリルが振るった左前足の爪が、紗夜の右肩を裂く。その勢いで彼女は広場から転倒し、岩肌が露出する斜面を転げ落ちた。身体が地面に着く度、鈍い音が響く。しばらくしてようやく、雪の積もる斜面へと転がり込めた。

 紗夜はそのまま転がり続け、傾斜が緩やかな場所へ着いた。立ち上がろうとしても、ダメージが重くて起き上がって膝立ちになるのが限界だった。ボロボロの身体を抱きしめ、彼女はコートが脱げたことに気づく。フェンリルの爪が深手にならなかったのも、岩肌のダメージを軽減したのもコートのおかげだった。

 「はあっ、はあっ……!」

 だが、コートが脱げたことで寒さが紗夜を襲った。傷だらけの身体に雪山の寒さは命に関わる。フェンリルからは逃げられたので、雪山の村を目指すことにした。しかし、歩こうにも足元が覚束ない。村は紗夜が駆け降りた方とは逆の方向にある。山を迂回するとかなり遠い。

 「しまっ……た」

 さらに、クリーチャーの群れが血の臭いに吊られて集まった。雪の中を泳ぐクリーチャー『アザラット』だ。アザラシが進化したもので、サイズこそ変わらないが縄張りに侵入した敵には容赦がない。アザラットは雪の中から飛び出し、紗夜の身体に頭突きを繰り出す。

 「かはっ!」

 紗夜は頭突きで飛ばされる。アザラットは複数この場におり、立ち上がろうとする紗夜に絶え間無く攻撃してくる。

 「ぐっ、ん!」

 雪から飛び出しては頭突き。紗夜は歩くどころか立ち上がれもせず、アザラットの群れになぶられていった。彼女の周りの雪は赤く染まっていた。

 そこにタイミング悪く、白熊のクリーチャー『ベルベア』が現れる。従来の白熊より一回り大きいクリーチャーで、背中には固い毛で出来た毛が生える。鋭い爪が生えた強靭な腕が紗夜に襲い掛かる。

 「あっ……く!」

 殴られながらベルベアから逃げる紗夜。歩くのもやっとの彼女は殆ど逃げれずにされるがまま。ベルベアの両腕が赤くなる度、紗夜は弱っていく。

 (誰か……助け)

 紗夜は誰かに助けを求める。無意識に死刃舞の柄に手を触れたのは、この刀に触れると心が安らぐからだ。鋭い爪の拳で殴られる痛みに呻きながら、目を強く閉じた。

 「っ!」

 しばらく殴られ続けた紗夜は不意に目を開いた。その目の色は普段のものと変わっていた。比喩ではなく、目が金色になっている。その段階から、彼女の動きが変わった。ダメージを感じさせない動きで雪山を駆け、森の中へ入る。

 森の木を利用し、追い掛けてくるクリーチャーを遠ざけていく。紗夜はついに森を抜け、村に着いた。今は使われてない畑の上に、彼女は倒れ込む。


 以上が仲間と逸れてから幻夢高校に回収されるまでの経緯である。仲間の救助を頼んだが断れ、私立闘学校に助けを頼もうとしたらスパイ容疑をかけられたというわけだ。

 「四季……」

 いくら公立四天王の一人を倒したとはいえ、相手は人間の規格を越えたクリーチャー。四季でも無事でいられるかはわらない。


 「雑魚がわらわらと!」

 紗夜が心配していた四季は、たった今フェンリルを撃破したところだった。15級長には手強いクリーチャーも雑魚扱いなのか。末恐ろしい。

 四季が戦っているのは紗夜がアザラットの群れに襲われた緩やかな場所で、周りにもクリーチャーの死骸が散らばる。キバモンキーやファグモンキー、ベルベアにアザラットまで死屍累々山積みにされていた。

 「さすが鬼神斬魔刀。因縁の相手の魂が宿るだけあるぜ」

 四季は鬼神斬魔刀を肩に担ぐ。その刃には刃零れも曇りも無い。その素材となったアムールティガは四季にとって因縁の相手。素材になるクリーチャーとの関係が武器の相性に関わる可能性もある。堂々と競い合い打ち負かした相手を認める気質のクリーチャーなら強力かつ相性のいい武器を作れるだろう。

 「頼りになるな、お前は」

 四季はそれを自分で知っており、武器に語りかける。本当に、このアムールティガとはエルフィ以上の奇妙な関係を持ったものだ。

 「では、村へ行こう」

 四季は太刀を鞘に収め、村を目指す。レジスタンスでの情報では、この山を越えた場所にある村に紗夜の仲間達がいるのだとか。かつて紗夜が転がり落ちた斜面を四季は上っていく。紗夜が仲間と逸れた広場へは難無く辿り着けた。

 「あれ? 何これ?」

 四季はそこで、奇妙なものを見つけた。大型の機械だ。タイマーがセットしてあり、爆弾にしか見えない。赤と青のコードがあるから完璧だ。

 「見てしまったな。この公立四天王『機械歩兵』板金歯車様の装置を……」

 四季の目の前に現れたのは、作業着姿の男。筋肉隆々で体格がよく、いかにも現場の人間らしい姿だ。だが、それ以外に特徴が無い。

 「札束と同格? にしては嫌に風格が無いな」

 「あんな『事件は会議室で起こってる』タイプの奴と一緒にするな」

 それは風格が無い理由にはならなそうだ。現場の職人でも風格のある人間はいくらでもいる。四季も馴染みの武器職人を思い浮かべる。その人は自分が作った武器と相性がいい人間を探す能力に長けていた。四季の『武器の声を聞く』能力は訓練で身につけられるものだ。

 「あのおやっさんも現場タイプだけど風格あるな」

 「他人など知るか。この装置を起爆すれば雪崩を起こせる。これで村は終わりだ」

 歯車が言うに、これはやっぱり爆弾らしい。ペラペラと秘密っぽいことを喋ってしまった。

 「候補生共に装置を設置させようとしたが、あいつら思いの外役立たずだ。俺が『クリーチャーが嫌がる音波マシーン』を引っ提げて設置する羽目になった」

 「おいおい、自分では動かないとかますます札束以下の証明が増えてるぞ」

 四季は札束が北駅周辺に現れた理由を思い出した。あの辺りを征圧して拠点にするためだが、すでにそこはハクロウ高校のホームグラウンド。危険はある。それでも札束は自ら乗り出したのだ。『拘束の鎖』目当てとか言ってたけど、15級長を相手取るのだから生半可な覚悟ではないだろう。

 一方、板金歯車は危険地帯へ行く勇気すら無い模様。わざわざ安全装置まで使ってる。札束は相手が人だからそんな装置は使えなかった。

 「さあ、では装置を起爆しよう」

 歯車はリモコンを取り出し、装置を起爆する。その寸前、装置が宙を舞った。起爆は完了しており、空中で爆発が起きる。

 「ナイス、黒牙」

 「……」

 四季は黒牙を抜いており、それの斬撃で装置を吹き飛ばしたようだ。計画がおじゃんとなり、歯車は呆然とする。

 「こうなれば……俺自ら貴様を倒す! 15級長を越えると語られる四天王の力、見せてくれる! 刀など鋼鉄の身体には無意味!」

 歯車は気を取り直して、四季に殴りかかる。両腕は機械の義手。中にどんな兵器が詰まっているかわからない。

 「語られる?」

 四季は迷わず黒牙で応戦する。猪の様に突進する歯車の上半身と下半身が黒牙に分断される。

 「あれ? 俺の身体は斬れないはずじゃ……」

 真っ二つになった歯車はそのまま岩肌が露出する斜面を転げ落ちる。四季は血の一つ付かない黒牙を鞘に戻した。

 「騙られたの間違いだろ」

 四天王、板金歯車は呆気なく死んだ。四季は札束ほど気にすることもなく、森の中へ入って村を目指した。


 麓の村


 というわけで四季は紗夜の仲間達を救出した。クリーチャーはほぼ全滅。山の向こうの村に着いたら安全な道を通って麓の村に帰るだけの簡単なお仕事だった。

 四季は紗夜とログハウスで合流した。

 「よかった……本当によかった」

 「もー、泣かないでよ」

 紗夜は仲間の無事を確認したら、安心して泣きじゃくっていた。幸い、仲間達に目立った負傷は無い。

 「15級長って本当に強いんですね」

 「ふふふ、俺は15級長でも最弱……なぜ15級長に選ばれたかわからない」

 「それって他の15級長が言うべき台詞じゃ……」

 四季は助けた紗夜の仲間達に囲まれていた。女子校である幻夢高校に推薦された彼女達は全員女子。後輩の女の子に囲まれて四季も若干焦っているから妙な発言が多い。

 「しかしながら思い返してみると、公立なのに女子校って変だな」

 「元々は桜花学院の分校でしたが、悪名高い桜花学院の理事長が経営に息詰まって行政に押し付けたんです。設備がいいのはそのせいとか……」

 だが、やはり四季は冷静に奇妙な点を見抜いていた。これでも15級長、女子に囲まれた程度じゃそこまで動じない。ある程度は動じるのだが、それは男子だから仕方ない。

 「彼女とかいるんですか?」

 「いないけど好きな人はいる。どうやったら振り向いてもらえるかな?」

 「お弁当とか作ったら? 私はそれで彼氏ゲットしました」

 「彼氏持ちか、参考になるな」

 四季は携帯のメモ帳に情報をメモる。文字を打つ速度は女子高生がメールする時のそれを越えていた。

 「女子力がみるみるアップしていく……」

 「あの人が上げるべきは男子力では?」

 その様子を見ていた紗夜とレジスタンスの女子は間違いに気付いたが、四季と紗夜の仲間は間違えたまま突き進む。四季の女子力を上げても意味無いでしょうに。

 「公立四天王は後二人か……もう半分死んだのか」

 「情報によれば、どこぞの大学入試を妨害しようとしてるとか」

 「我々も最大限の警戒をしよう」

 レジスタンスの人達は資料を持ち寄って情報を集めた。四天王はまだ二人、よりによって厄介なものが残ってしまった。

 村の温泉に出掛けた仲間達と一旦解散し、ログハウスの長椅子には紗夜と四季が残っていた。

 「幻夢高校生徒会長、『春色の夢魔』宵闇夢憂は危険よ。あいつは人類が持ちうる全ての神力を扱える」

 「そりゃ厄介だ。闇人辺りにぶつけるか」

 紗夜から夢憂の情報を聞いた四季は、闇人なら勝てると確信した。人類が神力で使える能力全てを持つというのは、あまりに面倒臭そうだ。15級長最弱の四季にとっては戦いたくない相手だろう。

 「でも、四季先輩も『武器の声を聞く』って能力あるから勝てるよ」

 「いや、これは神力による能力じゃない。ぶっちゃけ、鍛練積めば誰にでも使える力だ。俺は自分では神力を力に変えるエンジンを持ってない」

 「え?」

 紗夜は初め、四季が謙遜してるのだと思った。だが、四季は初めからずっと武器の力を使っていた。四季自身のエンジンは不明のままだ。

 武器は、例えば神力で炎を起こせる人間が炎に強いクリーチャーと戦う場合、その相性を覆す為に神力を流せば雷を発する武器を持つなど、自分の神力と合わせて使うことが多い。紗夜は自身の身体強化に死刃舞の力を上乗せして、さらにハイレベルな身体強化をしている。

 だが、四季は基本的な身体強化も武器に頼った。鬼神斬魔刀の飾りに身体強化の作用を持つアムールティガの素材を選んだのも、常に身体強化の力がある鉄爪を付けているのも武器の身体強化を使う為だ。自身に十分な身体強化の力があれば、それらは不要なはず。鬼神斬魔刀の装飾も切れ味を増やす力があるクリーチャーの素材から作ったはずだ。

 「身体強化も……できないの?」

 「ああ。身体に流れる神力は感じることが出来るが、自分では使えない。だから武器を使うんだ。武器に頼り続けたら、だんだん武器の声が聞こえる様になった」

 紗夜が聞くと、四季は『武器商人』になった経緯を答えた。武器の力を引き出すためには生き物である武器の声を聞くことが不可欠だ。

 「昔は東京に住んでたんだ。でも、ある事件で家族を失った。同じ時期にエルフィと出会ってその事件を解決したがな。そんで中学上がるまでは日本中旅して、中学は九州にいたな」

 「いろいろあったのね……」

 「あ、クロスボーンガンダムいいな。プラモ買うか」

 四季は淡々と昔話をするが、ホビー雑誌読みながらだとシリアスさが薄れる。大変な過去なのに、本人は気にしてないようだ。紗夜はこの四季を少し気にする様になっていた。

 『春色の夢魔』宵闇夢憂

 配下『三大欲求』

  『睡の忍軍』(全滅)

  『喰の銃軍』

  『色の剣軍』(全滅)

 『破邪正拳』央田心史

 配下『四聖獣』

  『青龍』東山龍

  『朱雀』南野雀

  『白虎』西山寅治

  『玄武』北野玄

 『死の商人』黄金札束(死亡)

 配下『カンパニー』(全滅)

 『機械歩兵』板金歯車(死亡)

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