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学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
第65次受験大戦 上杉事件
11/35

3.試験五日前

 書類の記載

 柊紗夜

 所属:色の剣軍

 ランク:F

 所有武器:黒刀『死刃舞』

 所感:現時点での強さでいえばまだまだですが、刀との相性が良いみたいです。他の者が扱えない死刃舞を唯一扱えました。しかし如何せん、そうした者に限って何故か我々教員連の影響が少ない田舎で育っています。このまま死刃舞を持ち逃げされて公立内の『レジスタンス』に加入されるのも私立闘学校へ行かれるのも厄介です。懐柔が不能なら始末するべきです。

 少女は雪に身体を預けていた。何度もクリーチャーの攻撃を受けてボロボロの身体。か細いそれには、もう起き上がる力が無い。

 「みんな……無事かな?」

 少女は自分より仲間を心配する。吹雪が少女の身体に降り懸かり、彼女は雪の中へ沈んでいく。

 少女は何者かの足音を聞きながら、ゆっくり目を閉じた。


 ハクロウ高校 保健室


 「うっ……ここは?」

 闇人達に助けられた少女が保健室のベッドで目を覚ましたのは夕方である。夕方とはいえ、冬場は日が沈むのが早く、既に辺りは真っ暗。ベッドのシーツの端に備品の所在を示すためか、『ハクロウ高校』と書かれている。彼女はこれで自分のいる場所に見通しを立てた。

 自分は今、関わりを疑われたハクロウ高校にいる。

 保健室は本当に普通の学校の保健室と代わり映えがせず、あまり闘学校の保健室という感じがしなかった。少女も公立闘学校である幻夢高校にいたので、それがわかった。

 少女は記憶が曖昧だった。幻夢高校の屋内プールで生徒会長に敗れてからの記憶が抜け落ちていた。起き上がって、少女は自分の状況を確認しようとする。

 「あ、まだ動かないで」

 そこを、白衣を着た女子高生が止める。彼女はベッドの横に椅子を出して、膝掛けを掛けて座っていた。白衣の下は普通のブレザーで、幻夢高校の制服ではない。ここが幻夢高校でないことを少女は悟る。少女の記憶では、そのブレザーはやはりハクロウ高校のものだった。

 「ここは?」

 「ハクロウ高校の保健室よ。普通の病院だと居場所が敵に漏れるからここで治療させてもらうわ。私は並木更、あなたは?」

 女子高生、並木更は優しく少女に問い掛けた。少女は更をよく観察する。椅子に腰掛けているから気づかなかったが、どうやら自立で立てないのか、近くに彼女のものと見られる杖が二本立てかけられている。

 杖は自立で歩けない人が身体を支えるために使うものだった。

 「私は……柊紗夜」

 優しく語りかけてきた更に対し、少女は自己紹介する。少女、紗夜はそこでようやく自分の傷が手当てされていることに気付く。身体に包帯を巻かれた感覚があり、服もジャージの上に着替えさせられていた。髪が濡れていることから、身体も洗われたと気付く。

 「助けてくれたの?」

 「闇人達がね。私は手当てしただけだよ」

 「……ごめんなさい」

 紗夜は謝罪を言いながら布団を目深に被る。あの軍勢から自分を助け出すなど、危険な行為である上、後々も狙われることになる。

 更の手当ては完璧で、痛みも和らいでいた。何故だか安心して、少し瞼が重くなっていた。だが、右の瞼が重くなる感覚が無い。そういえば右目はえぐられたのだと思い出す。そこに手を触れると、包帯で覆われているのがわかる。

 「お、起きたか。これを届けに来たんだよね」

 そこへ、今度は男子生徒が現れた。保健室に入ってきたのは普通の男子生徒で、特徴といえば眼鏡とベルトに留めた二本の刀くらいだ。どこにでもいそうなオタクといった風情だった。手には刀と紙袋。紗夜は男子生徒が手にする刀に見覚えがあった。

 「四季、どうしたの?」

 「届け物だよ。こいつの刀と服。刀は『色の剣軍(笑)』がパクってたし、服は『人形師』が直してくれたんだ」

 男子生徒、四季が届けたのは紗夜の刀と服。四季は『色の剣軍(笑)』とか言ってるけど、実際に所属していた紗夜からみればあの集団は『色の剣軍(爆笑)』くらいでもよかった。そもそも他人の刀をパクる辺りで剣士としての資格が無い。ちなみに四季は剣士じゃなくて『武器商人』なので悪しからず。

 「人形師って服直せたの? あとその刀が本当に紗夜の刀?」

 「人形と服と一緒だってさ。あと刀が教えてくれたからわかる。紗夜のとこ帰りたがってたし、まあ馬鹿が荒い使い方してたから手入れしたけど」

 四季は紗夜が寝るベッドの隣に紙袋を起き、刀を彼女に手渡した。確かに、愛刀の『死刃舞』であることを確認した。紗夜は柄に触れた時、手に刀が吸い付く様な心地好さを感じていた。

 「やっぱり柄に触ると吸い付く感じするか。で、それはどんな気分?」

 「え? んと、すごく気持ちいい、安心する」

 妙なことを四季に聞かれたので、紗夜は戸惑いながら答える。四季は紗夜を見ず、明後日の方向を見ながら告げた。

 「そうか。予想通り、キミは刀に認められてるよ。死刃舞がキミのところへ帰りたがってたよ。彼女、淋しがり屋なんで、大事にしてやってくれ。キミとの相性もいいはずだ」

 「……?」

 四季が何を言ってるのか紗夜にはわからなかった。死刃舞を『彼女』と言った四季の感覚はわからないが、とにかく大事にすることには間違いなかった。死刃舞を布団の中で抱いて、紗夜は四季に応える。

 「うん、大事にす…」

 「俺のことは『お兄ちゃん』か『ご主人様』か呼び捨てでどうぞー」

 四季は紗夜の返答を聞かずに呼び名の設定に入る。前二つは冗談に違いないので、年上相手に気が引けるが呼び捨てで呼ぶことにした。

 「はい、四……」

 「それで闇人は? あいつなら一晩中ここにいそうだが……」

 だがまたも四季は一切聞いてなかった。なんというマイペース。基本、武器本意なのだろう。

 「闇人は残党狩りだよ。ほら、昼間の抗議集会装った連中の仇討ちとかいって色んな人来てるから。うちのクラスのみんなもヒャッハーしてる頃ね」

 「ただいま」

 「あー退屈だった」

 更が闇人の居場所を答えたと同時に、闇人と綴が帰ってきた。綴は何だか不満げだった。

 「退屈? どうしたの?」

 「実はさー、死体を狙ってきたクリーチャーモガモガ」

 「死体狙いのクリーチャーにビックリして残党が逃げたの」

 更が理由を聞いたが、途中で闇人が綴の口を塞いで説明を変わる。

 (何すんの闇人!)

 (更さんの前で『死体狙いでやって来たクリーチャーが残党をバリバリ喰ってました』はマズイ)

 闇人らしからぬ素早い行動だったが、理由を聞いた綴は納得する。更はクリーチャーに仲間を皆殺しにされ、自分も死にかけたが闇人に助けられたのだ。杖無しで歩けないのは、その心の傷が原因だ。これでも、去年まで車椅子だったから良くなっているのだが。

 「あ、あとこれ、再生治療の役に立てばいいな」

 闇人は抗議集会の連中及び残党のものと見られる血まみれの財布をバラバラと保健室に散らす。再生治療、それが右目のことであると紗夜はすぐに察した。

 紗夜は失った右目を覆う包帯に手を触れる。そこから、曖昧だった記憶が蘇ってきた。宵闇夢憂に敗れた後、牢獄に入れられて拷問された。右目をえぐられたのはその時だ。そして、そのまま抗議集会の連中に引きずられてハクロウ高校の近くまで来た。

 「おいおい闇人、そりゃ水臭せぇや。だったらあたしは……おい、誰にやられた。すぐに仕留めて来る」

 「お前はスクールブラッドを起こす気か。死刃舞の手入れなら任せろよ」

 今にも幻夢高校に突撃しそうな綴を四季が止める。紗夜は何だか暖かい気持ちになり、眠気が出てきた。そのまま眠気に任せて目を閉じ、紗夜はすやすやと寝息を立てる。

 「あっ! そういえば伝えないと……くっ」

 紗夜はふと、何かを思い出してベッドから起き上がる。しかし、傷が痛む。更が心配そうに紗夜を寝かせる。

 「大丈夫?」

 「っ…仲間を助けて……」

 「安心しろ、死刃舞が教えてくれた。雪山に仲間が取り残されているんだろ? その救助を頼んだら逆に私立闘学校のスパイと疑われた」

 四季は死刃舞から与えられた情報を元に話を進める。喋ると傷ついた身体に響くので、四季が話を代わることにした。

 「死刃舞曰く、こいつは公立のやり方に疑問を持ってたらしい。公立闘学校の生徒で組まれる反教員連レジスタンスへの加入及び、まだこいつは中学生で推薦されて色の剣軍(笑)に参加しただけだから、進路を変えて私立闘学校へいくかしかねなかった」

 「だから、敵になる前に潰したのね」

 話について来ているのは更だけ。闇人も綴も、基本が脳筋だから『敵対したら後で潰せばいいか』という発想になり、敵になる前に潰すという発想に至らない。戦略なんて立てたこともない。

 「ああ、死刃舞も教員連が保管していた武器で、まともに扱えるのは紗夜だけ。つまり、持ち逃げされたら自分達に大打撃及び敵の戦力を上昇させることになる。それに、紗夜は幻夢高校の生徒会長と戦って敗れたが、それも紗夜が万全な状態じゃなかったからだ」

 「確かに、他のより古い傷がいくらかあったわね。生徒会長とやらと戦った前に付いたと見られる傷が多かったわ」

 更の検査で他より古い傷が見つかった。紗夜が生徒会長と戦った頃には、既に満身創痍であったということだ。別に紗夜と生徒会長の間に圧倒的な力量差があったわけではなかったのだ。

 「負けたのは事実……言い訳はしない」

 紗夜はまた起き上がろうとする。満身創痍の身体に暴力を受け、限界を超えているはず。本来なら起き上がることもできないだろう。

 「で、問題はこいつらみたいに優秀かつ教員連に従わない中学生が潰される危険が未だあるって話だ。死刃舞が言うに紗夜が負った古い方の傷は、幻夢高校へ入学する予定の中学生達が研修としてクリーチャー討伐に雪山へ派遣されたんだが、その時に負ったみたいなんだ」

 「相当無理な戦いをしたのね」

 闇人と綴は眠くなっていた。あまり頭を使う方でないのが如実にわかる様子だ。四季と更だけで話を朗々と続ける。

 「そうだな。明日、こいつが行ったっていう雪山に行って見るよ。仲間が逃げる時間を稼ぐために一人でクリーチャーと戦って傷負って、一人だけ幻夢に回収されたってわけだな」

 「ええ、四季が死刃舞から話聞いてたからレジスタンスに確認を取ったけど、仲間はうまく逃げて雪山の村に保護されてるって。でも雪山をクリーチャーのせいで降りれないみたいなの」

 「そう、無事なのね……」

 四季は雪山に紗夜の仲間を助けに行く算段を立てる。紗夜は仲間の無事を確認し、安心して眠くなる。

 「お、救助ならあたしらも行くぞ」

 「ボクも行く」

 綴と闇人はそこで目を覚まして話に加わる。闇人はまだ目を擦っていて、完全に目を覚ましてないのだが。

 「いや、闇人は残れよ。明日なんて15級長大半出払っちまうから、紗夜や更を守る奴がいなくなる」

 「じゃあ、あたし行けるね!」

 「いや、お前も残れ。人数次第じゃ闇人だけじゃ守り切れんし、というか闇人及びお前みたいなパワー馬鹿を雪山に連れてったら雪崩が起きる。北海道の二の舞なんてヤダよ。まあ任せろ、白雨と黒牙がやる気なんだ」

 四季は闇人と綴を残して、一人で救助に行くと言い出した。白雨と黒牙がやる気だというので、いくら二人ほど強く無い四季でも大丈夫だろう。

 「うわっ!」

 「なんだ?」

 紗夜の仲間救助作戦が決定したと同時に、凄まじい衝撃が響いた。またミサイルでも着脱したのかと全員が辺りを見渡す。

 「うっ……何?」

 紗夜も眠気を覚ました。傷の痛みに耐えながら起き上がり、警戒を強める。未だ断続的に衝撃が響く中、綴は変身して衝撃の原因を探る。耳をピクピク動かし、綴は音から衝撃の発生源を突き止めた。

 「うーん。こりゃ北駅の方面だね」

 「北駅だと?」

 四季は北駅と聞いて血相を変える。そこに家でもあるのか。四季なら武器が無事なら家くらい潰れても気にしなさそうだが。

 「おい、明野は今どうしてる?」

 「こっち来る時下駄箱で見たから、多分今頃北駅だろ」

 四季は綴に明野なる人物の所在を聞いた。四季はいつもと違って緊迫している。紗夜もそれに気付いた。

 「友達が北駅にいるの?」

 「友達…認めたくねぇがそうなんだろうな。とにかく行ってくる」

 四季は保健室を飛び出した。紗夜は首を傾げる。四季と明野の関係が未だにわからない。四季は友達と認めたくないが友達らしい。

 「どういうこと?」

 「ああ、四季は明野天のことが好きなの。三年間ずっと。友達と認めたく無いのは、『彼女』と呼びたいからね」

 紗夜は更の説明で理解した。好きな人の身に危険が迫れば誰でも必死になる。


 四季は走った。堤防の上の道を駆け抜け、川にかかる橋を渡る。幅が広い川にかかった橋は長く、身体能力が15級長で一番低い四季では多少時間がかかる。橋を渡る車に追い抜かれている。

 四季が橋を渡り終え、しばらく走って北駅に辿り着く。道路を挟んで向かい側に大規模なデパートがある。北駅は商業高校の制服を着た集団に占拠されていた。向かい側のデパートも同様だ。

 北駅の利用客が多数、足止めを食らっていた。明野の姿はそこにない。

 「どうやら明野はあいつらが来るより先に北駅から電車に乗ったらしいな。おや?」

 四季は明野の無事を確認したのだが、ブレザーのジャケットに忍ばせた武器の一つが何かに反応したらしく、熱を発する。。

 「拘束の鎖? こいつが反応するってことは……近くに『凌辱の首輪』があるな」

 四季は先端に分銅が付いた鎖を取り出し、デパートを見た。拘束の鎖と対になる武器『凌辱の首輪』がそこにある。

 「行くぞ。お前も来い、『ストリングスの手指』」

 四季は革の手袋をはめた。ストリングスとは、糸を扱うクリーチャーだ。この手袋は神力を流すと、糸を自在に扱う器用さを得ることができるのだ。また、手袋にストリングスの糸が仕込まれている。四季は鎖を扱うのに、この手袋を好んで使う。

 四季がデパートに向かう。武器を持った商業高校の生徒が立ちはだかるが、鎖を鞭の様にしならせて全員弾き飛ばす。四季はデパートへ進入する。さっきのが一応見張りみたいだが、さほど意味はなかった。

 四季は客が追い出されたらしくガラガラなデパートの一階を走り、『凌辱の首輪』の反応を探る。専門店街にある吹き抜けで、首輪がある階を見定める。首輪は一階にある様で、反応は上に無い。そのまま反応が強いフードコートへ向かう。

 フードコートへ着くと、一人の影を見つけることが出来た。見えるのは一人だが、武器の反応は五人分、誰か隠れてる可能性がある。

 「来たな。上杉四季」

 一階のフードコートにあるマクドナルドでくつろいでいた、商業高校の制服を来た男子高校生が、ホットコーヒーのコップを持ちながら優雅に歩いて来た。ちなみにこのホットコーヒー、無料キャンペーンで貰ったやつらしい。キャンペーン期間は無理矢理コーヒーを無料でくれるため、普通にホットコーヒーを買えないから間違いない。

 にも関わらず、男子高校生は年齢不相応、ホットコーヒーの金額不相応の風格を持っている。

 「誰だ? お前が『凌辱の首輪』を?」

 「おや、君が四季くんかね? 私は公立四天王『死の商人』黄金札束だ」

 15級長を目の前にして余裕を見せる札束。四季が先日出会った睡の忍軍とは格が違うみたいだ。

 「ああ。死の商人っていうと俺達、似た者同士みたいだな。俺は商売しないけど」

 「違うな。私は武器を売らない、商売で相手を死に追いやる」

 「意味ワカンネ」

 互いに間を保ったまま、様子を伺う。四季は『拘束の鎖』を自在に操り、店中に鎖を張り巡らせた。まるで蜘蛛の巣だ。

 札束はホットコーヒーを飲み干し、空き容器をごみ箱に捨てる。

 「そんなことしなくても逃げないさ。それどころか、君が逃げられない」

 「逃げるつもりは無い。早く『凌辱の首輪』を万全に使えない奴から取り返さないと」

 四季の言葉を聞いて、札束は自分が『凌辱の首輪』を万全に使えてないことを心中で認める。

 『拘束の鎖』は『凌辱の首輪』とワンセット。先端に首輪が付いてるか分銅が付いてるか程度の違いで、性質は同じ。札束は夢憂を弄ぶ為に『凌辱の首輪』を使うだけなので、四季の様に施設一つをまるまる封鎖する様な結界を張ったことは無い。やろうとしても出来ないだろう。

 「だがな、自分で戦えないことへの対策はバッチリだ」

 「自分の弱さを否定しない、か。やっぱり気が合うじゃないか」

 15級長の四季にそんなことを言われても、札束には皮肉にしか聞こえなかった。

 四季が張った蜘蛛の巣みたいな鎖が、夢憂がいつも着ている水着の模様と重なる。そんなもの、どうせ後になったら剥いでしまうのだから札束は今まで気にしたことがなかったが、今はやけにそれが脳裏にちらつく。いつもの水着を着て、濡れた身体で挑発的なポーズを取る夢憂を目に浮かべ、そういえば夢憂は蜘蛛の巣の柄を好んで着ていたと思い出す。

 「何故だろうな。今になって女のことばかり気になるよ」

 「死期が近いんじゃねぇか? 生物的に子孫残さなきゃヤバいし、女を気にするのはその関係だろ」

 「君の名前も『シキ』だね。まずはここを拠点にハクロウに睨みを利かそうとしたら、まさか死期が飛び出して来るとはね」

 札束は余裕を持って話していたが、内心冷や汗が出る様な気分だった。まさか北駅周辺を占拠したら四季を呼び出すことになるとは、こちらが準備段階で戦うことになるとは想像していなかったのだ。今、札束の目に映る四季は『死期』の擬人でしかない。

 「あとはカンパニーに任せて撤退だ!」

 「撤退を厭わない冷静な判断力、その意気やよし!」

 札束は撤退を選んだ。睡の忍軍や色の剣軍には見られない、『引く勇気』を札束は持っていた。

 追おうとする四季の前に、四人のマントを被った人影が立ち塞がる。彼らが札束の部下、カンパニー。それぞれ『社長』、『部長』『課長』、『係長』と役職がマントに書かれていた。

 「そもそもストリングスの手指と拘束の鎖じゃ使い道が被って、二つとも生かし切れないじゃないか!」

 最後に札束は、四季が持つ二つの武器の弱点を露呈させた。鎖と糸、材質は違うが結界を張ったり使い道はだいたい同じだ。四季が両方持つ意味は無い。強いていえばストリングスの手指の手先を器用にする力狙いか。そうすると糸が無駄になる。

 「武器の性能を100%生かし切れないお前は武器商人ではない!」

 札束はただ逃げず、挑発を狙う。これで相手が冷静な判断力を失ってくれれば御の字、カンパニーをアシストできる。

 札束は四季から離れ、出口を探す。一階の入口は鎖で封鎖されていた。張られた鎖には少し隙間があり、頑張れば抜けれそうだ。だが札束は自らが持つ凌辱の首輪の力から、鎖に触ったら危険だと察知する。鎖に触れたら電流が流れる可能性がある。何より相手は鎖を自分より使い熟す四季。夢憂の様に喘ぐだけでは済まないだろう。

 「やはり置いていくべきか?」

 四季は首輪の反応を基に自分を探した。首輪も鎖に反応してたから札束にもそれは理解できる。首輪は惜しい。金ではない、夢憂という食材をより自分好みに料理するには、この『凌辱の首輪』が必要だ。

 札束の脳裏に、夢憂の姿が浮かぶ。凌辱の首輪をはめ、鎖を弄ぶ姿だ。全身に鎖が絡み付き、流れる電流に悶えていた。その時の声は、彼女のどんな声よりも札束をそそる。あの喘ぎが聞けなくなるのか。

 「命には代えられん!」

 札束は金で様々なものを手に入れた。愛しい夢憂の躯さえも。だからこそ、金で買えないものもよく知っていた。札束は首輪を捨て、走り出した。夢憂の柔らかな肢体を何度も縛った首輪はある種、札束にとってお守りみたいなものだった。だから今回も持ってきた。

 「私だけでもいれば何とかなろうなのだ!」

 札束は必死に抜け道を探す。立体駐車場に続く階段も封鎖され、エレベーターは鎖に貫かれて、全て破壊されていた。これなら何処かへ隠れた方がいいのは確かだ。

 「奴だって、武器さえ手に入れば人は殺めまい」

 札束は専門店街の吹き抜け、その最上階に着いた。吹き抜けにも鎖が張り巡らされ、『カンパニー』のメンバーくらいなら足場にして下からここまで上れそうだ。

 普段ならどんなに仕事がきつくても、夢憂と過ごす至福の時間を楽しみにすれば耐えれた。鎖に蹂躙されてグッタリと横たわる夢憂の、躯の汗を舌で舐める時が一番の愉しみであった。夢憂も舌のむず痒さに苦しげな表情を緩めた。

 「どこに隠れようか……」

 札束は隠れる場所を考えた。こんな時に限って、夢憂のことしか浮かばない。

 水着姿の夢憂は、濡れた肌が色気を倍増させていた。ベッドで夢憂がシャワーを浴びるのを待つのもよかった。部屋に響くシャワーの音が想像をかきたてる。シャワーから出て来た夢憂はいつも黒いバスタオルを巻いていた。タオルのシワがボディラインを強調し、黒い色が白い肌が際立たせ、堪らなかった。夢憂が自分のシャワーを待ったこともある。いつも天蓋のカーテンを閉めて、そこを開けると生まれたままの姿で寝そべる夢憂がいた。身体にかかる桃色の髪が妙になまめかしい。一緒に風呂に入ったこともある。体を洗ってやると、くすぐったそうにする。湯舟に浸かって、浮かんだ花を救ったり、足先で湯を掻き回す姿も艶やかだった。薄暗い寝室の電灯を反射する夢憂の肌は、熱を持って柔らかだった。彼女を抱けば甘い匂いが広がり、触れた肌が熱くて火傷しそうだった。上気した顔と潤んだ瞳でこちらを見つめる夢憂。上目遣いの彼女の唇を啜る瞬間は最高だった。薄い桃色をした唇は艶やかで、口づけは彼女の唾液の味なのか、どんな甘味よりも甘い。

 「とりあえずトイレ辺りが有力か」

 札束は無理矢理思考を切り換えて、隠れ場所を考えた。しかしながら、夢憂の姿は頭から離れない。

 散々に夢憂の肢体を愛撫した後、彼女を貫いて己の欲望を全て吐き出した。個人でいくつもの会社を経営する札束の立場もあり、昼間にデートしたことは無い。それでも夜に寝室で、愛を確かめる様に絡み合った。昼に会えない分、より濃密で甘美な時間を過ごした。

 「……来たか」

 鎖が鳴る音を聞いて、札束は思考をやめる。吹き抜けの手摺り、そこに吹き抜けを覆うネットの様に張った鎖に、四季は立っていた。ストリングスの手指を直しながら、札束を見据えていた。それでも、目だけは合わせない。天井からはマントを着たカンパニー達の死体が鎖で吊されている。

 「やあ、カンパニーとやらは大したことなかったよ」

 「『凌辱の首輪』は受け取って貰えたかな?」

 首輪を捨てたのに、四季は札束を見つけた。これは札束も想定していない結果だった。カンパニーの敗北も含めて。

 「鎖には建物から伝わる振動でだいたい人の位置がわかる機能があるんだ」

 「本来ならストリングスの糸でやるべき真似だな。そちらの方が正確だ。だが貴様の弱点は見え透いている。『拘束の鎖』と『ストリングスの手指』、性質の似てるこの二つをどう使い分ける? 『拘束の鎖』は電流で糸より攻撃力が高いはずだ。貴様は武器を集める故に、似た使い道の武器を持て余す、それが弱点だ」

 あんまりな発見方法をされた札束は、四季の弱点を見つけた。あまり打開策に繋がらないが、現に四季は結界を鎖で作り、ストリングスの手指に仕込まれた糸が使えてない。そこに付け入る隙があるはずだ。

 「そう、例えばこの吹き抜け。鎖なら確かに足場になるが、ここを私が飛び降りたらどうなるかな? 糸ならみじん切りだが、鎖ならそうはならん」

 札束はその隙を見つけた。張り巡らせたのが糸なら、吹き抜けを飛び降りる相手を重力と糸の強度で切断することが出来る。まるで糸鋸の様に。だが、鎖ではそれは出来ない。

 建物に結界を張り、罠を仕掛けたり敵の位置を探したりという、似た使い道かつ、鎖に流す電流の方が触るだけでダメージを与えることが簡単に出来るから、四季は結界を鎖で張る様になっていた。

 糸は相手が猛スピードで走ってたりしたら切断出来るが、相手が歩いているとダメージを与えられない。ただ邪魔なだけだ。ブービートラップも鎖に比べれば手間だ。

 「貴様が私を取り逃がす原因は、ストリングスの手指に仕込まれた糸の軽視だ。糸に出来ることをさらに確実に、強力に出来るという判断は甘かったな! 私は吹き抜けを飛び下りる! 追いついてみせろ!」

 札束は吹き抜けを飛び降りて一気に一階まで下りて逃げるつもりだ。幸い、四季は素の身体能力及び神力による身体強化が15級長ひいてはハクロウ高校の生徒では低い方だ。対して札束は革靴に疲労防止のクッションがある。彼は飛び降りてもクッションでどうにかなるが、四季は衝撃を受け切れない。

 「私は逃げる!」

 そこに勝算を見出だした札束は吹き抜けを飛び降りた。そして一階に、細切れにされた札束が降り立った。バラバラになって、かつての優雅さはカケラも見られない肉塊へと成り果てた。

 「馬鹿め。鎖をブラフだと気付かずに」

 四季は吹き抜けに張り巡らせた鎖、その隙間にいくつも浮かぶ赤い線を見た。鎖の隙間に、糸が張られていたのだ。

 四季は『拘束の鎖』と『ストリングスの手指』を手にした時、その性能が似通っていたことに気付いた。差別化を図ろうにも、『敵を拘束し、場合によってはダメージを与えて弱らせる』、『建物に張り巡らせて結界にする』、『結界を作って敵を感知する』、『張り巡らせて足場にする』、『罠を張る』という性質に至っては糸だと相手の動きに速度が無いと切断できないのに対し、鎖は触れただけで電流が流せる。もはや糸と鎖の性能差は『太さ』くらいになってしまった。

 だから、四季はそれを利用した。最初に鎖で結界を張れば、相手は鎖にしか注目しない。後から糸で結界を張っても気付かれないのだ。鎖が無い廊下を敵が走ったり、吹き抜けを飛び降りると張られた糸の餌食になってバラバラにされる、という作戦だ。さらに、鎖と鎖の間にも糸は張れるのだ。

 「まんまと嵌まったな」

 四季は罠に嵌まってバラバラとなった札束を見てニヤリと笑う。彼は確かに、武器を扱い熟していた。例えそれが、一見するとある武器の劣化でしかない武器だとしても。


 ホテル 寝室


 四季と札束の戦いからたった一時間程度で、札束とカンパニーの死亡は夢憂に伝えられた。だが、彼女は札束が死んでもあまり悲しまなかった。自分を好きなだけ貪ってくれる人がいなくなったのを少し残念に思う程度だった。どうやら札束の遺書には、遺産を夢憂に渡すと書いてあったみたいで、金の心配は無くなった。

 彼女にとって、所詮札束は財布であり寝るための身体でしかないのだ。

 夢憂の部屋の寝室、そこに一人の男が呼ばれた。彼は夢憂にベッドで待ってる様に言われ、そのまま待機しているのだ。

 所謂『普通の高校生』な外見をする彼、央田心史は普通の高校らしく学ランで寝室を訪れ、そのままシャワーの音にドギマギしながらベッドに座っていた。これでも央田は夢憂や札束と同じ公立四天王『破邪正拳』。だが、やっぱり中身は普通の高校生。

 なんで自分が呼ばれたかわからなかったのだ。てっきり、夢憂は好きだった札束が死んで悲しいから自分に慰めてもらおうとしたのかと思った央田だが、明らかに展開がおかしい。扉の音が開き、夢憂の足音が聞こえる。

 「お待たせ」

 夢憂の姿を見て、央田は驚愕した。シャワーから出て来た夢憂はワイシャツを着ているだけだった。あまり体は拭いてないのか、全身は濡れていて、ワイシャツが張り付いている。シャツが張り付く部分はほんのり肌色、ボタンも第三、第四くらいまでザックリ開けている。

 「……」

 央田は開いた胸元から見える肌、裾から覗く健康的な脚を見て生唾を呑む。夢憂はそのまま央田を押し倒し、ベッドに乗る。

 「ちょ……宵闇!」

 「あら、かわいい反応ね」

 夢憂に乗られ、央田は慌てる。彼女から香る甘い匂いに、央田の心臓は早鐘を打った。夢憂の手でベッドの天蓋のカーテンが閉められ、電灯が消される。今、二人を照らすのはベッドの横のランプのみ。そして夢憂はあろうことか、ワイシャツを脱ぎ始めた。そして、央田に倒れ込む。

 (男って、単純ね)

 慌てる央田を見て、夢憂は抱き着きながら心で呟く。彼女はどんな男でも虜に出来た。

 (肌見せてこうするだけで簡単にね)

 そのまま二人は絡み付く。きぬ擦れと身体が擦れ合う音だけが部屋に響く。央田は夢憂を抱いたまま聞いた。

 「なんで、こんなこと……」

 「私、貴方が必要なの」

 夢憂は央田の上に乗る。彼女は、本当は央田など必要なかった。ただ、札束がいないと夜が退屈だったというだけだ。

 央田はそれを知ってか知らずか、委ねられた肢体を持て余していた。

 『春色の夢魔』宵闇夢憂

 配下『三大欲求』

  『睡の忍軍』(全滅)

  『喰の銃軍』

  『色の剣軍(笑)』(全滅)

 『破邪正拳』央田心史

 配下『四聖獣』

  『青龍』東山龍

  『朱雀』南野雀

  『白虎』西山寅治

  『玄武』北野玄

 『死の商人』黄金札束(死亡)

 配下『カンパニー』(全滅)

 『機械歩兵』板金歯車

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