表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園軍記スクールブラッド  作者: 級長
スクールブラッド第一万六号「桜花学院の乱」
1/35

プロローグ

 とある掲示板のカキコミ

 1『さっき桜花学院の予備学科生達がが閉鎖された地下街に入って行くとこを見た件』

 2『あいつらか』

 3『桜花学院がクリーチャーとかから守られてるのって、あいつらのおかげだよな』

 4『それなのに理事長は「私の権力のおかげ」とか言ってるwww』

 5『権力バリア(笑)か。九条バリアと思考回路一緒だなw』

 6『ていうか予備学科ってレベル高くね? 主にルックス』

 7『エースの鳳凰堂紅って脚綺麗だよね。踏んでほしい』

 8『>>7 我々の業界ではご褒美です』

 9『>>7 踏んで貰える上に罵ってくれる』

 10『>>5 ていうか九条バリアってなんだ?』

 11『>>10 自衛隊を違憲だって言ってる連中の思想を皮肉った言葉。九条が守ってくれるって。あいつら日本国憲法が出来てから何百年か立つのに、何一つ学習してねえ。話し合いもバックに武力がなきゃ成立しない』

 12『>>11 ㌧ また一つ賢くなったな!』

 地下街廃棄


 「はっ、はっ……」

 「先輩っ……、待って!」

 二人の少女が息を切らせながら走っていた。今は誰もいない地下街で、二人は何者かに追われていた。

 十字路まで来ると、二人は足を止めた。もう体力も気力も限界に近かった。年下の少女は先輩らしき少女に支えられ、なんとか立っている状態だ。

 二人の服装は同じで、何らかの制服だと思われる。軍服に似たジャケットに赤いネクタイ、短いプリーツスカートにブーツ。学校の制服だろうか。

 だが、二人の間にも差異はあった。先輩の方はハイソックスを履いているが、後輩の方はタイツ。学校の制服らしい差異である。また、ジャケットの胸に付けられたワッペンが学年を表していると思われる。先輩は『10』と書かれ、後輩は『9』と書かれたワッペンを付けている。二人は一つ年が違うらしい。

 「はあっ……はあっ……げほっ、げほっ!」

 「大丈夫?」

 息を切らして走れなくなった後輩を先輩が心配する。後輩は先輩の胸に抱かれ、嗚咽を漏らしていた。先輩は泣きじゃくる後輩の頭を撫でる。

 「ここまで来ればもう大丈夫」

 「予備学科がこんなとこだなんて……私、知らなかった……」

 「今回は稀なケースよ。本当なら死人が出るはず無いんだけど……」

 後輩は予備学科というものに入って日が浅いらしい。先輩は慣れている様だが、今回は異質だとばかりに語る。本当だったら、ここまで恐怖に駆られることも無いみたいだ。

 「桜花学院の予備学科は、戦うための機関。その癖、没落した家の子女を強制転入させることで構成されるから初めの方は体力とかより、士気に問題があるのよね……」

 先輩は学校に対する愚痴をこぼす。予備学科は何かと戦う機関だが、彼女達は好きで戦ってるわけでは無い。後輩の様に恐怖に負ける人間がいるのも頷ける。

 だが、彼女達が逃げてきた相手はすぐそこに迫っていた。

 「ひっ……!」

 後輩が短い悲鳴を上げる。地下街の通路を塞ぐほど大きな蟹が二人に迫っていた。蟹は電気を帯びており、鋏には血がついている。甲殻の至る所に水晶の様な輝く石が張り付いているのも特徴だ。

 「いやっ……」

 後輩が蟹の鋏や口に引っ掛かる布地を見て震え上がる。その布地は、自分の制服と同じもの。仲間が犠牲になったことを間接的に伝えていた。

 先輩も黙っていたが、足がすくんでしまっている。先輩の方は予備学科生としてこうした生き物と戦ってきたわけだが、ここまで巨大なものと対峙した経験はなかった。

 蟹の甲殻が光り、怯える二人の少女に電流を走らせた。

 「んぐぅ……っ!」

 「くああっ! あ…んっ……ひあああぁぁぁぁっ!」

 先輩は後輩を抱きしめ、電流が体を走る激痛に耐えた。だが、後輩は痛みに耐えれず声を上げた。体をのけ反らせ、痙攣する。そんな後輩を庇うように先輩は蟹に背中を向ける。

 「う……んっ! くぅっ……!」

 蟹と距離が縮まったため、痛みが増す。二人の少女は抱き合って苦痛に悶えた。

 「あうぅ……ん……」

 だが、後輩の方は痛みに耐え切れず、膝から崩れ落ちる。だが、姿勢が低くなったことで電流から逃れられた。仰向けに倒れた後輩は朦朧とする意識の中、先輩を見据えた。

 「んあっ……先……輩っ!」

 「逃げ……て、うああっ!」

 先輩は体を抱いて耐え、後輩を逃がそうとした。電流が止まり、先輩は蟹に向いて睨む。

 「くぅ……。来るなら来い! 私が相手だ!」

 「ううっ……先輩……」

 後輩もふらふらと立ち上がった。しかしその瞬間、先輩の薄い胸板を蟹の鋏が貫いた。右の鋏だった。

 「ひぐぅ!」

 「先輩っ!」

 後輩は叫んだ。先輩は血が伝う足をばたつかせ、手で蟹の鋏を叩く。蟹は獲物を捕らえて歓喜したのか、左の鋏をチョキチョキ鳴らしている。

 「んぐぅっ、ひ、あっ……! お願い……逃げて……。んぅ!」

 先輩は後輩を見つめて言う。目から涙が溢れ、口からは赤い血が大量に漏れる。

 「先……輩……」

 後輩は泣く暇も無く、先輩に背中を向けて走り出した。蟹はすぐに彼女を追う。その途中。捕らえた獲物を咀嚼したのか、バリバリと聞き慣れない音が後輩の耳に届く。

 「いやぁっ、あぁっ、ひぎゃぁぁぁっ……、ぐぎぃ!」

 「うっ……」

 遅れて悲痛な叫びが響く。さっきまで喋っていた先輩は、得体の知れない化け物に食われたのだ。

 後輩の少女は自分の人生を振り返った。家の方針で名門のお嬢様学校である桜花学院に入学したけれど、家が没落して家族は離散。自身も予備学科へ転入させられた。そして、最後が蟹の餌。

 「ぐぅんっ!」

 突如、少女の思考を打ち切る物があった。生暖かい、柔らかい何かが少女の背中にぶつかったのだ。そして、少女はその正体を確認して戦慄した。

 「えっ……?」

 少女の背中やタイツに包まれた足を赤く汚したのは、蟹に噛み砕かれた先輩だったものだ。予備学科の人間が身につける、小さな鉄製のプレートのネックレスみたいなドッグタグに刻まれた名前や、自分の制服と同じ布地が少女にそう判断させた。

 「やぁっ……」

 血と脂にまみれた少女は逃げる気力を失った。蟹は食べるためではなく、残虐に殺す為に少女を追っていたのだ。そこへ、蟹が電流を流す。

 「んくっ、あああっ、んっ!」

 少女は体をよじり、痛みに悶えた。電流が止むと、少女は座り込んで肩を抱いた。電流が強く、制服のあちこちが焦げている。

 身体が震え、胸の鼓動が狂って早くなり、呼吸を乱す。胸に触れるとそれがハッキリわかった。

 「ああっ、はあっ、はあっ、んんっ……」

 少女は立ち上がり、また逃げるのを続けた。痛みで恐怖を思い出し、再び逃げる気力が起きたのだろう。

 「あんっ……くぅっ!」

 だが、痺れた体ではまともに走れない。それでも、少女は逃げ続けた。足が縺れ、何度も床に転がる。

 「いぎぃっ!」

 時々追いつかれ、鋏の腹でか細い体を叩かれる。嫌な音が全身に響く。

 「うぐぅ……うげっ、げほっ、げほっ!」

 無様に床を転げ回り、血や吐瀉物を撒き散らしながら、生きるために少女は逃げた。何度も追い付かれては電流を浴び、身体をのけ反らせて痛みに喘ぎ、倒れてはまた、か細い身体に鞭を打って立ち上がる。

 ジャケットは所々破れ、スカートは一部が裂け、タイツは穴が空いて白い肌を晒す。ブーツはいつの間にか脱げていた。

 「そんなっ……」

 必死の逃避行も虚しく、着いた先は行き止まり。少女は残酷にも立ちはだかる壁に縋り付いた。

 「そんな……こんなのって……」

 冷たい壁は、熱を持った少女の柔らかい体を押し当てられても反応一つ返さない。逆に彼女から熱を奪っていく。蟹は縋り付く少女の姿に興奮でもしたのか、より一層強い電流を少女に放った。

 「んぎぃぃぃぃぃぃっ! あぐぅぅぅっ!」

 少女は壁に背中を預けて、必死に耐える。歯を食いしばり、痛みに負けない様に我慢した。だが、その我慢も限界だった。電流をさらに強くされると、声を出してしまう。何かが太股を濡らす感覚があったが、少女は痛みに耐える方を優先していた。

 「んあああっ、くっ! やめ、って……ああっ! 助けてよっ……ううっ! ひっ、ぎぃ、あぅぅ!」

 体を揺り動かし、痛みに少女は悶え苦しむ。長い長い苦しみが少女を襲っていた。今までで一番長く電流を浴びている。

 不意に電流が止まる。少女は壁にもたれ、限界を迎えていた。叫ぶ体力も無くなっていた。

 「んぐっ……ふぁあっ……ひぅ、んぁ、あぁ……んっ」

 体が痺れ、動く気力さえ無い。肩で息をして、舌をだらし無く出す。涎も涙も、拭うことすらしない。蟹は少女の腹に鋏を宛がい、その腹を破ろうとしていた。

 「んあぁっ……」

 少女は生きるのを諦めた。最後は無惨に腹を裂かれて終わるのだ。少女はそう確信する。

 だが、蟹の鋏が少女の腹を裂くことはなかった。蟹はその一歩手前、少女のジャケットを破ったところで事切れたのだ。

 「……え?」

 よく見ると、蟹は背中の殻を引き裂かれて死んでいた。目の前には髪の長い、学ランの少年がいる。少年は携帯電話を取り出し、何処かへ連絡を入れる。

 「こちら倉木闇人。負傷者一名、至急応援を」

 少女の意識はそこで終わる。

 掲示板のカキコミ

 398『スレ主だけど、予備学科生が帰って来ないwww』

 399『クリーチャーに食べられたか(性的な意味で)』

 400『400ゲト』

 401『入口でウロウロしてたら優しい声で避難呼び掛けられたんだよね。心配だ』

 402『あの子達じゃなくて、ゴミみてーな国会議員が死ねばいいのに……』

 403『美人薄命か、可哀相に』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ