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ガキのたわごと

日直

作者: 窯野 四方木
掲載日:2025/10/05

「天使」とは、心の清らかな、優しい人のたとえを指すこともあります。

天使はいる。


 中学校、僕の家から20分かかる場所にある。

玄関を開けて信号が緑になれば渡り、駅で友達を待つJKを横目に開店準備をしているスーパーで涼む。踏切を渡り住宅街を通り過ぎ坂を上ったところにある中学校。定年間際、社会科の先生に媚びを売る挨拶をして教室へ向かう。


 「おはようございます」

生徒が40人ほど入る教室に僕の声が鳴る。鉛筆のキャップが落ちた時ぐらいの音量で。ごぼうのような体つきの、担任の先生一人。教室に僕と先生だけがいる。ひとりぼっちではない。僕にだって友達はいる。日直だからしかたがなかったんだ。僕の学校は日直を二人でするものなので相方を待つ。

 本日の連絡を記入するためのホワイトボード片手に暇を持て余す。

教室が並ぶ廊下を僕は眺めている。人がいない学校は音がよく響く。メトロノームのようにテンポ正しく階段を上る音がする。

音が止まれば始めにつま先、そして頭が見えた。彼女はよくいえばお淑やか。悪くいえば自己主張しない子。

「おはよう。じゃあ…行く?」


 彼女は自席にリュックを置くと僕に駆け寄って言う。僕らは他愛ない会話さえせず、朝の仕事を終わらせる。まあ彼女といるときの利点は口が乾かないこと。このまま彼女の眼の色が茶色なのか黒なのかも知らないまま僕の一日は終わるのだろう。



 「だめ!私が行くの!」

その言葉に僕が驚いた。あんな声出るんだ。僕にしか聞こえない大声で彼女は言う。給食の後、日直はバケツの片づけとプリントを職員室前に取りに行く。僕はバケツを片付けた。そしたら彼女が僕を止めた。曰く、プリントは私が取りに行きたいと。僕は止める気もなかったが彼女は「行っちゃだめだからね!」と、母のように僕に言いつけた。

 僕が何故驚いたのか。それは彼女が大声を出したからでもない。ないにきまっている。そんなことで驚くわけがないだろ。本質は彼女のお人よしさ、優しさ。僕だけに負荷をかけさせまいというだけで大声をだしことだ。そこに驚いたんだ。中学生とは自己中心的であり自分のことでいっぱいなものなのだ。つまり彼女は中学生ではない。あってはならない心の清らかさを持っていた。光の円を描くよう反射する髪と、僕を真剣に見つめる黒い眼。それは僕に可愛いと思わせる洗脳だった。天使が居たんだ。

 天使は廊下を駆け足で飛んで人混みへ消えて行く。天使はいる。ただ死んでも天国にはいけないし、そこに天使は存在しないだろう。

ガキのおもり、お疲れさまでした。

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