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非日常な日常5

長らく空きました。

申し訳ありません。

 夕暮れにニサンの街が夕闇に染まる。

 普段は皆が家に帰り、家族団欒を楽しむ。酒場は盛り上がり、賑やかさが辺りを包む。

 子供たちの笑顔、大人たちの働いて疲れた顔、少年少女の思い悩む顔、老人の穏やかな顔。

 一日の終わりを彷彿とさせるような、そんな日常。

 

 それが今は、皆が恐怖に怯えて足早に街の中央にある教会に向かっている。

 子供の泣き叫ぶ声。

 大人たちの避難を促す大声。

 怒声。

 悲鳴。

 祈り。

 絶望。


 その中をぼくとエリとユマは全力でギルドに向かって走っている。

 しかし、人波を逆に移動しているので、どうしても時間が掛かってしまう。


 仲の良いおばさんが問う「大丈夫よね?」

 隣に住むお姉さんが言う「頼むわよ」

 道具屋のおじさんが言う「頼んだ」

 子供たちが言う「お願い」


 皆が言う「この街を守って」


 ここにある全てが現実だ。

 今ここにある全てがぼくの全てだ。

 偽物だとか創りものだとか、そんなことはどうでもいい。


 ぼくにとって大切なものがここにある。

 それだけで充分だ!



 ギルドの前に着くと、ギルドのメンバー、それに戦おうという意気込みの街の人たちが集まっていた。

「おせぇーぞ、ナオ!」

 この街で育ち守ってきたブレイサーのリーダーのヴァンさんが話しかけてくる。既に戦闘準備は整っているようで、防具は元シェバト王国騎士団団長ということもあり、ごつい鎧に身を包んでいる。さらには背中には大きな大剣が吊ってある。彼の身長が2メートルはあるくらいの大男なので、それだけで威圧感があり圧倒されるものがある。


「すみません。それで状況は?」

 ヴァンさんに謝りながら、サラさんに説明を求める。

「状況は最悪ね。遠目から見ただけの報告でも数は1万は超えているわ。さらに魔人や魔物に魔獣までいるわ。対してこちらは100人いるかいないかという所ね」

 サラさんが青い顔と震える声でそう答えてくれた。

 周りの空気も重く、まるで死の雰囲気がまとわりついているようだ。


「でも、ナオがいる」

 その暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように、エリの力強い声が辺りに響き渡る。

「わたしたちにはナオ君がいます。だから、大丈夫ですよ」

 そう言って優しくほほ笑むユマがいる。


 ぼくはちっぽけな存在で、普通に生きてきた。

 だけど、世界が変わってしまった。

 ここも現実で、向こうも現実。

 でも、そんなことは初めから関係なかったんだ。

 守りたいと思ったんだ。

 だから、―――ぼくにできることをしよう。


 瞼を開けば、視界にはぼくを見つめるエリ、ユマ、サラさん、ヴァンさん、ブレイサーの人々、街の人々。

 彼らがぼくに期待しているのは英雄だ。

 そして、何よりも奇跡だ。


 でも、今皆が一番欲しいものは『自らを奮い立たせる一滴の勇気』

 巨大なものに立ち向かう、命を賭けて立ち向かう為の。

 

 そんな彼らに勇気を出させるような言葉をぼくは思いつかない。

 ぼくは革命家でも無ければ、レジスタンスのリーダーでもない。

 ぼくでしかない。

 だから、ぼくの思いを伝えよう。

 伝わるかは分からない。

 皆がどう思うかも分からない。

 それでも伝えよう。


「ぼくは、・・逃げてきたんです。黒月戦役(こくげつせんえき)で仲間を失って、この世界なんてどうでもいいと思った。ぼくはそんな弱い一人の人間です。ちっぽけな存在です。ぼくを英雄と呼ぶのなら戦いに参加した全ての人が英雄です」

 ぼくの発言に皆が息を飲む。落胆した様子の人々もちらほら見える。

 でも、その中でも、エリやユマ、サラさん、ヴァンさん、ギルドのブレイサーのみんなは瞳に強い力が宿ったままだった。

 勘違いかも知れないけど、聞こえたんだ。

『信じる』って。


「そして、流れ着いたのがこのニサンの街でした。ぼくはエリとユマを助けました。でも、本当はエリとユマがぼくを助けてくれていたんです」


 そう言って、エリとユマを見つめ微笑む。

 二人も優しく微笑み返してくれた。


「そんなことないって二人は言うでしょう。でも、そこからぼくはこの世界の素晴らしさを教えてもらいました。

 この街のギルドに所属して、サラさんに出会い

 ヴァンさんに出会って

 ギルドのみんなに出会って

 街の生活も始まって

 お隣のミラー家に出会って

 カルールおばさんや、

 ジーラおばあちゃん、

 チャールズおじさん、

 悪ガキのプリシアやレイ、他にも色々な人に出会って

 どんどん大切なものが増えて行きました」

 

 辺りを見渡して、ここにいるみんなを見渡して、

 そしてここにいない人たちには思いを馳せる。


「ぼくは、・・・この街が大好きです。

 この街に住む人々が好きです。

 守りたいんです。

 だから、ぼくは闘います。

 例え、強くなくても、弱くても、見っとも無くても、惨めでもいいんです。

 ただ、守れればそれでいい。

 守るものは、守りたいものは、まだ何一つとして失っていないのだから」




 沈黙が場に満ちる。

 でも、ぼくの心はすっきりした。どこか抜け落ちたかのような感覚があるが、それよりも満たされている部分が大きい。後悔はない。

 もう、ぼくは闘える。きっと大丈夫。()を倒す。


「ヤロー共!こんなガキにこんなこと言われて俺たち大人が黙っていられるか!?」

 ヴァンさんが自らの大剣を頭上に掲げて、集まっている皆に吠える。

「そうだ!」

「俺たちの方がこの街に長く住んでんだ!」

「こんなガキに俺たちの思いは負けたりしねーだろっ!」

 ギルドの面々が次々に吠える。

 それに呼応して、闘おうと駆け付けてくれている街の人々も吠えだす。

「この街が好きだーっ」

「俺にだって、守りたいものがあるんだ!」

「こんなガキに頼ってられっか!」

「やってやんぞっ!」


 空気が変わる。

 皆の闘志が周りの空気を熱くする。

 その熱くされた空気に呼応して、また人も熱くなる。


「ナオ、良くやった。行くぞ、銀閃の剣士」

 そう言って、ぼくの背中を叩き走り出すヴァンさん。

「夜明けのヴァンさんにも期待してるよ」

 そう言い返して、不敵に笑ってやる。

「おーおー、元シェバト王国騎士団団長ヴァンさんによく言うよ」

「そもそもナオもヴァンさんも黒月戦役(こくげつせんえき)で共闘してるだろうに」

「でも、ヴァンさんは臨時で団長してただけだぜ?」

 そう言ってギルドのブレイサー達も駆け抜けていく。

 それに続いて、街の人たちも駆け出していく。


「ナオ、行こう」

「ナオ君、信じてる」

 最後にエリとユマがぼくに笑顔で声をかけてくれる。

「うん、行こう」

 そう言ってぼくたちも駆け出した。 



 街の南の入口に着き、ヴァンさんの隣に三人で並ぶ。

 街の入口に立って初めて分かる。


 あらゆる暴力と畏怖と絶望を叩きつけてくるような光景がそこにはあった。

 視界を埋め尽くす魔物や魔獣。

 勇気が芽生えた人たちのその小さな勇気を一瞬で吹き飛ばさせる絶望が。


 誰かが口にした「もう駄目だ」と。

 それだけで周りに絶望が広がる。

 ふと不安になった。エリとユマも諦めてしまったのではないかと。

 隣を見れば、力強い瞳で前を見つめる気高くて美しい二人がいた。

 ・・・とんだ心配だったようだ。

 二人は信じているのだ。このぼくを。


「ナオ、やるぞ。この状況だ。皆に希望を与えるのは、俺とお前の役目だ」

「わかった」

 ヴァンさんの言葉に、漆黒の剣を背中の鞘から抜き放つ。


 ヴァンさんが後ろを向き、その大剣を街の皆に向け言葉を放つ。

「良く聞け!いいか、街を守ろうなんて、柄にもないことを考えるな!そんなもんはブレイサーに任せとけばいい!てめーらは、好きな娘のことだけを考えろ!生きてその娘の笑顔を見たいと願え!そうすりゃニサンの気のいい神様が守ってくれる! 」


 相変わらず、無茶苦茶なことを。ヴァンさん、黒月戦役(こくげつせんえき)でも同じようなこと言ってたぞ。

 思わず苦笑してしまう。

 

「今からお前らに希望(・・)を見せてやる!良く見ておけ!」

 そう言って、ヴァンさんは前の大群の敵を大剣を肩に掛けて見据える。


「ナオ、どのくらいいける?」

「言っとくけど、この剣、レーメ(精霊)の加護を失っているからな。」

 ヴァンさんの問いかけに、渋い悔しげな表情で剣を掲げて応える。

「・・そんなことは知っておるわ。しかし、完全に死んだわけではあるまい」

「まぁね。エリとユマの力を借りれば何とか」

「では、先手はお前に譲ろう」

 そう言って、ヴァンさんは一歩下がった。

「はいはい、それはどうも」

 それに剣を振って応える。


 それじゃ、いっちょやりますか!


最近、仕事が忙しくてキツくてすみません。

ただでさえペースが遅いというのに申し訳ありません。

皆さまも体は壊さないようにしてくださいね!

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