73弾 他人の魔法を真似してみよう
「めえ、おあいおあんあええ、いうおおああうんえしょお。」
「女神様が食べ物を頬張ったまま、しゃべらないでください。何言ってるのか、さっぱり分かりません。それとも猫になったから、もう女神の品格はどっか行ったのですか。」
「………ごくん。ああ、失礼したわ。他にも考えていることがあるのでしょう。今回、ファイティングエイプの群れに私も稽古に参加させたり、あなたと組み手をしたり、これって、近接戦闘能力の向上ってところかしら。それと後は、魔術の研究ね。試してみたいのじゃないの。あの人豚野郎が使った、岩人形を操作する魔法が使えるかどうか。」
寮の部屋で夕食をとりながら、メムと今後の研究課題について話をしている。俺たちもうっかりしていたのだが、その日は組合本部の食堂が、大掃除でたまたま休業となり、弁当を売る日であることを失念していた。その結果、弁当を手に入れて、寮の部屋に戻って、夕食にする。まあ、弁当といっても、パンにおかずを挟んだ、サンドウィッチとハンバーガーの中間の品、といった感じであるが。
「まあ、俺の場合は、全体的に体力の向上、これしかないですね。魔法を発動させると体力を削ってしまうので、いかに体力を削らずに魔法を発動させるか。それに体力と魔力の向上で、発動できる魔法の数を増やすこと。最後は、体力の落ちた状態でどう近接戦闘を行うか。これ等になるのですがね。」
「なるほどね。ダンはそこまで考えているのね。まあ、私も体力の向上は課題だし。弱点の克服は必要と思っているから。」
「弱点の克服ですか。」
「そうよ、この尻尾を鍛えるのよ。」
メムがどうだと言わんばかりの顔をする。
「まあ、頑張ってください。」
俺があっさりとしたリアクションをすると、
「ねえ、もうちょっと何か言うべきでしょ。どんなトレーニングをするのとか、こういうトレーニング方法があるんじゃないかとか。」
メムは俺のリアクションに不満になって、めんどくさい感じになっている。
「すみません、メム様。俺には尻尾はついていませんし、鍛え方とかよくわからないですから。そもそも、尻尾の退化した人間に、何のアドバイスができるのですか。」
「あ、確かにそうね。うっかりしていたわ。」
いや、うっかりで俺のリアクションに絡んでこられても。
「今日は、ファイティングエイプと鍛錬をしたけど、明日はどうするの。ダン。」
「明日、明後日は魔術の研究ですよ。もちろん。」
ということで、翌日から、魔術研究として、寮の部屋で作業をする。まずは叩後紙に新たに『土人形』、『岩人形』と書いたものを2枚ずつ用意して、1枚は薬莢状にして、もう一枚は中に紙を詰め髪の毛を0.1ガラム入れてのり付けした物を用意する。新たな魔弾になりうるかは、明日次第だが。
他に、一度確認の意味で、同様に魔弾を作るが、これには、髪の毛じゃなく、切った俺の爪を入れる。
メムが興味深そうに俺の作業を眺めて、話しかけてくる。
「へえ、研究にあなたの爪を使ってみるのね。」
「ええ、これでどうなるか、試してみます。」
「魔伝紙は使わないの。資金には問題ないでしょう?」
「あれは、流通量が少なくて………、それだと作ったにしても少量なので、補充の問題も。」
「まあ、そう言われるとそうね。でも書きにくそうね。」
メムの指摘はごもっともである。
紙の大きさと紙質、ペンとの相性があって、引っかからずに文字を書くのに苦労する。漢字二文字ならまだしも、文字数が増えると紙に書ききれないか、ペンが紙に引っかかり、ペン先が紙を破ってしまう。紙に書ききれるように、文字を小さくすると、インクが染み込み、文字が判別不能になることが多くなる。
「やっぱり、ペンとインクも考えないと………。」
「え、じゃあ、魔弾作成のために、インクもペンも自作の品の開発をやろうとするの?。」
「うーん、市販品でもまあ、なんとかなってはいるのですが、いわゆる、敵のパワーインフレみたいなものを、どう対抗するか。そのための布石は、とは考えていますし、研究の要点に含めなくてはいけないのかな、というのはあります。」
「前に装填の速度の上げる方法と、状況に応じた魔弾の装填をどうするかの課題がある、と言っていたけど。そこにプラスされるようなものね。」
メムがやれやれ、と言った表情をして俺の課題を指摘する。
まあ、魔弾による魔法発動の威力の向上、状況に応じた魔弾の使用、装填速度の向上と装填中の戦闘方法はしばらく俺が考えなければならないだろうな。
「ああ、後、もう一つ。この異世界に転移した原因の究明は忘れないでね。ダン。」
悩む俺に、メムがもう一言喰らわす。
その言い方だと、俺はいろいろツッコミたいのだが………。
何はともあれ、コツコツと魔弾作りを進めて、試作品の魔弾が完成する。後、材料と製作の記録を取っとこう。
その翌日、モーイラの洞穴へ向かう。とりあえず近場で研究結果を試すことにする。
「洞穴を壊したりしない?。」
「まあ、その時はその時ですし、用心のため、洞穴の外で試してみますので。」
俺たちだけで、魔術の研究ができる専用の場所を探してもいいかな。そう思いながら、試作品の発動準備にかかる。
まずは、髪の毛の代わりに、指の爪を切ったものを入れた魔弾を試してみる。火球の文字を書いたものだ。
ドッシュウ
髪の毛の時ほど、いい音の感じがしなかったし、威力が低い。あと同じ魔弾を作ったが、威力のばらつきが大きい。爪の効果はあるが、切り方による威力の変動があるのだろうか。髪の毛だと
多少切り方に長短があっても、ばらつきは少なかったが………。
「何か見たところ、爪だとイマイチな感じね。」
メムもこの威力を見てそう感想を述べる。
「やっぱり爪は、魔弾として魔法の発動はするけど、メム様の言う通りですね。爪の切り方次第で変わるかもしれないですが、この感じだと、爪に関する魔弾の研究は、ここまでにする方がいいですね。」
「ダン、あなたから出せる髪の毛や、爪のほかに何かあるかしら。ああ、唾液とか小水とか大便とか。」
「いや、それはちょっと保管するのに無理があり過ぎですから。それは魔弾の材料にするにも、扱うのが大変なことになります。」
俺の精神衛生上的にも、皆の公衆衛生上的にもあまりよろしくない。
「そうね、言ってみただけだし。本当に材料にさせるわけでもないし。」
さすがにメムも、常識的な判断はしてくれたようだ。
「じゃあ、次の試作品の魔弾、撃ってみますね。」
【岩人形】と書いた魔弾の実験だ。
髪の毛0.1ガラムと普通のインクで岩人形と書いた叩後紙を使った魔弾で2発分。
深呼吸して、地面を狙ってハンマーを起こし、引き金を引く。
ドシュッ
いつもの音がして、それと同時に、地面の中から、岩が吹き出すような感じで、むくむくと一気に岩人形が立ち上がってきた。俺と同じくらいの身長、がっしりした岩の身体。
これで俺も、岩人形のコントロールをどうやってするか、研究すれば、あれっ………あれ、あれ。
岩人形ができて、地上に出現したのだが、そのまま崩れ落ちてしまった。
「何かすごい勢いで、岩人形ができたけど………、あっという間に崩れちゃったわね。」
とメム。
「うーん、これは………何でだろう。」
うめくように呟く俺。




