249弾 特訓完了報告しよう
下宿先へ戻ってまずすることは荷物の整理、プラス、特訓の成果と課題の整理、そしてバンナの寝床を作ること。幸いなことに、協働戦で獲得したアクアウォルフの毛皮などを使ってこの下宿での寝床を俺のメムの部屋に作る。ロッジで仮に作ったバンナの寝床を改良したような感じになる。
「バンナ様は何か食べられないものとかはありますか。」
「そうでんなあ、ヤバそうなもんは嗅ぎ分けて選り分けますか。まあ、大体は木の実とか果実とかをよく食ってましたけど、基本何でもいけます。」
「じゃあ、私と一緒ね、多分。」
「メムはんも雑食なんでっか。」
「ええ、そうね。」
「まあ、これから夕食を買いに行きますか。」
ヘルバティアらと話をして俺がメムとバンナを連れて夕食の買い出しに向かう。夕食の弁当を買い込んで下宿先に戻ると、夕食をリビングダイニングで皆そろってとることになる。
バンナの分は節約モードの体型なので小分けに切っておくと、
「ああ、これは、ああ、なかなかよろしいでんな。……うん、いけますな。うまい。」
そう言いながらヒューマーの食を堪能している。
「ねえ、ダン。あのバンナは少食よね。」
「まあ、節約モード体型とかいうわけですから。それはそれでいいのじゃないですか。」
「いっぱい食べないと大きくならない、とは思わないの?。」
「じゃあ、聞いてみますか。バンナ様、どうですか、量的には。まだ用意しても。」
「いや、ニシキはん。もう十分でおます。おおきに。」
バンナの食事シーンをしっかり愛でているミヤンが、
「うーん、この絵面をもう少し堪能したいから、もうちょっと食べてくれないかしら。」
「ミヤン……。」
そう言ったミアンはミヤンのバンナへのハマり具合に呆れた様子である。
「はい、メムちゃん。これあげるから。」
「いただきます。」
ヘルバティアはメムに自分の分の食べ物をあげて満面の笑みでメムの食事シーンを観察する。
「もう、ティア姉さんまで……。」
ミアンは長姉と末妹の俺の飼っている益獣へのどハマり具合に、呆れとうんざり感を混ぜ込んだため息をつく。
「一応俺が飼い主となってるはずなのですが……。」
俺も呟く。
夕食後、ミアンはヘルバティアとミヤンに説教を始めることになる。
「じゃあ、俺の方でメムとバンナを入浴させます。」
「ええ、よろしくお願いします。そのまま寝室に行ってもらって結構ですから。」
「そんな……。」
「私の楽しみが……。」
ヘルバティアとミヤンがそう呟くのを、ギロリとミアンが睨みつけて説教を開始するのを横目に俺はさっさと入浴を済ませ、メムとバンナと一緒に自部屋に戻った。
「じゃあ、バンナ。分かっていると思うけど静かに寝ることね。」
「へい、わかりました。」
メムがバンナに思いっきり先輩風を吹かせている。
「では先に休ませてもらいます。」
バンナがそう言って先に寝床に入る。
「まあ、話したいことがあればこういう時に話してもいいですよ。ね、メム様。」
「うん、そうよね。私を頼ってくれてもいいのよ。……なんか微妙な表情してるけど。」
「……あ、いや、ちょっと、慣れないもので、へえ。」
「何か聞きたいことがあるのじゃないか。どうです、バンナ様。」
「様付けで呼ばれるのはイマイチ慣れへんというか、……ニシキはんとメムはんはどこから来なはったんで?。いえね、前にウチの訛りについて聞いてきたんがちょっと気になるちゅうか。それに夕食を買い物してた時、メムはん何も喋らなかったさかいに。そんで、グランドキャットがウチらみたいにヒューマーの言語も喋ることってあったかなあ、とふと疑問に思うて。」
バンナの立て板に水を流すような流暢な喋りでの質問に少し圧倒されながら、俺とメムは顔を見合わせる。
「そういえば、………バンナ様に説明してなかったようで。」
「私は一応女神とは言ったけど。」
「まあ、ウチもこのグランドキャットが、メムはんが、女神と言い出したのはあまりに滑稽というかハッタリかますというか、どうも信じられなくて……。」
「何か嫌な言い方ね……。」
メムが渋面になるが、
「まあまあ、夜も遅くなるから、今は大まかに説明するとしましょう。俺は前世、前居た世界で一度死んで神の世界に行き、その女神のメムに転生させられてまた新たに前居た世界で生まれ変わるはずが、神の世界の装置の故障でこの世界トゥーアールに飛ばされてしまったのです。その際、この女神メムもグランドキャットになってしまってこの世界に飛ばされて、今まで戻る方法を探しながらいろいろやっているようなものです。」
「へえ、いわばニシキはん、異世界の者というわけですな。ほんで、この女神がグランドキャットになってニシキはんと一緒に戻る方法を探してはると。」
「……なんで私がこんなグランドキャットになったかはわからないのよね……。」
メムが憮然として呟く。
「まあ、この世界に来る前のメム様は、まさに女神という佇まいでしたから。」
「そうよ、ダン。それをもっとアピールしてよ。」
「まあ、今はいろいろ見てしまったので。残念な本性を。イテッ。」
「余計なことは言わない。」
そう言いながらメムが俺の後頭部を猫パンチではたいてくる。
「ああ、ニシキはん。苦労してまんなあ……。」
それを見たバンナに思いっきり同情される。
「……メムが女神として最初見た時は、とんでもなく仕事もできて、とてつもなく美しさを備えたいい女神でした。」
「分かってるじゃない。ダン。」
メムがウンウンとうなずく。
「まあ、その話はさておき、元の世界に戻るために活動しているので、その時が来れば、バンナ様をこの世界においていくことになるかもしれないのです。」
「ああ、ほんで、ウチを見つけた時、『そのまま放っておこう。』とか言ってたわけでんな。」
「私の女神状態の話はさておく必要があるのかしら……。」
メムが呟くがそれは無視することに。
「だから預かって、という言い方になったので。」
「まあ、そういうのはしゃぁないでっしゃろ。そんな事情を持ってはるのを言ってくれてありがたいです。やっぱりニシキはんに飼われる形にしてもらって良かったです。『託生』で生き延びなきゃいけない立場ですよって、こういう方と一緒にいた方が、ウチの学びにもなるし成長にもなるでしょうから。」
「いやいや、バンナ様もなかなか大した精神を持っておられる。感心します。」
「ねえ、私には感心しないのかしら。」
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか。」
「へい、ニシキはん。おやすみなさい。」
「……何か、私、スルーされている気が……。」
「はい、メム様。バンナ様。おやすみなさい。」
「……おやすみなさい。……むー、少し釈然としないわね。ダン。」
翌日、パーティメンバー総員とバンナとで組合本部へ、特訓所での特訓が終わった報告とフォグコリン種のバンナを益獣として俺が飼い主となることを登録するための手続きにかかる。
「あら、お久しぶりですね、華束舞踏の皆さん。特訓所での特訓を終えたと連絡があったものですから。」
セイクさんがにこやかにそう言いながら窓口で出迎えてくれる。
「ええ、お久しぶりです。何とか特訓所での特訓を終えてきました。」
ヘルバティアがパーティのリーダーとして、笑顔を見せながら答える。ああそうか、ツカイドリによる速達で組合本部に連絡があったのか。俺が2人の会話を聞きながらそう考えていると、
「ああ、もしや、その、ニシキ様の肩に止まっているのが、益獣として登録するフォグコリンですね。いやー、可愛いです。」
セイクさんがそう言うのを聞きながら、メムが念話術で俺にささやく。
(ねえ、ダン。私気づいたのだけど、このままだと相対的に私を愛でる人が減ってしまうわね。これからはあのバンナの評判を下げるための活動を陰でやるから協力しなさい。)
(メム様、ど最低ですよ。最低オブ最低ですね。なんで俺がそんな活動に協力をする必要があるのですか。互いに人気を上げ合えばいいじゃないですか。)
全くこの元女神猫は……。




