190弾 フォーメーションの研究しよう
「前回のパーティ向け依頼では、助っ人が加わっていましたからね。助っ人のない状態ですので、俺とメムが前衛に立つ感じで、中衛をミアンさんとミヤンさんの双子コンビが、後衛をヘルバティアさんで指揮をとってもらえればと思うのですが。」
と俺が主張する。
今下宿先のリビングダイニングのテーブルの上で、パーティフォーメーションについての話し合いをしている。
パーティフォーメーションとは、要は探索や戦闘態勢に入る際の各人の配置についてをいうのだそうだが、能力や依頼内容や地形や使える魔法の属性によってもかなりのフォーメーションの数があるのだ。
「でも、メムちゃんをそう前衛で使うのは……。」
不満げなヘルバティア。
「まあ、あくまでも今の段階でということですね。いいじゃないですか。師匠と一緒に依頼をこなした実績もありますから。パーティ結成前にはメムちゃんとニシキさんが組んでいたのですから、そのままで前衛をしてもらうというのはありでしょう。」
とミアンは賛意を示す。
「私とミアン姉さんは戦闘の流れによっては前に出るような感じか……。」
自分のポジションと役割を確認するミヤン。
「後方は大事ですからね、後衛役は指揮官役もありますから。」
俺がそう言うと、
「うーん、あまり前衛が出過ぎない感じにしてくれればいいのだけど、どうかしらニシキさん。」
とヘルバティアがそう提案してくる。
「まあ、それは当然でしょうね。後衛役が1人だけですから、前衛と離れすぎると回復が大変ですから。」
「じゃあ、私も前に突出しすぎないようにしなきゃね。ダン。」
俺の回答に同意するメム。
「メムちゃんはいい子ね。でも私たち以外の人がいる時は喋っちゃダメだからね。メムちゃんがさらわれちゃう。ニシキさん、しっかり守らなきゃね。」
メムに過保護な気を見せるヘルバティア。
「まあ、大丈夫だと思いますが。ね、メム様。」
「わかっているから、ダンも当てにしているから。私が失態したらケツ拭いてね。」
なんかヤバい事を俺に押しつけている気もしないではないが……。
組合本部で依頼を受ける。今回の依頼はヤベアフレイムの群れの駆除。4頭ほどで徒党を組み暴れ回っているというのである。ヤベアフレイムはかつて俺がランクアップ試験で遭遇したヤベア種の火属性の強獣である。
場所はアンムヨの樹海付近ということで、この場所であることが俺の今唯一の気がかりである。
ドラキャを交代交代で操縦して現場に向かう。
現場に到着するが、害獣の気配はない。
「ねえ、これって、痕跡よね。」
ヘルバティアがミヤンと話しながら、大木の幹部分の引っ掻き傷を見つける。
「痕跡ですか、これがあると、ここにいたという証明みたいになるのですか。」
俺はミアンに聞いてみる。メムはクンクンと引っ掻き傷の匂いを嗅ぐ。
「ええ、それらの縄張りの証明みたいなところもあるといわれています。」
ミアンは引っ掻き傷を触りながら俺に答えてくれる。
「ねえ、一旦ドラキャのところに戻らないかしら。妙な気配を感じるのよ。」
メムが顔を上げて鼻先を天空に向けながら不吉そうな事を言い出す。
パーティ総員が戦闘準備を整える。俺は拳銃を抜き出す。
「メム様、戻ればいいのですね。」
俺もそう言いながら装填した魔弾を確認する。
「用心してね、四方に気配を感じるの。」
メムの嗅覚が害獣の所在を知らせてくれる。
用心しいしいでゆっくりドラキャの方向に向かう。間も無く道に出るかというところで、
「来るわ、前方左右からまず2頭、後方左右からも接近しているわ。」
とメムの警告。
俺たちの行く手を妨げるようにズサリと進行方向の右手側から1頭現れて静かに俺たちを睨みつける。
「リーダー、俺が先手を打ちます。」
俺がそう言って魔弾の【氷弾】をぶっ放す。
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ
一気に撃ち放つ。
奇襲が効いたか、ゆらりと体勢を崩していく。
そこにもう1頭進行方向の左手側から現れる。
ミヤンがそれを見て杖を掲げて
「アイスエッジランス!!。」
氷柱が3柱現れて、もう1頭の方に向かうが、
「えっ、嘘でしょ。」
ミヤンが驚きの声を上げる、そのヤベアフレイムは俺が倒したもう1頭のヤベアフレイムを盾がわりにしたのだ。
さらにそこに、後方左右からヤベアフレイムが後方を断つように出現する。
「囲まれましたね。リーダー。」
魔弾を装填しながらヘルバティアに言う。
「まさかこれを狙ってたとかなの。」
「俺とメムが後方2頭を相手します。時間稼ぎします。」
「…お願いします。」
少し逡巡していたが俺とメムが遅滞戦闘をすることを了解してくれた。
「メム様、囮役をお願いします。」
「了解よ、やってみるわ。」
2頭がメムの囮役につられてくれれば言うことなしだが、3姉妹は前方のヤベアフレイムを相手にしているからな、このヤベアフレイムを連携させないようにするか。
メムがうまく後方2頭の間合いに入って一方を爪で引っ掻きつつ攻撃しつつ、隙を見てもう一方にもちょっかいをかけるように攻撃する。とはいえ、4本腕を持つヒグマみたいなものが攻撃を仕掛けてくるのだから、メムも紙一重でかわしつつ攻撃を仕掛ける隙をうかがう。
2頭の意識が集中してる隙に一気に1頭目掛けて魔弾【氷弾】を一気に全弾ぶっ放す。
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ
全弾命中し、1頭がドサリと倒れる。
俺の攻撃に気づいたもう1頭がメムを相手にしながら俺を睨みつけて接近してくる。
「集中。」
動きの速度を思いっきり加速する感覚で、魔弾を装填して接近するその1頭めがけて、魔弾【氷弾】を一気に全弾叩き込む感じでぶっ放す。
ドシュドシュドシュドシュドシュドシュ
その1頭が膝から崩れ落ちるように倒れていく。
「メム様、前方の対応をしましょう。」
そう言って3姉妹の方に向き替えると、ヘルバティアが、
「ウィンディボマー!。」
と短杖をかざして叫んでいる。と前方のヤベアフレイムは顔を歪ませながら崩れ落ちた。
「リーダー!、こっちは何とかしました。」
俺が呼びかけるとヘルバティアは無言でうなずいてくれる。
その時最後に残った1頭も、双子妹にショートソードで喉を刺し貫かれて息絶えた。
「みんな用心しましょう。まだ最後の力を振り絞ることもあるからね。」
ヤベアフレイムの死亡を確認にかかる。ゆっくり近づき、メムが匂いを嗅ぎながら
「大丈夫ね、見事に死んでるわ。」
と言うので、依頼完了の証拠となる魔石をヤベアフレイムの遺体から回収する。
「これは、かなりの大きさね……。」
ヘルバティアが呟く。
最後に倒したヤベアフレイムからは、占い師の使う水晶球ほどのかなり大きい魔石が出てきたのだった。
こうして無事に依頼を完了させて組合本部に戻ってくる。
代金の60万クレジットを受け取り、魔石の買取代金も別で受け取ることになる。
「この魔石はかなりの大きさですね、これについてはとても高額になりそうなのですが後日の支払いでよろしいですか。」
パーティの依頼完了報告の受付に居合わせていたセイクさんがヘルバティアにそう尋ねる。
「もちろんです、で魔石の買取代金はいかほどになりそうですか。」
「この3つは1個15万、これについては100万クレジットぐらいかそれ以上になるでしょう。合計で145万クレジット以上の支払いになるかと。」
それを聞いたヘルバティアが驚きのあまり、ニッコリしながら机へ前のめりに崩れ落ちるのだった。
(ところでダン、魔弾を変えたのかしら。)
セイクさんとヘルバティアのやり取りを見ながらメムが念話術で聞いてくる。
(まあ、『球』の字を『弾』に変えてみた魔弾を使ってみました。)
(前の『球』の字を使っていた魔弾はどうしたの。)
(この前の補佐官の捜索、救出、護衛でほぼ使いました、魔弾のバーゲンセールをしたようなものですね。)
(ああ、そう……。)
そこに喜びの有り余ったヘルバティアが
「いやー、メムちゃんのおかげよ。この依頼で大金を得るなんて。」
そう言ってメムに抱きついてくる。
メムがヘルバティアに抱きつかれて、苦しそうに俺を見る。
「ティア姉さん、メムちゃんが、メムちゃんが。」
「ちょっと、激しく抱きつき過ぎですから、姉さん。メムちゃんが。」
双子妹がそう言ってヘルバティアを抑えにかかるのを見つつ、今回の依頼が無事完了したことを心底から良かったと思い、ほのぼのとした気持ちに俺はなっていた。




