99弾 彼女らの話をしっかり聞こう
下宿先へと向かう帰り道で
(ふーん、婚約ね。後で祝いの品でも送ってあげないとね。)
念話術越しだが、メムも嬉しそうだ。
(どうしたの、険しい顔をして。)
メムが俺の顔を見ながら聞いてくる。
(いや、もし華燭の典に招待されたらどうしょうかと思いまして。)
(当然、行くでしょ。この異世界での祝い事よ。慶事よ。もしかしてこの異世界で恋愛もしてないからひがんでいるとか。)
そのまま俺は険しい顔のまま下宿先に戻る。昼食時間にはまだ時間はあるので、一旦自室に入っていく。
「どうしたの、さっきから険しい顔をして?。腹痛かしら、ダン。」
「いえね、こういう祝い事、慶事に招待されたとして、この異世界だとマナーとか服装とかどうすればいいのか全くわからなくて。」
「あ、そうか………。」
メムもそれは盲点だったとばかりに、目を白黒させた。
「ま、まあ、ダン。それは後で、セイクさんや、あの3姉妹に聞いてみましょう。」
まあそれもそうだな。別に今日明日での急な話ではないのだから。さすが女神様、落ち着いた回答だなあ。
「………ああいう慶事には、きっとご馳走が山のように、ゴクリ。ふうう、想像するとよだれが。ふふふふ。」
おい、最大の目的はそれか。
メムはもう早々と、華燭の典で招待されて大量のご馳走が出ることを、そしてそれらを大食することを想像していた。
「メム様ー、取らぬ狸の皮算用、ということわざご存知ですかー。」
全く、昼食前に何を想像しているのか。これは先に言っといたほうがいいな。
「メム様、いやしく集らないで下さい。大食いどころじゃない、重ーい話をしてくるでしょうから。がっついちゃダメですよ。」
「はっ、そ、そうね。さっきの慶事の話でつい浮かれてしまったわ。」
浮かれすぎでしょうが。
「もうそろそろ、昼食の時間でしょう。」
俺がそう言うと、ドアがノックされた。
ドアを開けると、ミアンとミヤンの二人が出迎えに来た。
「昼食の用意ができましたので、どうぞこちらに。」
二人ともいつもより無表情で能面のようであった。
昼食は4人と1匹で、以前一緒に夕食をとった時のように3姉妹と相対しながら、ダイングキッチンで、ものすごく静かで凍りついた空気をかもし出した中で、全く会話のないものとなった。
さすがにメムもこの空気の凍り付き感を察したのか、俺に不満やもっと食いたいとかの念話術での会話も、変な行動もせずに、淡々と食事をしている。
静粛な昼食が終わり、ミアンとミヤンが食事の後片付けをしている間、本日初めてヘルバティアが口を開く。
「ニシキさん、これから私たちがする話は、決して口外しないでください。それと、今ここで、これから私たちに助力していただけますでしょうか。」
「いきなりの助力の依頼か。話を聞いてから出ないと結論は出せない。当然のことだと思いますが。」
俺もいきなりそんな助力の話をされても慎重に考えざるを得ない。もしこれで、話がこじれたりしたら、一戦交える覚悟も必要か。
「互いの稼業に干渉しない、そういう契約だったはず。話をする前に助力をして欲しいというのは、いささか性急すぎるのではないのか。」
続けざまに言うことで、俺たちの立場をはっきりさせる。ヘルバティアは何か考えているようだ。
「今の状況なら、話を聞いた後、俺たちは互いに干渉しない、という形のままにするか、それとも状況に応じてあなたたちに助力するか、の二択でどうでしょうか。」
俺がこう提示すると、ヘルバティアも
「わかりました。では、話をしてからと言うことで進めましょう。」
そう言うと、そこへ後片付けを終えたミアンとミヤンが戻ってきて席についた。
「さて、じゃあ、俺たちの方から話というか、組合本部に一報した、その後警備隊に状況を確認した。どっちもコソ泥の認識で、これ以上この件で俺やあなた方をどうこうする予定はなさそうだ。ただ、今の段階では、というところだが。」
俺が先に、昨夜のコソ泥を取り押さえた件についての状況を説明する。
「そうですか、ありがとうございます。」
「昨夜、警備隊に説明した通り、コソ泥が入ってきたので、俺とメムでそのコソ泥二人を捕らえて、所持品を確認した、と組合本部にも伝えている。あなた方が尋問したことは一切俺たちは関知していない。俺のその認識でそちらに問題はないでしょうか。」
「ええ、ありがとうございます。では、少し長い話を。」
そう言って、ヘルバティアがコップの水を一口飲んで語り始めた。
「私が16歳の誕生日を迎え、大供として認められる年齢になって10日後、両親は鍛錬を兼ねて探索に行くと言ったまま、行方不明になりました。私たち姉妹は、両親の行方を探しましたが、全く手掛かりもないままでした。」
大供とは前世でいうところの成人を迎えるということ。この異世界では一人前の年齢が16歳ということであるが。
「幸い両親は、冒険者としてなかなかのランカーでしたので、まあハイランカー、7級のランクでしたが、稼ぎもあり、おまけに、冒険者稼業だけでは厳しいだろうと考えて、この茶店の経営もやっていました。そのおかげで、財産もあったので、両親が行方不明になっても、ある程度の生活はできました。」
ミアンが話を引き継ぐ。
「ただ、両親が不明になった直後、この家が昨夜のように、泥棒に狙われたのです。ただ、不思議なことに金目のものには手をつけておらず、両親の部屋と昨夜のように隠し扉になった板壁を荒らして行きました。」
ミヤンが続ける。
「荒らされた両親の部屋を整理していた時、昔、パーティを組んでいた時に遭遇した事象について書かれた紙を見つけました。そこには、両親がパーティメンバーとして洞窟を探索中に、異世界に迷い込んだことが書いてありました。その異世界に5日ほど迷い込んだのだが、元のこの世界に戻ったら、ほんの少しの間の時間しか経っていなかった。ただ、その異世界で見たものがあまりに異様で忘れられないので、何枚かの絵を描いた。ということも。」
ヘルバティアがそれを受けて
「私も両親に我が家独自の暗号や隠し扉の開け方や、隠し部屋に何があるかある程度教えてもらっていました。荒らされた両親の部屋の整理が終わり、不明の両親の手がかりを探るため、描いた絵について書かれた紙や、冒険日誌や記録を探しました。そこで、隠し扉を開けて、隠し部屋に行くと、探索などで得た宝物の他に、絵が3枚ありました。それが、この絵です。しかし、隠し部屋や両親の部屋をどう確認しても、冒険日誌の一部が欠けてしまっていました。」
ヘルバティアが長めの話をして、机の下から布に包まれた絵を3枚、机に置いた。
「これが、あの昨夜のコソ泥が探ろうとしていた絵だと思います。」
「何について描かれた絵かは、皆さんわからないのですね。」
「ええ、抽象画、とは思いますが………。」
そう言うヘルバティアの険しい顔を見た後、布を外して、俺はその3枚の絵を見た。
………ドクン
………ドクン
………ドクン
これらの絵は………
………ドクン
………ドクン
………ドクン
「おい、これって……………、本気か、………冗談か………。」
俺は思わず呟いてしまった。
それらの絵には、俺が前世でよっくよっく見たことのあるものが描かれていたのだから。




