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第2話「邪神と魔王は虐待に抗議します2」

---男(邪神)の回想:はじまり---


 その日も男(邪神)の朝は今日のように優雅な朝だった。しかしそんな優雅な朝に異変が起こった。

 突然空が眩い光に覆われる。一瞬の事であった。

 男(邪神)はまぶしさのあまりに目を閉じる。

 やがて光が収まり目を開くと男(邪神)の視界には白い翼を生やした20歳位の西洋系美女が、あろうことか天空から降りて来たのだ。

 なお、おパンツ丸見えである。


「お迎えに上がりました」

 ニコリとほほ笑んで天使は彼に手を伸ばす。

 まるでそれは中世の絵画のような光景であり、まさに神々しい光景である。


「すみませーーーーん! 痴女が侵入しました!! 変質者です! おっさんの肌を視ながら息が荒いです! 貞操の危機を感じます!!」

「いえ、あの……ちがいま「たーーーーーすーーーーーけーーーてーーーー!」」

 響きわたるいい歳をした男(邪神)の悲鳴。

 その彼の悲鳴を聞きつけてすぐさま露天風呂の扉が開かれる!

 まるでスタンバイしていたようなタイミングで現れたのは、掃除用のブラシを掴んだ高校生ぐらいの少女である。


「天野さん、大丈夫ですか! 痴女ですね! 貴女! わかります! 天野さんのその肉体美を見ていたいのは! 引き締まった肉体美は剥製にして飾っておきたいです! ですが!」

 少女の発言がきな臭い。そして若干犯行を自供しているような台詞である。

 しかし、そんなことは意に介せず少女はブラシを天使に向けて決め台詞のように叫ぶ。


「痴漢・痴女は犯罪です!」

 突然の剣幕に天使は鼻白むも。

 しかし天使は相手が『ただの人間』であることを確認すると種族間に存在する『圧倒的な力の差』を行使し、このうるさい少女を眠らせてしまおうとした。


 ……だが、できなかった。


『天使風情が……この邪神様の前で何かできるとでも思ったのか?』

 魔法で天使にのみ声を伝える男(邪神)。


「じゃ、不審者として、事情聴取されてきてくださーい♪ 大丈夫、警察署に着いたら力が戻るようにしておいたから……多分♪」

 男(邪神)は天界にも帰れなくなった涙目の天使に手を振る。

 しかしそれは同時に少女にも向かっていたので、少女は一気に赤面しながら『理想の筋肉スマイル! ゴチです!』と叫び天使を連行していった。


---男(邪神)回想:終わり---


 『そんな事もあったなぁ』と息を吐く男(邪神)の名は天野隆。28歳。小さいながらも会社経営者。という建前の人物である。

 本当のことを言うと男(邪神)には名前はない。ただ人々からこう呼ばれていた『邪神』……と。


「今はそんな大層な名前などいらないけどね」と彼は本気で思っている。

「また来ましたね。まったく彼らは懲りない。…………はふぅ…………朝風呂は最高ですなー」

 それまで完全に気配を消していたもう一人の男(魔王)がたまらずこのような台詞をこぼす。

 その男(魔王)は流れるような美しい金髪を持ち、行動を阻害しないレベルで膨らんだ筋肉を備えられていた。そして肌のそこかしこに残された古傷は歴戦の戦士のような威圧感を感じさせる。そんな肉体の上に綺麗に整った西洋系の顔が鎮座したイケメンである。


 彼の名前はジャン・ポール。天野の会社の役員。……というの建前である。

 本当の名前はギルガルス。異世界で魔王をしていた男である。

 彼の魔拳は勇者たちを震撼させ……る予定だった。勇猛果敢な近接系魔王……のはずであった。

 ちなみに天野は引き締まった筋肉である為、服を着ると普通の男だ。いわゆる細マッチョと言う奴だ。

 天野は黒目・黒髪の目立つところのない日本男児である。

 平凡すぎて大都市に出ると『迷彩か!』と突っ込みたくなるほどの凡庸さだ。

 なお先ほどの少女は『細マッチョ』がツボだったようであった。

 先ほどの少女は清野 あかり。16歳の熱血少女である。

 部活は『実家のお手伝いがあるからやらない』と公言している為、『家族思いの美少女、萌え!』と一部男子に人気の少女である。


「ところで、邪神様」

「ここでは、天野社長な」

「わかりました、シャッチョーさん」

 天野は即座にジャンの顔を温泉に沈める。


「悪意しか感じないのだが、聞き違いだよね?」

「悪意ですか? 私は社長を敬愛していますので、そのような輩は許せませんね」

 あははははは。とわざとらしい笑いが露天風呂を支配する。 


「……本気で反省してみる?」

「大変申し訳ございません。お許しください」

 自発的に温泉に顔を浸けるジャン。


「仕方ないな。今回だけだぞ」

「邪神様! さすが! …………チョロイン」

 天野は思わず『別空間にいる彼の本体』へダイレクトアタック!


「おう、ちーとばっかしイケメンの分身引いたからってお気軽発言だな。魔王ごときが。あ゛ぁ゛?」

「すみません。マジすみません。削れました。本体の腕一本消えてなくなっちゃいました」

 天野は魔王本体の傷口に優しく辛子を塗り込むと満足げに頷く。


「ひどい! 鬼! 悪魔! あ、この人邪神だった……」

「お前も魔王なのに酷い人の例えに同僚の種族名出すなよ……」

 天野はこの残念な部下を宥めながら露天風呂から上がり、食堂へ向かう。


 彼らがこの宿に厄介になってもう2ヵ月が経過している。

 食堂ではジャンは朝食を、天野はお茶をいただきつつゆっくりと朝を楽しむ。


 天野がゆっくりと玄関へと視線を見ると、ブラシ少女こと灯が制服に着替えてパタパタパタと駆けて行った。天使を痴女として警察に突き出して満面の笑みだった彼女は遅刻ギリギリの様子だ。


「……リアルはパンを咥えてない…………」

「おい、家の妹はそんなにしつけが悪いバカ女みたいにいうな! 成績が悪いがマナーまで悪くはない!」

 いつの間にか天野たちのテーブル横に現れた宿の主人、清野 ただしが先月灯からプレゼントされた猫のエプロンを脱ぎながら邪神に文句を言う。結構な剣幕である。


「シスコン!」

「ちがう!」

 天野にツッコミを入れる正。


「ロリコン!」

「おし! その喧嘩買った!」

 どこからか取り出した『聖剣』を担ぎ正(勇者)はジャン(魔王)に詰め寄る。


「こわーい、この宿の主人は刃物で客を脅す! ツイッ〇ーに上げ………」

「おーん? 最近の携帯は爆発機能付きなのか。恐ろしいな………」

 聖剣がスマホを貫いていた。


「てか、お前ら自発的に封印されに来たくせに寛ぎすぎじゃね?」

「ふっ、宿代は割増しで払っている。割増し分は封印サービスという契約だったはずだが?」

「わが社前年度成長率500%の超成長企業だからな! この宿買い上げる程度直ぐに出せるぞ?」

 正(勇者)の飽きれのようなつぶやきに『魔王』ジャンと『邪神』天野が正直に返す。


 そう『邪神』と『魔王』はだいたい二十年前から日本にいた。

 なぜ『邪神』と『魔王』が日本に居るのか?

 それは彼らの『役職』を説明することから始めなければならない。


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