142弾 力を貸してもらいましょう
翌朝、いつもより早めに起きて、食事身支度を終わらせ、階下に降りる。
「おはようございます。これからよろしくお願いします。」
と、3姉妹とグリュックさんに挨拶すると、
「ニシキさん、メムちゃん。おはようございます。身支度は済ませたのなら、こちらを手伝って。」
ヘルバティアがそう言ってくるので、
「台所の手伝いですか。」
俺が確認すると、
「いいえ、変装作業の手伝いです。ウィッグと衣装を運んで。ミアンも一緒に。」
「はい、姉さん。」
変装の手伝いである。とはいえ、女性の着替えに俺が参加するわけではないので、衣装を何着かとウイッグを数種類をミアンの指示でリビングダイニング隣の部屋に運び込む。
「ではこれから、作業を開始しますので。」
「わかりました。時間はかかりそうですか。」
「それなりに。私たちはいつもの茶店開店時の変装をしていきます。」
「では、俺とメムでもう一人を迎えに行きます。」
そう言って、俺とメムは下宿先を出て歓楽街の正門前に向かう。
早歩きで向かうと、ローウェルさんはもう着いていた。
「おはようございます。ニシキ殿。いや、助かりました。これから王都の方に協力を求めるとかで。」
「ええ、お二人にも来てもらうのが良いですので。一緒に王都へ行きます。」
「駆け落ちをする……、のではなくてですか。」
「まあ、流れによってはそうしますか。」
「いや、どうも昨日、捕まった男が、義父ちちのメモン・ルディオということは人づてに聞いたのですが、その男、目を覚まして警備詰所本部の中で、隊員たちと……派手に大立ち回りをしたようでして。」
いやー、思わぬ場外乱闘、というかえらい腕っぷしだな。
「ということは、そちらの隊員はご無事で、後、その男は脱走したとか?。」
「いえいえ、まあ数人がかりで取り押さえて、猿ぐつわを噛ませて、ぐるぐる巻きに縛り上げています。」
うーん、凶暴化しているようだが……。
しばらくして、
(くるわ、あのドラキャね。)
メムが気づいてくれる。
ドラキャはやって来て俺たちの前に止まる。
「メッセさんですね。」
合言葉が発せられる。これは、いつもの茶店のコック、イワンに化けたミアンさんか。
「そうです、ビッグサイトさんですね。」
俺が迷いなくそう言うと、まずローウェルさんを乗せる。
俺とメムが周辺を警戒して乗り込む。すぐにドラキャは動き出した。
「少し狭いですね。正門から抜けます。」
いつもの茶店のコック、イワノフに化けたミヤンさんが言う。
「わかりました。ちょっと途中で止めてください。俺が一度降りて、徒歩で正門を抜けます。俺が降りた後、ローウェルさんは荷物と一緒に隠れてください。」
「なるほど、撹乱するのですね。」
イワンがそう言ってうなずく。
ちなみに、グリュックさんは赤髪の長髪ストレートにしたウイッグをつけ、深窓のお嬢様という格好に変装させられている。それを驚きの眼差しで見つめるローウェルさん。
少しドラキャを走らせ、人気の少ない公園らしきところで、俺がドラキャを降りて、ローウェルさんが荷物入れに隠れる。まあ出る分には大丈夫だろうが用心はしておく。
「先にドラキャの方が出て行く方がいいでしょう。」
こちらもいつも通り、茶店開店時は少年のヘイルに化けたヘルバティアがそう言ってドラキャは先行する。俺はその後を追う形で街の正門に向かった。
先行したドラキャは、正門で警備隊員の確認を受けるとさらりと通してくれる。それを横目で見ながら、正門で警備隊員が俺の本人証の確認をするとさらりと通してくれた。しばらく歩いて正門から離れたのを確認してドラキャに乗り込む。
「ふう、無事に抜けれました。」
イワンがそう言って自分の肩を揉む。イワノフは軽く伸びをして首をくるりと回す。
「じゃあ、まずは休息地まで走らすわよ。で最終目的地はどこ。」
「王都の宰相邸です。」
ヘイルが聞くので、俺が答えるとドラキャ内は一瞬静かになった。
「え、え、私たちが行って大丈夫なの。」
「こ、これは、そうなのか。」
変装中の双子妹は動揺した。
「なぜ宰相にコネがあるの?。」
ヘルバティアがドラキャを操縦しながら聞いてくる。
「この2人をくっつける手伝いをしてくれた関係で。」
「まず王都を目指しましょう。」
ヘイルがそう言ってドラキャを加速させる。
俺とローウェルさんは代わる代わるで荷物と一緒に隠れる役をしながら道中無事にドラキャを走らせた。しかし王都に入るにはそれなりの入門検査がされるため、途中で変装を解き、そして無事に王都に入り、宰相邸前にドラキャが着く。俺が一旦降車して、門番に名乗りを上げて宰相補佐官の手紙を見せる。門番と宰相邸の間を使いの者が走って往復していたが、門番が一礼して俺たちを通してくれる。邸内の所定の位置にドラキャを止めて、全員降車する。
「あ、あのう、前にメムちゃんを追ってこの宰相邸に侵入したことは……。」
ヘイルから変装を解いたヘルバティアがそう言うので、
「そんなこと言わなくてもいいですよ。というか自首しに来たのではないですから。落ち着いてください。」
そう言ってヘルバティアを安心させる。
ふと見ると、同様に変装を解いたミアンとミヤンも何か挙動不審になっている。
「そこの2人もそんなギクシャク動かないで。グリュックさんとローウェルさんの後ろにいてくれれば。」
俺がそう指示を出しながら、宰相邸の玄関へ。
玄関が開くとそこで、アルトファン・リーゼ宰相補佐官が出迎えてくれたのだった。
「久しぶりね、ダンちゃん、メムちゃん。それにギグス・ローウェル君にメモン・グリュック嬢までも来るなんて。後ろの3人は初めての方かしら。」
「これは、宰相補佐官どの自らのお出迎え、恐縮でございます。後ろに控えましたる3人は、私どものパーティメンバーで、ヘルバティア・チャティーア、ミアン・チャティーア、ミヤン・チャティーアの3姉妹でございます。」
「あらあら、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。双子の姉と妹さんね。」
あ、やっぱり初対面だとそうなるか。
「お初にお目にかかります。長女ヘルバティアと申します。宰相補佐官にはお目にかかれて光栄のいたり。」
「同じく次女のミアン・チャティーアと申します。ニシキのパーティメンバーとして一緒に参上したことご容赦ください。」
「3女のミヤン・チャティーアと申します。よろしくお願いいたします。」
3人が初対面の挨拶をする。リーゼさんがにっこりする。
「失礼したわ。姉と双子の妹さんね。さあ、まずは部屋に案内するわ。小間使いたちは部屋にご案内してちょうだい。」
そう指示を出し、小間使いがそれぞれをゲストルームへ案内する。
俺とメムは前に泊まったゲストルームに案内される。その部屋の隣が3姉妹になる。多分あの3姉妹、相当びっくりしているだろうな。そう思うとニヤリとしてしまう。
ゲストルームに入ると、リーゼさんとの面談を夕食後に行うという。そして夕食はルームサービスであった。リーゼさん相変わらず多忙のようだ。でもそんな時にお邪魔して悪いのかなあと思いながら、夕食を平らげる。
「あら、以前よりちゃんと食べられるようになったのね。前に来た時は緊張しまくってたのだっけ。嘔吐しそうになってたのよね。王都だけに。」
と親父ギャグ込みで、メムがテンション高めに俺をからかった。
「メム様、少しは礼を言ってくれてもいいのじゃないですか。華燭の典をさせようと言って俺に頼んだくせにずいぶんですね。ま、いいですけど。」
そう言って俺がニヤリとするのを見て、
「まだ、何かありそうね……。」
と言い、メムは少し不安げな表情になった。




