表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6.時の女神

「時計……大時計の中を探すのはどうだろう。

 なんたって、時の女神なんだし」


「ええええええ……

 いくらなんでも、わかりやすすぎない?」


 カタリナは、露骨に半眼になった。


「いやほら、よくあるじゃないか。

 時計の針が0時で重なったら、なにか仕掛けが動いてお宝発見!とか、そういうお話が」


「あー……あるわね。

 時計塔で隠し財産のありかを求めていたら、針が急に動いて首ちょんぱ☆とか」


「カタリナッ なんですかその言葉遣いは!」


 マルグリットが、眼を釣り上げた。


「だーかーら、鷹揚で寛容なアルフォンス殿下は、このくらい気になさらないんだから。

 そうよね? 殿下!?」


 カタリナは、アルフォンスに圧の強い視線を向けてきた。


「あ、ああ。いつものことだ」


 アルフォンスは、こくこく頷く。


 しかし、よく考えたら、カタリナはアデライードの前では粗雑な言葉を使っていない。

 たぶん、自分は舐められているのだろう。

 ま、それも含めてカタリナだ。


「おば様。話が進まないから、お小言はあとでまとめて承ります。

 ……で? なんだったかしら。大時計?」


「そうだ。大時計だ。

 オルゴールは、小さなものなんだろう?

 柱時計の中なら、隠せるじゃないか」


 ふむ、とカタリナは考え込んだ。


「そう考えると、候補は結構たくさんありそうね。

 玄関ホールや正餐室でも見た覚えがあるし。

 確か、図書室にも大きな振り子時計があった気がするわ。

 一通り、見て回りましょうか」


「そうだな。

 まず、ここの柱時計から見てみよう」


 アルフォンス達は、サロンの廊下側の壁の真ん中に飾られている柱時計に向かった。

 

 結構な年代物っぽい柱時計は、ほぼ等身大の花の精霊達の彫像が絡みついた、優美なもの。

 台座もあるので、もう少しで180cmを超えるアルフォンスがつま先立ちになっても、てっぺんは見えない。


「あー……鍵がないと開かないのか」


 側面を見ると、鍵穴のついた小さな扉がある。


「……鍵を管理している者を、呼んでまいります。

 なにか踏み台もご用意しませんと」


 すすっとマルグリットが出ていって、すぐに老執事を伴って戻ってきた。

 老執事は、毎週月曜の朝に、離宮内の柱時計のゼンマイを巻いているという。

 ついでに聞いてみたら、離宮の内外にクロノアの神殿や廟はないとのことだ。


 老執事は、小扉を開いた。

 箱のような空間の真ん中に、大きなゼンマイが見えるが、それだけ。

 手を入れてゼンマイを巻く、それ以上のスペースはない。


「ええと……この時計の中は、どうやったら見られるんだ?」


「壁につけております側が、まるごと開くようになっております。

 年に一度、王宮の営繕部を呼びまして、離宮中の大時計のメンテナンスしておりまして」


「なるほどね。素人がちょこちょこ開いていたら、埃が入って故障しやすくなるもの。

 普段は、ゼンマイだけさわれるようにしているのね」


 カタリナが感心している。


「んあ? ということは、時計の内部は職人以外は開ける機会がないということか。

 思っていたのと違うな……」


 アルフォンスは肩を落とした。


 柱時計は、アルフォンスが抱えられるかどうかという太さな上、重厚な造り。

 動かすとなったら、大人の男性が二、三人は必要だ。

 王太后なら、従僕達に命じて動かすことはできただろうが、毎年職人が開けるところに隠してどうする、という気もする。


「時計の機構とは別に、隠し場所があるのかもしれないけれど」


 珍しく、カタリナがフォローしてくれる。


 と、ここで従僕が、踏み台を持ってくれた。

 とりあえず、アルフォンスは柱時計の上部をガン見した。


 こまめに掃除しているのか、埃もない。

 不審な点も見当たらなかった。


 アルフォンスとカタリナは、花々をかたどった台座など、隠し場所を作れそうなところを確認したが、やはり隠し場所は見つからなかった。


「んむむむむ……」


「ま、次に行ってみましょ」


 というわけで、一同はぞろぞろと離宮内を彷徨った。


 玄関ホールの大時計は、王都の大神殿にある時計塔を模したもの。

 時計塔は、屋上からは王都を一望できる人気スポットなので、柱時計のてっぺんにも城壁のような飾りが取り付けられている。

 が。空振り。


 正餐室の大時計は、寄木細工の幾何学デザイン。

 パネルのどこかが、ぱかっと外れたりしないだろうかと、色々いじくってみたのだが──

 普通に、空振り。


 王宮の謁見の間のミニミニ版という雰囲気の応接室には、色大理石製の大きな置き時計があった。

 慎重に傾けて、底を見てみる。

 これも空振り。


 古典文学の叢書や百科事典の類がずらりと並ぶ図書室にも、こちらは読書を楽しむ花の精霊達の彫刻で飾られた柱時計があった。

 これも空振り。


「……というか、クロノアの時計はこの離宮にはないのか?

 時の女神なんだし、時計の意匠にちょうどよさそうなのに」


 アルフォンスは、八つ当たり気味にぼやく。


 カタリナは、半笑いした。


「クロノアって、時の糸を紡ぎ続けて腰が曲がったおばあちゃんじゃない。

 そもそも装飾として、あまり好まれないんじゃない?」


「……たし、かに……」


 アルフォンスは、納得せざるを得なかった。

 が、またまたピキーンと閃く。


「じゃあ、クロノアが出てくる神話や古代叙事詩はどうだろう?

 ほら、少年向けの冒険小説なら、特定の文字にだけ印がつけてあって、つなげて読むとメッセージになっているとか、誰も読まない分厚い本の中がくり抜かれていて、隠し場所になっていたりするじゃないか」


 カタリナは首を傾げた。


「誰も読まない本を見栄で並べてる成金貴族の図書室ならとにかく、ここは離宮よ?

 娯楽として古典を読み返す人だって、普通にいるじゃない。

 本をくり抜くのは論外だし、暗号を書き込むのだって、どうかしら」


 結論から言うと、カタリナの言う通りだった。

 早くも万策尽きたアルフォンスは、かくりとうなだれる。


「……殿下。わたくし、王太后様とアデライード殿下の肖像画をもう一度見たいのだけれどよろしいかしら」


 やれやれ顔で、カタリナは言い出した。


「あ、ああ。構わないが……なぜだ?

 ついさっき、見たばかりなのに」


「わたくし、王太后様って、ほとんど存じ上げないのよ。

 子供の頃、ご挨拶した覚えはあるけれど。

 ギアールは、モデルの性格を捉えるのが巧い画家だから、じっくり見たら参考になることもあるんじゃないかと思って」


「……なるほど。じゃあ行ってみるか」


 というわけで、またまた一同はぞろぞろと展示室に向かった。


 アルフォンスは、改めて王太后とアデライードの絵を眺めた。


 場所は、この離宮のサロン。

 寝椅子の右側に王太后が座り、左側にアデライードが座っている。

 王太后はあでやかに微笑んでいるが、アデライードの表情はぼんやりしている。

 背景は、夏の庭。


「なんだか……ヘンだな。

 なんと言ったらいいのか……違和感がある」


 アルフォンスは呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ