マナミ
「昨日の深夜、図書館に潜入して調べてきた。やっぱり隠し部屋が二つある。」
俺は翌日、仲間に話した。仲間とはダンジョンの入り口前で落ち合っていた。
「え!?」
仲間は驚いた。
「俺、一応、シーフだから。」
「うーん、そうだけど…。」
そこまでするかっという感じで、カールが言った。
「で、こことここが隠し部屋の入り口らしい。」
俺は仲間にマップを見せた。
「わかった。取りあえず、マップに書いてある地下一階の部屋、確認しよ。その後で、この隠し部屋に行ってみよう。」
カールは言った。
俺たちは、マップに書かれている部屋を回った。その都度、モンスターとの戦闘になったが、魔法部隊は結構強力で難なく倒していった。やはり、どの部屋にもリングオブテラらしきものはなかった。そして、俺が調べた一方の隠し部屋の入り口に来た。
「うーん、どうも完全に壁になってるみたいだぞ。ここ。」
俺は調べた。
「何故、そんなことしたんだろう?」
ワルマは言った。
「わからないわね…。」
カールは考え込んだ。俺たちは、もう一方の隠し部屋の入り口に行ってみた。やはり見た目は壁にしか見えないが、本当に僅かだが隙間があった。
「これは…。」
四人で押してみると壁が動いた。何とか人一人が入れるぐらいの隙間が空き、中に入れた!そして、四人が入っていくと、短い廊下があり、その先に部屋があった。入っていくとプリーストらしき人が一人とモンスターが四体いた。プリーストらしき人は、青い法衣を着、長い顎鬚を蓄え、敬虔な顔立ちをしていた。モンスターは二種類が二体ずつおり、一種類は身長二メートルぐらいで女性の様な顔に胸に1984の形をしたペンダントらしいものをかけ、身体は石で出来ているようだった。もう一種類は、身長一メートル八十センチぐらいで、やはり女性の顔に身体がコイルで出来ているような不気味な姿をしていた。
「ここはお前たちのようなものが来る場所ではない。即刻立ち去れ!」
プリーストらしき人は怒鳴りつけた。そして、モンスターは動き出した。
「ちょっと待ってください。少しだけお話をお聞かせください!」
俺は懇願した。
「問答無用!」
言い放つプリーストらしき人
「待ってください。お願いだから…。」
俺は訴えた。
”すべての大気に住まう精よ。力を遮る壁となり給え”ワルマは呪文の詠唱を始めた。
”すべての大気に住まう精よ。声を妨げる雲となり給え”相手も呪文の詠唱を始めた。
その間に、モンスターたちは俺たちの周囲を取り囲んだ。
「ディハ!」
俺たちの周囲に魔法障壁が現れた。
「ステマ!」
”すべての炎に住まう精よ。そ…”
”すべての生きとし生けるものよ。ひざ…”
ファーとカール、二人の詠唱が突然止まった。いや、二人とも口は動いているのだが、声は聞こえなくなってしまった。まずい。呪文攻撃ができない。俺は仕方なく、後ろに回り込んできたモンスターに短剣で一撃をくらわした。しかし、相手はそれほどのダメージを負っていないらしい。
「どうにか逃げられないか?」
俺はワルマに尋ねた、
「難しいかも知れん。」
ワルマは答えた。
その時だった。黒いライダースーツらしきものを身にまとった一人の美しい女性が部屋に入ってきた。顎まで伸びた黒髪、魅惑的な黒い瞳、少し小さめだが形の良い唇、大きな胸、くびれた腰、満月のようなお尻、長い美脚を持つ美女である。その女性は俺たちに投げキッスを投げた。途端に俺の心は、彼女に魅惑された。
「ごめんあそばせ」
彼女はモンスター二体の間に入り、プリーストらしき男の真ん前に立った。そして、両腕を頭の後ろで組み、プリーストらしき男の視線をその瞳に捕らえると、そっと右目を閉じた。その片目がゆっくりと開くころには、プリーストらしき男の表情が完全に変わっていた。プリーストらしき男は心をすっかり抜き取られたように、ぼーっと女性を見ていた。女性は俺たちをかき分けてゆっくり男に近づき、男に囁きかけた。
「リングオブテラを渡しなさい。」
「はい」
男はズボンのポケットから黒い箱のようなものを取り出すと、女性に差し出した。
「これは?」
女性が尋ねた。
「リングオブテラのケース。魔法の鍵がかかっている。」
「鍵はどこにあるの?」
「迷宮地下二階のある部屋にある。」
「そう。わかったわ。ありがとう。ご褒美に。」
そう言うと女性は、また、男と目を合わすと、チャーミングに左眼を閉じた。そして、俺たちの前を通り過ぎ、部屋から出て行った。その後を追うように、三人の人影が部屋の入り口から消えるのを俺は見逃さなかった。
「あ、あの、ちょっと待って!」
突然、ザイドが叫ぶと、彼はそのまま部屋から出て行ってしまった。
「おい!」
ワルマが慌ててザイドを追いかけた。
ー俺の知らないザイドの視点ー
俺は黒ずくめの女性を追った。どうやら男の仲間が二人、いるらしい。結構速くダンジョンの中を走っていく。
「ちょっと、ちょっと、待ってくださぁぁぁい。」俺は叫んだ。三人は足を止めた。そして振り返った。俺は女性に駆け寄った。
「な、仲間に、仲間にしてください。お願いします。」
「うふふ。」女性は微笑んだ。そして、俺と目を合わせるとゆっくりと左目を閉じた。その瞬間、俺の脳に強烈な快感が走った。何も考えられなくなり、ただただぼーっとしていた。
………
気が付くと、俺はダンジョンでたった一人、佇んでいた。何故ここにいるのか、どうやってここに来たのか、どうしても思い出すことができない。ここがダンジョンのどの場所なのかもわからない。
ー-------------
「え!?」
呆然とする俺たち。動きが止まっていたモンスターたちも、また動き出した。プリーストらしき男も何か夢からさめたような表情で戦いを再開させようとしている。しかし、男は何かに気付いた。
「な、ない!」
警報のようなものが鳴った。男はうろたえている。部屋の入り口が閉まったようだ。そして、暫くすると女性警官のような人が二人、やってきた。一人の女性警官は茶髪でセミロングの髪をしており、もう一人は黒髪でショートだ。背は同じぐらい、百五十センチ後半だろうか?
「動かないで!」
「リングオブテラ盗難容疑で逮捕します。」
黒髪の女性警官は言った。
俺たちはその場で取り調べに応じた。まず、持ち物検査をされたが、何も出てはこなかった。
「では、あなた方はやってないと?」
茶髪の女性警官は尋ねた。
「はい。怪しい女の人が入ってきて、そこの男の人…」
俺は答えた。
「番人?」
黒髪の女性警官が言った。
「そう。番人を誘惑?!して番人から箱のようなものを持っていきました。」
俺は言った。
「リングの番人、あなたはどうなの?彼らはこう言っているけど。」
茶髪の警官がプリーストらしき男に尋ねた。
「それが…そんな女、記憶にないんです。一瞬、ぼーっとしていたことは認めますが、そんな女、見ていません。」
番人と呼ばれたプリーストらしき男は答えた。
「うーん…。彼らの言うことが正しいとしたら、事件には”チャーマー”が関わっていることになる。」
茶髪の女性警官の一人は考え込んだ。
「え!?そんなこと、有り得ますか?」
もう一人の女性警官がいぶかった。
「わからない。でも、そう考えれば、説明がつく。誰かが、この技術を盗んだのかも…。」
「そんなこと、カオス・プリンス以外に、できます?」
「だとしたら、恐ろしいことだけど…。」
警官二人はひそしそと話し合いながら考え込んだ。
「わかりました。あなた達は嫌疑不十分で釈放します。ただし、この部屋のことは口外しないでください。」
茶髪の警官は言った。
「あの、済みません。一つ質問していいですか?」
俺は聞いてみた。
「はい。」
「ジェームス・ルファルドについて、何か、知りませんか?」
「ジェームス・ルファルド? それを知って、どうするの?」
茶髪の警官は聞き返した。
「私の父なんです。どこにいるか、ご存じありませんか?」
警官二人は、一瞬、顔をしかめた。
「残念ですが、それにはお答え、できません。」
茶髪の警官は言った。
「そうですか…。」
警官二人は出ていこうとした。部屋の入り口を開けると、ワルマがいた。
「あなたは?」
「彼らの仲間です。仲間のシーフが一人、外に飛び出して行ってしまって、追っかけたんですけど、見失ってしまって…。」
ワルマが答えた。
「わかりました。署までご同行お願いします。」
ワルマは警官二人に連れていかれてしまった。俺たちは部屋を出た。ワルマがいないと、地下二階には行けない。仕方なく俺たちはダンジョンの出口向かって歩いていた。その時、前から一匹の子供のドラゴンを連れた冒険者が歩いてきた。その男は、少し老けてはいるが美男子で、黒のプレートメールを着ていた。
「こんにちは。」
向こうは挨拶してきた。
「こんにちは。」
「私、ジューダ・ロクフェルと申します。見ての通り、竜使いです。」
「どうなさいました?」
「済みません。私をパーティーに混ぜていただけませんでしょうか?」
「はあ。」
「今、一緒に冒険する仲間を探しているんです。」
俺はカール、ファーと相談した。確かに子供のドラゴンがいると強力かもしれない。しかし、俺は何故か嫌な予感がした。何か不自然だ。
「あなたは、何が目的で冒険をしているのですか?」
俺は聞いてみた。
「私は、魔王を倒し、このダンジョンに隠された”秘密の力”を手に入れるため、冒険をしています。」
「そうですか…。今、仲間が二人、ここにいないので、お答えできません。済みませんが、今回は辞退させていただきます。」
「わかりました。」
男は去っていった。
俺たちは町の入り口に戻って、ワルマが帰ってくるのを待った。三時間ほどたって、ワルマは帰ってきた。
「取り調べで何聞かれた?」
カールが聞いた。
「いや、女性の警察署長が出てきて、俺の目をじーっと見て、そうしたらだんだん気が遠くなって、気が付いたら取り調べが終わってた。」
「ふーん。」
あの黒ずくめの女性と言い、警察署長と言い、何か秘密がありそうだが、それを調査している余裕は俺にはないな…。
「それより、これからどうする?ザイド、探す?」
ワルマが聞いた。
「警察が探してるだろうな…。今は警察に任せてもいいような気もする。あの状況じゃああいつがリングオブテラを盗む可能性もないし、釈放されるだろうけど。」
俺は言った。
「じゃあ、どうする?」
ワルマが聞いた。
「俺は、ダンジョンの探索を続けたいな。親父がまだ、あの中にいる可能性、無くなったわけじゃないし。」
俺は言った。ザイドには悪いけど、俺は先を急ぎたいんだ。そして、四人は考え込んだ。
「冒険を続けるか。」
全員同意した。ダンジョンへは、明日向かうとして、今日は休息をとることにした。
日は明けた。ダンジョン入り口前で四人は落ち合った。一直線に一階から二階に下りる階段に向かった。今度はパーティーにプリーストがいる。同じ轍は踏まない。戦いはワルマ以外は全員防御。ワルマは「アンデットの呪いを解く」に専念してもらった。数分後、俺たちは戦いに勝利、地下二階へと駒を進めた。まず、試しに階段を下りて一番近くの部屋に入ってみた。
「人魂だ。」
ワルマは言った。
「剣で切れるかな?」
俺は短剣で切り付けてみた。しかし、宙を舞っている人魂に切り付けても、すぐ逃げるだけだった。
「私が行く。」
カールが呪文を詠唱し始めた。”すべての炎に住まう精よ。その熱を今解き放ってすべてを焼き尽し給え”「ファラ!」
残念なことに人魂は、ますます明るく燃え始めた。
「じゃあ、私が行きます。」
ファーが呪文を唱え始めた。”すべての水に住まう精よ。その流れを今解き放ってすべてを洗い流し給え”「ウォモ!」
人魂はだいぶ火が消えてきた。あと、もう少し!
「ウォモ!」
よし消えた!。
その後、ダンジョン二階の部屋に入っては、野球の審判の格好をした吸血鬼や、食人鬼、腐乱した人造人間と戦って勝った。そろそろ一旦引き上げようとしたその時である。
「ごめん、ちょっといいかな…。」
突然、呼び止められた。振り返るとあの時の黒ずくめの女性である。二人の仲間を連れている。一人は刀を腰に差している剣士らしい男。少し長い黒髪を頭の後ろで束ねていて、色白であっさりとした顔つき、特殊な赤いレザーメールを着ている。もう一人は拳銃らしきものをフォルダーに入れて腰に下げている男。少し顎髭があり、目鼻立ちはある程度はっきりしつつも、あっさりとした顔立ちの男である。色薄めのサングラスをかけ、青いワイシャツにネクタイ、黒いカーボーイベストを羽織って、黒いスラックスを履いている。
「あなたは…。」
俺は呟いた。
「手伝ってほしいことがあるんだけど。」
黒づくめの女性は尋ねてきた。
「はい?」
「この奥に隠し扉があって、その向こう側に鍵が保管してあるのよ。それを盗むのを手伝ってほしいの。」
「え!?」
俺たちは驚いた。
「私たちに泥棒の手伝いをしろと…。」
カールは呟いた。
「あら、あなた達もアイテム狙いであの場所にいたんじゃないの?」
「いえ。俺は父親の消息が知りたくて…。」
「あなたの父親って?」
「ジェームス・ルファルド。」
「はあー。そう…。彼の息子…。」
「あなた、親父の事、知ってるんですか?」
「知ってるわよ。今も生きてる。」
「本当ですか?」
「本当よ。」
「何処にいるんですか?」
「うーん、手伝ってくれたら、教えて、あ、げ、る。」
四人は考え込んだ。この人、本当に信用できるんだろうか。しかし、情報は少しでも欲しい。
「何をすればいいんですか。」
俺は聞いた。
「鍵の保管してある部屋には今、警察署長とその側近、警官隊、番人、警護のモンスターがいるわ。番人とモンスターは私たちが相手をするから、警察署長、側近、警官隊の相手をしてほしいの、」
これは危険だ。間違いなく警察に追われる立場になる。しかし、警察は親父の情報はくれない。これは賭けだ。
「すまないけど、ちょっと話合わせて欲しい。」
俺は言った。
「わかったわ。」
俺たち四人は女とちょっと女性と離れて話し合った。
「これは大変危険な行為だと思う。しかし、俺は親父のことが知りたい。だから、この取引、俺一人でやりたい。」
俺は言った。他の三人は考え込んだ。沈黙が一分ほど続いた後、カールが口を開いた。
「危険すぎるわ。あなた一人で、警察、相手にするなんて。」
ファーも頷く。
「確かに俺たちには関係ない。しかし、君はもう俺たちの仲間だろ。」
ワルマが言った。ファー、カールも頷く。
「いいのか。警察に追われる立場になるんだぞ。」
俺は危惧した。
「何とかなるよ。何とか。」
ワルマが呟く。
「大丈夫。」
カールが言った。
「うーん、わかった。みんな、ありがとう。」
「おまたせしました。」
俺は黒づくめの女に言った。
「はい。」
「この仕事、引き受けさしてもらいます。」
「ありがとう。じゃあ、明日、ここで。」
「あ、あの、俺、キムと言います。よろしくお願いいたします。」
「私、マナミ。よろしく。」
俺たちは、彼女たちと別れた。
翌日。俺たちは昨日、マナミさん達と別れた場所にいた。マナミさん達は何か大きな袋を二つ持って、やってきた。
「おまたせ。」
「その大きな袋は何ですか?」
俺は聞いた。
「警察署長の側近の弱点。」
マナミさんは答えた。
「弱点?」
俺たちは聞き返した。
「そう。彼女たちの弱点を突くのよ。そうしないと、勝ち目はないわ。」
「そんなに強いんですか?」
ワルマが聞いた。
「ええ。あなた方の視点で見れば、彼女たちは”不思議な力”を使いこなすわ。」
「不思議な力?」
俺たちは首をひねった。
「そう。このダンジョンの地下四階のある場所に行けば、あなた達にもわかるわ。」
「うーん。分かりました。」
俺は、一応納得したふりをした。
「それで、作戦なんだけど…。」
マナミさんは続けた。作戦はこう。まずはファーが呪文で警官隊を眠らせる。そして、俺が警察署長を、カールとワルマが側近を、それぞれの弱点を突いて、戦いに集中できなくする。その間にマナミが番人から鍵を奪い、マナミの仲間がモンスターを倒す。これが成功すれば、親父の情報が手に入る。
俺たちは鳩の忌避剤と虫よけスプレーを防具やローブに塗り、部屋の扉の前で用意についた。マナミさん達も準備OKだ。
「ファー、大丈夫か?」
俺は聞いた。
「うーん、やってみる。」
”すべての生きとし生けるものよ。跪き、その心をヒプノスの御前に捧げたまえ”「ステホ!」
中で動きがあった。気付かれたか?二秒後に俺たちは部屋に踏み込んだ。警官隊は寝ていたが、後は全員起きていた。
「あなたたちは!}
ワルマを見た警察署長が叫んだ。警察署長は、やや茶系のミディアムロングの黒髪、整いすぎた顔立ち、白いパンツスーツを着ていて、スレンダーだが胸はちょっと大きめと言った出で立ちだった。俺は急いで、警察署長に近づいて、度数の高い酒の入ったスプレーで警察署長の鼻と口にかなり度数の高い酒を二、三回吹き付けた。
「あ、何するの!うっ!」
カールは大量の鳩のえさの付いた布を、側近の一人、ボブヘアーで眼鏡をかけた方の体に着けると、袋から大量の鳩を出した。鳩は、一斉に側近の一人の方へ飛んで行った。ワルマは、側近の一人、背の高い髪の長い方に持ってきた袋を逆さにして、中に入っている大量の虫をぶっかけた。
「きゃぁぁぁぁぁぁああああああ!」
側近二人の悲鳴が部屋の中に響いた。警察署長は顔を赤くし、突っ伏した。作戦の第一段階は成功した。マナミさんの仲間はモンスターを攻撃し始めた。マナミさんの仲間、一人はモンスター二体を一刀両断で切り捨てた。もう一人は拳銃で一撃でモンスターを仕留めた。強い!あっという間に、モンスターは全部、倒されてしまった。
マナミさんは番人のほうに歩いて行き、番人と目が合うと、右の片目を閉じた。しかし、番人の表情は変わらなかった。
「抗体を飲んだわね…。じゃあ、これならどぉお?」
マナミさんはそう言うと、番人更に近づいて、黒いボディスーツのフロントチャックを下ろし始めた。腰のあたりまでチャックを下ろすと、両手で胸の前のスーツを開き、不思議な光沢がある金色のブラと、胸の谷間を番人に魅せた。番人の目はマナミさんの胸に釘付けになり、数秒後、番人の表情は恍惚に変わった。
「鍵を渡しなさい。」
「はい。」
「ありがとう。ご褒美にこれをあげる。」
マナミさんは番人と視線を合わすと、ゆっくり左目を閉じた。
「さあ、い」
マナミさんは言いかけた。それを遮るように、警察署長は怒鳴った。
「待ちなちゃい。」
警察署長は起き上がった。おかしい。ちょっと早すぎる。俺は慌てて、警察署長にスプレーを吹きかけようとした。しかし、振り払われた。
「さぶりみなる・てんぷていしょん」
警察署長は囁いた。途端に警察署長の服がちらつきだした。そして俺はなんとも言われぬ感覚に捕らわれた。一分後、俺は警察署長の魅力の虜になってしまい、彼女を見つめること以外できなくなってしまった。
「よ、よくもやってくれたわねー!」
側近たちが叫ぶ。まだ、怖がってはいるが、何とか耐えているらしい。そこにいる起きている男たち全員は警察署長の虜になってしまったようで、動きを止めた。俺たちのパーティーで正気を保っているのは、マナミさんとファー、カールの三人だけだった。
ファーは呪文を唱え始めた。
”すべての氷に住まう精よ。”
「セ、セクシーコンフュージョン」
虫と格闘しながら側近の一人が呟いた。
”跪き”…”その流れを”………
ファーは考え込んだ。その隙を側近は突こうとしたが、虫が顔に張り付いてしまって悲鳴を上げた。
「キャー!あっち、あっち行け!」
カールは杖で側近の一人を叩こうとした。しかし、側近はカールの瞳をじっと見つめて囁いた。
「落ち着きなさい。あなたは本当は何がしたいの?あなたのしたいことは、本当はもっと穏やかなはずよ。」
側近の言葉はカールの心に何故か説得力を持って響き始めた。カールの動きは止まった。
「静かーに、静かーに、落ち着いて」
その時、鳩が側近の顔めがけて飛んできた。
「きゃー! 眠く 眠くキャー!」
またしても、鳩が飛んできた。ついに側近はカールの瞳から目を逸らした。カールは正気を取り戻した。
マナミさんは警察署長に持っていたダッガーで切り付けた。警察署長は警棒で応戦。二人は互いに死力の限りを尽くして戦いあった。そして、まだ酒の影響が残っているのか、警察署長が隙を見せ、警棒が弾き飛ばされ、マナミさんは彼女の背後に回って、ダッガーを彼女の首に突き付けた。
「術を解きなさい。」
「嫌よ。」
「術を解きなさい!」
マナミさんは声を荒げた。警察署長は怪訝そうな顔をした。警察署長の服のちらつきが止まった。俺は正気に戻った。マナミさんはダッガーを突き付けたまま、警察署長の前に回り込むと、彼女と目を合わせ、左目を閉じた。また、マナミさんは側近たちにも目を合わせ、左目を閉じた。
「さあ、今度こそ行きましょ。」
マナミさんは言った。俺たちは部屋を出た。部屋の中の人間は放心状態か、寝ているかである。
「あなたのお父さんは、”賢者の石”を盗んで、その罪で迷宮四階にある”チャーマースクール”の一室に幽閉されているわ。」
マナミさんは言った。
「チャーマースクール?」
俺は聞き返した。
「そう。詳しくはそこの校長に聞くといいわ。じゃ、頑張って。あ、警察の方々の記憶は消しといたから、心配しないで。」
「ありがとうございます。あ、マナミさん。あなたは何で”リングオブテラ”を盗もうとしたんですか?」
「ん…いいわ。教えてあげる。私はここを元の”レジャーパーク”に戻したいのよ。」
「やっぱりここ、”レジャーパーク”だったんですか?」
「そう。魔王が現れる前はね。奴が現れて、ここは魔界となってしまった。だから私は魔王を倒して、ここを元のレジャーパークに戻したいのよ。」
「魔王を倒すのに、リングオブテラが必要?」
「そう。魔王は強いわ。元々高位のプリーストだったうえに、不思議な力を身に着けている。魔王を倒すにはリングオブテラの力が必要だというもっぱらの噂よ。」
「そうですか…。ご健闘をお祈りします。」




