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マリア・オージェム

 俺はアル。アル・オージェム。今、ファーやルファルドさんと一緒にダンジョン八階に降りてきた。俺たち三人は作戦を考えた。まずは、四天王の魔術師ガミランか、プリースト・ヘッケラーをファーの虜にして、母の事を聞くしかない。どちらかが単独で動いてくれれば…。

 そう思って、八階から七階への階段前に三人でいたら、魔術師ガミランと魔術師四人ほどのパーティーがやってきた。

「ファー、お願い。」

 俺はマジックブレーカーを取り出した。ファーはキッスを投げ、魔術師たちの動きを止めた。ルファルドさんは呪文攻撃に備えて警戒した。

「う!ゴーストジェネレーターが動かない!」

 ファーはガミランと目を合わせると、ウィンクした。俺はファーに母の写真を手渡した。

「この人を知ってる?」

 ガミランは写真を見て暫く黙っていた。

「はい。知ってます。」

ガミランは口を開いた。

「何処にいるの?」

 ファーは尋ねた。

「この先にある俺たちの会議室の近くにある牢獄の中にいます。」

 ガミランは答えた。

「牢獄の何処?」

「奥から三番目、右側の小部屋です。」

「ありがとう。」

 俺たちは奥へ進んでいった。最初の二部屋はモンスターがいたが、ファーのおかげで難なく勝てた。問題は次の部屋だった。次の部屋をそっと覗いてみると、あの化け物とプリーストのヘッケラーがいた。最悪の取り合わせだ。何も考えずに入って行くと、ヘッケラーの沈黙の呪文でファーの凍結呪文が封じられ、俺たちはあの化け物になぶり殺しにされる。なんとかヘッケラーの先手を封じなければ。

「ルファルドさん、あのプリーストに気付かれずに背後から近づいて、気絶されることできます?」

 俺は聞いた。

「背後に回り込むことは、出来ると思う。でも、一撃で気絶させるのには自信がないな…。」

「後頭部を狙うのは難しいと?」

「うーん、何とも言えない。」

「だとすると、逃げた方が良いかも知れませんね…。俺が入って行って、沈黙呪文の打ち合いになっても向こうが速いでしょうし、あの化け物に殺されます。ファーが入って行って凍結呪文を唱えても、向こうの沈黙呪文の方が速い可能性が高いですし、やはりあの化け物に殺されます。唯一可能性があるのは、ファーが入って行ってあのプリーストを魅惑した場合です。ただし、その場合、ファーが一瞬、前面に立たなければならず、あの化け物の攻撃を浴びる可能性があります。今、ファーを失うと、その後、我々の生還が困難になります。」

「うーん、諦めたくはないな…。」

「あの化け物は確実にファーを狙ってくるでしょう。俺の防御呪文でも防ぎきれるかどうか…。」

 暫くの沈黙。

「わかった。一か八か…。俺があのプリーストを何とかしよう。君はファーを守ってやってくれ。」

 ルファルドさんは部屋に忍び込んだ。こっそり近づくとプリーストの後ろについた。俺とファーはそのころ合いを見計らって、部屋に入った。ファーは俺の陰に隠れて入りながら、凍結呪文を詠唱し始めた。俺は化け物の一撃を弾くため、意識を集中した。

 ”すべての大気に住まう精よ。声を妨げる…”

「う!」

 敵の呪文の詠唱が止まった!ルファルドさんが背後からプリーストの後頭部を打った。成功だ!化け物は触手を三本伸ばし先を針のようにして、俺を突いてきた。二本までは弾いたが、最後の一本が俺の身体を貫通した。痛い!激痛が走った。

「アイギ!」

 ファーは凍結呪文を詠唱し終わった。化け物は凍り付いた。

”大地に住まう聖なる神よ。その優しさをもって傷を癒し給え”「ディボ!」

 俺は、自分で回復呪文を詠唱し、何とか一命をとりとめた。

「大丈夫か?アル君…。」

 ルファルドさんの心配そうな声。

「だ、大丈夫です。」

 俺は、何とか立ち上がった。

「行きましょう。」

 次の部屋は誰もいなかった。不気味だが、俺たちは先を急いだ。魔王たちが住む区画に来て、四天王が「会議室」と呼ぶ場所を探した。ラミアたちの居室を通り過ぎて、廊下が交差しているところまで来た。そこで、人の声が聞こえたので俺たちはそこで隠れた。どうやら魔王とラミアが話しているらしい。低い声、おそらくドラゴンだろう、その声も聞こえる。声が聞こえるのは、多分、奥方向のすぐ近くの部屋だ。どうもそこが「会議室」らしい。俺たちは気付かれないように、そおっとそこを通り過ぎた。

 奥から三番目の右側の小部屋に俺たちはたどり着いた。

「ルファルドさん、ここ、開けられます?」

 俺は聞いた。

「任して。」

 ルファルドさんは、鍵の様子を暫く注視すると、ピッキングで小部屋の鍵を開けた。さすが、キムの父親だ。俺たちはドアを開け、中に入った。

 中には、女性が一人、座っていた。赤い法衣を着た、ブロンドのミディアムロングの髪、堀のやや深い顔、大きめの青い瞳…。

「母さん!」

「あ、アル!」

 俺は母さんに抱き着いた。

「会いたかった…、会いたかった…。」

 俺は涙を流した。

「マリア…。」

 ルファルドさんは呟いた。

「ジェームス…。」

 母さんも呟いた。

「心配した…、殺されたかと…。」

 ルファルドさんは言った。

「あの時、確かに私たちは殺されかけたわ。でも…、でも…、あの方に、助けてもらったの。」

「あの方?」

「そう。あのお方。あのお方に救ってもらったの。」

「母さん、帰ろう…。」

「アル…。」

「母さん、家に帰ろう…。」

「アル…、それはできないわ。」

「何故?母さん…。」

「アル…、一緒にここで暮らしましょ。」

「母さん…。」

「そうしましょう。ここで暮らすのよ、アル。ここには何でもある。そして、何よりも、何よりも大切なあのお方がいる…。」

「母さん、あのお方って?」

「カオス様よ。」

 俺たちは息を詰まらせた。母さんは魔王の術にかかっている。俺たちは一旦、部屋を出た。

「ファー、術の解除って、できる?」

 俺は聞いた。

「難しいわ。今まで一度も、成功してない…。」

「そうか…、チャーマースクールに連れて行けば、何とかなるかな…。」

「うーん、術が浅ければ、可能かもしれない。」

「ファーの呪文で寝かして、連れていくか…。」

「頼む。そうしてくれ。」

 ルファルドさんは言った。俺たちは部屋に戻った。

”すべての生きとし生けるものよ。跪き、その心をヒプノスの御前に捧げたまえ”「ステホ!」

 母さんは眠った。ルファルドさんに母さんを担いでもらって、俺たちは部屋を出た。その時である。会議室らしき部屋から出てきた魔王とラミアに出くわしてしまった。

「ふ、何をしているかと思えば…。」

 魔王は呟いた。

「カオス様、どうします?こいつら。」

 ラミアは言った。

「利用価値があるかもしれん。虜にしろ。」

「はい。」

 ラミアはルファルドさんにウィンクした。ルファルドさんの動きが止まった。俺はラミアから顔を背けた。いけない!ラミアを見てはいけない!魔王はファーに近づいた。ファーは嫌がっている。”すべての氷に住まう精よ。”ファーが凍結呪文を唱えだした。”すべての大気に住まう神よ。声を妨げる雲となり給え”魔王の沈黙呪文。速い!これでは、ファーが負ける。「ステマ!」

 ファーの声が消えた。

「何を怖がってるの?」

 ラミアが俺に囁きかけた。その手に乗るものか。

「怖がるものなど何もないわ。」

 ラミアが囁きを続ける。聞かない。俺は聞かない。

「さあ、何もかも忘れて心を開きなさい。」

 心も開かない!

「ゆっくりと、ゆっくりと。何も恐れるものは無いわ。」

 魔王の両目がファーを捕らえた。

 「いやー!」

 ファーが絶叫する。しかし、数秒後、ファーの瞳から輝きが消えた。俺は目をつぶった。

「私は女神。あなたの女神。あなたは見たい、私を見たい。」

 不思議なことに、俺はラミアを見たくなってきた。

「見たくて見たくて堪らない。ああ、あなたの為に素敵な姿を見せてあげる。さあ、瞳を開きなさい。私はここよ。」

 俺は瞳を開きたい欲求に耐えられなくなった。

「あなたのめ、が、み…。」

 俺は目を開いてしまった。そこには魅惑的すぎるラミアの姿があった。ラミアはそっと片目を閉じた。

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