第10話「正義の神!」
「邪神様。そろそろ……」
そう魔人の女性は邪神様に告げると、邪神様は名残惜しい視線を勇者たちに向ける。
「ああ、封印の時間か。今回は楽しい時間であった……」
「御意」
「こ゛ぉ゛ら゛!!!!!!!!!!!! てめぇ主体で語ってんじゃねーよ。封印術持ってるの私だよ? そもそも何『お仕事終わり』感を出してやがる! 定時に帰りたいのに粘る嫌な客を見るような顔してるんじゃない! お前のせいで、どれだけの罪無き民が死んだと思っている!!!」
賢者ラーカイルの正論。
「19,087名です」
「うん、うん。で、俺達が来る前に、戦争で死んだ人数は?」
「4,004,587名です」
思わず『数の問題じゃない!』とか感情的に叫びそうになった賢者だが、返す言葉が浮かばず邪神様の正論に沈黙した。
「勇者よ、賢者よ、その仲間たちよ。茶番と悲観することなかれ……。汝らが人を繋いだ。その結果、人は互いに手を取り合った。汝らは人類を自滅の道から救ったのだ。汝らは真に勇気ある者たちである。我、邪神にして勇気の神は貴様らを称賛しよう。その勇気を誇るがいい。そして賢者ラーカイル……後でサイン頂戴」
お仕事モードの邪神様。
しかし賢者ラーカイルは邪神様が放った最後の言葉に口の端をひくつかせている。
だが賢者ラーカイルは一旦邪神様を無視して『サイン、欲しいですか?』と魔人の女性に視線を投げかける。
「あ、私は結構です。あと、あの間抜けなポーズにも魅力を感じませんし……あ、すみません……」
気まずくなる真面目な魔人ちゃんでした……。
邪神様を見つめると乙女になる魔人ちゃん。
その魔人ちゃんが賢者を見る目はとても冷たかった。……魔人ちゃん的に賢者は邪神様を虜にする恋敵に見られていたのかもしれない。
……救世の9人。そのサブリーダとして後世に語り継がれる賢者ラーカイル。その失恋の瞬間であった。
「アミラちゃん。俺だとサインもらえそうにないから代わりに貰ってきてくれない?」
「……はぁ、本当にしょうがないですね……。でもそんなところがくすぐられます♪ ……承知しました。……そっ、その代わりに邪神様。賢者ラーカイルのサインもらってきたら……ぎゅ……ギュッと、だっ抱きしめて……もらえますか?」
「いいよー」
首まで真っ赤にして上目遣いで、消え入りそうな声で言う魔人ちゃんことアミラちゃん。軽い邪神様の返答にも飛び上がらんばかりに嬉しそうである。
「ということで、丁寧にお願いします」
一転冷たい態度で色紙を渡される賢者ラーカイル。撃沈である。
その後ろで開き直った勇者一行はその様子に爆笑している。もはや戦う空気ではない。
「あ、ちゃんと『敬愛する邪神様へ』も入れてください」
「……」
『敬愛』は入れたくないなぁ……っと思いながらも賢者ラーカイルはサインを書き上げる。
惚れた弱みである……。
魔人の女性にサインを渡すと会釈をされる。ちょっとうれしくなる賢者ラーカイル。だが直後振り返りスキップを踏みながら邪神様へ向かう魔人ちゃんことアミラちゃんが浮かべる期待の眼差しと、恥じらいの表情に賢者ラーカイルは胸がチクチクと痛かった。
「ありがとう!」
邪神様は喜びのあまり魔人の女性をギュッと抱きしめ、頭ポンポンを追加した。
魔人ちゃんことアミラちゃんは脳天から煙を出さん勢いで赤くなっている。初々しい。
これもまた賢者ラーカイルの胸をえぐる。
「じゃ、封印されるのでみんなには撤収命令を、あとサインゲットできなかった人にはこのサインをコピーして渡してあげて~。オリジナルは宝物庫にお願いしますm(__)m」
邪神様からサインを渡された魔人の女性は名残惜しそうに邪神様から離れ、寂しそうな表情で消えた。
「賢者ラーカイル……惚れた?」
邪神様は空気を読まない。
「……くっくっくっくっく。もう限界だよ。お前は封印じゃ生ぬるい!! 存在消去してやる! 死ね死ね死ね!!!!!!!!!!!!!!!!」
呪文は省略され、封印術からの崩壊術式が発動する。
「ああ、賢者ラーカイルの封印術『邪神様大好き♪ でも死ね死ね術』で封印される~~~~」
邪神様(パジャマver)が枕を抱えながら言う。ちなみに術は効いていない。
「じゃ、寝ます(封印されます)。あ、賢者ラーカイル、分身を残していくから。アミラちゃんと2人でちゃんと君の人生見守り(観察)ます。だから(記念館の維持管理運営)諸々安心してね……じゃ! スタイリッシュ! ZZZ……」
「あ゛?」
「おやす~」
『み』を言い切る前に邪神様は封印され、光と共に消えた。
賢者ラーカイルは後々邪神様の言葉の意味を知る。
賢者ラーカイルは死ぬまで邪神様(分身)からのスタイリッシュ通知表と魔界でのブーム情報、たまに魔人ちゃんことアミラちゃんとのラブラブ日記が送られてくるのだった。
生涯独身を貫いた(意味深)賢者ラーカイルはにとっては、まさに悪魔の所業であったと言う……。
「あの野郎……」
『せっかくハーレムパーティだったのに……』とベットを叩く賢者ラーカイル(童貞継続中)。
ほぼ毎週届くスタイリッシュ通知表。
どこで作られたのか賢者ラーカイルファンクラブ。
彼らの聖地、賢者ラーカイル記念館。
いつのまにか上半身裸の筋肉おじさん(信者)に囲まれ生活する賢者ラーカイル。
一般市民からも『賢者はそういう趣味の方でしたか(察し)』といういわれる生活。
「今世こそ地味に……愛する人を見つけて生きるんだ!」
上半身を起こし、総一郎は髪をかきあげる。それこそファサーっと。
……本人の意思と魂に刻まれた習性が一致していないようである。
そして……総一郎が邪神様と遭遇し、1ヶ月が過ぎた……。
通っている小学校で催された運動会で総一郎は油断していた。
祖母の冴子が経営する駄菓子屋によりつかなければ……と、回避策をとり総一郎は邪神様に遭遇しない穏やかな日常を送っていた。
だが……。
「総一郎ー! 頑張りなー!」
駄菓子屋主人の冴子さんとその横に飲み物片手に観戦する魔王と邪神がそこにいた。
親戚のおじさんポジションでの参加であった。
(なんで邪神がいるんだよ! あ、ビール飲んでやがる! 魔法でスポーツドリンクに見えるようにしてる! 大人汚い……汚い大人だ!)
そんな邪神様の様子にイライラを募らせながら賢者ラーカイルこと、総一郎はリレーのアンカーとして位置に着く。魔法は使わない。生来の身体能力で十分に勝てる。賢者の組は最下位だが、幸いそんなに差がついていなかった。
賢者は今世の子供として責任感に胸が躍っていた。
そして動き始め、バトンを……。
「がんばれ! だーくぶれすどらごん!!」
受け取った後に盛大にこけた……。
土に汚れた顔で邪神を睨む。
チーズ鱈を咥え、ケタケタと楽しそうにスポーツドリンク(ビール)を煽っている。
賢者は立ちあがるとバトンを拾い上げ走り出す。
もう、相当な差がついてしまった。
普通に考えて勝てそうにない。
なので賢者は魔法を使った。
だが次の瞬間魔法は解けた。もちろん邪神のせいだ。なぜ魔法の発動を許したのか。賢者はその意味を直ぐに知る。加速した足から急激に力が失われる。つまり、足がもつれて倒れる。
「おお、転び方も……スタイリッシュ!」
(あいつ、今度こそ絶対殺す!!!)
結局。総一郎は今世も邪神様を意識しながら生活するはめになりそうなのであった。
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