第14話「誘拐犯を救出する勇者の伝説2」
勇者正「あ……」
正義の神「ああ……」
魔王「かわいそうに……」
突然発生した12本の光の柱に勇者正、正義の神、魔王と反応した。
勇者正「あそこには心当たりがあります。とりあえず急ぎましょう!」
正義の神「うむ。面白そうな予感がする」
魔王「いや~、誘拐犯の魂が無事だとよいのですがね……」
12本の光の柱が発生したのは一瞬であった。
しかし正確に光の発生元を確認した3人は光の下へ向かうのだった。
◆◇◆◇◆
「はい。全員正座ね」
邪神様の前で12人の天使が正座している。
邪神様、おこである。
ちなみにこの天使たちは誘拐犯である……とある宗教組織の特殊部隊が崇める神に仕える天使たちである。
天使たちの登場シーンは格好良かった。
だが先ほどの邪神様の発言でシュンとして縮こまっている。
そして誘拐犯たちは困惑していた。
突然立ち会ってしまった『有名な宗教画のような光景』に驚愕している誘拐犯たち。
彼らは自分たちの立場やターゲットの子供が発する不思議なプレッシャーを忘れ、ただの敬虔な信者として祈りをささげていた。
しかし、すぐにその光景は変化した。
……天使たちが小さくなって正座を開始したからだ。
「5分。みんなが静かになるまで5分かかりました……」
縄で縛られ転がされた格好のまま避難訓練時の校長先生みたいなことを言い出す邪神様。
そもそも緊急招集なのに5分で対応できた天使たちの対応は素晴らしい事であるのだが……。
しかし邪神様、天使たちにそんな正論を口に出すことが許されないほどの格上な存在なのであった。
縄で縛られ転がされているけど。
天使たちは申し訳なさそうに、縄で縛られ転がされた状態でプリプリとお怒りの邪神様の様子をうかがっていた。
「皆さんを呼んだ理由、わかりますか?」
「……終末開始のお知らせでしょうか?」
『人類滅亡スイッチ』を押されてしまったのかとビクビクする天使たち。
邪神様には人類は滅亡させる権利を持っている。
それは邪神という重たい役職を担った神への特権である。
さらに前回一度人類を滅亡させた実績のある邪神様だ。周りが恐る恐るになるのは致し方がないことだ。
だが、邪神様的にその時はどちらかと言うと『うっかり案件』であった。
ゆえに邪神様は自身の『うっかり』に気づいた後すぐに責任を取った。
しかし今回は邪神様のうっかりではなく、分身とはいえ高位神を『縄で縛られ転がされている』という最上級の不敬案件が明確に起こしてしまっている。
責任があるのはこの世界だ。滅ぼされても致し方なし案件である。
その為今回の人類は滅亡させられた場合は、この世界に関わる神々が多大なる労力と時間をかけ知的生命体を一から作り直さなければならなくなる。
それはいかに超常の存在である神や天使たちとはいえ大変な労力がかかるのであった。
「……君たちは何もわかっていない……」
どうやら天使たちは謝罪に失敗してしまったようだ。
即座に状況を察知して土下座の姿勢で謝罪を表明する天使一同に絶望の空気が流れる。
「君たちは……彼らにどんな指導をしたのかね?」
天使たちの後ろで、天使たちに倣い土下座の真似事をしていた誘拐犯たちに矛先が向く。
この雰囲気の中で矛先を向かれて生きた心地のしない誘拐犯たち。
「……神託では我が神が、厳重に、重ねるように、しっかりと『無礼がないように』と伝えております……。いえ、無礼があったことを否定するのではなく……。本当に申し開きもなく……。本来であれば先に我らが御許に降臨しお話しすべきなのが筋なのですが……。邪神様ほどお方の前で偉そうに降臨など……。我ら、さほど力も権能も持たぬ矮小な存在故……」
天使代表者しどろもどろになりながら涙目である。
『無礼がないように』とか誘拐犯たちも聞いていた話と違うと若干涙目である。
それに対し邪神様、大きくため息は吐き出す。
「……わかってない。君たちにはがっかりだよ……。問題はそこじゃない……」
答えは教えない。考えればわかることであり、彼らが『自力で辿り着かねばならないのだ』と邪神様がビジネス対応。
「……」
天使たちは縄で縛られ転がされた格好の邪神様から受けるプレッシャーに耐えきれず視線を落とし地面を見つめる。
その様子に社会人でもある邪神様は『これ、パワーハラスメントでは無い』と心の中で言い訳をする。
そして同時に思う『こいつらにちゃんとお説教する前に勇者が来ちゃうかも……』とも……世界の存亡より『おかず一品の存亡』の方が大事な邪神様である。
邪神様はしょうがないので答えを言うことにした。
「お前らラーカイル式魔術を舐めてるのか……」
誘拐犯たちはポカーンと口を開ける。
「いや……誤魔化さなくて良い……彼らの魔術から半端なラーカイル式が見えた……私は悲しいよ……」
「いや、これ神聖術「魔術な」……いや、オリジナルの神聖術「魔術な」……」
思わず反論してしまう誘拐犯。
それをハラハラとした表情で見ながら激しく首を横に振る天使の代表。やがて堪らず……。
「……不格好な魔術にてございます」
天使の代表が割って入った。
「だよな……ラーカイル式魔術ってさ一時期私が流行させたけどさ、一部の不届きものがね……適当なコピーしてさ、上辺だけ……。真似るなら本質も真似ろ! とね……つい世界を破壊するぐらい怒っちゃってさ……真似はいいけどリスペクトなくてね……しかも一部の奴らはコピーなのにオリジナルを語るしさぁ」
「ははは……それは酷い「君たちに感じている怒りのことだが?」」
下げた頭が上がらない一同。
「……どうすればよいと思う?」
恐縮しまくりの一同に縄で縛られ転がされたままの邪神様が助け舟を投げる。
「……し、神聖術「魔術な」……の至らぬ点、かっ改善いたします」
「……お怒りをお納めいただけるならいかようにも……」
相変わらず自分たちの秘術を神聖術……と言おうとした誘拐犯と覚悟の決まった天使。
そして邪神様は、彼らの態度から一つ覚悟を決める……そう『徹底的にやろう……』と。
◆◇◆◇◆
勇者正と正義の神と魔王は邪神様を誘拐した宗教組織の拠点前に到着していた。
「……はぁ、見学ですか……」
「はい。久しぶりに礼拝堂を見せていただけないかな……と」
常識人勇者正が交渉しているが「見たい」「……いや……」という押し問答が20分ほど続いていた。
「……勇者よ。もうよい……」
業を煮やして正義の神が前に出ると一瞬の光が走る。
正義の神「……案内してくれ」
神官「……はい」
虚ろな目になった神官が礼拝堂に歩いてゆく。
勇者正「……戻るんだよな……」
正義の神「私には昼飯が……13時からの予定があるのだ!!!」
何とも言えない空気のまま一行は奥へ進み、控室のような部屋で神官はテーブルを動かす。そして何の
違和感もない床を3回たたく。
魔王「……ん、床が浮いた……中から光も漏れてきた」
ワクワクし始めた3人。神官は慣れた手つきで床をはがすとそこには地下へ通じる階段が現れた。
「……違う! 何度言えばわかる! 魂を込めろ! はい、もう一回!」
それと同時に邪神様の怒声が響いた。
勇者正「……何やってんだあの邪神」
正義の神「……あーもう手遅れだ。腹減ったな……帰ろう!」
魔王「……駄菓子屋に残った賢者と幻影邪神くんと一緒にお昼ご飯食べたい……」
勇者正と正義の神と魔王は、やる気満々で魔術指導をしている邪神様を発見するとやる気を失った。
でも一応扉を開く。
扉を開くと声だけではなく姿も確認できた。
地下神殿は太陽光を間接的に取り込む仕組みになっており明るい。その中で天使12名と誘拐犯4名が、いわゆる『ジョジョ立ち』をしていた。その表情は真剣である。
「「「……」」」
扉を閉めた。3人は見なかったことにしたかった。
「はーい。いったん休憩。水分補給はしっかりするように。パフォーマンス落ちたらやり直しだよ! そこのお前! 腹から声出せ! 詠唱舐めてんのか!「呪文だよな? 歌じゃないよな? 勇者正」 そしてそこのお前、振付に恥じらいを感じさせるな!魔術やる気ないなら帰れ!!「魔法に振付けって必要だっけ?正義の神」 よし休憩終わり! 掛け声から行くぞ!」
「「「「Yes! スタイリッシュ!!」」」」
勇者正「手遅れだったな……」
正義の神「……やっぱり帰って昼めし食うわ」
魔王「……またやらかしましたね……えっとこの宗教の管轄神は……」
その後何時ものようにどこから現れたのか勇者正が風呂桶(聖剣)で邪神様の暴走を止め事態を収拾した。
そして正義の神に引きずられながら去っていく邪神様を見つめる天使12名と誘拐犯4名。若干の名残惜しさを彼らに視線から感じて魔王と勇者正は『邪神による魂への干渉』が完了していることを理解した。
「もう、無理ですね。彼らはこれから一生中二病患者として病と付き合っていかねばならなくなりました。魔王である私の矮小な力では邪神様のお力に対抗できず……手の施しようがありません……己の無力さを感じずにはいられません……」
「……人類滅亡を選ばれなかっただけよかった……か。……勇者業って好きじゃないんだよな……」
後日、誘拐犯たちは『神聖術を次の段階へ! 神の御業に触れよ!』と言いながらその宗教内部に一大勢力を築き上げ、宗教幹部たちの頭痛の種となるのであった。
また神託を下した神も菓子折り片手に邪神様へ謝罪に来たとか……。
「これにて解決!」
勇者正は残された影響を見ないことにして強引に幕を引いたのだった……。




