第9話「賢者は昔も若かった3」
「くそう。なんでこの世界にいるんだよ……前の世界をせっかく無難にしのぎ切ったって言うのに!!」
賢者ラーカイルこと中村総一郎、愛称ソーちゃんは苛立ち加減で机を叩く。
「転生魔法で逃げた先にもいるなんて……なっんてこった!」
賢者ラーカイルは机をもう一度叩こうとしたが、祖母がそろそろ帰宅する時間なのでグッと堪える。
邪神様と賢者ラーカイルの出会いは前回の邪神討伐まで遡る。
天界からのお小言にも『面倒なことを俺に押し付けてるくせに文句言うな』と、どこ吹く風の様子の邪神様はその時もお気楽な気分で地上を見ていた。……そして逸材を見つける。
「逸材だ……。あの『全く意味のわからないポーズ』! 天才が居る!」
ワナワナと震える邪神様。今までの子達(勇者です)は技名を叫んではいたが、ポーズなどはつけていなかった。
「……呪文詠唱とか……画期的な発明だ!!」
賢者ラーカイルが生み出した呪文は言葉で魔法力を制御し、魔法の成功確率を向上させた。
画期的な発明である。
……まぁ、神々からすると誤差の範疇で意味のない事なのだが。
「発射方向を示すだけでいいのに! あの技で……3回も決めポーズからの……意味のない反り! そしてドヤ顔!! 完璧だ。完璧な天才だ。一度お話ししたい!!!」
ウキウキ・ワクワクの邪神様はそれから彼の行動をチェックし始める。技を見ては呪文やポーズをノートに記録する。無論、1回だけの技もあるのでそれは先史文明が残した記録装置を使い何度も何度も見直し、自分たちのデータとして記録する。芸術に投資は惜しまない。この辺りは高位の神様パワーを本領発揮である。劣化しない黒歴史。プライスレス。
そんなこんなで邪神様が邪神歴の中でも1・2を争うほど楽しんでいた。
そして邪神様が楽しんでいる中、賢者ラーカイルと勇者たちは艱難辛苦を乗り越え(裏で邪神が爆笑&記録していることを知らず)邪神神殿にたどり着く。
「うおおおら!!!!!!!! クソ邪神どこに居やがる!!!!!!」
怒りで真っ赤に染まった賢者ラーカイルが邪神様の寝室に殴り込んできた。
「あ、いらっしゃい。神聖龍神浄化波動術の人」
いい笑顔で賢者ラーカイルを迎える邪神様。
今しがた見ていた先日邪神神殿近くの村を救った動画につられ、邪神様は賢者ラーカイルを決めポーズで迎える。
「!!!!!!」
声にならない声を上げる賢者。
御愁傷様である。
……しかしここで邪神様は賢者ラーカイルの変化に気が付く。
……賢者ラーカイルの小さな変化に気づいた邪神様は、微笑みを浮かべながら言った。
「……あ、完成度低かった? ごめん。心の片隅にあるプライドが邪魔しちゃってやりきれなかったの……」
てへ、と擬音を入れながら邪神様は頭をかく。同時に叩き込まれる賢者ラーカイルの蹴り。
しかしその蹴りを邪神様は華麗にかわす……。そして……。
「はい、そこで決め! さすが賢者ラーカイル!」
なお邪神様、本心である。
「俺ならできない……。攻撃をかわされたのに決まったがごとく振る舞う。……まさに、スタイリッシュ!」
高位神である邪神様、本気のお褒めの言葉である。本来は滂沱の涙を流し平伏するほど大変光栄なことなのだが……。だが、賢者ラーカイルは……。
「お前は殺す! あと、なんだこの神殿は!!!」
「おお、気付いたか! 『一万年は滅びません!』と建築の神が太鼓判! 俺も微力ながら協力(ドヤ顔)の『邪神神殿(ぼそ……賢者ラーカイル記念館)』だ! すばらしいだろう!!」
「おまっ! 邪神神殿の後ろに何かつけてるだろ!! てか、俺たちが神殿に入ったタイミングを見計らって入り口で何か工事してたろ! 馬鹿でかく掲げてた『ようこそ! 邪神神殿』の看板あたりから音がしてたぞ!」
勇者一行は背後の気配を感じつつも、『ただの工事』であることを現場監督のオークとサポートの人間に確認している。……魔物と人間が邪神神殿で工事……ものすごい違和感であったはずだが、勇者と賢者一行は作業員の陰から垣間見られる文字に気を取られていた。
「それよりも……通路に張り出されたあの石板はなんだ!!!!!」
邪神神殿では10m間隔で邪神特製の『秘技ラーカイルのポーズ108選!』が飾られている。
「……108個に絞るのに絞るの大変だった!」
邪神様は胸を張る。
「やっぱりおまえが主犯かーーーーーー!!! てめえがおかしなことするから、石板を拭き掃除してたグレートデーモンに『ファンです。握手してください』ってキラキラした瞳で言われたわ!」
実話である。その後差し出された『賢者ラーカイル、その美技』という雑誌に死んだ目をしながらサインする賢者ラーカイルがいた。
なお、グレートデーモン1体で大陸1つを沈めるという逸話があるほどの、いわゆる『最強クラス』の魔物である。その魔物がこの邪神神殿では100名が勤務している。(注意:魔物さんの本体は別世界におり、アバターでの勤務である)
「しかも、なんだあの魔界飛脚便って! 戦う前に本を丁寧に梱包して送ってたぞ! 『貴重品なのでよろしくお願いします』って丁寧に頭を下げるグレートデーモンって! って!!!!」
「その子、ラッキーだったね!」
「戦いづらいわ!!! 攻撃よりポーズ優先で、しかも私の方をチラチラ気にしながら戦うって、なめとんのか!!!」
邪神様が巻き起こした魔界でのラーカイル人気はガチである。
通常の邪神様付地上のお仕事、戦闘以外暇なダンジョン勤務は人気がなかった。
しかも実体を地上に送るのではなく、仮の体で勤務するとはいえ悪役なのだから気分は良くない。だから本来は人気がないのだが……。この時は違った。
邪神様が人材募集と趣味の共有を目的に魔界で起こした『賢者ラーカイル、その美技』に関するブームのおかげで、最終ダンジョン勤務は大人気となり史上類を見ないほどの倍率になった。
「会うやつ、会うやつ、全員がサイン求めてきやがって!!」
賢者ラーカイルは知らない。
彼らは別な意味で待ち構えていたことを。
そして先ほどのグレートデーモンのような好意を隠さない者も居れば、きちんと悪役をこなすものもいた(もちろん、事前に握手とサインはデフォ。本日邪神神殿勤務の飛脚さん、大忙しである)。
「見ろ! オークに豚汁を振舞われた勇者の姿を!」
聖剣を見つめながら『豚汁美味しかった。美味しかった。……オークが作ってるのに……ブタさんと親戚じゃないの? 表情がお母さんみたいだったよ……私、ここに何しにきたんだろう……』と独り言をブツブツと呟いていた。
なお、オークさんとは食事の片付けを終わらせて戦った。
最強のゴットオークだったらしくめちゃくちゃな強さだったとか……。
「ああ、料理上手の小梅さんね。塩っ気の強い携帯食料しか食べてない君たちの健康を心配してたんだよね……彼女。豚汁の他にもいろいろ田舎料理出ていたでしょw」
「小梅さん!? 意外と可愛らしい名前! そして、お母さん? むしろおばあちゃん???」
「敵の健康を心配するな! 徹して悪役!!」
邪神様は納得するように何度も頷いている。
賢者ラーカイルはツッコミを入れる。
そして孤児で家族の愛を知らずに育った勇者エミルは『おばあちゃん……』と呟いて、儚げな笑顔である。
つい申し訳ない気持ちなった邪神様は『現世に来てるのは仮の体だから気にしなくていいよ』と勇者をなだめる。『そのネタバレ、1人目で聞いたわ!!!』と賢者ラーカイルが突っ込みをいれる伝統芸であった。混乱の極みである。
「……」
「……」
真面目に向き直る賢者ラーカイル。つられて邪神様も真面目に相対する。
「……お前の目的は何だ?」
「……賢者ラーカイルのポーズ、その収集だ!!!」
『もうここまでんバレたのであれば開き直りだ!』とばかりに胸を張る邪神様。その表情は誇らし気である。
「この糞邪神が!!!!!!!! 喰らえ、究極魔法!!! 『暗き闇より這い出でよ! 正義と悪を飲み込む原初の炎!!』 黒炎!!!」
「あ、ほい。ねぇねぇ、今の動画とった? 新作だよね? やった!」
賢者ラーカイルが編み出した対邪神様用の秘術、渾身の魔法は邪神様にまるで緩く投げつけられたボールのように軽く受け止められた。そして邪神様は部屋の端に控えていた『魔人の女性』に嬉々として声をかける。
「……はい。邪神様♪」
なお、魔人の女性は黒髪ストレートの清楚な雰囲気を持つ人である。
そして邪神様に向ける笑顔は恋する乙女のそれであった。
……残念なことに『賢者ラーカイル、一目惚れ』の瞬間であった。
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