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第19話「ペットのしつけについて」

「あー、つかれたーーー」

 机に体を投げ出して全力で脱力する畑中。それを大臣と勇者正が呆れた視線を向けている。


「畑中くん。我々しか居ないとはいえ、それはいかがなものか?」

「……大臣、失礼いたしました。でも面倒ごとにまんまと突破口ができたのですよ。今ぐらい良いではないですか」

「まぁ、それもそうか」

「『突破口』……ですか?」

 勇者正だけが蚊帳の外であった。


「ああ、保身に走って仲間割れってやつだね。政府側は利権。先輩から脈々と続く業務に関わる利権だね。このままいけば特殊情報系の利権は安泰だった連中なのだけどもね。感情に任せた失言と正義の神の言動で大きく揺らいじゃったね」

 ケタケタと笑う畑中。


「利権ですか?」

「そう業界利権だね。業愛の法・制度の変更時に政府側との伝手が、とか大きな企業ほど重要になってくるのよ。大企業ほど動きが重いからね。気づいたら対応漏れで大きな罰金とか社会的な批判とか受けちゃうと企業イメージとか単純な損失とかも大きいのよ。組織が大きいとね。そしてその業界で専門家として主導的な立場を確保してきた企業ってのが、分家の長の企業よ。特に君の両親が命をかけて守った界隈に対して同門というだけで、本家が動けないことを良いことに、ぶくぶく声太っていたのよ」

 畑中は『どうしようもないよねー』とか笑っている。


「だが、動けぬ状況になった勇者本家が回復する余裕も当時はなかったのだよ。申し訳ないがな。インターネットが普及してボーダーレスに魔法や呪術・法術など伝統異能による攻撃が活発化してきた時代、新手の攻撃に対応できなければ1会社だけではなく日本社会自体が危うかったのだ。……まぁ、その危ういことを勇者本家にのみ頼り切っていた体制も問題だったのだがな……」

「仕方ないっすよ。インターネット普及と同時期に世界的に類をみない不景気だったのですから、お国は」

「政治と政府の失策だったのだ。それを今取り返そうとしていたのに、雨野の子悪党が……」

 憎々しげに吐き捨てる大臣。その話なら聞いていた勇者正。急速に高度かつ高速化した特殊情報攻撃(異能による攻撃)、異能ネットワーク戦争ともいわれたそれに日本は当時、勇者一門の対応のみに頼りとしていた。


 しかし時代は必要な事業にも予算を削減していた時代。

 民衆の状況など出され、人件費の安い他国の例など出され、徐々に勇者一門が預かっていた予算も減らされていった。しかし防衛には費用がかかる。特にネットワーク越しの戦争であれば必要となるシステムに関する知識も必要となり、人材育成も課題とされていた。そこを一括で解決したのが勇者正の両親、先代勇者である。

 若い頃より海外との異能に関する交流があった勇者正の両親は日本では早い段階でネットワーク異能防御システムを開発、販売をしていた。財力と技術者。民間である勇者一門の裏の活躍により、日本は首の皮一枚のところで守られていた。


 そこで10年前の大規模攻撃である。

 勇者正の両親の戦死の代わりに、相手国の5虎天と呼ばれていた有力異能者のうち4名と、隠されていた日本国内の拠点と相手国内の攻撃拠点が破壊された。

 有力者が大半死んだ相手国も国内調整があり攻撃を仕掛けられなかったが、他の国は違う。勝手に相打ちになった両国。特に有力異能者が少なかった日本は、腹を減らした肉食獣たちの前で裸で立ちすくむ草食獣、ような状況にあった。

 そこで動いたのは分家の長『雨野 大地』。彼は特殊情報系への予算見直しに当たって、勇者正の両親が残した人材・組織をまとめることで政府に食い込み、『特殊情報攻撃を防衛するのには不当に低い予算』だと再評価していた当時の政府からこれまで分を含め多くの金を得た。

 しかし分家の長『雨野 大地』の行動は時流に乗った行動とは言え、勇者家当主という防衛の大黒柱を失った日本国にとって大きな助けになったことも事実だった。

 増長し、勇者本家を蔑ろにしようとさえしなければ。

 社会情勢もあり、分家の長『雨野 大地』の優秀な手腕で立ったの数年で省益、天下り先の斡旋など官僚機構への浸透が行われた。大臣や畑野が送り込まれたのは勇者家の分家が、あからさまに勇者本家を蔑ろにしている状況が顕著になってからだ。

 本来勇者本家のお役目は過去より封印されてきた『獣の封印の維持』である。本来特殊情報攻撃は畑違いだった。


「で、どう動くのですか?」

 悪い親父どもを前に今後の展開が読めない勇者正。


「まず政府側は『いつも通り、言い掛かりで勇者を叱責』したよね。これに珍しいことに『大臣が厳しい叱責を、しかも陛下の言葉を持って返した』ということが起こった。自分の利益や組織の利益を考えて行動する彼らだけど、大臣は一応上の存在なのよ。これだけだったら『所詮政治家、数年待てばいなくなる。またはスキャンダル流せばすぐいなくなる』とか感あげていたはずなのよ。でもさ正義の神の言葉があった。『勇者本家は素晴らしいが周りのお前ら失格』とかいわれちゃったのよ。この言葉って内閣の方でも共有される。さらには大臣からも報告が上がるのよ。さぁ彼らの人事はどうなるかな? 心を入れ替えるのか、これまでのキャリアを入れ替えられるのか。2択になるよね。それに気づかなければもっと……あ、そこら辺は補佐官殿が仕込んでくれていたんですよね。お疲れ様です」

 畑中の言葉に頷きだけ返す補佐官。


「で、勇者分家だけどね。彼らが力を握っていたのは政府との繋がりが強いってことで多数派を形成できていたのよ。でもさ、さっき説明した通り、繋がりの先がこれからも……なんてことはなくなっちゃったのよ。それに気づかず動き続けるのか? そんな間抜けは多くないかな「そこは畑中くんが先ほど仕込んでいたね」……そそ、自分頑張りましたよ。結構門外漢でアゥエーですよ。ここ」

 笑い合う畑中と大臣。


「……というわけで正義の神様様ってやつだよ。この5年何度も米国には安全保障上の協力としてお願いしてきたのだけどもね『神の行動を人が指図できません』とか真っ当な回答しか返ってこなかったのだけども、つい先日手の平くるりで積極的に来るって言い出してね。その辺りの調整も大変だった……」

「正義の神は本当にありがたいお方だ」

 ストレスにストレスを重ねてきたおっさん2名は頷きあう。

 そして勇者正はその2名より正確に状況を理解した。


(邪神か……)

 状況は変わった。劇的に方針は変わる。悪いおじさん2名がこれから憂さ晴らしばりに暴れ回るだろう。

 しかし現場への反映はすぐに波及しない。

 まだ一波乱、勇者正を待っている。

 しかしこの時勇者正はそのことを察することはできなかった。

 煩わしい親戚付き合いが改善する。その事だけしか理解はできていなかったのだ。


ーーー勇者正を見送った畑中はたなか まさる

「……これは獣神様ではありませんか」

「……ん。まーちゃん、他人行儀」

 畑中が獣神様と呼ぶと少しさみそうにしたウサ耳の美女。

 不思議なことにウサ耳の美女が人の多い空港にいれば一騒動あるはずなのだが、人々は獣神様を認識できていないのか注目することなく通り過ぎていく。


「いや、おっさんとしては……まぁ、そんな仲でもないか」

「そそ、まーちゃんは旦那様の先輩で上司。あとまだあっちとの繋がりもあるし、仲間」

「もう、うっすらしか力はないよ……」

 自分の手のひらに視線を落とし寂しげな畑中。


「私よりは、うちの奥さんの方が凄いよ?」

「あれは異常。もう亜神クラス」

 笑い合う二人。


「……そうだね。万が一があったらうちの奥さんに出てきてもらえば良いか……それを言いにきたの?」

「……ん。なんか悩んでるみたいだから」

 という獣神様の両手には空港土産が握られている。


「……そうか、ありがとうウッサ」

「まかせて」

 思わず吹き出した畑中と出会った頃の引っ込み思案はどこに消えてしまったのか堂々としている獣神様。手助けできることが少ない勇者正の今後の苦難を、乗り越えてくれることを願いながら帰途につく。


「車乗ってく? 送るよ」

「助かる。旦那様は残業中なので会社まで」

「目的地は一緒かw」


ーーーたまと魔王と邪神様

「にゃ」

「……ぐぬぬ」

 封印温泉のアイドルたまを前に何やら唸る邪神様。


「ち○ーるでは足りぬと……」

「面倒です。強行手段を取りましょう」

 交渉しているらしい邪神様。そして痺れを切らした魔王。


「いかん、風呂に入れてその後乾かす。その間中暴れられてはたまらん。たまだけに」

「……にゃ」

「ちょっ、なんで条件上がってるの? きびしくない?」

 勇者正が不在のこの期間にたまのお風呂が必要となった不運。


「正がいないのであれば家業が大変だろう。お兄さんたちにまかせろ」

 変な見えを張ってしまった邪神様。

 その巻き添えの魔王様でした。


「一度俺のテクニックを味わってみろ。お風呂をねだるようになるぞ!」

 魔王は邪神様の言動が周りに漏れないか不安な夜だった。


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