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第11話「正義の神!2」

「でさ! 言ってやったのよ!! 正義は必ず勝つ!! って、そしたら【その台詞パクりですよね】とか! 空気読まねーのよ……最近の若者はこれだから……。ちょっと、聞いてる邪神君!!」

 昼時。町の定食屋である。

 魔王に仕事を任せた邪神は目の前の、ハリウッドスター顔負けの筋肉質な白人イケメンに絡まれていた。

 いわゆる接待である。

 しかしそのでかい声と意味が分からない内容に客もドン引きである。

 入店したのがピークが過ぎた13時過ぎなので営業に支障ない様だが……店主があきれられている。都度都度邪神様が店主に『申し訳ない』とばかりに頭を下げている。


「もうね。俺の選ぶ勇者に対してさ『筋肉ゴリラじゃ無理です(笑)』とか『おっさん好きなんですね(爆)』とかいいやがんだよ! しまいにゃ最近は『おっさん同士も尊いです』とかよ、意味わかんねーよ! ……おかしいな。おっさんのほうが経験値上だし、授けた勇者の力とかうまく使えるのにな……」

「正義の……声でかいよ。抑えて押さえて……でも確かに経験のない力はあぶないよねー。俺も封印された後、討伐用に与えられた力で世界で一波乱あるんじゃないかと毎度心配してるよ」

 邪神様の合いの手に、白人イケメン正義の神は満開の笑顔をほころばせる。そしてバシバシと邪神様の肩を叩く。


「だよねー。やっぱ邪神ちゃん話がわかる! 分別のつかねー子供に力を持たせるとあっちゅう間に犯罪に走るからな!」

「そうだ! そうだ!」

 邪神はちらちらと店主を見つつ『そろそろ個室居酒屋に移動しようかな~』とか考え始めながらも、過去に勇者の身体能力を使って私欲に走った女勇者を思い出した。

 『世の中の乙女は全て、私のものだ!!』と言って憚らなかった彼女。最終的に魔人族の女性に一目惚れをし、魔界にまでストーカー……ではなく追いかけて行った。そして、女勇者が粘り勝ちをした。なお追いかける過程で人間から神人に進化し、魔人族の彼女と同じ程度の寿命を得ていた。

 邪神様は思った。『ご都合主義』だなと……。


 きっとどこかの神が面白がって女勇者を支援したのだろう。

 邪神様はその事実を察しながらも見なかったことにした。うん、そうした。

 なによりさきほどから『おっさん』を信じ切っている友人にこの話をすると『やっぱり若い奴は~』とか『やはり女は~』とか言い始めて面倒くさくなりそうなのだからだ。

 邪神様はそっとこのエピソードを胸の中にしまった。


 邪神様はどこでどうひねくれてしまったかわからない友人の話を聞く。

『娘と嫁に抑圧でもされていたのだろうか……俺、独身で良かった』とか思う邪神様。

 そして邪神様は友人の話を聞きながら思う『年齢じゃなくて、本人の資質だろう』と。

 でもそれを指摘すると『割合』の話になり面倒くさそうだ。確かに失敗する確率は経験値が溜まっているおっさんが一番低い……でも……とかいうと面倒な話になりそうなので邪神様は『黙る』という大人の力を見せつけた。


「でさ、やっぱ筋肉じゃね?」

「おうさ、筋肉サイコーだな」

 話が迷走しているようだ。一方邪神様は熱燗のお代わりをもらい、適当な相槌を打つ。そしてざるそばをすする。


「わかる!? やっぱ邪神ちゃんは親友だな!!」

 友人から親友に格上げされる。邪神様は少し遠慮したかった。


「筋肉があれば大抵解決! 何より年齢いって筋肉が少なくなると生活もきつくなるぜ!」

「うんうん」

 『このお蕎麦屋さん。うまい! 侮りがたし!』と邪神様は心の中で唸る。


「でもよ。邪神ちゃん。最近は細マッチョとか流行ってるらしいんだよ……」

 筋肉がつきやすい体質とつきづらい体質がある。

 どちらかというと魔王が前者で、邪神様が後者である。

 ……あくまで分体の話だが。


「てか、邪神ちゃん細マッチョじゃん!! この裏切り者!!」

「……正義の……。お前何か勘違いしていないか?」

「ん? え?」

 邪神様の迫力にチャラ……軽い感じの正義の神様が黙る。


「つけたくてもつかない人間もいるんだ……。筋肉……」

「あ……うん……」

 黙る正義の神様。邪神様は別に筋肉が欲しいと思ってはいないのだが、哀愁を漂わせる。邪神様、悪い大人である。


「……でもよ~……」

 おっさん二人の会話は続く、途中個室居酒屋に移動して続いた。



      ◆◇◆◇◆



 正義の神来襲の翌朝、二日酔いの邪神様の前に奴が現れた。


「ここ気に入ったから数日居ることにした!」

 何時もの旅館、何時もの食堂で邪神様は目をこする。

 そこには居たのは、よく知った……昨日酒を酌み交わした友人だった。

 しかしその姿は昨日見かけたダンディーな白人男性ではなく、小学生ぐらいの姿で……。


「お前さんらの親せきと言うことにするらしいぞ……」

 キッチンから勇者正が出てきた。そこで邪神様気付く。


「……ああ、勇者君たちの上司だったね、正義の……」

 正しく言うと『勇者が関わる神様の上司の上司』である。

 勇者正に神託を下した神が平社員とするなら社長である。まさに雲の上の人(神)であった。


「なんかさ……神託のに出てきた神様さ。……めちゃくちゃ丁寧語でさ。……懇願されたのよ。『接待よろしくお願いいたします。本当に、本当に……』って」

 邪神様、少しの罪悪感を感じる。

 でもそんなこと気にしてたら邪神様なんかできない。


「……魔王」

 面倒毎は部下に丸投げ! by邪神様


「……あれ? ……魔王は??」

 邪神様はいつもいるはずの魔王を探すがその姿は見えない。


ピロロロン

 邪神様、無言でスマホを手に取りメッセージを確認する。


『仕事はお任せください! 邪神様を尊敬する魔王より』

 上司は都合よく使え! by魔王


 邪神様による接待対応決定!


「勇気の! さぁいくぞ!」

「いや正義の、俺二日酔いだからさ。今日は寝たい」

「大丈夫だ。分身をもう1体作れば良い! 俺の分身も二日酔いで撃沈中だ!」

「いやいやいや。世界の影響があるから……」

「大丈夫だ。問題ない」

 問題しかない。


「邪神。神託が来た。『申請は承認済みなので問題ございません』だそうだ」

 調整に駆り出された神様、必死である。


「さぁ行こうぞ! 知らぬ土地で遊ぶには子供の体が一番よ!」

「……よくそれでやれてるな……正義のが住んでる国って治安悪いだろう……」

「ん? 場所によるな。日本だってそうであろう。逆に他の国であれば『子供だけで歩く』など児童虐待だぞ。しかし、だからこそ正義を執行できるのだ! 昔日本のなんだったか忘れたが『悪人は自分の財布』という創作物があると聞いた。私はそれを実践しているのだ」

 ガハハハハと笑う正義の神。

 ……ほどなくして子供バージョンの邪神様降臨。


「……そういえば名前と設定、どうすんだ?」

 勇者正は不安を口に出す。


「ふむ! そうだな、勇気の何か妙案はないか?」

「普通にそれぞれの親せきって設定で良いだろう。名前は正義のはジャス。俺は勇太でよいだろう」

 適当に決める邪神様。いつもの余裕はなく既にお疲れモードである。


「では参ろう!!」

 こうして保護者勇者正と正義の神、邪神様は街へ出かける。


「正義の神ってこちらの世界じゃハリウッドスターですよね? そっくりの子供姿晒して大丈夫なんですか?」

 2人を乗せて運転中の勇者正がふと気になった疑問を口にする。


「問題ない。問題になったら世界改変するからな!」

「大丈夫だ。気付かれたら記憶消すから」

「……」

 どちらも世界に負担が大きい高位である。ちっとも安心できる要素がない勇者正であった。

 しかし、少し考えた上で『苦労するのは俺じゃないからいいか』と開き直る勇者正。

 地球の神々の胃に心労が溜まってゆく。

 そんなこんなで彼らは無事駄菓子屋に到着するのであった。



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