240弾 ここで野営をしてみよう
昼食休憩を終えて移動を開始したところにモベルバンさんが俺にささやく。
「ああ、それと、もしかすると帽子の下のこの髪型が気になるかもしれませんが、これは地方の風習で、婚約した男性は皆、髪の毛を剃るのです。ああ。わっしの婚約者はトレソ・セルマになります。」
「……え、じゃあ、あのパーティは全員婚約しているということですか。」
「……はい、ちょっと恥ずかじいですが、ええそうです。」
まさか婚約済みのパーティだったとは……。ちょっと驚いて足が止まってしまう。それと、気づいていたのかもしれないな、俺が純朴準星ナイブティクェーサーの男性陣の頭を無意識にチラチラ見ていたことに。
(ちょっと、ダン。何止まっているのよ。)
(ああ、はい。)
(一体どうしたの、何か魂を抜かれたような表情して。)
メムに念話術で注意され、俺はとりあえず急ぎ前に進んで、みんなと移動を開始する。
(いやー、この世界も広いな………。)
(今度は何を悟ったのよ。悟るより前に先鋒役の仕事してね。)
メムのツッコミを受けつつ、行く先の異常の有無をモベルバンさんと行って先鋒役の仕事をしつつ目的の狂獣オラオライオンの捜索を続ける。
一度休憩をした後、再び捜索を開始すると、
「ああ、これは……。」
何かモベルバンさんは発見したようで、地面にかがみ込み、木の下にフンが転がっているのを見つけ出す。
「これは、何の獣のフンですか?。」
「多分、ウォルフ種でしょう。もしかすると奴らの縄張りに入ったのかもしれませんね。」
(ダン、気配と匂いがするわ。しかも……10頭くらいね。)
メムも鼻をクンクンさせて、耳をぴくつかせて、毛を逆立てる。
「メムも敵を感知したようです。頭数も多そうです。」
俺がそう言うと、モベルバンさんが笛を吹いてピィッと鳴らして異常を知らせる。
(いい度胸ね、正面から当たるつもりかしら。こっちに近づいてくるわ。私たちの進行方向から正面に向かって接近。)
「やりますか、モベルバンさん。」
俺が拳銃を抜いてモベルバンさんに尋ねる。
「中団と連携します。ニシキさん、時間を稼いでください。」
モベルバンさんがそう言って中団の2人に手指でハンドシグナルを送る。
ベンナさんが前方に合流して、やや後の位置にナツボワさんが長杖を両手に構える。
その時、正面前方からアクアウォルフの群れだろうか、12頭が現れて、俺たちを半包囲するように並び、全頭がメムを凝視する。
(ずいぶんと熱い視線を送るじゃない。こうなったら必殺技連発ね。ダン、援護よろしく。)
(え、おい。無茶はダメですよ。メム様。)
念話術でそうやり取りしたその瞬間、群れの中でも体の大きい3頭がメム目掛けて飛びかかる。
残りの9頭が3頭ずつ3列の隊列で俺たち目掛けて一気に突っ込んでくる。
「俺が前の3頭をやりますので。」
俺が拳銃を構えてそう言うと、
「では、残りは我々で。」
ベンナさんがそう言ってアクアウォルフを迎撃する態勢に入る。
ドシュ、ドシュ、ドシュ
魔弾の【火炎弾】をアクアウォルフ3頭にぶっ放してやると、
ボワッ、ボワッ、ボワッ
3頭が全て火炎に包まれて一気に倒れていく。
「ふんっ。」
モベルバンさんが矢を放って見事に2頭の頭に命中して2頭はそのまま滑り込むように崩れ落ちる。1頭がベンナさんにざっくりと頚部を切られ頭と胴体が別れ別れになる。
「フレイムボム。」
ナツボワさんがそう詠唱して長杖から魔法を発動させて、後列の3頭を一気に焼き払うと、3頭共が一気に炎に包まれ、黒焦げになる。
「ニャシャー。」
メムの声が聞こえて、メムに襲いかかった2頭が悶絶していて、最後の1頭が動きを止める。そいつは周りをさっと見渡してあっという間にUターンして逃げ出していった。
(メム様、追撃は不要です。)
後を追おうとするメムを念話術でとどめておくと、両パーティメンバー全員が集まってくる。その間に悶絶したアクアウォルフ2頭はトドメを刺される。
「いやー、正面から攻撃してくるなんてね。」
とヘルバティア。
「あのグランドキャットは、……とんでもないわね。」
とオンリユニさん。
(メム様、必殺技でぶちのめしたのですか。)
(そうよ、1頭やり損ねたけど。)
(いえ、十分すぎる戦果かと思いますが。)
メムの外見に異常がないか見ながら念話術で会話する。他のパーティメンバーから見たら飼い主が飼ってる益獣の状態を確認してるようにしか見えないだろう。
「大丈夫ですか?、ニシキさん。メムさんも。」
そう言ってベンナさんが聞いてくる。
「こっちは何とも、メムも何ともなさそうです。」
俺はそう答える。
「そうですか。それはよかったです。」
ベンナさんは安堵する。
「後はこの毛皮をどう分けるかですが、これはこの特訓が終わってからがいいでしょう。」
ヘルバティアがそう言ってベンナさんに提案すると、
「そうですね。どういう結果になるかはまだ分かりませんしね。」
ベンナさんがそう言って、みんなは目的の害獣を倒してから毛皮の分配をすることで賛成した。
「しかし、あの場所でアクアウォルフが出現したということは、目的の狂獣は多分もう直ぐでしょう。」
先ほどのアクアウォルフとの戦闘からしばらくして、モベルバンさんが辺りを見渡しながらそう呟く。メムも何か異様なものを感じているようであるせいか、耳をぴくぴくさせている。
「どうしますか、この辺りで野営した方がいいでしょう。」
俺も時間的なものもあってそう言って周りを見渡す。
(メム様、水辺がこの辺にありませんかね。臭いでわかりませんか。)
(ふーん、じゃあついてきて。)
「モベルバンさん、野営地に適当な場所を先に探しますがよろしいですか。」
「分かりました。」
モベルバンさんが了解して、また中団のベンナさんらにハンドシグナルを送る。
ベンナさんが両腕で大きく頭上に丸をする。この異世界でも共通するサインだな。
「では行ってきます。」
メムと一緒に水辺のあるところを探す。
幸い、すぐに水辺のある場所は見つかった。
綺麗な水が流れる川がある。ある程度開けている場所もある。ただ川べり付近にキャンプすると、とても危険だと前世で聞いていた知識もあるので、一旦モベルバンさんのところに戻ることにする。
「メム様、水は大丈夫ですか?。」
「うん、美味ね。」
あっさりと水の分析もしてくれた。
「みんなが飲めそうですね。」
「そうね。じゃ戻るのよね。」
「ええ、さっさと戻って野営地を決めましょう。」
近くに野営に適しそうな場所があることを戻って皆に報告する。
「ふーん、時間も時間だし、その野営候補地を見てみましょう。」
「賛成です。」
総勢10人と1匹は、その場所に向かった。
「いいですね、時間も時間なのでここで野営しますか。」
とベンナさん。
「そうですね、川べりに近すぎると危険といいますので、あの少し小高くなっている場所がいいでしょう。」
とヘルバティア。
夕食の時間にもう後1時間ほどであるが、無理に進むとかえって野営に適当な場所が見つからなくなる可能性が大きいので、ここを野営地とする。
野営地での見張り役を交代で行うことを決めて、互いに交代しながら食事と睡眠をとることになる。
「水辺は大事ですからね。いい判断だと思います。よく見つけてくれました。」
とナツボワさんが俺に話しかけてくる。俺とメムは先に食事をする。今は女性陣が見張り役をやってくれている。ただ、純朴準星の女性たちはメムが気になるのか、見張りしながらメムをチラチラ見ているのが俺は気にはなるが。
「しかし、よく懐いていますね、この益獣は。」
ベンナさんがメムを見ながらそう言ってくる。
「まあ、相棒ですから。」
俺がそう答えると、
「うちのパーティの女性陣にはあまり触らせない方がいいでしょう。」
とモベルバンさん。
「どうしてそんな事を言うのですか。別にいいかと思いますが。」
俺がそう言ってみると、3人とも険しい表情になり、
「華燭の典の後で、メムさんのような益獣を飼いたいと言い出しかねませんので。」
ベンナさんがため息混じりにそう言う。ああ、子供が猫や犬と触れ合った後に猫ちゃん飼いたい、犬ちゃん飼いたい、って言い出す感じか。




