第5話「少年と駄菓子と賢者2」
「……詐欺だ」
魔王はスマホ片手にゲームのウィキからその事実を発見し、そして邪神様の公式サイトを覗く。未だ定期的にゲーム制作に参加しているらしくファンも多い様子。
「俺の信者たちは皆、忠誠心凄いぞー」
「その前に、この性別詐称はなんですか?」
邪神は魔王の質問をスルーして店員さんを呼びパフェを注文する。
「…………誤魔化すために追加注文とか……卑怯な」
「でねでね! この中継を 野党→ヒロイン&王子様、与党→悪役令嬢、総理→王様で変換してみてみ」
魔王は渋々脳内変換しながらタブレットを見る。
======シーン1開始======
野党『この場で不正に関する質問をします!』
王子『この場において婚約破棄を宣言する!』
======シーン1終了======
魔王の脳内で……納得できないが、正しく変換されてしまった。
王子2名を残して早くに亡くなった王の身代わりとして、人間の友人に頼まれ『王子が成人するまでと言う約束で国を統治していた』あの頃の記憶を……魔王は思い出していた。
魔王が歴代魔王たちの所業同様に国を乗っ取り、政治を正し、民衆を富まし、人々を幸せにすることに粉骨砕身していたあの頃……長男が16歳となり本格的に国王としての教育を始めたあの頃……。
国王主催のパーティーの席であった。
長男とその婚約者が問題を起こした。
長男の婚約者……美人で気立ても良く、権力の動きにも機敏に反応する。
まさに才色兼備、非の打ち所のない美女。
そう、ゲームで登場する『悪役令嬢』である。
そしてその『悪役令嬢』は『国一番の権力を持つ』公爵家の長女だった。
公爵は先代の国王の弟である。
先代国王死去時『既に高齢であり執務に耐えられない』という建前で、本音は『遅くにできた娘を溺愛したい!! 国政などに消費する時間などない!』という欲求から友人である魔族、つまり魔王を頼り、兄王の死を無かったことにした張本人である。
王子が無礼を働けば誰であろうと簡単に打ち首にできるだけの権力基盤を持った稀代の政治家、そう……公爵である。
要約すると『危ない人』である。
そして公爵令嬢はその公爵が『目に入れても痛くない』と公言してやまない愛娘である。
……さてその前提で見てみよう。※()の中身は当時の魔王の心境
======シーン2「冤罪は突然に」開始======
野党『不正の責任をどうとるというのですか!』
王子『公爵令嬢の目に余る愚行と、殺人未遂まで起こして王家に連なる者としてあるまじき振る舞い。さぁどのように責任を取ってもらおう!』
(えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! まって、公爵の青筋がやばい! 気付け息子よ! うしろ! うしろ!!!!!)
======シーン2「冤罪は突然に」終了======
魔王は甘ったるいコーヒーを流し込む……温かく体にしみわたる。
熱と同時に口の中から広まる甘さが魔王に辛うじて叫び出すことを思いとどまらせる。
======シーン3「なかったことは証明できなかろう!!」開始======
与党大臣『不正とは何でしょうか? そもそもその不正を立証する証拠はお持ちでしょうか』
公爵令嬢『はて? 何のことでしょうか? 私には心当たりがございません』
(レスバしないで! お父さんを見て! それで終了!! いやさ、最近お父さんがうざいとか思っている思春期なのは知ってるけどさ!)
======シーン3「なかったことは証明できなかろう!!」終了======
周りも『政変で起こるであろうおこぼれを~』とか『ここでどちらにつくかで今後の発展を~』とか思惑が入り混じっており、魔王的に『居ずらかったな……』と魔王は遠い目になる。
同時に『俺、王様だったのに舐められすぎ』とか苦笑いしてしまう。
再度口に入れた甘いコーヒーが魔王にとって少しほろ苦く感じる。
======シーン4「偽の証拠は十分にある!」開始======
野党『この内部文書を見てもしらを切られるのでしょうか! 告発してくれた善良な職員(決めつけ)を信じられないとでもいうのでしょうか!(大臣ではなくカメラ目線)』
王子『被害者である男爵令嬢がそう言っておるのだ! それ以上の証拠はあるまい(決めつけ)! あの純情な娘が嘘を突くとでも思うか? 皆もそう思うであろう!(空気の読めないアピール)』
(息子! うしろ! うしろ! 公爵の目の色が変わったよ! あと、皆が目をそらして引いてるのにも気付いて! ぷりーーーず!)
======シーン4「偽の証拠は十分にある!」終了======
あの時真っ直ぐ魔王に向けられた公爵の視線を思い出し、背中を伝う寒気を思い出し思わず震える魔王。
魔王は思う『コーヒーで体を温めたい。切実に……』と。
コーヒーのおかわりで現実逃避した魔王に非はない。
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