95弾 留守番中に研究しよう
翌朝は、老人たちに変装した3姉妹を見送る。仕入れの時はいつもこんな格好だそうで、こうすると仕入れも交渉もうまくいきやすいそうだ。老人に変装した3人の乗ったドラキャが走るのを見送り、家と茶店の施錠を確認して部屋に戻り、魔術の研究と俺たちの転移の仮説を立ててみることにする。
「魔術の研究ということですが、今回の機会に俺たちが把握している、この異世界での能力を具体的に記して確認しましょう。」
と俺が口火を切る。
「そうね、それは必要なことね。あら、それは。」
メムが俺の持っている冊子を見とがめる。
「前にメム様に書き直しを指示された、今までの研究成果を記録しまとめて綴ったものです。」
俺がそう言ってメムにも示す。なお、書き直し前のものは、メムに内緒でこっそり作り直して、新たに書き足して、別のところにしまっている。
「ああ、そうだったわね。まず、ダン、あなたの能力はどうまとめているの。」
「ええ、そうですね。俺自身としては、戦闘の時に加速というか、情報処理能力というか、戦闘能力が上がって、相手の動きがゆっくりに見えて、相手より早く動けるようになること、あとは、この拳銃であなたが命名した『魔弾』を使えるようになったことでしょうか。」
「そうね、ダンの戦闘シーンは何度も見てるけど、緩急が大きいような感じを受けるわ。で私はどうなの。」
「メム様が気にいるかどうかはわかりませんが、嗅覚が素晴らしすぎます。まるで対人センサーや監視レーダーのような能力を発揮しているような感じです。あと、意外と状態変化や状態異常に耐性があるようです。」
ベンレーに爆岩石の急降下爆撃を喰らった時も、メムは聴覚とかに異常は全くなかったようだったことを思い出す。
「ダンの言う通りね、ほとんどその通りよ。私も同じことを思っているわ。あと獣に対してだとよく目を引くのか、私ばかり攻撃というか狙い撃ちされているわね。でもあの時、よく囮役を思いついたわね。」
「最強の囮役はありがたいです。レッドヒルダイルがメム様をあれだけ一直線に襲ってくるとは思ってもいなかったですが、そのために思いついたのですから。」
俺がそう言うと、メムが体をぴくりぴくりとさせる。ああ、あれはやっぱり思い出したくないのか。
「そうね、バフロッグに対して、歌を歌って動きを止めたダンの歌にも何か能力があるのじゃない。」
俺も体をピクリとさせる。これは思い出したくないものだ。メムのこの返しはあえて無視して、
「獣に対する戦闘スタイルは、メム様を囮で、囮に向かう獣を俺が攻撃のパターンで戦闘する、これを続行するしかないでしょうね。」
「そうね、でも今更これを確認したのは何か理由があるのでしょ。」
さすがメム様、読みが深い。
「ええ、この異世界に転移して色々しているうちに、この能力に気づきましたが、当然前の世界じゃそんな能力使ったことさえもないのです。転移の際に何か能力が付与されたような気もしますが、そうなると、それらの能力はどこから来たのか、俺たちに付与するのにどんな力が働いたのか、エネルギー量的にどのくらいの量なのか。」
「うーん、言われてみればもっともな考えね。その拳銃のこともあるし。」
「ところで、メム様。神の世界で俺のような死人をあの装置で転生させるとき、エネルギーとかはたらく力について、何かご存知なことはないですか。」
「そうねえ、あの装置での転生は今まで何のトラブルもなく作動していたのよね。だから、エネルギーとか力とか、もちろん量的な物も含めて考えたことはなかったから。」
「うーん、そうですか。俺の時に、急に動かなくなったのですよね。」
「間違い無いわよ。今まで何万人もあの装置を使い転生させたのに、あなたの時に急に動かなくなったのだから。」
「ふーむ、今回仮説として考えたのは、装置が動かなくなっても、転生に必要な力かエネルギーはどこからか供給され続けていた、それに気付かないまま、装置不調の原因を調べている最中、あの喧嘩がきっかけで、その力かエネルギーが暴発して、俺たちをこの異世界に転移させた、ということなんですが、いかがでしょうか。」
メムは、部屋をウロウロしながら、
「そうね、そういう仮説か。でもこの仮説を検証する方法がないわよね。その転生のエネルギーが私たちの転移に変換されたにしても。」
「でも仮説を立てていくことで、元の世界に戻るために、この異世界での戦略が見えてきませんか。メム様。」
「でもその戦略とやらは、まだ薄ぼんやりとしか見えてこないのじゃなくて、ダン。」
「全くその通りです。」
そう言いながら俺はメムに頭を下げる。
「そんな、頭を下げないで。ここまで考えるのも大したものよ。でも、これは私の勘なんだけど、多分元の世界に戻るヒントがこの異世界にあるだろうし、その拳銃がキーになりそうな気がするの。ダンの使う魔術は明らかにこの異世界の魔術と違いすぎるからね。」
「そうですね。ところで、メム様。少し休憩しますか。」
「そうね、この仮説について考え続けていたら脳みそが沸騰しそうになるわ。」
ということで、一旦茶をすすって、休憩をとってから再度メムと仮説について話し合いを続ける。
「まず、俺の考えた仮説は前に示したものを含めると、こんな感じです。」
そう言って、メモ紙に書いたものをメムに示してみる。
『俺が転生装置に入っている時の偶発的な故障
↓
故障の原因調査中に何らかの転生に必要なエネルギーが溜まる
↓
原因調査中にそのエネルギーがどんどん増えて装置からもれだしていく
↓
偶然、ケンカを始めたところ、それが発火点になり装置とそのエネルギーが暴走?
↓
暴走した装置とエネルギーが俺たちをこの異世界に送り出してしまう?』
「いかがですか、メム様。そう考えれば、この異世界で似たような力やエネルギーを利用すると俺が昨日言った話も。」
メムがこのメモをじっと読みふけり、しばらく沈黙が部屋を支配していたが、口を開く。
「まあいいのだけど、このクエスチョンマークは、まだはっきりしていないところが多いのよね。」
「ええ、そうは仮説を立ててみたけれど、どう暴走して、どう送り出したのか、というところは今のところは調べにくいです。」
「うーん、仮説としてはこの立て方でもアリなのだけど、不明点も多いわね。でもこれを元に調べていくしかないわね。」
メムも真剣に考えている。
「………元の世界がどうなっているのかが分からないのだから、仮説しかないわね。とりあえず、ダンのこの仮説から元に戻る方法をアプローチしてみましょう。」
「クエスチョンマークのところはもう少し、考えを整理してみます。」
「いいわよ、私も何か思い出したら話するわ。」
「じゃあ、次は魔術研究ですね。」
「次の話し合いはこれね。」
メムが一度みづくろいをする。そして伸びをして体を目一杯震わせる。
「ふうっ、いいわよ。話をしましょう。」
「ところで、この異世界に回復魔法って無いのでしょうかね。」
「まあ、元の世界にもなかったのだから、そんなものなんじゃない。」
「やっぱりメム様もそう思いますか。」
「どこかこの異世界の片隅に隠れている、ということはあるかも知れないけど。」
「お宝を探すようなものでしょうね。そうそう、上手くはいかないでしょう。」
じゃあ、メム様に聞きたかったことを聞いてみるか。
「そうだ一度聞いてみたかったのですが、意識は女神のままで、体が大きな猫ってどんな感じなのですか?。」
メムが顔を天井に向けて考え込んでしまう。
「………うーん、何か昔映画で見た、……ロボットアニメに出てくるロボットに乗って操作している…パイロットみたいな感じかな………。」
メムは顔を天井に向けたまま、考えながら話してくれる。
「へー、そうですか。」
俺は言葉を失うが、その理屈はなんとなく共感できた。でも一体、どんなロボットアニメの映画を見たのだろうか。




