121弾 あえて懐中に飛び込もう
「でも、私たちを狙うというのは、どういうことかしら。」
ヘルバティアが不安げに俺とメムを見ながら尋ねてくる。
「多分、考えられるのは、この家を奇襲して絵とあなた達をさらってくる、というのが一つ。」
とメムがヘルバティアの顔を見ながら答える。俺はそのメムの言を聞きながらうなずく。
「ただ、この手は使いづらいでしょう。この家付近は、警備隊も警戒していますし。」
メムの言を引き継ぎ、俺が捕足的に説明する。
「もう一つは、あなた達を家から離れるように仕向けて、そこで襲って、あなた方のうち1人を人質にとり、絵を持って来させる方法。確実にやるならこれじゃないかと思います。」
「もしかすると人質になっている者は、汚されるかもしれないわね。人質の価値は生きていればいいのであって、きれいにする必要はないのだから。」
メムが恐ろしいことを言い出す。
「……それは、私たちのうち、誰かが人質の間になぶられる、ということですね。」
ヘルバティアが険しい顔で言う。
俺はうなずく。
「じゃあ、さっさとあのイハートヨとその関係者を捕まえれば。」
ミヤンがイラついたように言い出す。
「それは無理です。具体的証拠がない。メムの証言が当てになりますか。いきなりこのグランドキャットが、異世界の女神と言われても誰も信じてくれないでしょう。虚偽の証言になりかねませんよ。」
「う、そ、それはそうだけど……。」
俺の指摘にミヤンは口ごもる。
「で、ここからが俺が話する、助力、の内容です。」
「ダン、何をしようとするの。」
メムが怪訝そうに聞いてくる。
「まだメムにも話していませんが、まず、俺にこの3枚の絵を預けてくれますでしょうか。」
「え、これらの絵をですか。」
「ええ、それを持ち出して、イハートヨに渡してきます。そしてその絵をダシにして残り2枚の絵を探します。多分ヤツが持っていたら、それを集めておきます。さらに、それらの絵を交換条件にあなた達を呼び出します。あなた達をそこで捕えるでしょう。捕らえて絵も揃ったところで、俺が裏切ります。あとは、警備隊にでも介入してもらいましょう。」
「介入が間に合わなければどうなるの?。」
メムが怪訝そうに聞く。
「俺たちが大暴れしましょうか。全力でやっちゃいましょう。」
「じゃあ、ニシキさんの助力の件はいいとしても、私たちは何をするの?。」
ミヤンが俺を見ながら聞いてくる。
「演技力はお願いします。俺に裏切られた役をしっかり演じていただければ。」
「分かりました。私たちも全力で演技します。これらの絵は、ニシキさんに預けます。」
ヘルバティアが覚悟と決意のこもった表情で、俺たちを見ながら力強く言い切った。
「ところでメム様、今のところ怪しい気配はありますか。」
「いいえ、感じないわ。大丈夫よ。」
「分かりました。ではこれから俺とメムは、下準備にかかります。ということで、警備隊へ行ってきます。お手紙を書いてからですが。」
俺はそう言ってメムを促して、警備隊本部へと向かおうとする。
「あの、昼食は。」
とミアンが聞いてくる。
「申し訳ありません。外でいただきます、夕食もそうなる予定です。」
そう言って俺たちは一気に警備隊本部へと向かい始めた。
警備隊本部に着くと、早速用意してきたフツーペーパーとガラスペンで一筆したためて、受付で警備隊総隊長の予定を聞く。一日中巡察とのことなので、書いた手紙を渡すように頼んで、雑貨屋巡りを開始する。
(ちょ、ちょっと。なぜに雑貨屋へ行くの。)
(囮調査をするためですよ。目的のものを買ってから説明します。)
(はあ、一体何をするのかしら……。)
目的のものをしっかり買うと、昼食と夕食もテイクアウトで買い、早速下宿先へ戻る。
(怪しい気配はないですね。)
(ないわよ。で、買ったものとかについて説明してよね。)
奥に声をかけて自部屋へ戻る。ドアノブに『魔術研究中』の札を垂らしておく。
その翌々日、朝のうちから俺はイハートヨと面会をする。場所は………、
「いや、俺の鍛錬場所でな。ここまで来てもらって申し訳ない。」
イハートヨの家の前からドラキャに乗せられて来た、街を出て少し離れた場所、鉱山跡を少し越えた先あたりの森の中か。そう思いながら周りを見渡す。小屋があり、周りは広めの庭らしい感じで、ところどころに切り株がある。
「いえ、しかし、勧誘に応じる話だから、仲間のいるところで話し合うのかと思いましたが。」
俺が淡々と返す。
「まあ、まず力量も見たいのでな。ところでその包みは何かな?。」
イハートヨが絵を包んだ袋に視線をやる。
「ああ、これですか。預かり物です。下宿先からのですがね。絵が3枚です。」
淡々と答えて、袋の口を解き、中から絵を取り出す。
「お、おい。これは、……どうして、どうしてお前がこれを持っているのだ。」
イハートヨの声が上ずる。よっぽど驚きなのだな。
「…どうしたのですか。そんな驚いて。いや、下宿先でいろいろあったのが嫌なので、俺の方でいい保管先を探してみる、ということで預かりまして。」
とそれなりの架空話をでっち上げてみる。
「ふーん、それで。」
「ええ、勧誘の誘いもしてくれたそちらのパーティに、勧誘の話と一緒に、この絵の預かってくれるいい保管場所についても相談しようか、と思いまして持参したのです。」
「……もしかして下宿先は、あの茶店の併設した。」
「ええ、チャティーアさんの家です。」
「なぜ、お前が、その家に下宿を?。」
イハートヨは自分では抑えているつもりだろうが、動揺が会話の端々に出てしまっている。
「まあ、運良く3級にランクアップしたのですが、そうなると組合本部の寮を出なきゃいけない。しかし、この好況で下宿先がなかなか見つからなくて、下宿先を探していた結果ですね。」
「組合本部の紹介か?。」
「そうですね。でこの絵について、何かご存知なのですか?。」
こっからは勝負だな、俺はそう思いながら気を引き締める。
「実はな、そのチャティーアの家とはな、俺のパーティのメンバーだったのだ。しかし、あの家、誰が住んでいるのだ。」
「……あなたを信頼して言いますが、3人の女性です。長女と双子の次女、三女です。用心のため変装しています。」
「なるほど、2年前に彼女らの両親は行方不明になったからな。ところで、襲撃の時には、お前はそれに対応していたのか?。」
おいおい、ボロ出してきたぞ。
「いえ、依頼実行のために外へ出ていましたが。何かあったのですか。」
「ああ、絵を狙って襲撃が、いやそれより絵のことだ。うーむ。」
「じゃあ、元の持ち主に返しますか。それとも。」
「いや、話し合おう。彼女らを呼び出せばいい。」
「じゃあ、俺が呼び出してきますか。」
「いや、絵のことが心配だから、ここにいてくれ。俺の方で呼び出す。」
イハートヨはそう言って、小屋に入り、赤色の覆面をした大きめのマントをまとった男を呼び出して一緒に俺のところまできた。
「この男が俺の手伝いをしてくれる。この男たちに彼女らを呼び出してもらおう。お前はここで待っててくれ。」
「わかりました。イハートヨさん。絵も見張っておきます。」
そして小屋へと案内され、粗末な寝床に座らされる。もちろん絵も一緒に。
「彼女らの呼び出しのために俺も空ける。頼んだぞ。」
そう言ってドラキャを駆って、イハートヨは赤覆面の男とどこかへと行ってしまった。




